以下に見る「動詞図」は、日本人には自明であろう。一見してその意味するところが了解される。くだくだしい説明は不要で、ごく簡単な説明にとどめる。
和語の個々の語は、一拍語や二拍語の短小語から出発し、時代を経るにつれて徐々に長語化して今日の長い語の姿に至ったと考えられる。名詞も動詞もともに長語化したが、特に動詞においてそのことがはっきり見られる。以下に掲げる動詞図は、動詞の長語化の過程を端的に示したものである。同時に、和語には同じ子音構成をもって互いに似たような意味をもつ「縁語」として括られる多くの語群が存在するが、以下の動詞図では同じ縁語群に属すると考えられる動詞を横線で区切って一括りとして示している。
つまり、横方向の行では長語化の過程を示し、縦方向の段落によって縁語関係を示している。
この図を見て感嘆させられるのは、和語が如何に高度に体系化されたことばであるかということである。またそれを書き表わす表記(書記)法の確かさである。ともに一分の隙もないと言えるであろう。もちろん一部に乱れや例外が見られるが、それは自然言語として当然のことであり、許容範囲と考えられる。
この種の図に完成はないが、下の図はその域にはまだほど遠い。随時拡充に努めていくつもりである。
動詞の長語化
和語の動詞は極めて定形的で、意味を担う一拍語ないし二拍語のうしろに次々と動詞語尾がついて長語化していく。動詞語尾としては五十音図のウ段の一拍語「く、ぐ、す、ず、つ、づ、ぬ、ふ、ぶ、む、ゆ、る、wu」の13箇であり、これ以外にない。これら個々の動詞語尾にどのような意味があるのか、互いにどのような差異があるのか、どのような契機で特定のひとつが選ばれるのか、などについては今後の課題である。このうち「る」がもっとも一般的な無色透明の動詞形性成分と見られ、もっとも多く使われている。動詞語尾は、もとになる一拍語に意味上のニュアンスを与えるものと文法上の機能を与えるものに分かれるようである。濁音の語尾「ぐ、ず、づ、ぶ」は、それに対応する清音の語尾「く、す、つ、ふ」が経時的に変化して濁音化したものが少なくないと見られ、それらは意味的に互いに区別されないことは以下の図で確認されるであろう。これらの動詞語尾についてはまだ何も分かっていないので、さまざまな角度からの今後の解明が待たれる。なお、現代語表記では動詞語尾として「う」が非常に多いが、これは古語の「ふ」と「wu」が「う」と書かれるようになったためである。
動詞の一般形は次のようである。
|く + く + く + く + ・・・
|ぐ + ぐ + ぐ + ぐ +・・・
|す + す + す + す +・・・
|ず + ず + ず + ず +・・・
|つ + つ + つ + つ +・・・
|づ + づ + づ + づ +・・・
【一拍語】+|ぬ + ぬ + ぬ + ぬ +・・・
|ふ + ふ + ふ + ふ +・・・
|ぶ + ぶ + ぶ + ぶ +・・・
|む + む + む + む +・・・
|ゆ + ゆ + ゆ + ゆ +・・・
|る + る + る + る +・・・
|wu + wu + wu + wu +・・・
このような一般形だけでは分かりにくいので、以下、「下、下へ」を意味すると考えられる一拍語「お」について、これの長語化の過程を示す具体例を見ていく。
1拍語 お (置)
2拍語 お+|く (置く)
3拍語 お+|か+す (置かす)
3拍語 お+|か+る (置かる)
3拍語 お+|け+る (置ける)
3拍語 お+|こ+つ (置こつ)
4拍語 お+|か+せ+る (置かせる)
4拍語 お+|か+れ+る (置かれる)
4拍語 お+|こ+た+る (置こたる)
5拍語 お+|か+せ+ら+る (置かせらる)
6拍語 お+|か+せ+ら+れ+る (置かせられる)
1拍語 お (押)
2拍語 お+|す (押す)
3拍語 お+|さ+す (押さす)
3拍語 お+|さ+ふ (押さふ)
3拍語 お+|さ+る (押さる)
3拍語 お+|せ+る (押せる)
3拍語 お+|そ+ふ (押そふ)
4拍語 お+|さ+せ+る (押させる)
4拍語 お+|さ+へ+る (押さへる)
4拍語 お+|さ+れ+る (押される)
4拍語 お+|そ+は+す (押そはす)
4拍語 お+|そ+は+る (押そはる)
5拍語 お+|さ+せ+ら+る (押させらる)
5拍語 お+|さ+へ+さ+す (押さへさす)
5拍語 お+|さ+へ+ら+る (押さへらる)
5拍語 お+|そ+は+せ+る (押そはせる)
5拍語 お+|そ+は+れ+る (押そはれる)
6拍語 お+|さ+せ+ら+れ+る (押させられる)
6拍語 お+|さ+へ+さ+せ+る (押さへさせる)
6拍語 お+|さ+へ+ら+れ+る (押さへられる)
1拍語 お (落)
2拍語 お+|つ (落つ)
3拍語 お+|ち+る (落ちる)
3拍語 お+|つ+る (落つる)
3拍語 お+|と+す (落とす)
3拍語 お+|と+る (落とる)
4拍語 お+|と+さ+す (落とさす)
4拍語 お+|と+さ+る (落とさる)
4拍語 お+|と+し+む (落としむ)
4拍語 お+|と+ろ+ふ (落とろふ)
5拍語 お+|と+さ+せ+る (落とさせる)
5拍語 お+|と+さ+れ+る (落とされる)
5拍語 お+|と+し+め+る (落としめる)
5拍語 お+|と+ろ+へ+る (落とろへる)
6拍語 お+|と+し+め+ら+る (落としめらる)
7拍語 お+|と+し+め+ら+れ+る(落としめられる)
1拍語 お (下)
2拍語 お+|る (下る)
3拍語 お+|り+る (下りる)
3拍語 お+|ろ+す (下ろす)
4拍語 お+|り+ら+る (下りらる)
4拍語 お+|ろ+さ+す (下ろさす)
4拍語 お+|ろ+さ+る (下ろさる)
5拍語 お+|り+ら+れ+る (下りられる)
5拍語 お+|ろ+さ+せ+る (下ろさせる)
5拍語 お+|ろ+さ+れ+る (下ろされる)
これを圧縮して記述すると次のようになる。これが以下に見られる表記方法である。
お-おく-おかす-おかせる-おかせらる-おかせられる
-おかる-おかれる
-おす-おさす-おさせる-おさせらる-おさせられる
-おさふ-おさへる-おさへらる-おさへられる
-おさる-おされる
-おせる
-おそふ-おそはす-おそはせる-おそはせらる-おそはせられる
-おそはる-おそはれる
-おそる-おそれる
-おつ-おちる
-おつる
-おとす-おとさす-おとさせる
-おとさる-おとされる
-おとしむ-おとしめる-おとしめらる-おとしめられる
-おとる-おとろふ-おとろへる
-おる-おりる-おりらる-おりられる
-おろす-おろさす-おろさせる
-おろさるーおろされる
動 詞 図
◇------------【あああ】
◆----------(&k,&g)
あ(接)-あく(飽く)-あかす(飽かす)-あかせる
-あきる(飽きる)-あきらる-あきられる
-あぐ(倦ぐ)-あぐぬ(倦ぐぬ)-あぐねる
-あぐむ(倦ぐむ)
この図の正当性は分からない。「あぐむ」は14世紀の太平記に登場する語、「あぐねる」は19世紀語である。「あく飽」は、おそらくア接語であろうが、「く」の追跡は難しい。
◆----------(&k,&g,&h,)
あ(上)-あぐ(上ぐ)-あがる(上がる)
-あげる(挙げる)-あげらる-あげられる
-あふ(仰ふ)-あふぐ(仰ふぐ)-あふがす-あふがせる「あふのく仰伸、あふむく仰向」
-あふがる-あふがれる
-あふる(呷ふる)(あおる)
う(上)-うく(浮く)-うかす(浮かす)-うかせる(受く)
-うかぶ(浮かぶ)-うかばす-うかばせる
-うかべる-うかべらる-うかべられる
-うかむ(浮かむ)
-うかる(浮かる)-うかれる「うかれひと浮人/浮浪、うかれめ遊行女婦」
-うくる(受くる)
-うけふ(誓けふ)「うけひ誓」
-うける(受ける)
お(上)-おぐ(驕ぐ)-おごる(驕ごる/奢ごる)
この「あ/う/お」は「うへ上」を言う数少ないア行拍の渡り語と見る。単に原則から言えば、これもワ行からの相通語ということになる。
◆----------(&s,sr)
〔あさ〕-あさる(漁さる)
〔いさ〕-いさる(漁さる)「いさな(小魚・鯨)、いさりび漁火」
不詳語である。ア接語、イ接語の可能性もあり、日国「いさる」の語源説欄に「イソから分かれ生まれた語か〔北小浦民俗誌=柳田国男〕」説が見える。「あさ/いさ」の子音コンビ(&s)や共通する「さ」からも、無理をすればやはり”石、砂、磯”ではないかと言うことができる。類語に「すなどる」がある。
◆----------(&z)
あ(接)-あざ(交 )-あざぬ(糾ざぬ)-あざなふ-あざなはる
-あざふ(糾ざふ)-あざはふ
-あざはる〔もつれあう/からみあう/交叉する〕
日国「あぜくら校倉」の語誌欄に「アゼはアゼナワ(絡縄・糾縄)のアゼと同じく、組み合わせる、縒り合わせるという意味のアザフ(「観智院本名義抄」「叉」の訓)と関係があろう」とあり、同じく語源説欄に「アゼはアザの転。アザは雑(まじ)える義のアザフ(叉)の語根。アザヘクラ(叉倉)の義から〔碩鼠漫筆・類聚名物考・大言海〕」とある。これに同意である。ただし「あず/あざ」自体は不詳である。「さす刺」の「さ」か。
◆----------(&z)
あざ(痣 )-あざく(戯ざく)-あざける(嘲る)
-あざる(戯ざる)〔取り乱し騒ぐ〕
不詳語「あざむく(欺く)」を含めて、二拍動詞「あず」が見つからない。「あざ痣」の動詞化か。
◆----------(&s,&r)
あ(生)-あす(生す)
-ある(生る)-あらす(生らす)-あらせる-あらせらる-あらせられる
-ある(有る)
-ある(露る)-あらふ(露らふ)-あらはす
-あらはふ
-あらはる-あらはれる
-ある(新る)-あらく(新らく)
-あらす(新らす)
-あらつ(新らつ)-あらたむ-あらたまる
-あらためる-あらためらる-あらためられる
-あらふ(新らふ)-あらはす-あらはせる-あらはせらる-あらはせられる(洗ふ)
-あらはる-あらはれる
-ある(荒る)-あらく(荒らく)-あらかふ
-あらける
-あらぐ(荒らぐ)-あらがふ
-あらげる
-あらす(荒らす)-あらさす-あらさせる
-あらさる-あらされる
-あらそふ-あらそはす-あらそはせる(争ふ)
-あらつ(荒らつ)-あらたむ-あらたまる(新たむ・改たむ)
-あらためる
-あらぶ(荒らぶ)-あらびる
-あらぶる
-あれぶ(荒れぶ)
-あれる(荒れる)
「生産・生成・生存・存在」を表わす「あ」。「ある」ということは、無から有を生ずる(「ある生」)ということだけでなく、隠されていたものが露わになることをも言い(「ある露」)、それは同時に新しいものであり(「ある新」)、生まれたものは存在することになり(「ある有」)、新しいものはまだ洗練されておらず粗である(「ある荒」)、という一連の事象が和語では一拍語「あ」で把握されている。
二拍語「あら新」の類語に、「さらち更地」「さらゆ新湯」などと言うときの「さら(更/新)」がある。「あら」と「さら」は(s-&)相通語である。語の本来の姿としては、「あら」か「さら」かはにわかには決められないが、両者は発生源をひとつにする同語であると考えられる。ほかに「あは-さは(淡)」同じく「あは-さは(多)」がある。さらに(更に)」といういわゆる副詞もこの「さら」である。
◆----------(&t,&d)
あた(敵た)-あたく(敵たく)-あたける「あたし敵シ」
-あたす(敵たす)
-あたぬ(敵たぬ)-あたなふ「あたなふ寇」〔害をなす〕
-あたふ(敵たふ)
-あたむ(敵たむ)-あたまる
あだ(仇だ)-あだく(仇だく)「あだし仇シ」
-あだす(仇だす)〔「ふみあだす」-踏んでばらばらにする〕
-あだふ(仇だふ)
一連の語は名詞「あた/あだ(敵*仇)」の動詞化で「敵対する、害をなす」意をもつ。「あた仇」については「あつ当-あたる/あてる」の名詞形とする説がある。「た手(たく-たたく)」のア接語の可能性もあるであろう。
◆----------(&t)
あ( )-あつ(熱つ)-あたつ(熱たつ)-あたたむ-あたたまる「あたたか暖、あたみ熱海」
-あたためる
-あつく(熱つく)-あつかふ(悶熱)「あつし熱シ、あつし暑シ」
-あつゆ(篤つゆ)
-あつる(暑つる)
形容詞「あつし」には、気温が高いこと、身体や物の温度が高いこと、病状が重篤であること、心情的に思い入れが深いこと、物の厚みが分厚いこと、などの意味があるが、細かく見ればさらにいろいろあるであろう。
熱いものに触れたときの叫び声「あつっ!」に由来するか。そうであれば「いたっ!、いたし(痛シ)」との(&t)縁語の可能性があり、大きくまとめられるであろう。
◆----------(&h)
あ(接)-あふ(合ふ)-あはす(合はす)-あはさす-あはさせる
-あはさる-あはされる
-あはせる-あはせらる-あはせられる
-あはふ(合はふ)「あはひ間」
-あへす(合へす)
-あへる(和へる)「和へ(虀へ)物」
ア接語と見られるも「ふ」は不詳である。
複合語に「しあひ試合、であひ出会、にあひ似合、みあひ見合、yiあひ射合」などがある。
◆----------(&h)
あ( )-あふ(敢ふ)
◆----------(&h)
あ( )-あふ(饗ふ)〔饗応する〕「あへのこと(饗の事)」
能登の農家で行われている神事。収穫を神に感謝するため神を家の中に招き入れて饗応する。
◆----------(&m)
あま(甘ま)-あまゆ(甘まゆ)-あまyeる(「あまやかす」の形がある)
◆----------(&m)
あ(接)-あむ(編む)-あます(編ます)-あませる「あみ網」
-あまる(編まる)-あまれる
魚とりや篩となる蔓や竹ひごで編んで作った「み箕」のア接語「あみ網(あ+み箕)」の動詞化と見られる。後に接頭語の「あ」が「あみ網」の意をとり込んで一人歩きを始めた。「あご網子」「あじろ網代」など。
◆----------(&y)
あや(危や)-あやす(危やす)-あやしむ「あやし(怪シ)、あyeか」
-あやぶ(危やぶ)-あやぶむ「あやふし(危ふシ)」
-あやむ(危やむ)-あやまつ
-あやまる「誤まる、謝まる」
-あやめる「誤める、危める、殺める」
日国「あやまる(誤る)」の語誌欄に『「あやまる」は、「あや・あやに(奇)」「あやし・あやしむ(ぶ)(怪)」「あやふし・あやぶむ(危)」などとともに、不思議・不確実・不安定などの意をもつと思われる「あや」を語根とするか』とあり、これを参考に上図を作って見たもの。
「あやまる(誤る)」と「あやまる(謝る)」は『「誤る」から「誤りを認める、誤りを許すことを請う」意に転じたものと思われる』と、同語としている。もちろん四拍語「あやまる」に二つはない。
ここの「あや」語群と次の「あゆ零」語群とがまざり合っているように思われるが、どうもすっきりしない。
◆----------(&y)
あ( )-あゆ(零ゆ)-あやす(零やす)-あやしむ「あやし(怪シ)」
-あやぶ
-あやむ(誤やむ)-あやまつ〔過誤〕
-あやまる〔過誤・謝罪〕
-あやめる〔殺人〕
-あyeす(零yeす)「あyeか」
-あyeる(零yeる)
「あやす」は”(血を)したたらす”、「あyeか」は”(血が)こぼれ落ちんばかり”の意という。日国の「あやうい」の語源説欄には「動詞アユ・アヤス(零)のアヤを語根とする形容詞〔山彦冊子〕」説が見える。
◆----------(&y)
あ( )-あゆ(肖ゆ)-あやく(肖やく)-あやかる〔似る〕
-あyeる(肖yeる)
◆----------(&r)
あ(足)-ある(足る)-ありく(歩りく)
-あるく(歩るく)-あるかす-あるかせる
-あるける
-さるく(歩るく)(&-s相通形)
「あ足」はまことに奇妙な語である。別に詳述するように、足の本来の語は「し」である。この「し」に接頭語「あ」がついて「あし」が成立したが、次の時代に「あ」が足の意を分捕って独立語「あ足」となった。これは「し→あし→あ(足)」時系列の最後の「あ」時代以降の語となる。実は和人の生活になくてはならない草の「あし葦」も、「あし足」と細長い形が似ているように、「あし足」とまったく同じ語形変化を辿っている。今日何気なく「歩く」と言っているが、もとからたどれば「し→あし→あ→ある→あるく」という多彩な変遷の歴史を背負っているのである。それぞれの語形変化の時間が解明されれば、逆に和人の起源にたどり着くことができる理屈である。なお「あゆむ歩」については「ゆ揺」の項で触れる。
◆----------(&w)
あわ(泡 )-あわつ(慌わつ)-あわてる「あわたたし(慌シ)」
-いわく〔驚き慌てる〕
◇------------【いいい】
◆----------(&s)
いさ( )-いさつ(哭さつ)-いさちる(哭泣)
-いさふ(叱さふ)
◆----------(&z)
いざ( )-いざす(誘ざす)
-いざぬ(誘ざぬ)-いざなふ/ゐざなふ(率ふ/誘ふ)
「いざなき」「いざなみ」の神をこの間投語に結びつける見方があるが、筆者には何とも言えない。
◆----------(&s)
いす( )- -いすすく〔そわそわする、驚き騒ぐ〕
うす( )- -うすすく〔そわそわする、驚き騒ぐ〕
古文にただ一度しか出ない難語のひとつに祝詞大殿祭に登場する「いすろこふ」がある。この場合文脈から比較的見当がつけやすく「荒れすさぶ、さわぐ、勇みふるう」などと解釈されているが、ここの(&s)縁語としておそらく間違いない。ただ、大もとに「すく」があり、その頭積語「すすく」のイ/ウ接語と見ることも可能で、なお検討の余地がある。
◆----------(&s)
いそ( )-いそぐ(急そぐ)-いそがす-いそがせる《いそいそ》
-いそがる-いそがれる「いそがし忙シ、いそし」
-いそす(勤そす)-いそしむ
-いそふ(争そふ)
◆----------(&t)
いた( )-いたす(致たす)(いただく頂~いただき、いなだく~いなだき)(t-n相通形)
-いたる(至たる)-いたらす至-いたらしむ
(&t)縁語「いた至、いち著、いと甚」のひとつと見られるが、「いち、いと」に動詞形がない。
◆----------(&t)
いた:いたつく(労つく)~いたつき(労)
いたはる(労はる)-いたはらる-いたはられる「いたはし労シ」「いたひけなし(幼気なし)」
いつ:いつく(傳助*傳育)~いつくしむ「いつきかしづく(斎傅*愛育)」
いと:いとし(愛シ)~いとしむ(愛しむ)
いとふ-いとはる「いとこ愛子」「いとはし/いとほし愛ほシ」「いとま暇」
うつ:うつく(傳助*傳育)~うつくしむ「うつくし(美シ)」
おそらく現代語の感覚で言う「いつくしむ」の意を核とするであろう(&t)縁語群である。整理の必要がある。
◆----------(&d)
い( )-いぢ(苛ぢ)-いぢく(苛ぢく)-いぢくる
-いぢける《いぢいぢ》
-いぢむ(苛ぢむ)-いぢめる-いぢめらる-いぢめられる
-いぢる(苛ぢる)-いぢらる-いぢられる「いぢらし」
「いぢらし」が「いぢめたい」の意であればすっきりするのであるが、さまざまな解釈が可能である。「いぢわる意地悪」はこれか。
◆----------(&t)
い( )-いつ(凍つ)-いたむ(痛たむ)-いためる「いたし(痛シ)、いたまし(痛まシ)」
-いてる(凍てる)
ここでは「いたむ痛~いたし痛シ」を「いつ凍-いてる」に関係づけようとしている。和人の最初の集団は、最後の氷期にはこの地に到達していて、巨象を倒して暮らしていた。もちろん3万年前の言葉がそのまま今日に続いていると強弁するつもりはないが、「いつ(凍つ)~いたし(痛シ)」が成立する素地はあった。また「いたっ!」のような間投語は変わりにくいと思われる。ほかに「いたし痛」のもって行きどころがない。
◆----------(&y)
い( )-いゆ(癒ゆ)-いやす(癒やす)-いやさる-いやされる
-いyeる(癒yeる)
イ接語であろうが「ゆ」が不明である。
◆----------(&r)
いら(苛ら)-いらす(苛らす)《いらいら》
-いらつ(苛らつ)
-いらふ(苛らふ)
-いらる(苛らる)-いららぐ
◆----------(&r)
い( )-いる(要る)〔必要とする〕
◆----------(&r)
い( )-いる(入る)-いらす(入らす/貸らす)「いらしもの利息、いらしのいね貸稲、いらしのおほちから貸税」
-いらふ(入らふ/借らふ)
-いらる(入らる)「いりあひ入会」
-いれる(入れる)-いれらる-いれられる
はいる(這入る)-はいらす-はいらせる
-はいらる-はいられる
日国によれば「はいる」は、中古語で、「はひいる(這ひ入る)」の変化した語という。
◇------------【ううう】
◆----------(&k)
う( )-うく(浮く)-うかす(浮かす)-うかせる(受く)
-うかぶ(浮かぶ)-うかばす
-うかべる
-うかる(浮かる)-うかれる
-うける(受ける)
「うく浮」と「うく受」は同語と見られる。「う」は「うへ上」の「う」か。
◆----------(&b,mb)
うべ(宜*諾)-うべなふ/うべなむ
むべ(宜*諾)-むべなふ/むべなむ
◆----------(&m,&d)
う( )-うむ(埋む)-うまる(埋まる)
-うめる(埋める)-うめらる-うめられる
-うもる(埋もる)-うもれる「うもれき埋れ木」
-うづ(埋づ)-うづむ(埋づむ)-うづまる
-うづめる-うづめらる-うづめられる
-うづもる-うづもれる
「うづむ」について、日国語源説欄には「アツム(聚)の転声〔和語私臆鈔〕」「ウヘ(上)に土をツム(積)か〔和句解〕」があり、魅力的である。だがこの説によると、「うむ-うまる/うめる」の説明がつかなくなる。両者を別語と見ると、「う」の解釈を迫られる。難語である。
◆----------(&r)
う( )-うる(得る)
-うる(売る)-うらす(売らす)-うらせる
-うらる(売らる)-うられる
-うれる(売れる)
え( )-える(得る)-えらる(得らる)-えられる
物を「売っ」て対価を「うる得」と安直に見たもの。
◇------------【えええ】
◇------------【おおお】
◆----------(&k,&s,&h,&y)
お( )-おく(起く)-おきる(起きる)
-おこす(起こす)
-おこる(起こる)
-おす(推す)-おさす(推さす)-おさせる
-おさる(推さる)-おされる
-おふ(生ふ)-おはる(生はる)
-おふる(生ふる)
-おへる(生へる)
-おほす(生ほす)
-おゆ(生ゆ)-おやす(生やす)(「おやかす」の形も)
これらの「お」語は、横になったものを「おこす」、寝ているものが「おきる」、下から上に”押し上げる”意と見られる。そうとすれば、次項の一連の「お」語とはまるで逆である。何らかの調整が必要と考えられる。これらの「お」語は、若さと若さ故の愚行を言うワ行語のひとつの「を」語の(w-&)相通語と見ると分かりやすい。「おへる」「おやす」は”勃起する”意で用いられる。
◆----------(&k,&s,&t,&h,&r)
お( )-おく(置く)-おかす(置かす)-おかせる-おかせらる-おかせられる
-おかる(置かる)-おかれる
-おきつ(掟きつ)「おきて掟」
-おこつ(怠こつ)-おこたる
-おす(押す)-おさす(押さす)-おさせる
-おさふ(抑さふ)-おさへる
-おさる(押さる)-おされる
-おそふ(襲そふ)-おそはる-おそはれる
-おそぶ(押そぶ)-おそぶる-おそぶらふ
-おつ(落つ)-おちる(落ちる)「おとがひ頤/乙貝、おとひと弟人、おとひめ乙姫、おとむすめ妹娘」
-おつる(落つる)
-おとす(落とす)-おとさす-おとさせる
-おとさる-おとされる
-おとしむ-おとしめる-おとしめらる-おとしめられる「おとしむ貶」
-おとる(劣とる)-おとろふ-おとろへる「おとろふ衰」
-おふ(覆ふ)-おほふ(覆ほふ)-おほはす-おほはせる
-おほはる-おほはれる
-おる(降る)-おりる(降りる)「おろすwu降据」
-おるる(降るる)
-おろす(降ろす)-おろさす-おろさせる
-おろさる-おろされる
「上から下へ」を言う「お」縁語群である。上から下へ力が及ぶ様をさまざまに言い分けている。
◆----------(&k,&h)
お( )-おく(措く)-おくす(臆くす)
-おくる(遅くる)-おくらす-おくらせる(遅る/送る)
-おくらる-おくられる
-おくれる
-おこつ(怠こつ)-おこたる
-おこつく
-おこつる
-おこす(遣こす)「言い遣す、思ひ遣す、見遣す」
-おこる(遣こる)
-おふ(追ふ)-おはす(追はす)-おはせる
-おはふ(追はふ)
-おはる(追はる)-おはれる
これらは「後ろから」動作する、作用する意である。「おくる」も、人の後からついて行って「(見)おくる」であり、宅急便で物を「おくる(送る)」ことではない。「送る」については、よく分からないので取りあえずここにおいて置く。
◆----------(&k,&s,&z,&d,&b,&m,&r)
お( )-おく(恐く)-おくす(臆くす)-おくする「おめずおくせず」
-おす(恐す)-おさふ(押さふ)-おさへる-おさへらる-おさへられる
-おさる(押さる)-おされる
-おそふ(襲そふ)-おそはす-おそはせる
-おそはる-おそはれる
-おそる(恐そる)-おそれる「おそろし恐ろシ」
-おず(悍ず)-おぞむ(悍ぞむ)「おずし/おぞし悍シ」「おぞまし悍まシ」
-おづ(怖づ)-おぢく(怖ぢく)-おぢける《おづおづ、おどおど》
-おぢる(怖ぢる)
-おづる(怖づる)
-おどく(脅どく)-おどかす-おどかさる-おどかされる
-おどす(脅どす)-おどさる-おどされる
-おぶ(怖ぶ)-おびゆ(怯びゆ)-おびやく-おびやかす-おびやかさる-おびやかされる
-おびやす
-おびyeる
-おびる(怯びる)
-おむ(怖む)-おめる(怖める)「おめずおくせず」《おめおめ》
-おる(怖る)-おらぶ(哭らぶ)
別項に出ている「お」語もとり込んで、恐怖の「お」語群を立ててみたもの。しかし、よくまとまっているが、「お」に恐怖の意をもたせることはありそうにないので、「お」は「を」の相通語か、或いはそれぞれの第二拍の子音拍をもとにまとめなおす必要があるように思われる。
◆----------(&d)
お( )-おだ(穏だ)-おだふ(穏だふ)「おだし(穏シ)、おだひ/おだひし(穏ひシ)、おだやか穏」
-おだむ(穏だむ)
「おだし、おだひか、おだやか、おだゐか」などさまざまな語尾をとる「おだ」であるが、(&d)語には少なからぬ模写語語がある。「おだ」が表わすところは、「いぢいぢ、うだうだ、うぢうぢ、うづうづ、おづおづ、おどおど」などを視野に入れて考える必要があるようである。
◆----------(&h,&b)
お( )-おふ(負ふ)-おはす(負はす)-おはせる-おはせらる-おはせられる「せおふ背負」
-おはる(負はる)-おはれる「おはれかかる負掛」
-おふす(負ふす)
-おほす(負ほす)(負す、課す)「ておほす手負、おほせこと命*仰言」
-おぶ(帯ぶ)-おばす(帯ばす)「おび帯」
-おびす(帯びす)-おびさす-おびさせる
-おびる(帯びる)
◇------------【かかか】
◆----------(kk,ks,kt,ky,kr,kw,)
か( )-かく(駆く)-かけす(駆けす)-かけさす-かけさせる
-かける(駆ける)-かけらふ「(空を)かける翔」
-かつ(徒つ)「かちゆく/かしゆく、かちさむらひ、おかちまち御徒町」
-かる(駆る)〔馬を走らせる〕
き( )-きす(来す)-きさす(来さす)
く(来)-くゆ(来ゆ)
-くる(来る)「やって来る」
-くwu(蹴wu)-くゑる(蹴ゑる)「くゑはららかす蹴散」
け( )-ける(蹴る)
こ( )-こす(来す)-こさす(来さす)-こさせる(来す)
-こす(越す)-こさす(越さす)-こさせる
-こさる(越さる)-こされる
-こゆ(越ゆ)-こyeる(越yeる)「ふしこye伏越」(「くゆ」の形も、東国形?)
-こる(来る)-こらる(来らる)-こられる
-こwu(越wu)-こゑる(越ゑる)「あごゑ(踞/足蹴)」
両足を活発に動かして前進する意である。「ける蹴」は、「けだす(蹴出)」があるように、物を蹴る前に足を出すことを言っている。「くる来」は、”行く”に対する”来る”という行為よりも足を前に出す動作としてここに入れてみたもの。
◆----------(kk,ks,kt,kr)
か(掛)-かく(掛く)=かかぐ(掲かぐ)-かかげる-かかげらる-かかげられる
-かかす(掛かす)
-かかふ(抱かふ)-かかはる
-かかへる-かかへらる-かかへられる
-かかる(掛かる)-かからふ(”罹患する”意も)「かからはし」
-かける(掛ける)-かけらる-かけられる(”賭ける”意も)
-かす(架す)
-かつ(担つ)-かつぐ(担つぐ)-かつがす-かつがせる「かた肩」
-かつがる-かつがれる
-かる(絡る)=かがる(縢がる)
-からぐ(絡らぐ)-からがる「こんがらがる」
-からげる「(着物の裾を)からげる」
-からぶ(絡らぶ)
-からむ(絡らむ)-からます-からませる
-からまる-からまれる
-からめる-からめらる-からめられる
シ接:しがらむ「しがらみ柵」
◆----------(kk)
か( )-かく(掻く)-かかす(掻かす)-かかせる〔(背中を)掻く、ひっかく〕「かきとる掻取」
-かかる(掻かる)-かかれる
こ( )-こく(扱く)-こきる(扱きる)「yiねこき稲扱、こきばし扱箸」
ア接:あがく(あ掻く)「足掻く」
シ接:しごく(し扱く)-しごかる-しごかれる「扱く」
ミ接:みがく(み掻く)-みがかす-みがかせる「磨く」
-みがかる-みがかれる
モ接:もがく(も掻く)「踠く」
「あがく」は、馬が「足掻く」のではなく、単なるア接語である。このページに見るように多数の類似のア接動詞が存在し、この列島に馬がもち込まれる前から「あがく」の語はあったと考えられるからである。
◆----------(kk,ky,kr,kt,)
か(欠)-かく(欠く)-かかす(欠かす)
-かくす(隠くす)-かくさす-かくさせる
-かくさふ
-かくさる-かくされる
-かくふ(囲くふ)
-かくむ(囲くむ)-かくまふ-かくまはる-かくまはれる
-かくる(隠くる)-かくらふ「かくらひかぬ」
-かくれる
-かくろふ
-かける(欠ける)
-かこふ(囲こふ)-かこはす-かこはせる
-かこはる-かこはれる
-かこむ(囲こむ)-かこます-かこませる
-かこまる-かこまれる
き(消)-きゆ(消ゆ)-きyeる(消yeる)「きyewuす/けwuす(消失)、きyeのこる(消残*削遺)」
-きる(消る)
く(消)「立山の雪しクらしも」
け(消)-けす(消す)-けさす(消さす)-けさせる「ゆきげ雪消」「けのこる消残、けwuす消失」
-けさる(消さる)-けされる
-けつ(消つ)
-ける(消る)「たまげる魂消」
物や人がない、いない、見えない、また無くすことを言うカ行渡り語「か/き/く/け」である。「かく(欠く)」がすべてを物語っている。和語の体系性がよく見える。
◆----------(kk,kg)
か( )-かく(櫂く)「かき/かい櫂」(「かこ楫子」「かぢ楫*梶」)
こ( )-こぐ(漕ぐ)-こがす(漕がす)-こがせる
舟を「かき/かい櫂」で「かく」のも「こぐ」のもいずれも舟を”前進させる”意である。左右の方向を決める作業ではない。「かこ」が舟の艫(とも)に立ち、中腰になって棒状の「かき」を操ったであろう。「かぢ楫」は不詳である。今日「こぐ」と言えば自転車であるが、これは西洋人が尻を上げて中腰で自転車を走らせる姿を見てそう言うようになったのか、舟を座って漕ぐようになってからの「こぐ」を当てたのかは分からない。
◆----------(kk,kg,&k,&t,&r)
か(赫)-かく(赫く)-かかゆ「かかやく」(霊異記、神代紀、出雲風土記、新撰字鏡など)
-かぐ(赫ぐ)-かがす(赫がす)「かげ影」
-かがゆ(輝がゆ)-かがやく-かがやかす-かがやかせる
-かがよふ
-かがる(輝がる)「かがり火」
-かぎる(輝ぎる)-かぎろふ「たまかぎる玉輝、かぎろひ」
-かぐる(輝ぐる)
-かげる(輝げる)-かげらす-かげらせる「ひかげるみや日輝宮」
-かげろふ
ア接:あく(赤く)-あかす(赤かす)-あかさる-あかされる(明かす)
-あかぶ(赤かぶ)-あかばむ
-あかむ(赤かむ)-あかめる
-あかる(赤かる)-あからぶ
-あからむ-あからめる
-あかるむ
-あきる(明きる)-あきらむ-あきらめる(諦らむ)
-あける(明ける)
イ接:いく(熱く)-いかる(怒かる)-いからす-いからせる
-いきむ(熱きむ)-いきまふ-いきまはる
-いきる(熱きる)-いきれる
-いくぶ(憤くぶ)
-いくむ(憤くむ)「いくみうらむ」
-いこる(熾こる)
-しかる(叱かる)-しからる-しかられる(&-s相通語)
いつ(炒つ)-いたむ(炒たむ)-いためる(炒める)
いる(煎る)-いらる(煎らる)-いられる
いる(鋳る)
オ接:おく(熾く)-おきる(熾きる)「おきび熾火」
-おこす(熾こす)「ひおこし火熾」
-おこる(熾こる)
「加熱」すると「赤く」なって「発熱」し「発火」するに至る一連の事態を表わす(&k)縁語群である。「いかる怒」は人が発火した状態を言うようである。ともとは「か/き/く/け/こ」渡り語であったであろう。
「あか/あく赤」は一拍語「か赤*明」をもとにしたア接語である。「か赤*明」は、現在では「かっかする、かーっとなる」程度しか使われないが、その「か」であり、これは本来は「(顔が)赤くなる」意であったでろう。「いく(熱く)も」今日の「いかる」や「いきむ」があるように熱が上がって顔が赤くなる意である。時至って女が「いく」のもこれである。どこへ行くのでもない。「おく(熾く)」は、言うまでもなく赤い火が起きる意であり、炭が赤くなることである。二拍動詞「あく」の「く」は確かに動詞語尾であるが、実はこれが語の意味を担う本体である。
「あき秋」は、上記「あく」の名詞形であり、「き(赤)」が本意である。全山紅葉のときというに尽きる。山が真っ赤になるときが「あき」である。和人はこれを愛でた。日国の語源説欄に「草木が赤くなり、稲がアカラム(熟)ことから〔和句解・日本釈名・古事記伝・言元梯・菊池俗言考・大言海・日本語源=賀茂百樹〕」とあり、これが正解であろう。
(kg)語には「かがち/あかかがち、かがひ嬥歌、かがみ鏡、かがり火;かぐら神楽、ほ(火)のかぐつち、かぐやひめ;かげ影」などがあり、いずれも赤く輝く様を言っている。
なお「あく(開く)-あける」は、上記「あく(赤く)」とは別語で、「わく(分く)-わける」の相通語であり、その箇所で扱う。
◆----------(ka,ki,kg,kw,kr,&k)
か(香)-かぐ(嗅ぐ)-かがす(嗅がす)-かがせる-かがせらる-かがせられる「か香」
-かがふ(香がふ)
-かがる(香がる)-かがれる
-かwu(香wu)-かをる(香をる)
き(気)-きる(霧る)-きらす(霧らす)「き気」「あまぎらす天霧、うちきらす打霧、かききらす掻霧」
-きらふ(霧らふ)「あまぎらふ天霧、たなぎらふ棚霧、みなきらふ水霧」「まぎらはし」
イ接:
い(接)-いく(生く)-いかす(生かす)-いかせる-いかせらる-いかせられる
-いきむ(息きむ)
-いきる(熱きる)
-いける(生ける)
-いこぬ(憩こぬ)-いこのふ
-いこふ(憩こふ)
香りも霧も空気も含めた「き気」を言うカ行渡り語「か/き/く」語群である。「いく生-いきる」という人にかかわる根本語もこのイ接語である。
「か香」には「かをる」がある。これが「かwu(香wu)-かをる」か「か香+をる?」かは不明である。
◆----------(ks)
かさ(嵩さ)-かさぬ(重さぬ)-かさなる
-かさねる
-かさぶ(嵩さぶ)-かさばる
-かさむ(嵩さむ)
◆----------(kz)
かざ(翳ざ)-かざす(翳ざす)-かざさる-かざされる「かざしあふぎ翳扇」
-かざる(飾ざる)-かざらふ「かざりたち飾太刀」
-かざらる-かざられる
◆----------(ks,kt,&k,yk)
か( )-かさ(瘡 )「かさ瘡、かす滓/粕」
-かた(穢陋)「かたなし(汚シ)」
き( )-きた(汚穢)「きたなし(汚シ)」
く( )-くす(腐す)-くさす(臭さす)-くささる-くさされる「くさ瘡、くさし臭、くそ屎*糞」
-くさむ(臭さむ)
-くさる(腐さる)-くさらす-くさらせる(t-s相通形)
-くせ(くせ)-くせむ(臭せむ)「くせもの曲者」
-くつ(朽つ)-くたす(朽たす)「しほくつ塩朽」「言い朽す」「くたかけ朽鶏、wuのはなくたし卯花腐」
-くたつ(朽たつ)
-くたる(朽たる)-くたれる「ねくたる寝腐、みくたる身腐」
-くちる(朽ちる)
ア接:あくた芥(あ+くた朽)
ヤ接:やくさむ(や+くさむ)〔病気になる〕
有機物が腐敗し、悪臭を放ち、瘡蓋ができる一連の状態を言うカ行渡り語である。「くさし-くさる-くそ」と見事につながっている。その時代、鹿一頭を解体しても大量の廃棄物がでるはずであるが、特別に処理されるわけもなく、放置されていたであろう。身体にできたおできは悪臭を放って重症化していったはずである。そのような状況をこの渡り語が表わしているであろう。
◆----------(ks)
かし(呪詛)-かしふ(呪詛ふ)
-かしる(呪詛る)
◆----------(ks)
かし(傾し)-かしく(畏しく)-かしこむ(畏しこむ)-かしこまる「かしこし畏」
-かしぐ(傾しぐ)-かしげる(傾しげる)
◆----------(ks,kh,ky,kr;&k,&g,tg,mg)
か(交)-かす(貸す)
-かふ(交ふ)=かがふ「かがひ嬥歌」
-かはす(交はす)-かはさす-かはさせる「かはせ為替」
-かはさる-かはされる
-かはる(代はる)
-かへす(返へす)-かへさふ「たかへす/たがやす田返*耕」「くつがへす」
-かへさる-かへされる「ひるかへす翻」
-かへる(帰へる)-かへらふ「ひるかへる翻」「くつがへる」
-かへらす-かへらせる
-かゆ(換ゆ)-かyeる(換yeる)
-かる(借る)-かりる(借りる)
き(交)-
く(交)-くふ(交ふ)-くはす(交はす)「でくはす(出交す)」
-くはふ(交はふ)「まぐはふ(ま交ふ)」
-くはる(交はる)「まぐはる」
ア接:あかふ贖(異形:あがなふ)〔物を買う、金品と罪を交換する〕
あがふ贖
あきさす(贉す)〔前金を払って買う〕
あきなふ(商ふ)
オ接:おきなふ(補ふ)
おぎなふ(補ふ)
おきのる(賖る)〔掛け、後払いで買う〕
タ接:たがふ違(た+かふ交)-たがへる「たがひ(互ひ)」
チ接:ちがふ違(ち+かふ交)-ちがへる「ちがひ(違ひ)」
チ接:ちかふ誓(ち+かふ交)
マ接:まぐはふ-まぐはひ
まぐはる
”交換する”意の語が集まっている。「貸す」と「借る」は、物々交換の両方向の片方だけを捉えていると考えられる。「あき/あきなひ商」「おきのる(賖る)」がここに入ればすっきりするのであるが、「き交」がないので悩ましい。しかしほかにもって行くところがないので、「き交」の存在を想定して取りあえずここにおいて置く。
◆----------(ks,kt)
か( )-かす(淅す)-かしく(炊しく)「かしみづ淅水、かしよね淅米」
-かしぐ(炊しぐ)
-かつ(浸つ)
今から1万6千年前、和人は土器を手に入れた。それによってそれまで「やく焼」だけであった調理の幅が格段に広がった。まず土器に水をいれて湯を「わかす沸」ことができるようになった。それ以前は、天然の湯か石を焼いて水溜りに放り込む以外に湯はなかった。次いで土器に水と食材をいれて「にる煮」ことと「たく炊」ことができるようになった。「たく炊」は穀類の粟や稗や米を水と共に加熱して「いひ飯」にすることであろう。「ゆづ湯*茹」は芋類や卵を水に入れて加熱し食用に適するようにすることとする。ここで「やく焼」は古語であるが、「わく沸」「にる煮」「たく炊」「ゆづ茹」「むす蒸」「かしぐ」は土器の登場以降の新語のはずである。ここで「かす-かしく/かしぐ」とは何か。
◆----------(ks,kt)
か( )-かす(和す)
-かつ(合つ)〔合わせる〕「"かて"て加へて」
◆----------(ks)
か( )-かす(憔悴)-かしく(悴しく)-かしかむ「かしけゆく〔痩せこける〕」
-かしける
-かせる(悴せる)「かせくび悴首、かせさむらひ悴侍、かせやまひ悴病」
◆----------(ks)
か( )-かす(幽す)-かすむ(霞すむ)-かすめる「かすか幽、かすむ霞~かすみ霞」《かすかす》
-かする(掠する)
-かすwu(掠すwu)-かすゐる(掠ゐる)
-かそぶ(掠そぶ)「かそけし」
く( )-くす(掠す)-くすぬ(掠すぬ)-くすねる《くすくす》
-くすむ(掠すむ)「くすみ」
こ( )-こそ( )《こそこそ》
(ks)模写語をもとにする語群と見られる。ここに「かすみ霞」が入るかどうか。「する(擦る/磨る)」意の「す」のカ接語「かする」、コ接語「こする」などとは別語である。
◆----------(kz)
か( )-かず(数ず)-かずふ(数ずふ)
-かずむ(数ずむ)-かずまふ
-かぞふ(数ぞふ)-かぞへる
き( )-きず(傷ず)
その昔、木の幹や泥壁に傷をつけて物を数えたり記録したりしたのではないかと想像されるが、それにもとづく(kz)縁語群である。
◆----------(kt)
か( )-かた(堅た)-かたす(固たす)「かた形、かつを鰹〔かた堅+を魚〕、かたし(堅シ)」
-かたぬ(固たぬ)
-かたむ(固たむ)-かたまる-かたまらす-かたまらせる
-かたむる
-かためる-かためらる-かためられる
き( )-きた(鍛た)-きたす(鍛たす)
-きたふ(鍛たふ)-きたへる-きたへらる-きたへられる
-きたむ(鍛たむ)-きたます〔懲らしめる〕「うちきたむ打鍛」
-きつ(緊つ)「きつし(緊シ)」
ス接:すがた姿(す+かた形)
「堅い」ものには「かた/かたち形」がある、と考えられる。「きたふ-きたへる」は、筋肉を堅くする意と見てここに置く。まだ鉄がなかった時代、和人の世にも軟弱な若者がいて、彼らを鍛える必要があったということになる。
◆----------(kt)
か( )-かつ(搗つ)〔臼でつく〕
-かつ(糅つ)〔まぜる、混ぜ合わせる〕万3829
◆----------(kt)
か( )-かつ(勝つ)-かたす(勝たす)-かたせる「おもかつ面勝、まかつ目勝」
-かてる(勝てる)
◆----------(kt,gt)
か( )-かつ(語つ)-かたる(語たる)-かたらふ「かむがたり神語、しひがたり強語、ものがたり物語」
く( )-くつ(口つ)「くち口」
こ( )-こつ(託つ)=こごつ(小言つ)「こごと小言」
-こたふ(答たふ)-こたへる
-こたゆ(答たゆ)-こたyeる
-ごつ(言つ)「のりごつ(令*宣)」
カ接:かこつ喞*詫
口と口から出る言葉を言うカ行渡り語である。「かつ(語つ)」「くつ(口つ)」の用例はなさそうであるが、もしこの括りが成立するとすれば、なければならないことになる。
◆----------(kd)
かど( )-かだふ(奸だふ)-かだはむ
-かだむ(奸だむ)(心がねぢけている、悪事をたくらむ)
-かづす(誘づす)(未詳。誘う、かどわかすの意か)「かづさかづとも、かづさねも」
-かどふ(誘どふ)-かどはく-かどはかす
-かどはす(拘引する)
-かどむ(廉どむ)-かどめく(詮索する)
-かどる(制どる)(統御する、管轄する)
(-こだふ) -こだはる(拘る-拘泥する)
◆----------(kk,kg,ks,kt,kn,kh,kb,km,ky,kr;ag,sk,hk,&g,sg)
か(屈)-かぬ(屈ぬ)=かがぬ(屈がぬ)-かがなふ(屈なふ/僂なふ)
-かふ(屈ふ)=かがふ(屈がふ)-かがふる
-かむ(屈む)=かがむ(屈がむ)-かがます-かがませる
-かがまふ
-かがまる「ちぢかむ/しじかむ-ちぢかまる/しじかまる」
-かがむる(これが「かうむる(蒙る)」に転じたか)
-かがめる
-かまる(屈まる)「わだかまる;かまりものみ斥候、ふせかまり臥屈」
-かむる(冠むる)
-かぶる(冠ぶる)
く(屈)-くく(潜く)-くくす(屈くす)
-くす(屈す)=くぐす(屈ぐす)「うちくす打屈」「くぐせ屈背/傴僂」
-くつ(屈つ)=くぐつ(屈ぐつ)「くぐつ傀儡」
-くむ(屈む)=くぐむ(屈ぐむ)-くぐます-くぐませる
-くぐまる「くま隈、くみど、くむしら隩区、せくぐまる背屈」
-くぐめる
-くぐもる
-くまる(屈まる)「wuづくまる」
-くもる(隠もる)-くもらふ
-くる(屈る)=くぐる(潜ぐる)-くぐらす-くぐらせる
こ(屈)-こぐ(屈ぐ)-こがす(屈がす)-こがせる
-こぎゆ(屈ぎゆ)-こぎyeる
-こす(凝す)=こごす(凝ごす)(凍ごす)「こし濃シ、にこす煮凍/煮凝」「岩が根のこごしき山に」
-こぬ(屈ぬ)=こごぬ(屈ごぬ)-こごなる(跼る)「こごなりかがむ跼屈」
-こふ(氷ふ)=こごふ(凍ごふ)-こごへる
-こほる(氷ほる)-こほらす-こほらせる「こほり氷」
-こぶ(凝ぶ)「こぶ瘤」
-こむ(籠む)=こごむ(籠ごむ)-こごます-こごませる
-こごまる「こも薦」
-こごめる
-こまる(籠まる)-こまらす-こまらせる(困る-困らす-困らせる)
-こめる(籠める)-こめらる-こめられる
-こもる(籠もる)-こもらす-こもらせる「よごもり夜隠」
-こもらふ「こもりく隠国、こもりづ/こもりど隠処、こもりぬ隠沼」
-こゆ(凍ゆ)=こごゆ(凍ごゆ)-こごyeる
-こやす(凍やす)「にこやし(煮凍)」
-こやる(凍やる)
-こよす(凍よす)
-こゆ(臥ゆ)-こやす(臥やす)「こyiふす臥伏、こyiまろぶ臥転」
-こやる(臥やる)
-こる(凝る)=こごる(凝ごる)-こごらす-こごらせる「こし濃シ、にこごり煮凝」
-こらす(凝らす)-こらせる
-こらふ(凝らふ)-こらへる
-ころす(凝ろす)
-ころふ(凝ろふ)「ひころふ孛/火凝」
-ころる(凝ろる)
-こwu(臥wu)
ア接:あがむ(崇む)-あがまる
-あがめる-あがめらる-あがめられる〔身を屈めて相手を上げる意〕
シ接:しかむ(顰む)-しかめる
しこる(凝る)~しこり
ス接:すくぶ(竦ぶ)-すくばる
すくむ(竦む)-すくます-すくませる
-すくまる
-すくめる
ハ接:はくくむ(育む)
ヘ接:へこむ(凹む)-へこます-へこませる
ヲ接:をがむ(拝む)-をがまる-をがまれる〔身を屈める意、「をろ+かむ」(拝む)の形も〕
シャ接:しゃがむ(←さがむ)
身を屈する、丸くする意の語群である。寒くなると身が”こごえ”て、身を”こごめ”ることになるが、これらも上記のように寒さとは切り離して、身を丸くする意がまずあったと考えたい。水が固まる、即ち氷になるも同様である。
◆----------(kn)
か( )-かぬ(叶ぬ)-かなふ(叶なふ)-かなへる-かなへらる-かなへられる
-かなる(叶なる)
-かねる(兼ねる)
◆----------(kh)
か( )-かふ(支ふ)=かかふ(抱かふ)-かかはる(飼ふ)
-かかへる-かかへらる-かかへられる
シタ接:したかふ(下支ふ)-したかはす-したかはせる-したかはせらる-したかはせられる(従ふ)
-したかへる-したかへらる-したかへられる
犬を飼う、蚕を飼うというときの「かふ(飼ふ)」は、動物に餌や水をやって生命を支えることであり、天井を支えることなどを言う「かふ(支ふ)」と同じと考えても差し支えないであろう。植物を育てることを「かふ(飼ふ)」と言わないのは和人の生命観を示すか。
語形と意味がよく似た「さふ(支ふ)=ささふ」と軌を一にする。これは偶然と見るほかない。
◆----------(kh)
か( )-かふ(躱ふ)-かはす(躱はす)「(体を)躱す」「さしかふ」
-かへす(躱へす)「(身を)ひる”かへす”」
◆----------(kh)
か( )-かふ(肯ふ)-かへす(肯へす)-かへずる(がえんずる)〔承諾する、肯定する〕
◆----------(kb,km,kh,kr;&g,tk,mg)
か( )-かぶ(構ぶ)-かばふ(庇ばふ)(「あばふ」「たばふ」の形もあるが不詳である)
-かむ(構む)-かまく(感まく)-かまける
-かます(構ます)-かませる(突如異論を提示するといった「一発”かます”」)
-かまふ(構まふ)-かまはる-かまはれる
-かまへる「みがまへる身構」
-かむく(感むく)-かむかふ-かむかへる「かんがへる考」
く( )-くふ(組ふ)「すくふ巣構」
-くぶ(組ぶ)-くばす(配ばす)-くばせる「めくばせ目配」
-くばる(配ばる)-くばらす-くばらせる
-くばらる-くばられる
-くむ(組む)-くます(組ます)-くませる-くませらる-くませられる「めぐむ恵*目組」
-くまふ(組まふ)
-くまる(組まる)-くまれる「みくまり水配」
-くみす(組みす)
-くる(組る)-くらぶ(比らぶ)-くらべる-くらべらる-くらべられる
-くらむ(比らむ)
ア接:あぐむ足組
タ接:たくらむ企
メ接:めぐむ恵(め+くむ配)-めぐまる-めぐまれる(「目を配る、目配りする」意)
この図の核心は「くむ(組む)」である。これを展開することによって、はじめて「めぐむ」や「くらべる」の由来が明らかになった。「かんがへる考」も、物事に徹底的に「かまふ」「かまける」こととして十分納得できる。
◆----------(kb)
かぶ(頭ぶ)-かぶく(傾ぶく)-かぶける
-かぶす(傾ぶす)-かぶさす-かぶさせる「wuなかぶす頸傾」
-かぶさる-かぶされる
-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
-かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
-かむる(被むる)
◆----------(kb,km,hm)
か( )-かぶ(黴ぶ)-かびる(黴びる)「かび黴」
-かぶる(黴ぶる)-かぶれる「〔漆に〕気触れる」
-かぼす(黴ぼす)
-かむ(噛む)-かます(噛ます)-かませる
-かまる(噛まる)-かまれる
-かもす(醸もす)
-かぶる(噛ぶる)「(劇場の)かぶりつき」
-はむ(食む)(「かむ」の (k-h)相通形、また「歯む」の見方も)
イ接:いがむ啀「いがみあふ啀合」
シ接:しがむ
穀類や果物類を噛んで発酵させていたとされることに鑑み、上記を提案する。
◆----------(kr)
か(離)-かゆ(離ゆ)
-かる(離る)-からす(離らす)
-かれる(離れる)
ア接:あかる(あ+かる離)
サ接:さかる(さ+かる離)「とほさかる(遠ざかる)」
◆----------(kr;kg,sk,tk,tg,ng,mk,yg,sk,wg)
か(刈)-かる(刈る)-からす-からせる
-からる-かられる
-かる(狩る)-からす-からせる
-からる-かられる
き(切)-きる(切る)-きらす(切らす)-きらせる
-きらふ(切らふ)-きらはる(嫌らふ)
-きらる(切らる)-きられる
-きれる(切れる)
く(刳)-くる(刳る)-くらる(刳らる)-くられる「くりぬく刳抜」
こ(樵)-こる(樵る)「きこり木樵」
カ接:かぎる(カ切)-かぎらる-かぎられる(限る)
ク接:くぎる(区切)-くぎらる-くぎられる
シ接:しきる(仕切)
チ接:ちぎる(千切)-ちぎれる-ちぎられる
ト接:とぎる(ト切)-とぎれる
ニ接:にぎる(ニ切)(「ニ切りとる」意か)
ミ接:みきる(見切)
ヨ接:よぎる(横切)
サ接:さくる(サ刳)
ヱ接:ゑぐる(ヱ刳)-ゑぐらる-ゑぐられる〔ゑ彫+くる刳〕
和人が生きのびるために草や木に向かって行う挌闘を言うカ行渡り語「か/き/く/こ」である。それが毛ものに広がり(狩る)、一般作業にも広がっていった。鉄器がない時代に立木を切り倒す(樵る)作業の大変さが思いやられる。
◆----------(kr)
か( )-かる(枯る)-からす(枯らす)-からせる「かるし/かろし軽シ」《からから》
-からぶ(枯らぶ)-からびる「ひからびる干乾*干涸」
-かるぶ(軽るぶ)
-かれる(枯れる)(涸れる)
-かろぶ(軽ろぶ)
-かろむ(軽ろむ)
ス接:すがる末枯
◆----------(kr,ks)
か(着)-かる(着る)
き(着)-きす(着す)-きさす(着さす)-きさせる「きほし着欲、きもの着物」
-きせす(着せす)
-きせる(着せる)-きせらる-きせられる
-きそふ(着そふ)
-きる(着る)-きらる(着らる)-きられる
-きれる(着れる)
く(着)-
け(着)-けす(着す)「みけし御着」
-ける(着る)
◇------------【ききき】
◆----------(ki,ku,ke,ks)
き(奇)
く(奇)-くす(奇す)-くしぶ(くし奇シ、くすし奇シ)
-くすす(奇すす)「くすし薬師」
-くする(奇する)「くすり薬」
け(異)-けし(異シ)「けなり」
奇異、怪異を言うカ行渡り語「き/く/け(奇*怪*異)」である。
◆----------(kk)
き( )-きく(聞く)-きかす(聞かす)-きかせる-きかせらる-きかせられる
-きかゆ(聞かゆ)
-きかる(聞かる)-きかれる
-きこす(聞こす)「きこしめす、きこしをす」
-きこゆ(聞こゆ)-きこyeる
-きく(効く)-きかす(効かす)-きかせる
「きく聞」は、”目で見る、口で食ふ”とは異なり、音を聞く器官である「みみ耳」とは無関係であろう。「きく」には”聞き酒、香を聞く(聞香)、聞し召す”などの成句があり、また人に道を”きく”、親の言いつけを”きく”、その結果よく「効いた」などの意味もある。薬が「きく(効く)」も「聞く」と同語と見られる。これはおそらくかなり新しい文化語と思われ、これがもとにあったはずの本来の音波が鼓膜を叩く意の動詞を追い出して居座ったものと考えられる。
◆----------(ks)
き( )-きし(軋し)-きしむ(軋しむ)-きします-きしませる《きしきし》
-きしめく
-きしる(軋しむ)-きしろふ〔争い競う〕
◆----------(ks,kh,)
き( )-(きす)-きそふ(競そふ)-きそはす-きそはせる(新撰字鏡、11世紀仏典、太平記)
(きふ)-きほふ(競ほふ)-きほはす-きほはせる(万葉集、9世紀仏典、源氏物語)
◆----------(ki,ku,ke,ko,kd,ky,)
き( )-きだ(段 )-きだむ(段だむ)(「きざむ刻」は「きだむ」の(d-z)相通語)「きだ段、みきだ三段」
く( )-くづ(砕づ)-くだく(砕だく)-くだかる-くだかれる「くづ屑、おがくづ、のこくづ鋸屑」
-くだける
-くだす(降だす)-くださる-くだされる
-くだつ(降だつ)
-くだる(下だる)
-くづす(崩づす)-くづさる-くづされる
-くづふ(崩づふ)-くづほる-くづほれる
-くづる(崩づる)-くづれる
-くゆ(崩ゆ)-くやす(崩やす)
-くyeる(崩yeる)「くye崩、いはくye岩崩」
け(削)-けづ(削づ)-けづる(削づる)-けづらる-けづられる「ゆげ弓削、けづりかけ」
こ( )-こだ(傾頽)-こだる(傾頽る)「ゑみこだる笑興、をれこだる折傾」
-こづむ(偏づむ)
◆----------(ki,kh,km,kr,)
き(極)-きふ(極ふ)-きはむ(極はむ)-きはまる「きは際、きはどし際どシ、きはみ極」
-きはめる
-きはる(極はる)「たまきはる玉、としきはる年」
-きむ(決む)-きまる(決まる)「きめつく」
-きめる(決める)-きめらる-きめられる
-きる(極る)「きり限」
今日の”決断する、決定する”意の動詞「きむ-きまる/きめる」は、あれこれ悩んでいてついに”どん詰まりに来た”が本来の意味と考えられる。どん詰まりに来たために右か左か決めざるを得なくなって、”決定する”の意味が生まれてきた。
◆----------(ky)
きよ(清よ)-きよむ(清よむ)-きよまふ-きよまはる「きよし清シ」
-きよまる
-きよめる
けや(尤や)「けや/けやか/けやけし」
こよ(清よ)「こよなし」
すがすがしい状況を言う(ky)縁語群である。「こよなし」は、終戦後間もなく大流行したサトウハチロー作詞の歌謡曲”長崎の鐘”で「こよなく晴れた青空を悲しと思うせつなさよ・・」と歌われたことで記憶している人も多い。この語は、日本人であれば教えられなくとも耳にしただけでピンとくるであろう。(ky)の響きから直ちに「きよ清」に導かれるからである。
◆----------(kr)
き( )-きる(鑚る)「(火)きり、ひきりうす火鑚臼、ひきりきね火鑚杵」《きりきり》
-きる(錐る)「きり鑚*錐」
この「きる」は、細い木の丸棒を両の手の平で挟んできりきり回して火を熾したり木に穴を開けたり、また翡翠などの貴石に穴をあけることを言っているであろう。”火を起す、穴を開ける”である。
◇------------【くくく】
◆----------(kk,hk,hh)
く( )-くく(括く)-くくす(括くす)
-くくむ(包くむ)-くくまる
-くくもる「羽ぐくむ-羽ぐくもる」
-くくる(括くる)-くくらる-くくられる
-くける(絎ける)
ふ( )-ふく(括く)-ふくむ(含くむ)-ふくまる-ふくまれる(一度目の(h-k相通形))
-ふくめる
-ふふ(括く)-ふふむ(含ふむ)(二度目の(h-k相通形))
◆----------(kk,kg,mg)
く( )-くく(潜く)-くくる(潜くる)-くくらす-くくらせる「(百舌鳥の)くさくき草潜」
-くくらる-くくられる
コ接:こく(漏く)
モ接:もく(漏く)-もぐる(潜ぐる)-もぐらす-もぐらせる
◆----------(ku,ks,km,kr)
く(黒)-くす(黒す)-くすむ(黒すむ)-くすます-くすませる
-くむ(黒む)-くもる(曇もる)-くもらす-くもらせる「くも雲」
-くる(暗る)-くらす(暗らす)-くらさす-くらさせる「くら/くれ/くろ〔暗/暮/黒〕」
-くらむ(暗らむ)-くらます
-くるす(苦るす)-くるしむ-くるします-くるしませる
-くるしめる-くるしめらる
-くれる(暮れる)
-くろむ(黒ろむ)〔黒ずむ〕
くら:くらし暗シ、くらおかみ闇靇、くらやまつみ闇山祇、くらみつは闇罔象
くり:くり涅*海石、
くる:くる暮、くるし苦シ
くれ:くれ暮、このくれ/このくれやみ木晩闇、
くろ:くろ黒、くろし黒シ、くろいかつち黒雷、くろがね黒金、くろかみ髪、くろき酒
◆----------(kz)
く( )-くず(抉ず)-くじく(挫じく)-くじかす
-くじける
-くじる(抉じる)「くじりゑる」
こ( )-こず(抉ず)-こじる(抉じる)-こじらす-こじらせる
-こじれる
◆----------(kt)
くた( )-くたばる《くたくた》
-くたびる-くたびれる「草臥れる」
-くたぶる
◆----------(ku,kt,kh,kr;tk)
く(口)-くつ(口つ)「く/くち口」
-くふ(食ふ)-くはす(食はす)-くはせる-くはせらる-くはせられる
-くはふ(咥はふ)-くははる-くははらす-くははらせる(加はる)
-くはへる-くはへらる-くはへられる(咥へる・加へる)
-くはる(食はる)-くはれる
-くる(食る)-くらふ(喰らふ)-くらはす-くらはせる「くらひもの食物、よきくらひもの」
タ接:たくはふ(蓄ふ)-たくはへる
◆----------(kb)
くび(首び)-くびる(縊びる)-くびらる
-くびれる
くぼ(窪ぼ)-くぼむ(窪ぼむ)-くぼます-くぼませる
-くぼまる
-くぼめる
◆----------(ku,km)
く( )-くむ(汲む)-くます(汲ます)-くませる
◆----------(gm,km)
ぐむ/くむ( )〔名詞について動詞をつくる〕
「あせぐむ汗、うはぐむ上、おyiぐむ老、つのぐむ角、なみだぐむ涙、みづはぐむ瑞歯、めぐむ芽」
◆----------(ky)
く( )-くゆ(悔ゆ)-くやす(悔やす)-くやしぶ「くyi悔、くやし(悔シ)」《くよくよ》
-くやむ(悔やむ)-くやまる-くやまれる
-くyiる(悔yiる)
◆----------(ku,kr)
く( )-くる(狂る)-くるふ(狂るふ)-くるほす
「くるし苦、くるしむ」は「くるふ狂」と結びつくか。
◆----------(ku,kr;tg,mk)
く( )-くる(繰る)「くりあぐ繰上、くりさぐ繰下;つまぐる爪繰」
タ接:たぐる手繰
マ接:まくる捲
メ接:めくる捲
◆----------(ku,ko,kr,kk)
く(転)-くる(転る)-くらむ(眩らむ)-くらます-くらませる(目が回る)《くるくる》
-くるふ(狂るふ)-くるはす-くるはせる-くるはせらる-くるはせられる
-くるほす
-くるぶ(転るぶ)-くるべく-くるべかす
-くるむ(包るむ)-くるまる
-くるめく-くるめかす
-くるめる
-くるる(転るる)「くるる枢」
-くろむ(転ろむ)
こ(転)-こく(転く)-こかす(転かす)-こかさる-こかされる
-こける(転ける)「ずっこける」
-ころ(転ろ)-ころぐ(転ろぐ)-ころがす-ころがさる-ころがされる《ころころ》
-ころがる
-ころげる
-ころぶ(転ろぶ)-ころばす-ころばせる
-ころる(転ろる)
◆----------(kr)
く( )-くる(呉る)-くれる(呉れる)「くれてやる」
◇------------【けけけ】
◆----------(kg;&k)
け( )-けが(穢が)-けがす(穢がす)-けがさる-けがされる「けがし(穢がシ)」
-けがる(穢がる)-けがらふ「けがらはし(穢らはシ)」
-けがれる
こ( )-こぐ(焦ぐ)-こがす(焦がす)-こがさる-こがされる
-こがせる
-こがる(焦がる)-こがれる
-こげる(焦げる)
ア接:あくがる憧
あこがる憧-あこがれる(あ+こがる焦)
◆----------(ks)
け( )-けす(化す)-けさふ(化さふ)「けしょう化粧」
-けする(化する)-けすらふ〔つくろう/装う、めかす〕
◆----------(ks)
けす~けしかく-けしかける「けし、けしけし」
◇------------【こここ】
◆----------(kk)
こ( )-こく(放く)「へこき屁放」
◆----------(kk)
こ( )-こく(痩く)-こける(痩ける)「やせこける痩、頬がこける」
◆----------(kk)
こ( )-こく(耽く)-こくる(耽くる)「だまりこくる、ぬりこくる、はりこくる」
-こける(耽ける)「ねむりこける、わらひこける」
◆----------(kh,kb)
こ( )-こふ(乞ふ)-こはす(乞はす)「こひとる乞取、こひなく乞泣、こひねがふ庶幾*冀、こひのむ乞禱」
-こはる(乞はる)-こはれる
-こぶ(媚ぶ)-こばす(媚ばす)「こびひと侫人」
-こばむ(媚ばむ)
-こびる(媚びる)-こびらる-こびられる
◆----------(km)
こ( )-こむ(澇む/浸む/漲む)〔田に水が入り浸る〕
◆----------(ky)
こ( )-こゆ(肥ゆ)-こやす(肥やす)「こやし/こye肥」
-こyeる(肥yeる)
◆----------(kr)
こ( )-こる(懲る)-こらす(懲らす)-こらさる-こらされる
-こらしむ-こらしめる
-こらる(嘖らる)
-こりる(懲りる)
-ころす(殺ろす)-ころさる-ころされる
-ころふ(嘖ろふ)-ころほふ〔叱嘖する〕
不詳語「ころす殺」がここに入ってくるが、候補のひとつにはなり得る。
◇------------【さささ】
◆----------(sk;&s)
さ( )-さか(逆か)-さかふ(逆かふ)
-さかる(逆かる)-さからふ
イ接:いさかふ~いさかひ諍
「さか坂」と「さか逆」があるとき、これらを別語とすることはできそうにない。その上に「さかふ(境ふ)」と「さかる-さからふ逆」があり、これらをまた「さか坂*逆」と無関係の別語と見ることはできない。
結局「さか」という語をもとに、この語の由来を求め、「さかふ、さかる」との関係を探っていくことになるが、今はこれ以上進むための材料がない。
◆----------(sk,sg,st,sd,sh,sb,sm,sy,sr;&s,ks,hs,tm,ms)
さ(狭)-さく(狭く)
-さぐ(下ぐ)-さがる(下がる)
-さげる(下げる/提げる)
-さづ(定づ)-さだむ(定だむ)-さだまる
-さだめる-さだめらる-さだめられる
-さづく(授づく)-さづかる
-さづける-さづけらる-さづけられる
-さふ(障ふ)=ささふ(支さふ)
-さはふ(障はふ)
-さはる(障はる)-さはらす-さはらせる(触はる)
-さはらふ
-さはらる-さはられる
-さへく(遮へく)-さへきる
-さへぐ(遮へぐ)-さへぎる
-さへぬ(障へぬ)-さへなふ
-さへる(障へる)
-さむ(狭む)-さまつ(妨まつ)-さまたぐ-さまたげる「さもし/さぼし(料簡が狭い)」
-さまる(妨まる)
-さみす(褊みす)
-さゆ(障ゆ)-さやす(障やす)
-さやる(障やる)
し(狭)-しく(領く)-しかす(領かす)-しかせる〔統治する〕「たかしく高敷、ふとしく太敷」
-しかる(領かる)-しからる-しかられる(領かる-領からる-領かられる)
-しかれる(敷く-敷かる-敷かれる)
-しきる(領きる)
-しぐ(締ぐ)-しがふ(締がふ)
-しがむ(締がむ)「しがみつく」
-しぐふ(締ぐふ)「しぐひあふ」〔情交する〕
-しぐる(時雨る)「しぐれ時雨」
-しぐらふ〔密集する〕
-しぐらむ
-しぐれる〔時雨れる〕
-しげむ(茂げむ)「しげみ」
-しげる(茂げる)-しげらふ「しげし茂シ、しげち茂道、しげの茂野」
-しつ(滴つ)-したつ(滴たつ)-したたる
-したづ(滴たづ)
-したむ(滴たむ)
-しづ(垂づ)-しだる(垂だる)-しだれる「しづye垂枝、しづ/しで垂」
-しづく(雫づく)「しづく雫」
-しづむ(沈づむ)-しづまる-しづまらす-しづまらせる
-しづめる-しづめらる-しづめられる(鎮める)
-しづもる
-しづる(垂づる)
-しふ(強ふ)-しひる(強ひる)-しひらる-しひられる「しひかたり、しひて」
-しぶ(縛ぶ)-しばる(縛ばる)-しばらる-しばられる「くひしばる、とりしばる」
-しぼむ(萎ぼむ)-しぼます-しぼませる
-しぼまる
-しぼる(搾ぼる)-しぼらる-しぼられる
-しむ(占む)-しまふ(占まふ)-しまはす-しまはせる「しめ標、しめなは注連縄」
-しまはる-しまはれる(仕舞う)
-しまる(占まる)
-しめす(占めす)-しめさす
-しめる(占める)-しめらる-しめられる
-しむ(絞む)-しまる(絞まる)
-しめる(絞める)-しめらる-しめられる
-しる(領る)-しらす(領らす)-しらしむ-しらしめる(知る/痴る)「たかしる高知」
-しらせる-しらせらる
-しらふ(領らふ)「おyiしらふ老痴」
-しらむ(領らむ)
-しらる(領らる)
-しるす(領るす)「しるし験/印」
-しれる(領れる)「ゑひしれる酔痴」
-しろす(領ろす)-しろしむ-しろしめす(所知食)
-しろしめる
す(狭)-すぐ(縋ぐ)-すがふ(縋がふ)
-すがる(縋がる)
-すぐ(挿ぐ)-すげる(挿げる)
-すぶ(統ぶ)-すばる(統ばる)「すばる昴、すべつどふ、すべをさむ、みすまる、とりすぶ」
-すべる(統べる)「すべ術」「すべら皇」
-すぼ(窄ぼ)-すぼむ(窄ぼむ)-すぼます-すぼませる
-すぼまる
-すぼめる
-すむ(統む)-すまふ(争まふ)「すまひ(相撲)」
-すまる(統まる)「うづすまる、みすまる御統」
-すめる(統める)「すめかみ、すめみま、すめら皇、すめらぎ/すめろき皇男」
せ(狭)-せく(狭く)-せかす(急かす)-せかせる-せかせらる-せかせられる「せき関、せき堰」
-せかふ(狭かふ)
-せかる(急かる)-せかれる
-せこむ(狭こむ)-せこめる
-せぐ(責ぐ)-せがむ(責がむ)
-せつ(責つ)-せたぐ(責たぐ)-せたげる
-せたむ(責たむ)
-せふ(狭ふ)-せはる(狭はる)
-せぶ(狭ぶ)-せばむ(狭ばむ)-せばまる
-せばめる
-せむ(狭む)-せまる(狭まる)-せまらる-せまられる
-せめく(狭めく)
-せめぐ(狭めぐ)
-せめる(狭める)-せめらる-せめられる(攻める)
-せる(狭る)「せり競」
そ(狭)-そふ(添ふ)-そはす(添はす)-そはせる
-そはる(添はる)-そはれる
-そへる(添へる)-そへらる-そへられる
-そほる(添ほる)
-そぶ(側ぶ)-そばむ(側ばむ)
ア接:あしらふ(待遇)(日国の言う『動詞「あえしらう(あへしらふ)」の変化した語』ではない)
あせる (焦る)
コ接:こしらふ(拵ふ)-こしらへる
ハ接:はさく (挟く)-はさかふ
はさむ (挟む)-はさまる-はさまれる「はさま狭間、はさみ鋏」
タ接:たばさむ(手挟む)
ム接:むすぶ (結ぶ)-むすばす-むすばせる「おむすび」
-むすばる-むすばれる
-むすべる
-むすぼふ
-むすぼる
この大きなサ行動詞群は、全体として「せ狭」の意を根底に置いている。”間隔を狭くする、距離を縮める”である。後に出てくるばらばらと広げる意をもつ巨大なハ行動詞群と対をなしている。「おむすび」に見られる通り、ばらばらの米粒を握りしめて米粒と米粒との間を密にして球体とする意である。
ここには「しる領」や「すぶ統」のような歴史的に重要な政治用語が入っている。これも上から下へ力を及ぼして為政者と民との間を密にする意が根本と思われる。
◆----------(sk)
さ( )-さく(咲く)-さかす(咲かす)-さかせる「さき幸、さきはひ幸」
-さかふ(栄かふ)-さかへる
-さかゆ(栄かゆ)-さかやく-さかやかす
-さかyeる「おひたちさかゆ、にほyeさかゆ、ゑみさかゆ」
-さかる(盛かる)〔交尾する〕
◆----------(sk,sr)
さ( )-さく(放く)-さかる(避かる)「みさく見、かたりさく語放、とほさかる遠」
-さくむ(避くむ)(「さぐくむ」m509/4331)
-さける(避ける)-さけらる-さけられる
そ( )-そく(退く)-そくす(退くす)「しりぞく後退」「みそくす見退」
-そける(退ける)
-そる(逸る)-そらす(逸らす)-そらせる
-それる(逸れる)
ノ接:のぞく除(の+そく/ぞく退)-のぞこる
◆----------(sg)
さ( )-さぐ(探ぐ)-さがす(探がす)-さがさす-さがさせる「さぐめ探女」
-さがさる-さがされる
-さぐる(探ぐる)-さぐらる-さぐられる「さぐりあさる、さぐりとらふ、かきさぐる」
す( )-すが(眇が)-すがむ(眇がむ)-すがめる「すがめ眇(探るような目つきの意か)」
マ接:まさぐる
◆----------(sg)
さ( )-さぐ(削ぐ)
す( )-すぐ(削ぐ)-すげぶ
-すげむ(皺げむ)〔頬がげっそり落ち窪む〕
そ( )-そぐ(削ぐ)-そげる(削げる)
キ接:きさぐ(刮ぐ)
コ接:こそぐ(刮ぐ)-こそげる「根こそぎ」
◆----------(ss)
さ( )-ささ( )-ささく(細さく)「さざ/さざれ(さざなみ細波、ささら筅、さざれいし細石)」
-ささむ(囁さむ)-ささめく/そそめく
-ささゆ(囁さゆ)-ささやく/そそやく(囁く)
す( )-すす( )-すすく(進すく)
-すすぐ(濯すぐ)
-すすす(進すす)「すすしきほふ」
-すすむ(進すむ)-すすます-すすませる
-すすめる-すすめらる-すすめられる
-すする(啜する)-すすろふ
せ( )-せせ( )-せせる(潺せる)-せせらぐ
そ( )-そそ( )-そそく(噪そく)
-そそぐ(注そぐ)
-そそる(唆そる)
サ行模写語群である。大きなことの反対、小さなささやかな物や事を表現している。「すすす/すすむ(進す/進む)」は、軍隊が堂々と行進するさまではなく、本来は虫や小動物が物陰をささっと走る姿を言うものでありそうである。
◆----------(ss,ks,kz)
さ( )-さす(刺す)-ささぐ(捧さぐ)-ささがす-ささがせる
-ささげる-ささげらる-ささげられる
-ささす(刺さす)-ささせる
-ささる(刺さる)-さされる
キ接:きざす(気差す/兆す)
「さす」には「刺す、射す、挿す、注す、点す、指す・・」などさまざまな漢字が当てられるほどに、さまざまな場面で使われる。細く鋭いものを、光線や視線なども含めて、突き込む意である。それらが飛びこんでくることである。さまざまな「差す」の間の違いは、突きつめればないに等しいが、日用段階では明らかに区別される。
◆----------(ss)
さ( )-さす(止す/鎖す)〔中途で止める、開いているものを閉ざす〕
ト接:とざす(戸鎖す)
◆----------(ss)
さす( )-さすふ(誘すふ)
-さそふ(誘そふ)-さそはる-さそはれる
すす( )-すすむ(勧すむ)-すすめる-すすめらる-すすめられる
そそ( )-そそる(誘そる)-そそらる-そそられる
◆----------(sh,&a)
さは(醂 )-さはす(醂はす)「さはし(淡シ)」
-さはむ(醂はむ)
あは(淡 )-あはす(淡はす)「あはし(淡シ)」(s-h相通形)
-あはつ(淡はつ)-あはたす
-あはづ(淡はづ)〔淡くなる、浅薄になる、衰える〕
-あはむ(淡はむ)
◆----------(sh,sb)
さ( )-さば -さばめく「海人(あま)さばめきてみことのりに従はず、さばあま騒海人」
-さひ -さひづる(囀ひづる)-さひづらふ
-さへ -さへづる(囀へづる)-さへづらふ
-さへ-さへく〔鳥がやかましく囀る〕
し( )-しは -しはがる(嗄はがる)-しはがれる(しゃがれる)
-しはぶく(嗄はぶく)
-しはぶる(嗄はぶる)
-しはべる(嗄はべる)(しゃべる)
す( )-すは -すはぶく(嗄はぶく)
これらは、おそらく息を吸ったり吐いたりするさまを模す(sh)模写語群である。現代の「すーすー」である。「さひづる-さひづらふ」の「つる-つらふ」は、大言海の言う通り、「あげつらふ」「ひこづらふ」のそれと同じで、「つる連」であろう。一度だけスースーするのではなく、繰り返し行う意であろう。鳥のさへづりは理解できないが、同じように理解できない外国人の「しゃべり」も「さひづり/さへづり」である。
◆----------(sh)
さ( )-さふ(支ふ)=ささふ(支さふ)-ささへる-ささへらる-ささへられる(障ふ)
◆----------(sm)
さ( )-さむ(覚む)-さます(覚ます)-さまさす-さまさせる「冷ます、さむし(寒シ)」
-さまさる-さまされる
-さませる
-さめる(覚める)
◆----------(sm,sy,&s)
さ( )-さむ(褪む)-さめる(褪める)
-さゆ(冴ゆ)-さやむ(冴やむ)
-さyeる(冴yeる)
す( )-すむ(澄む)-すます(澄ます)-すませる
そ( )-
ア接:あす(浅す)-あさふ(浅さふ)「あさし(浅シ)、あさはか」
-あさむ(浅さむ)「あさまし(浅まシ)」
-あせる(褪せる)
ウ接:うす(薄す)-うすむ(薄すむ)-うすまる
-うすめる-うすめらる
-うする(薄する)-うすらぐ
-うすらふ
-うすらむ
-うすれる
オ接:おそ(遅そ)- -おそなふ-おそなはる「おそし(遅シ)」
本来の濃い色が浅くなる、褪色することを言っている。ここでは一拍語「さ/す」が色が薄くなる意をもつと見て、「あす褪*浅」「うす薄」は、「す」が接頭語をとった形としている。さらに「そ」動詞は見つからないが、不詳語の「おそし遅」を加えて「あさ浅」「うす薄」「おそ遅」を(&s)縁語群と見る。これらは、物理的な褪色、後退現象のほかに、人の精神活動に関しても「あさい、うすい、おそい」状態を言うようになった。
この「あさ、うす、おそ」の関連は昔から知られていたようで、「奈良時代の国語」(白藤禮幸著 東京堂 昭和62年)にも、母音交替形として、「アサし(浅)-ウスし(薄)-オソ(愚)-アソソ(浅)」の連鎖が指摘されている。
◆----------(sr)
さ( )-さる(曝る)-さらく(曝らく)-さらける「さら新/更」「さらけ出す」
-さらす(晒らす)-さらさる-さらされる「ひざらし日晒*日暴」
-さらぶ(曝らぶ)-さらばふ-さらばへる「おyiさらばふ老曝」
-さらぼす
-さらぼふ「やせさらぼふ痩曝」
-さらむ(晒らむ)
-される(曝れる)「されかうべ/しゃれこうべ髑髏」
し( )-しら(白ら)-しらく(白らく)-しらかす
-しらける
-しらぐ(白らぐ)-しらがふ
-しらげる
-しらぶ(白らぶ)-しらべる-しらべらる-しらべられる(調べる)
-しらむ(白らむ)-しらまく-しらまかす
-しらます
-しるす(記るす)-しるさる-しるされる
-しろむ(白ろむ)「つきしろむ搗白」
-しる(記る)-しるす(記るす)-しるさす「しるし験、いちしるし著」
-しるさる
◆----------(sa,su,so,sr)
さ(擦)-さる(浚る)-さらふ(浚らふ)-さらはす(攫ふ)
-さらはる-さらはれる
す(擦)-する(擦る)-すらす(擦らす)-すらせる《するする》
-すらる(擦らる)-すられる
-すれる(擦れる)
そ(擦)-そる(剃る)-そらす(剃らす)-そらせる
-そらる(剃らる)-そられる
カ接:かさらふ/かっさらふ
カ接:かする
コ接:こする
サ接:さする-さすらふ(流離、流浪)
ナ接:なする
◆----------(sr,zr)
さ( )-さる(戯る)-される(戯れる)(しゃれる)
ざ( )-ざる(戯る)-ざれる(戯れる)(じゃれる)
◆----------(sr)
さ( )-さる(去る)-さらす(去らす)-さらせる「さりく去来、さりゆく去行」
-さらふ(去らふ)「よこさらふ横去」
シ接:しさる(し+さる去)
ス接:すさる(す+さる去)
◇------------【ししし】
◆----------(sk,st,sh,sm)
し( )-しく(湿く)-しける(湿ける)《しくしく・じくじく》
-しつ(滴つ)-したつ(滴たつ)-したたる
-したづ(滴たづ)
-したむ(湑たむ)
-しと(霑 )-しとつ(霑とつ)《しとしと・じとじと》
-しとむ(霑とむ)
-しとる(霑とる)
-しほ(潮 )-しほつ(潮ほつ)(塩*潮)《しほしほ》
-しほる(霑ほる)
-しむ(染む)-します(染ます)-しませる「しみいる沁入、しみこむ染込」
-しみる(染みる)《しみしみ》
-しめす(湿めす)
-しめる(湿める)-しめらす-しめらせる《しめしめ/じめじめ》
-しめらふ
そ( )-そほ(霑 )-そほつ(霑ほつ)《そほそほ》「しょぼしょぼ-しょんぼり」
-そぼつ(霑ぼつ)
-そほる(霑ほる)
-そむ(染む)-そます(染ます)「いろどりそむ」
-そまる(染まる)
-そめる(染める)-そめらる-そめられる
◆----------(sk)
し( )-しく(頻く)-しきる(頻きる)
「しきなく頻鳴、しきなみ頻波、しきふる頻降、しきまき重播*頻蒔、しきりに頻」
◆----------(sg)
し( )-しぐ(縋ぐ)-しがふ(縋がふ)「しげし茂シ」
-しがむ(縋がむ)「しがみつく」
-しがる(柵がる)-しがらむ「しがらみ柵」
-しぐる(茂ぐる)-しぐらふ〔軍勢が密集する〕「しぐれ時雨」
-しぐらむ〔軍勢が密集する〕
-しげる(茂げる)-しげらふ〔情交する〕
す( )-すぐ(次ぐ)-すがふ(縋がふ/次がふ)
-すがる(縋がる/次がる)「すがりつく、夜もすがら通夜、とほりすがり通過」
せ( )-せぐ(縋ぐ)-せがむ(せがむ)-せがまる-せがまれる
そ( )-そぐ(似ぐ)-そぐふ(似ぐふ/次ぐふ)(そぐはない)
◆----------(sk,kd)
しこづ(譖こづ)-しこづる〔讒言する、そしる、悪く言う〕
◆----------(st)
した( )-したふ(慕たふ)-したはる-したはれる「いしたふや」
「したし(親シ)~したしむ親」「したがふ従」などと共通する「した」があると思われる。
◆----------(sn)
しな(撓な)-しなふ(撓なふ)《しなしな》
-しなゆ(撓なゆ)
-しなる(撓なる)
-しなwu(撓なwu)
◆----------(sn,nh,nb)
し( )- -しぬふ(偲ぬふ)
-しのふ(偲のふ)「しのひこと偲言*誄(誄詞)、くにしのひうた国思歌、しのふくさ」
-しのぶ(偲のぶ)
し( )-しの( )-しのぶ(忍のぶ)
「しぬふ-しのぶ偲」と「しのぶ忍」について、日国は、本来別語であったが語形と意味の類似性から後に混同が生じてきたとしている。しかし、雑駁ながら、これだけ似たものが本来的に二つあったとするより、本来ひとつのものが次第に分化したと考える方がすっきりするように思われる。▲▲▲
◆----------(sh,sb,sr)
し(癈)-しふ(癈ふ)-しひる(癈ひる)「あきしひ精盲、めしひ目癈、みみしひ耳癈;しひれめ癈目」
-しふる(癈ふる)
-しぶ(痺ぶ)-しばる(痺ばる)-しばれる〔寒さで体の感覚が失せる〕
-しびる(痺びる)-しびれる
-しぶる(痺ぶる)-しぶらる「しぶ渋、しぶしぶ渋々、渋る」
-しる(痴る)-しらす(痴らす)
-しらふ(痴らふ)「おyiしらふ老痴」
-しれる(痴れる)「ゑひしれる酔痴」
◆----------(sr,ss)
し( )-しる(為る)-しらふ(為らふ)「あしらふ、心しらふ、こしらふ、恥しらふ」
-しろぐ(為らぐ)「たじろぐ、たちしろぐ、まじろぐ、みじろぐ」
す( )-する(為る)
せ( )-せす(為す)「神さびせす、旅宿りせす、よばひせす」
◆----------(sw)
し( )-しわ(皺 )-しわむ(萎わむ)《しわしわ》
-しを(萎 )-しをる(萎をる)-しをれる
◇------------【すすす】
◆----------(sk,sh,sr)
す( )-すく(食く)
-すふ(吸ふ)-すはす(吸はす)-すはせる(吸はせる)「はやすひ速吸」
-すはる(吸はる)-すはれる(吸はれる)
-する(吸る)=すする(啜する)
◆----------(sk)
す( )-すく(結く)〔網を編む〕「あみすきはり網結針」
◆----------(sk,ts)
す( )-すく(助く)-すくふ(救くふ)-すくはる-すくはれる「すけ助*次官、すけっと助人」
タ接:たすく(た助く)-たすかる
-たすける-たすけらる-たすけられる
◆----------(su,sk)
す(簀)-すく(漉く)「紙漉き」
◆----------(su,sk)
す(鬆)-すく(空く)-すかす(空かす)-すかせる「す鬆、す簀、すき隙/鋤」
-すかふ(透かふ)
-すける(透ける)
◆----------(su,sk,sh,sy)
す(酢)-すく(酸く)「す酢」「すし(酸シ)」
-すふ(饐ふ)-すへる(饐へる)「すへりくさし(饐へり臭し)」
-すゆ(饐ゆ)-すゆる(饐ゆる)「すゆりくさる」
-すyeる(饐yeる)
◆----------(sk)
すく(少く)-すくむ(竦くむ)-すくます-すくませる
-すくめる
すく:すくなし、すくなひこ少名彦、
すこ:すこし少、すこぶる頗
せこ:せこし
そこ:そこそこ
「すくなし」は、”すく”がいっぱいの意。”そこそこ、多少”の意という副詞「すこぶる」について、日国はその補注欄で『「すこし」「すくなし」などの語根に、「ひたぶる」などと同じ接尾語のついたものか』としている。
◆----------(sg)
す( )-すぐ(過ぐ)-すぎる(過ぎる)
-すぐす(過ぐす)
-すぐる(過ぐる)-すぐれる(優る-優れる)
-すごす(過ごす)-すごさす-すごさせる「すごし凄シ」
-すごさる-すごされる
◆----------(sg)
す( )-すぐ(挿ぐ)-すげる(挿げる)
◆----------(su,ss,sm)
す(煤)-すす(煤す)-すすく(煤すく)-すすける「す煤/すす煤」
-すすぶ(煤すぶ)
-すむ(煤む)「すみ炭、すみ墨」
◆----------(sn)
す( )-すぬ(拗ぬ)-すねぶ(拗ねぶ)
-すねる(拗ねる)
そ( )-そぬ(嫉ぬ)-そねむ(嫉ねむ)-そねまる-そねまれる
「すぬ」と「そぬ」は、曲がった心が自分に向かうか他人に向かうかの違いがあるが、ともに(sn)縁語としてまとめてみた。原義の由来は不明である。
◆----------(sb)
すべ( )-すべす(滑べす)《すべすべ》
-すべる(滑べる)
そべ( )-そべる「寝そべる」
◆----------(su,sm)
す(巣)-すむ(住む)-すます(住ます)-すませる「す巣」
-すまふ(住まふ)-すまはす-すまはせる
-すめる(住める)
◆----------(sm)
す( )-すむ(済む)-すます(済ます)-すませる(済ませる)
◇------------【せせせ】
◇------------【そそそ】
◆----------(sk,ns,nz)
そ( )-そく(退く)-そける(退ける)「そきたつ退立」
ノ接:のぞく除(の+そく退)
◆----------(sg,sn,sh,sr)
そ( )-そぐ(似合)-そぐふ(似合ふ)
-そぬ(具ぬ)-そなふ(具なふ)-そなはす(備はす)
-そなはる
-そなへる-そなへらる-そなへられる
-そなる(具なる)
-そだる(具だる)-そだれる(曾太礼)(n-d相通形)
-そふ(添ふ)-そはす(添はす)-そはせる-そはせらる
-そへる(添へる)-そへらる-そへられる
-そほる(添ほる)
-そる(揃る)-そろふ(揃ろふ)-そろはす
-そろへる
コ接:こぞる挙(こ+そる揃)
◆----------(ss)
そ( )-そす(誹す)-そしる(誹しる)
◆----------(ss)
そ( )-そす(過す)「いひそす(言ひ過す)、みそす(見過す)」
◆----------(sb;&s)
そ( )-そぶ(戯ぶ)-そばふ(戯ばふ)
-そばゆ(戯ばゆ)
-そぼる(戯ぼる)
ア接:あそぶ遊-あそばす-あそばせる「あそびべ遊部、とりのあそび、のあそび野遊」
-あそばる-あそばれる
イ接:いそばふ(戯ふ)
オ接:おそばふ(戯ふ)
◆----------(sb,sr)
そ(隆)-そぶ(聳ぶ)-そびく(聳びく)
-そびゆ(聳びゆ)-そびやく-そびやかす
-そびyeる「そびyeあがる(聳上)」
-そる(隆る)=そそる(隆そる)「そそりたつ隆立、あまそそる天隆」
両語は「そ」にもとづく縁語と見られる。一拍語「そ」にそそり立つ意があるということになる。二拍名詞「そは・そば岨」〔切り立った崖〕は(sh/sb)縁語である。中空にすっくと聳える山々についてそれを一拍語「そ」で表現した時代があったと考えられる。「せ/そ背」との関連も考えられる。「そる(反る)」である。
◆----------(sm)
-そむ(初む)-そめる(初める)
◆----------(sr)
-そろふ(揃ろふ)-そろへる
◇------------【たたた】
◆----------(tk,tn,tm,dk,tk;&t,bt,mt,kt,kd,&k,&s,&n,mt,bt,&d,kd,sd,md,yd)
た(手)-たく(手く)=たたく(叩たく)-たたかす-たたかせる
-たたかふ-たたかはす-たたはせる(戦ふ)
-たたかる-たたかれる
-たくす(手くす)「(髪や袖を)たくしあげる」
-たくむ(巧くむ)「たくまし快シ、たくみ巧*匠」
-たくる(企くる)-たくらむ
-たぐる(手ぐる)(「くる繰」のタ接とも)
-たける(長ける)〔長ずる、上手である〕
-たぬ(手ぬ)=たたぬ(畳たぬ)-たたなふ-たたなはる「くり畳たぬ」「たたなづく」
-たむ(手む)=たたむ(畳たむ)-たたます-たたませる
-たたまる-たたまれる
だ( )-だく(抱く)-だかす(抱かす)-だかせる
-だかる(抱かる)-だかれる
つ( )-つく(築く)-つかぬ(束かぬ)-つかねる-つかねらる-つかねられる「つか束、つか塚、つかさ阜」
-つかふ(使かふ)-つかはす-つかはせる「「つかひめ使女、みつかふつみ身使罪*徒罪」
-つかはる-つかはれる
-つかむ(掴かむ)-つかます-つかませる「つか束/柄」
-つかまふ-つかまへる
-つかまる-つかまれる
-つくる(作くる)-つくらす-つくらせる
-つくらふ(繕ふ)
-つくらる-つくられる
-つくろふ-つくろはす-つくろはせる(繕ふ)
-つる(手る)
て(手)
と(手)-とぬ(手ぬ)=ととぬ(整とぬ)-ととのふ-ととのへる
-とる(手る)-とらす(取らす)-とらせる-とらせらる-とらせられる「みとらし御執*御弓」
-とらふ(捕らふ)-とらはる-とらはれる「とらへひと囚徒*囚人」
-とらへる-とらへらる-とらへられる
-とらむ(捕らむ)-とらまふ-とらまへる
-とらる(取らる)-とられる
-とれる(取れる)
ア接:あつ(当つ)-あたく(当たく)「あたかも当*恰」
-あたふ(与たふ)-あたはす(能わす)「あたひ値」
-あたへる(与える)
-あたる(当たる)
-あてる(当てる)-あてらる-あてられる
ウ接:うつ(打つ)-うたす(打たす)-うたさす-うたさせる
-うたさる-うたされる
-うたせる-うたせらる-うたせられる
-うたふ(歌たふ)-うたはす-うたはせる「うた歌」
-うたはる-うたはれる
〔強調形〕-うったふ-うったへる-うったへらる-うったへられる
〔強調形〕-うるたふ
-うたる(打たる)-うたれる
ぶつ(打つ)-ぶたる(打たる)-ぶたれる〔(m-b)相通語〕
むつ(鞭つ)「むち鞭」〔(&-m)相通語〕
オ接:おつ(音つ)-おとぬ(音とぬ)-おとなふ「おと音、おとなふ音*訪}
キ接:きづく(築く)
イ接:いづ-いぢる(弄る)
コ接:こづ-こぢる(抉る)
ス接:すづ-すぢる「すぢりもぢる撚曲」
ネ接:ねづ-ねぢる(捩る-ねぢまげる)
モ接:もづ-もぢる「すぢりもぢる撚曲」
ヨ接:よづ-よぢる(捩る)
「て手」をめぐる動詞群である。タ行渡り語「た/つ/て」をもとにしている。ただ「つ」については「つく突」「つぬ抓」「つむ抓」などの「つ爪」語群との交錯が見られる。
「うつ打」と「うたふ歌」の間には距離があるようであるが、「心を打つ」がある。「うたふ」は人の心を打つ、とりわけ女の心を打つ意と考えられる。女の心をとらえるための男の懸命の活動である。それが昂じて「うったふ」「うるたふ」と強調形があらわれた。「うたふ(歌ふ)」という動きも「うたふ(訴ふ)」活動の一部として前後してあらわれたであろう。それがいつかお上に「訴える」という法律用語に転じた。
-----(tn,th,b,tm,ty,dy,tr,&t,&d,kd,st,sd,tt,td,md,tm,mt,yt)
さらに、「と(音);かぜのと、なみのと、ぬなと」を出発点として、以下のような動詞図が描けるであろう。
と(音)-とぬ(音ぬ)-となふ(唱なふ)-となへる
-とふ(問ふ)-とはす(問はす)-とはせる
-とはる(問はる)-とはれる
-とぶ(弔ぶ)-とぶる(弔ぶる)-とぶらふ(弔ふ)
-とむ(覓む)「ともし/とぼし(乏シ)、つまし(倹シ)」(ともし/とぼし-ともしぶ/とぼしぶ)
-とめる(覓める)
-とゆ(響ゆ)-とよく(響よく)
-とよむ(響よむ)-とよめく(鳴動)
-とよもす
-どゆ(響ゆ)-どよむ(響よむ)-どよめく
-どよもす
-とる(音る)=とどる(轟どる)-とどろく(轟く)-とどろかす
-とどろこす
ア接:あとふ〔誘う、勧める〕(「さどふ」の(s-&)相通形)
あとる( )-あつらふ-あつらへる(誂らふ)
-あとらふ-あとらへる(誂らふ)
イ接:いどむ(挑どむ)-いどまる-いどまれる(い+とむ覓)
オ接:おと(音) -おとづる(訪る、音づる)
-おとなふ(訪ふ、音なふ)
カ接:かどふ(勾引ふ)-かどはす
サ接:さとふ
さどふ(サ誘ふ)-さどはす
タ接:たとふ(喩とふ)-たとへる
ツ接:つどふ(集どふ) 「かむつどひつどふ神集」
ツ接:つとむ(務む)-つとまる
-つとめる
マ接:まどふ(惑どふ)-まどはす-まどはせる-まどはせらる-まどはせられる
ト接:とまどふ(ト惑ふ)-とまどはす-とまどはせる-とまどはせらる-とまどはせられる
ミ接:みとむ(認とむ)-みとめる-みとめらる(み+とむ覓)
モ接:もとむ(求とむ)-もとまる(も+とむ覓)
-もとめる-もとめらる-もとめられる
ヤ接:やとふ(雇ふ) -やとはす-やとはせる
-やとはる-やとはれる
以上、やや複雑に見えるが、「手」を言うタ行渡り語「た/つ/て/と」から発達したと考えられる動詞と名詞、さらにそのうちの名詞(「と音」)をもとにした動詞群を一覧表にしたもので、順を辿っていただければ容易に理解されるであろう。
◆----------(tk;&t,kt,wt)
た( )-たか(高か)-たかむ(高かむ)-たかまる
-たかめる
-たかぶ(高かぶ)-たかぶる
-たく(猛く)-たけぶ(猛けぶ)「たけし(猛シ)、たけだけし(猛々シ)」「をたけび雄叫」「さけぶ」
-たける(猛ける)「たけりくるふ(猛狂)」
-さけぶ(叫けぶ)(t-s相通形)
ア接:あたく(叫く)
ケ接:けだかし
コ接:こだかし
ワ接:わたく(叫く)(w-&相通形)
◆----------(tk,ts,tn,tm,tr,tg,sg,tt;&t,&d,kt,st,nt,ht,mt)
た( )-たく(集く)-たかる(集かる)-たからる-たかられる「人だかり」
-たす(足す)
-たぬ(畳ぬ)=たたぬ(畳たぬ)-たたなふ-たたなはる「くりたたぬ繰畳」
-たむ(溜む)=たたむ(畳たむ)-たたます-たたませる
-たたまる-たたまれる
-たまる(溜まる)-たまらす-たまらせる
-ためる(溜める)
-たる(足る)-たらす(足らす)-たらせる
-たらふ(足らふ)-たらはす「こころたらひ心足」
-たりる(足りる)
つ( )-つく(付く)=つづく(続づく)-つづかす-つづかす-すづかせる
-つづける
-つかす(付かす)-つかせる
-つかぬ(束かぬ)-つかねる(「つか束」の動詞化とも)
-つかふ(付かふ)-つかへる(仕へる)
-つかむ(掴かむ)-つかまふ-つかまへる
-つかまる-つかまれる
-つかる(憑かる)-つかれる「(とり)憑かる」
-つける(付ける)-つけらる-つけられる(点火)
-つぐ(継ぐ)-つがす(継がす)-つがせる-つがせらる-つがせられる「いひつぐ言継」「つぎ次」
-つがふ(番がふ)-つがへる「つがひ番」「(矢を弓に)つがへる」
-つがる(連がる)-つがれる
-つぎつ(継ぎつ)
-つぐる(告ぐる)
-つげる(告げる)-つげらる-つげられる
-とく(着く)=とどく(届どく)-とどかす-とどかせる
-とどける-とどけらる
す( )-すぐ(次ぐ)-すがふ(縋がふ)(t-s相通形)
-すがる(縋がる)「すがりつく縋付、おひすがる、とりすがる」
つ( )-つつ(伝つ)-つたぬ(伝たぬ)「いひつつ言伝」「つて伝手、ことづて言伝」
-つたふ(伝たふ)-つたはる
-つたへる-つたへるら-つたへられる
-つな(綱 )-つなぐ(繋なぐ)-つながる-つながれる
-つなげる
-つむ(詰む)=つつむ(包つむ)-つつます-つつませる「かりつむ刈、yiねつみ稲」「つつみ堤」
-つつまる-つつまれる
-つまる(詰まる)
-つめる(詰める)-つめらる-つめられる
-つむ(積む)-つます(積ます)-つませる-つませらる-つませられる
-つまる(積まる)-つまれる「かむづまる(神留)」
-つもる(積もる)-つもらす-つもらせる
-つる(連る)=つづる(綴づる)-つづろふ「ももつづり百綴」
-つらす(連らす)-つらさす
-つらさる-つらされる「つるぎ剣、つるべ釣瓶」「つらら氷柱」
-つらせる
-つらぬ(連らぬ)-つらなる
-つらねる-つらねらる-つらねられる
-つらふ(連らふ)-つらはす-つらはせる
-つらぶ(連らぶ)
-つらる(釣らる)-つられる
-つるす(吊るす)-つるさす-つるさせる
-つるさる-つるされる
-つるぶ(連るぶ)「つるび遊牝」
-つるむ(連るむ)
-つれる(連れる)-つれらる-つれられる
-つろふ(連ろふ)
と( )-とぬ(調ぬ)=ととぬ(調とぬ)-ととのふ-ととのへる
-ととのほる
-とむ(止む)=とどむ(止どむ)-とどまる-とどまらす-とどまらせる「とみ富」
-とどめる
-とます(富ます)-とませる
-とまる(止まる)-とまらす-とまらせる「ちまる/つまる(かむづまる)」
-とめる(止める)-とめらる-とめられる
-ともる(滞もる)-とどもる
ア接:あづく(預く)-あづかる(「与かる」も同じ)「あづき(あづきなし)」
-あづける-あづけらる-あづけられる
ア接:あつむ(集む)-あつまる
-あつめる
ウ接:うづむ(埋む)-うづまる(う+つむ積)?
-うづめる
-うづもる
シ接:しとむ(仕留)-しとめる
ス接:すだく(集く)
ク接:くつく(くっつく-くっつける)
ト接:とつぐ(嫁ぐ)-とつがす-とつがせる
:とだる〔十分に足りているの意か〕
ナ接:なつく(懐く)-なつかす-なつかしむ/なつかせる「なつかし懐シ」(な馴/慣+つく)
ヒ接:ひたす(養す)
:ひつく(ひっつく-ひっつける)
ヘ接:へつらふ(諂ふ)
マ接:まつふ(纏ふ)-まつはす-まつはしむ「あしまつひ足纏、ひきまつふ」
-まつはせる
-まつはる
まつぶ(纏ぶ)-まつばる
-まつべる
まつむ(纏む)
まつる(祭る)-まつらる-まつられる「まつり祭、まつりごと政、たてまつる奉」
-まつらふ
-まつろふ(服ふ/順ふ)「おもひまつろふ思纏、まつろはぬひと」
まとふ(纏ふ)-まとはす-まとはせる
-まとはる
まとぶ(纏ぶ)
まとむ(纏む)-まとまる
-まとめる
ミ接:みつぐ(貢ぐ)-みつがす-みつがせる
みとむ(認む)-みとめる(み見+とむ止)
モ接:もつる(縺る)-もつれる
接続、連続、継続、継承、相伝、集積等々、表現は難しいが、そのような意味合いをもったタ行語を集めている。この中で、特に縁語性の強いもの、例えば「たむ/つむ/とむ」だけをとり出してまとめるとすんなり理解できるのであるが、ここでは、これに限らず、広め広めに網をかけている。
◆----------(tk)
た( )-たく(焚く)-たかす(焚かす)-たかせる「たきぎ焚木、たきび焚火」「飯を炊く、風呂を焚く」
-たかる(焚かる)-たかれる
-たける(焚ける)
◆----------(tg)
た( )-たぐ(食ぐ)「あひたげびと相食人、米だにも’たげて’通らせ」
◆----------(tg)
た( )-たぐ(滾ぐ)-たぎつ(滾ぎつ)「おちたぎつ落滾、たぎつせ滾瀬」
-たぎる(滾ぎる)-たぎらす-たぎらせる「煮へ滾る」
◆----------(tg)
た( )-たぐ(似ぐ)-たぐふ(偶ぐふ)-たぐはる「たぐひ(類)」
-たぐばる
-たぐへる
-たうばる〔似る〕
◆----------(tg)
-たぐる(吐ぐる)
◆----------(tt)
た( )-たつ(立つ)-たたす(立たす)-たたせる(発つ)「みたたし御立」
-たたる(立たる)-たたれる
-たてる(立てる)-たてらる-たてられる(建てる)
ク接:くたつ「あかときくたち、よくたち」
ス接:すだつ
ソ接:そだつ-そだてる
ヒ接:ひだつ
ヘ接:へだつ-へだたる(へ経+たつ立)(隔つ)
-へだてる-へだてらる-へだてられる
◆----------(tt,th,ty,tk;td,md)
た( )-たつ(絶つ)-たたす(絶たす)-たたさる-たたされる
-たたせる
-たたる(絶たる)-たたれる
-たふ(倒ふ)-たはる(仆はる)「よこたはる横仆」(「ふ」のタ接か)
-たふす(仆ふす)-たふさす-たふさせる「けものたふし畜仆」
-たふさる-たふされる
-たふる(仆ふる)-たふれる
-たへる(仆へる)「よこたへる横仆」
-たゆ(絶ゆ)-たやす(絶やす)-たやさる-たやされる
-たyeる(絶yeる)
つ( )-つく(尽く)-つかす(尽かす)-つかさる-つかされる
-つかせる
-つかる(尽かる)-つからす-つからせる(疲る)
-つかれる(疲れる)
-つきる(尽きる)
-つくす(尽くす)
-つくる(尽くる)
-つふ(潰ふ)-つひゆ(潰ひゆ)-つひやす「つひ終、つひのすみか終棲」
-つひyeる
-つゆ(潰ゆ)-つyiゆ(潰yiゆ)-つyiやす
-つyiyeる
-つゆる(潰ゆる)
ト接:とだゆ途絶(と+たゆ絶)-とだyeる
モ接:もだゆ悶絶(も+たゆ絶)-もだyeる
◆----------(td)
た( )-たづ(尋づ)-ただす(質だす)-たださす-たださせる(質す/糾す/正す/直す)「ただし(正シ)」
-たださる-ただされる
-たづぬ(尋づぬ)-たづねる-たづねらる-たづねられる「たづねく来」
-たどる(辿どる)
(-たづす) -たづさふ-たづさはる
-たづさへる
◆----------(th,tb,tr,dr,nb;kt,hd,md)
た( )-たは(戯は)-たはく(戯はく)-たはける「たはけ、たはし戯シ」
-たはす(戯はす)-たはしる
-たはぶ(戯はぶ)-たはぶる-たはぶれる
-たはむ(戯はむ)-たはむる-たはむれる
-たぶ(誑ぶ)-たぶる(誑ぶる)-たぶらく-たぶらかす「くなたぶれ」
-たぶらす
-たぶろく-たぶろかす
-たほろく-たほろかす
-たぼろく-たぼろかす
な( )-なぶ(嬲ぶ)-なぶる(嬲ぶる)「ひとなぶり」(t-n相通形)
た( )-たる(誑る)-たらく(誑らく)-たらかす「たるし」
-たらす(誑らす)「たらしこむ誑込、をんなたらし女蕩」
-たるむ
だ( )-だる(蕩る)-だらく(蕩らく)-だらける《だらだら》「だらしなし(だらしがいっぱい)」
-だれる
と( )-とる(蕩る)-とらく(蕩らく)-とらかす
-とらす(蕩らす)
-とれる(蕩れる)「みとれる(見蕩)」
-とろく(蕩ろく)-とろかす《とろとろ》
-とろける
-とろむ(蕩ろむ)-とろめく
-とろる(蕩ろる)-とろろく
カ接:かたるし、かったるし
ケ接:けだるし
ヒ接:ひだるし
マ接:まだるし、まどろむ
ヨ接:よだるし
◆----------(th,ty;&t,kt,kr,tt)
た( )-たふ(堪ふ)=たたふ(湛たふ)-たたへる
-たふる(堪ふる)
-たへる(堪へる)-たへらる-たへられる
-たふ(勝ふ)=たたふ(称たふ)-たたはす「たたはし偉」
-たたへる〔すぐれる、霊妙である〕「たへ妙」
-たゆ(堪ゆ)=たたゆ(湛たゆ)-たたyeる
-たyeる(堪yeる)
ア接:あたふ能
イ接:いたふ労-いたはる(い+たふ堪/耐)
コ接:こたふ湛-こたへる(こ+たふ堪/耐)
こたゆ堪-こたyeる
こらふ堪-こらへる(t-r)相通語
こらゆ堪-こらyeる
タ接:たたふ湛-たたへる(頭積語とも)
たたゆ湛-たたyeる(頭積語とも)
◆----------(tm,tb;nt)
た( )-たむ(賜む)-たまふ(賜まふ)-たまはる「まwuしたまふ/まをしたまふ申賜」
-たまる(賜まる)
-たもる(賜もる)
-たぶ(賜ぶ)-たばす(賜ばす)
-たばふ(賜ばふ)-たばはる
-たばる(賜ばる)
-たべる(食べる)-たべらる-たべられる
-たべす(食べす)-たべさす-たべさせる
ノ接:のたむ(告賜)-のたまふ-のたまはる
のたぶ(告賜)-のたばふ
◆----------(tm,mm)
た( )-たむ(矯む)-ためす(矯めす)
-ためる(矯める)-ためらふ(躊躇)
も( )-もむ(揉む)-もます(揉ます)-もまさる-もまされる
-もませる-もませらる
-もまる(揉まる)-もまれる
-もみつ(揉みつ)-もみたす
-もみたふ
-もみづ(揉みづ)-もみづる
-もめる(揉める)
◆----------(tm,dm,nm)
た( )-たむ(訛む)
だ( )-だむ(黙む)-だます(騙ます)-だまさる-だまされる「舌だむ」
-だむ(訛む)-だまる(訛まる)「舌だむ」
-だまる(黙まる)-だまらす-だまらせる
ど( )-どむ(黙む)-どもる(吃もる)「どもり(吃)」
な( )-なむ(訛む)-なまる(訛まる)(t-n相通形)
◆----------(tm)
た( )-たむ(嘔む)-たまふ(嘔まふ)「たむ逆吐、むかたむ」
◆----------(tm,dm)
た( )-たむ/だむ(彩む)「だみ絵、薄だみ、金だみ」
◆----------(tr)
た( )-たる(垂る)=たたる(祟たる)-たたらる-たたられる
=ただる(爛だる)-ただれる
-たらす(垂らす)-たらせる「たるき垂木、たるみ垂水、すだれ簀垂/簾、たれす垂簾」
-たれる(垂れる)
◆----------(tw)
た( )-たwu(撓wu)-たわむ(撓わむ)-たわめる《たわたわ-たわわ》
-たわる(撓わる)
-たwuぐ(撓wuぐ)「たwu(撓wu)」「たwuげ峠」
-たをむ(撓をむ)「たを(撓を)、たをやか」
-たをゆ(撓をゆ)-たをやぐ《たをたを》
-たをる(撓をる)
と( )-とゐ(撓ゐ)「とゐなみ撓波」
-とwu(撓wu)-とゑる(撓ゑる)-とゑらふ〔波がうねり立つ〕
-とをむ(撓をむ)「とを(撓)」《とをとを-とをを》
-とをゆ(撓をゆ)-とをゆる
-とをよる
-とをる(撓をる)-とをらふ
たわ:たわ(山の鞍部)、たわやめ手弱女、たわやかひな
たwu:たwuげ(峠)
たを:たをり(山の鞍部)、かいたをり掻撓、たをやか、たをやぐ、たをやめ、ひぢたをる曲撓
とゐ:とゐなみ撓波
とゑ:とゑなみ撓波
とを:とを(十〔指を全部折り曲げる〕)、ひぢとをる曲撓
◇------------【ちちち】
◆----------(tk,tb,tm,tr,sk,sm,sr,td,tb,tm,sb,am)
ち(小)-ちく(小く)=ちぢく(縮ぢく)-ちぢかむ-ちぢかまる
-ちぢくる-ちぢくれる
-ちぢこむ-ちぢこまる
-ちぶ(禿ぶ)-ちびる(禿びる)〔擦り減る〕
-ちむ(禿む)=ちぢむ(縮ぢむ)-ちぢまる「ちぢみ縮」
-ちぢめる
-ちる(散る)=ちぢる(縮ぢる)-ちぢらす-ちぢらせる(散る)
-ちぢれる
-ちらく(散らく)-ちらかす
-ちらかる
-ちらける
-ちらす(散らす)-ちらせる「しがらみちらす、なきちらす、ゐちらす」
-ちらふ(散らふ)
-ちらぶ(散らぶ)-ちらばる-ちらばらす-ちらばらせる
し(小)-しく(縮く)=しじく(縮じく)-しじかむ-しじかまる(縮かむ)(t-s相通形)
-しむ(縮む)=しじむ(縮じむ)-しじまふ(進退)「しじみ蜆」
-しじまる(縮まる)
-しじめる
-しる(縮る)=しじる(縮じる)-しじれる(縮れる)
つ( )-つづ(約づ)-つづむ(約づむ)-つづまる「つづ星」
-つづめる
-つづる(綴づる)-つづろふ
-つぶ(粒ぶ)-つぶす(粒ぶす)-つぶさる-つぶされる(潰ぶす)「つぶ粒」
-つぶる(粒ぶる)-つぶらす-つぶらせる
-つぶれる
-つむ(粒む)=つづむ(約づむ)-つづまる
-つづめる
-つむる(瞑むる)-つむらす-つむらせる
す( )-すず(約ず)「すず鈴」(t-s相通形)
-すぶ(窄ぶ)-すぼむ(窄ぼむ)-すぼまる
-すぼめる
小さいことが集約されているタ行渡り語「ち/つ」である。もうひとつの「こ小*子」系統語との異同の解明が待たれる。
◇------------【つつつ】
◆----------(tk,tt,tn,tb,tm,tr,)
つ(爪)-つく(突く)=つつく(突つく)-つつかす-つつかせる「(餅を)搗く、つきめ舂女、きつつき啄木鳥」
-つつかる-つつかれる
-つかす(突かす)-つかせる
-つかる(突かる)-つかれる
-つく(捏く)-つくぬ(捏くぬ)-つくねる「つくね捏」
-つつ(嘰つ)-つつす(嘰つす)-つつしる(嘰る)-つつしろふ〔少しづつ食べる〕
-つぬ(抓ぬ)-つねる(抓ねる)-つねらる-つねられる「つの角」
-つぶ(粒ぶ)-つぶす(潰ぶす)-つぶさる-つぶされる
-つぶる(潰ぶる)-つぶれる
-つむる(瞑むる)-つむらす-つむらせる
-つむ(噛む)〔前歯で噛る〕
-つむ(抓む)-つまむ(抓まむ)-つまます-つまませる「つめ爪」
-つままる-つままれる
-つる(吊る)-つらる(吊らる)-つられる
コ接:こづく
ド接:どつく
コ接:こづ(抉づ)-こぢる
ネ接:ねづ(捩づ)-ねぢる-ねぢらる-ねぢられる
-ねぢれる
モ接:もづ(捩づ)-もぢふ
-もぢる(捫ぢる)
ヨ接:よづ(捩づ)-よぢる(捩ぢる)-よぢれる
「つ爪」をもとにする縁語群である。タ行渡り語「た/つ/て/と(手)」の中の「つ」との交錯がある。
◆----------(tk,tt,tm)
つ-つく(啄く)=つつく(つ啄く)「きつつき啄木鳥」
-つつ(嘰つ)-つつす(嘰つす)-つつしる(嘰る)-つつしろふ〔少しづつ食べる〕
-つむ(噛む)〔前歯で噛る〕
◆----------(tk,tg,tt)
つ( )-つく(漬く)-つかす(漬かす)「つけもの漬物」「みづく水漬、さかみづく」
-つける(漬ける)
-つぐ(注ぐ)
つ( )-つぐ(告ぐ)-つげる(告げる)-つげらる-つげられる
-つつ(伝つ)-つたふ(伝たふ)-つたはる「つて伝手」
-つたへる
「つぐ告-つげる」は「(水*酒を)つぐ」と同語と見ておく。
◆----------(tk)
つ( )-つく(吐く)-つかす(吐かす)-つかせる-つかせらる-つかせられる
-つかる(吐かる)-つかれる
-つける(吐ける)
「息をつく」の「つく」であるが、「嘘をつく」のもこれであろう。「一本つけるか」もこの「つける」か。
◆----------(tk)
つ( )-つく(調く)-つくぬ(調くぬ)-つくなふ/つぐなふ(償ふ)
-つくのふ
◆----------(tt)
-つつむ(恙つむ)-つつまふ
◆----------(th)
つは( )-つはく(凸はく)-つはくむ〔芽が出る〕
-つはる(凸はる)(~「つはり悪阻」)
◆----------(th,tb,sb)
つ( )-つふ
-つぶ(粒ぶ)-つぶす(粒ぶす)-つぶさす
-つぶさる-つぶされる
-つぶる(潰れる)-つぶれる
-つほ
-つぼ(壺ぼ)-つぼむ(壺ぼむ)-つぼます「つぼ壺」「つぼ坪」
-つぼまる
-つぼめる
-すぶ(窄ぶ)-すぼむ(窄ぼむ)-すぼます-すぼませる(t-s相通形)
-すぼまる
-すぼめる
◇------------【ててて】
◆----------(te,tr)
て( )-てる(照る)-てらす(照らす)-てらさふ「あまてらす天照、たかてらす高」《てかてか、てらてら》
-てらさる-てらされる
-てらふ(衒らふ)-てらはす
-てれる(照れる)
◇------------【ととと】
◆----------(tk;kd,hd)
と( )-とく(解く)-とかす(解かす)-とかさる-とかされる「ときあく、ときあらふ洗、ときかふ交」
-とかせる-とかせらる-とかせられる
-とかる(解かる)-とかれる
-とくる(解くる)
-とける(解ける)
-とく(説く)-とこふ(呪ふ/詛ふ)
ク接:くどく(口説く)-くどかる-くどかれる
ホ接:ほどく(ほ解く)-ほどかる/ほどける-ほどかれる
◆----------
と( )-とぐ(砥ぐ)-とがる(尖がる)-とがらす-とがらせる「とげ棘」
-とがむ(咎がむ)-とがめる-とがめらる-とがめられる「とが咎」
サ接:さとす(諭す)-さとさす-さとさせる「さとし(聡シ)」▲▲▲
-さとさる-さとされる
さとる(覚る)-さとらる-さとられる
◆----------(tg)
と( )-とぐ(伽ぐ)-とがす(伽がす)「よとぎ夜伽」
◆----------(tg)
と( )-とぐ(遂ぐ)-とげる(遂げる)
◆----------(td)
と( )-とづ(閉づ)-とだす(閉だす)((d-z)相通語「とざす閉」)
-とぢむ(閉ぢむ)
-とぢる(閉ぢる)-とぢらる-とぢられる(綴ぢる)
-とづる(閉づる)
◆----------(tb,tr)
と(鳥)-とぶ(飛ぶ)-とばす(飛ばす)-とばせる「とび/とんび鳶、とんぼ蜻蛉」
-とばる(飛ばる)
-とべる(飛べる)
-とる(飛る)「とり鳥」
一拍語「と」で「鳥」と「飛ぶ」を表わす原初の時代から、「と」が長語化して「とぶ飛」と「とる飛」に分化したが、意味の違いは不明である。その後飛翔を言う語は「とぶ」に限られ、「とる飛」の方はその名詞形「とり」が鳥の語形として「と鳥」とともに定着するも、動詞としての「とる飛」は何らかの理由で消滅した。鳥を巡ってはこのような物語が考えられる。
◆----------(th;mt,tm)
とほ(遠ほ)-とほす(通ほす)-とほさす-とほさせる「とほし遠シ」
-とほさる-とほされる
-とほる(通ほる)-とほらす-とほらせる
-とほらる-とほられる
-とほれる
モ接:もとほす廻
もとほる廻-もとほろふ「はひもとほる-はひもとほろふ」「いはひもとほるイ這廻」
タ接:たもとほるタ廻-たもとほろふ「はひたもとほる-はひたもとほろふ」
形容詞「とほし遠シ」がこの「とほす/とほる」の縁語とすると、「遠し」は本来”遠方”を意味せず、何らかの障害物を通り抜けた先にあるところ程度の遠さを意味することになる。
◇------------【ななな】
◆----------(nk,ns,nr)
な(泣)-なく(泣く)-なかす(泣かす)-なかせる-なかせらる-なかせられる(鳴く)「さなく鐸、ねなく」
-なかる(泣かる)-なかれる
-なける(泣ける)
-なす(鳴す)「うちなす打鳴、かきなす掻鳴、ふきなす吹鳴」
-なる(鳴る)-ならす(鳴らす)-ならせる
ぬ(鳴)-ぬる(鳴る)「ぬて/ぬりて鐸」
ね(鳴)- -ねつく(哭つく)-ねつかふ〔葬送にあたって号泣する〕「ね音」
の(告)-のる(告る)-のらす(告らす)「のり法*則、みのり御法、のりと祝詞;なのる名乗」
-のらふ(告らふ)
-のらる(告らる)
-のろふ(呪ろふ)-のろはる-のろはれる
◆----------(nk,ng,nm,nb,nm,ng,dk;&n,kn,sn,mn)
な(無)-なく(無く)-なくす(無くす)-なくさす-なくさせる「なし無シ」「なくなる」
-なくさる-なくされる
-なぐ(薙ぐ)「なぎなた薙刀」
-なぐ(流ぐ)-ながす(流がす)-ながさふ
-ながさる-ながされる「ながし長シ」
-ながむ(眺がむ)-ながめる(長む/詠む/眺む-長める/眺める)
-ながる(流がる)-ながらふ-ながらへる「(たたき)まながる」
-ながれる
-なぎる(流ぎる)(ミ接:みなぎる-みなぎらふ))
-なぐる(殴ぐる)-なぐらす-なぐらせる
-なぐらる-なぐられる
-なげく(嘆げく)-なげかす-なげかせる
-なげかふ
-なげかる-なげかれる
-なげる(投げる)-なげらる-なげられる
-なぶ(無ぶ)-なばる(匿ばる)「なばり隠*名張、よなばり吉隠」
-なむ(無む)-なまる(匿まる)
に( )-にぐ(逃ぐ)-にがす(逃がす)
-にげる(逃げる)-にげらる-にげられる
ぬ( )-ぬく(抜く)-ぬかす(抜かす)-ぬかさる-ぬかされる「ふみぬく踏抜、もぬけ蛻」
-ぬかせる-ぬかせらる
-ぬかる(抜かる)-ぬかれる
-ぬける(抜ける)「底が抜ける」
-ぬぐ(脱ぐ)-ぬがす(脱がす)-ぬがさす-ぬがさせる「ぬぎwuつ(脱棄)」
-ぬがさる-ぬがされる
-ぬがぬ(脱がぬ)-ぬがなふ
-ぬがる(脱がる)
-ぬぐふ(拭ぐふ)-ぬぐはす「てぬぐひ手巾」
-ぬぐはる-ぬぐはれる
-ぬげる(脱げる)
の( )-のく(退く)-のかす(退かす)-のかせる-のかせらる
-のかふ(退かふ)
-のける(退ける)-のけらる-のけられる
-のこす(残こす)-のこさす-のこさせる
-のこさる-のこされる
-のこる(残こる)
-のぐ(逃ぐ)-のがす(逃がす)
-のがぬ(逃がぬ)-のがなふ
-のがる(逃がる)-のがれる(のがなふ)
-のごふ(拭ごふ)-のごはす-のごはせる「かいのごひ掻拭、たのごひ手巾」
-のごはる-のごはれる
ど( )-どく(退く)-どかす(退かす)-どかせる(n-d相通形)
-どける(退ける)
イ接:いな(否)
いなぶ/いなむ
カ接:かなぐる(か+なぐる投)
シ接:しなぶ/しなむ
:しのぐ凌(し+のぐ逃)
マ接:まぬがる免(ま+ぬがる逃)-まぬがれる
まのがる免(ま+のがる逃)-まのがれる
ミ接:みなぎる-みなぎらふ
ム接:むなし(空/虚)「むなくに空国、むなこと空言、むなて/たむなて徒手」
「ない無」という状態をもとに、「なくす、なくなる」という行為や状況を和人は上記のナ行縁語群で把握していると見られる。目の前にあるものが消えて無くなるという趣である。
◆----------(ng,nm,nr,ns,nz)
な( )-なぐ(眺ぐ)-ながむ(眺がむ)-ながめる
に( )-にむ(睨む)
-にる(睨る)-にらむ(睨らむ)-にらまふ
-にらまる-にらまれる
ぬ( )-ぬす(盗す)-ぬすむ(盗すむ)-ぬすまふ「ぬすびと盗人」
-ぬすまる-ぬすまれる
ね( )-ねむ(睨む)-ねまる(睨まる)
-ねめる(睨める)
-ねる(睨る)-ねらふ(狙らふ)-ねらはる-ねらはれる「wuかねらふ窺狙」
の( )-のず(覗ず)-のぞく(覗ぞく)-のぞかす-のぞかせる
-のぞかる-のぞかれる
-のぞむ(望ぞむ)-のぞます
-のぞまる-のぞまれる
目で「見る」という動作であってもただ見るのではなく、さまざまな意図をもって見ることをナ行縁語群でもって言い分けている。場合によって自ずから見る姿勢も変わってくる。「こっそり見る」が「ぬすむ」の本意。和語にはもうひとつ「め目/みる見」系統のマ行縁語群がある。
◆----------(nk,ng,ns,nd,nm,ny,nr;&n)
な( )-なぐ(和ぐ)-なぐす(慰ぐす)-なぐさむ-なぐさめる「なぎ凪」「なごしnz和シ」
-なぐさもる
-なごす(慰ごす)
-なごむ(和ごむ)-なごます-なごませる
-なづ(撫づ)-なだす(宥だす)「うちなづ打宥、かきなづ掻宥、とりなづ取宥」
-なだむ(宥だむ)-なだまる
-なだめる-なだめらる
-なだる(穏だる)-なだらむ
-なづる(撫づる)
-なでる(撫でる)-なでらる-なでられる
-なづ(泥づ)-なづく(泥づく)
-なづす(泥づす)-なづさふ-なづさはる「おちなづさふ落泥」
-なづむ(泥づむ)「おりなづむ降泥、くれなづむ暮泥、こしなづむ腰泥」
-なゆ(軟ゆ)-なやす(軟やす)《なよなよ》
に( )-にき(柔和)-にきぶ(和きぶ)
-にきむ(和きむ)
-にぎ(熟ぎ)-にぎむ(熟きぶ)
-にこ(柔和)-にこぶ(和こぶ)《にこにこ》
-にこむ(和こむ)「にこむ」
-にゆ(煮ゆ)-にやす(煮やす)「にもの煮物、にこごり、にたき煮焚、にもの煮物;業を煮やす」
-にyeる(煮yeる)
-にる(煮る)-にらぐ(煮らぐ)
-にらる(煮らる)-にられる
ぬ( )-ぬく(温く)-ぬかる(温かる)-ぬかるむ
-ぬくむ(温くむ)-ぬくまる「ぬくし温シ」《ぬくぬく》
-ぬくめる
-ぬくもる
-ぬす(塗す)-ぬする(塗する)
-ぬめ(滑め)-ぬめる(滑める)
-ぬる(濡る)-ぬらす(濡らす)-ぬらせる「ぬるし温シ」「ぬで/ぬるで白膠木」《ぬるぬる》
-ぬるむ(温るむ)-ぬるまる
-ぬるめる
-ぬれる(濡れる)
-ぬる(塗る)-ぬらす(塗らす)-ぬらせる〔塗料を塗布する〕
-ぬらる(塗らる)-ぬられる
-ぬる(緩る)-ぬらす(緩らす)「ひきぬる引緩」〔きれいに結った髪がゆるむ〕
-ぬるむ(緩るむ)-むるまる
-ぬるめる
う( )-うる(潤る)-うるふ(潤るふ)-うるほす「うるはし潤はシ/麗シ」「うるし/ぬるし漆」《うるうる》
-うるほふ
-うるむ(潤るむ)-うるます-うるませる
-うれふ(憂れふ)-うれへる
ね( )-ねぐ(労ぐ)-ねがふ(願がふ)「ねぎ禰宜」「こひねがふ乞願」
-ねぎる(労ぎる)-ねぎらふ
-のど(長閑)-のどむ(長閑む)-のどまる「のどか長閑、のどし」
-のどゆ(長閑ゆ)-のどよふ
ア接:「あなづ侮(あ+なづ撫)-あなづる/あなどる」
気分や気温、温度、堅さ、乾燥度などなどについて、それらが高低どちらの側にも偏っていない、中間である、中庸であるということを上記のナ行語で表現している。穏やかなナ行縁語群である。
◆----------(ng,ks)
-なぐさ(慰ぐさ)-なぐさむ-なぐさめる-なぐさめらる-なぐさめられる
-なぐさもる
◆----------(na,ns,nr)
な( )-なす(生す/成す/為す/済す)
-なる(生る/成る/為る/済る)
◆----------(na,ne,nk,ns,nb,nm,nr;&n,sn)
な(寝)-なす(寝す)-なさす(寝さす)「な寝」
-なむ(寝む)
ぬ(寝)-ぬる(寝る)「ぬ寝」「いぬイ寝、さぬサ寝、よりぬ寄宿、ゐぬ居寝*率寝」
ね(寝)-ねく(寝く)-ねかす(寝かす)「ね寝、さね/さねど/さねどこ」」
-ねす(寝す)-ねさす(寝さす)-ねさせる
-ねぶ(寝ぶ)-ねぶる(寝ぶる)-ねぶらす-ねぶらせる
-ねむ(寝む)-ねむる(寝むる)-ねむらす-ねむらせる
-ねむれる
-ねる(寝る)-ねらる(寝らる)-ねられる
イ接語「いぬ(い+ぬ寝)〔いをぬ寝寝、うまい熟寝〕
サ接語「さぬ(さ+ぬ寝)-さなす
シ接語「しぬ(し+ぬ寝)-しなす(し+なす)」
〔シ接語「しぬ寝」が本来形で、時代を経てイ接語「いぬ寝」に移行したと考えられる。(s-&)相通現象である〕
後の時代にイ接語「いぬ寝」の「い」が一人歩きして「い(寝)」が成立した。
◆----------(ns,nz,nr;mn,)
な(似)-なす(擬す)-なする(擬する)
-なそふ(擬そふ)
-なず(準ず)-なずふ(擬ずふ)
-なずる(擬ずる)-なずらふ-なずらへる「おもひなずらふ」
-なぞふ(準ぞふ)-なぞはす
-なぞる(擬ぞる)-なぞらす-なぞらせる
-なぞらふ-なぞらへる
-なぞらる-なぞられる
-なる(慣る)-ならす(慣らす)-ならせる-ならせらる-ならせられる
-ならふ(習らふ)-ならはす-ならはせる
-なれる(慣れる)
に(似)-にす(似す)-にさす(似さす)「にせ(似せ/偽)、まねびにす学似」
-にせる(似せる)
-にる(似る)
ぬ(似)
の(似)-のる(似る)
マ接:まぬ(真似)-まなぶ(学なぶ)-まなばす-まなばせる「まぬ真似(ま+ぬ似)」
-まねぶ(学ねぶ)
-まねる(真似る)-まねらる-まねられる「まね(真似)」
和語の高度な体系性を示す好例である。
◆----------(nh)
な( )-なふ(綯ふ)「なは(縄)をなふ(綯ふ)」
ぬ( )-ぬふ(縫ふ)-ぬはす(縫はす)-ぬはせる「かさぬひ笠縫、たてぬひ盾縫」
-ぬはる(縫はる)-ぬはれる
◆----------(nh,nb,ny;sn)
な( )-なふ(萎ふ)-なへく(萎へく)「あしなへ足萎*蹇、てなへ手萎*攣」
-なへぐ(萎へぐ)
-なへる(萎へる)
-なぶ(萎ぶ)
-なゆ(萎ゆ)-なやす(萎やす)
-なyeぐ(萎yeぐ)
-なyeる(萎yeる)
-なゆむ(萎ゆむ)「あなゆむ足萎」
-なよぶ(萎よぶ)「なよびすぐす萎過、なよびゆく萎行」
ね( )-ねぶ(陳ぶ)-ねびる(陳びる)
-ねゆ(萎ゆ)-ねやす(萎やす)
シ接:しなふ萎
しなぶ萎-しなびる-しなびれる《しなしな》
しなゆ萎(おもひしなゆ思萎)
◆----------(nk,ns,nb,nm,nr;sn,tn,nn)
な( )-なぶ(並ぶ)-なびく(靡びく)-なびかす-なびかせる「おしなぶ押靡、かが並べて、たなびく」
-なびかふ
-なべる(並べる)
-なむ(並む)「なみ(波/並)、なと/なみと波音、なをり波折、つらなむ列並」
-なる(並る)-ならぶ(並らぶ)-ならばす-ならばせる「あひならぶ、ふたならぶ、ゆきならぶ」
-ならばる-ならばれる
-ならべる「ならびゐる、ならびをる」
ぬ( )-ぬく(仰く)「あふぬく仰伸」
の( )-のく(仰く)-のかす(仰かす)「あふのく仰伸、のけぞる仰反」
-のす(伸す)-のさす(伸さす)-のさせる「のさばる」「のし熨斗、のしもち伸餅」
-のせる(伸せる)-のせらる-のせられる
-のぶ(伸ぶ)-のばす(伸ばす)-のばさす-のばさせる「のびのび~のんびり」
-のばさる-のばされる
-のばせる
-のばふ(伸ばふ)
-のびる(伸びる)
-のべる(述べる)
-のぼす(伸ぼす)-のぼせる(上せる)
-のぼる(伸ぼる)-のぼらす-のぼらせる(登る)
-のむ(伸む)-のめす(伸めす)「たたきのめす」
-のめる(伸める)「つんのめる、のめりこむ伸込、まへのめり前伸」
-のる(乗る)-のらす(乗らす)-のらせる
-のらる(乗らる)-のられる
シ接:しのぶ忍(し+のぶ伸)-しのばす-しのばせる
-しのばる-しのばれる
-しのぶる-しのぶらふ
タ接:たなびく(「ト接:とのびく」は「たなびく」の異形と見る)
たのす伸(た+のす伸)-「たのし(楽シ)」
たのむ恃(た+のむ伸)-「たのもし(恃もシ/頼もシ)」
チ接:ちなむ因(ち+なむ並)
ツ接:つのる募(つ+のる伸)
ト接:となる隣(と+なる並)
ナ接:ななむ斜(な+なむ並)
ノ接:ののす伸(の+のす伸:ののす-ののしる-ののしらる)
水平や上下にものや体を延伸することを言う語群である。ひとつ「のる乗」に引っかかるが、この時代、水辺でなければ「乗る」ものは肩車くらいしかない。「のる」とは「のす、のぶ」などと同じで、体を伸ばす動作のひとつを言っていたであろう。
◆----------(nh)
な( )-なほ(直ほ)-なほす(直ほす)-なほさる-なほされる
-なほぶ(直ほぶ)「なほび直毘/おほなほびうた〔直会の宴に歌われる歌〕」
-なほる(直ほる)-なほらふ「なほらひ直会」
◆----------(nm,nb)
な( )-なま(鈍ま)-なまく(怠まく)-なまける
-なます(鈍ます)「やきなます焼鈍」(類「にらぐ」)
-なまる(鈍まる)
に( )-にぶ(鈍ぶ)-にばむ(鈍ばむ)「にぶし鈍シ」
-にぶむ(鈍ぶむ)
-にぶる(鈍ぶる)-にぶらす-にぶらせる
◆----------(nm,nk,ng,nr;&n,kn,tn,mn)
な( )-なむ(祈む)
ね( )-ねく(祈く)
-ねぐ(祈ぐ)-ねがふ(願がふ)「ねぎ禰宜」
-ねぎる(労ぎる)-ねぎらふ
の( )-のむ(祈む)「こひのむ乞祈、はらへのむ祓祈」
-のる(告る)-のらす(告らす)「のり法/則、みのり御法、のりと祝詞;なのる名乗」
-のらる(告らる)
-のろふ(呪ろふ)-のろはる-のろはれる
イ接:いのる祈(い+のる告)-いのらす-いのらせる
コ接:このむ好(こ+のむ祈)-このまる-このまれる
タ接:たのむ頼(た+のむ祈)-たのまる-たのまれる「たのもし頼もシ(憑む/恃む)」
ツ接:つのる募(つ+のる告)
マ接:まねく招(ま+ねく祈)-まねかる-まねかれる
まねぐ招
◆----------(nm,nb,tb,tm)
な( )-なむ(舐む)-なめす(鞣めす)「かはなめし皮鞣」「なめづる」
-なめる(嘗める)-なめらる-なめられる
-なぶ(舐ぶ)-なぶる(嬲ぶる)
た( )-たぶ(食ぶ)-たばす(食ばす/賜ばす)
-たばふ(食ばふ/賜ばふ)-たばはす
-たばる(食ばる/賜ばる)
-たぶる(食ぶる)
-たべす(食べす)-たべさす-たべさせる
-たべる(食べる)-たべらる-たべられる
-たむ(食む)-たまふ(賜まふ)-たまはす
-たまはる
-たまる(賜まる)
-たもふ(賜もふ)
-たもる(賜もる)
ね( )-ねぶ(舐ぶ)-ねぶる(嘗ぶる)
の( )-のむ(飲む)-のます(飲ます)-のませる-のませらる-のませられる「のど喉」
-のまる(飲まる)-のまれる
ノ接:のたぶ宣(の+たぶ/たむ賜)-のたまふ
「なめる」と「たべる」は同語であった。それに加えて「ねぶる」と「のむ」も(nm)縁語であったとは。
◆----------(nr)
な( )-なる(狎る)-なれる(狎れる)
◆----------(nr)
な( )-なる(平る)-ならす(平らす)-ならせる「ならやま平城山、ふみならす踏均*踏平」
◇------------【ににに】
◆----------(ng)
に( )-にが(苦が)-にがむ(苦がむ)「にがし(苦シ)、にがにがし」
-にがる(苦がる)「にがり苦汁」
-にご(濁ご)-にごす(濁ごす)-にごさる-にごされる
-にごる(濁ごる)-にごらす-にごらせる
◆----------(ni,nk)
に( )-にく(憎く)-にくむ(憎くむ)-にくます-にくませる「にくし/にくにくし(憎シ)」
-にくまる-にくまれる
◆----------(ni,nh)
に(丹)-にふ(丹ふ)-にほす(丹ほす)
-にほふ(丹ほふ)-にほはす-にほはせる「にほひ匂」
-にほゆ(丹ほゆ)「にほyeをとめ」
◆----------(ni,ny)
に( )-によ( )-によぶ(呻吟ぶ)
◇------------【ぬぬぬ】
◆----------(nu,ne;kn,sn,tn.hn)
ぬ(練)
ね(練)-ねる(練る)
コ接:こぬ-こねる
ス接:すぬ-すねる
ツ接:つぬ-つねる
ヒ接:ひぬ-ひねる
◆----------(nu,ne,nt,nm,sn)
ぬ(妬)
ね(妬)-ねつ( )-ねたむ(妬たむ)「ねたし、ねたまし」
ソ接:そねむ(嫉ねむ)
ここで「ねたむ」であるが、これを「ねた+む」と見ると、「ねつ」に直接該当する語はないが、「ね」は「ねぐ、ねぶ、ねむ睨」など心の強い動きを表す音であり、近隣の「につ詰-にちる」は”なじる、詰問する”意であり、嫉妬する意の二拍動詞「ねつ」の存在を想定しても無理はない。それをもとに「そねむ」をソ接語「そ+ねむ」と見て「ねむ」を「ねつ」と類似の「ね-ねむ」語と見ることもできる。結局「そねむ」と「ねたむ」は「ね」を介してつながるのではないかと考えられるのであるが。
◆----------(nu,ne,nd,ny,nr;kn,gn,sn,tn,hn,wn)
ぬ(練)
ね(練)-ねづ(捻づ)-ねぢく(捻ぢく)-ねぢける
-ねぢる(捻ぢる)
-ねゆ(黏ゆ)-ねやく(黏やく)-ねやかる
-ねやす(黏やす)「ねやしきぬ黏絹」
-ねゆる(黏ゆる)
-ねる(練る)-ねらす(練らす)「くすね薬練」
-ねらる(練らる)-ねられる
-ねれる(練れる)
ク接:くぬ-くねる(転ねる)
コ接:こぬ-こなす(熟なす)
-こなる(熟なる)-こなれる
-こねる(捏ねる)
ゴ接:ごぬ-ごねる(捏ねる)-ごねらる-ごねられる
ス接:すぬ-すねぶ(拗ねぶ)
-すねる(拗ねる)
ツ接:つぬ-つねる(抓ねる)-つねらる-つねられる
ヒ接:ひぬ-ひねる(捻ねる)-ひねらる-ひねられる
wu接:wuぬ-wuねる(畝ねる)
◇------------【ねねね】
◇------------【ののの】
◆----------(no,ns,nb,nr)
の( )-のす(述す)=ののす(述のす)-ののしる(罵る)
-のぶ(述ぶ)-のぶる(述ぶる)
-のべる(述べる)
-のる(宣る)「のりごつ/のりごと宣言、のと/のりと祝詞」
◆----------(no,ns,nb,nr)
の( )-のす(伸す)-のせる(乗せる)
-のぶ(伸ぶ)-のびる(伸びる)
-のばす(伸ばす)
-のぼす(伸ぼす)-のぼせる
-のぼる(登ぼる)「ひきのぼる引登」
-のる(乗る)-のらす(乗らす)-のらせる
◇------------【ははは】
(ハ行「分離・排斥・解放」動詞群)
◆--(ha,hk,hg,hz,ht,hd,hn,hh,hb,hy,hr,hw)
は( )-はく(掃く)=ははく(掃はく)「はけ掃*刷毛、ははき(ほうき)箒」
-はかす(捌かす)-はかせる「かりばか刈捌」
-はかゆ(捌かゆ)
-はかる(掃かる)-はからす-はからせる
-はからふ
-はからる-はかられる
-はかれる
-はける(捌ける)
-はこぶ(運こぶ)-はこばす-はこばせる
-はこばる-はこばれる
-はく(吐く)-はかす(吐かす)-はかせる
-はぐ(剥ぐ)-はがす(剥がす)-はがさる-はがされる
-はがつ(剥がつ)-はがたる-はがたれる「ひはがち樋剥*廃渠槽」
-はがる(剥がる)-はがれる
-はぐる(逸ぐる)-はぐらす(「はぐらかす」の形も)
-はぐれる
-はげる(剥げる)「はげ禿」
は( )-はず(爆ず)-はじく(弾じく)-はじかる-はじかれる〔"はぢく外"とは別語〕
-はじける
-はじむ(始じむ)-はじまる
-はじめる
-はずむ(弾ずむ)-はずます-はずませる
-はぜる(爆ぜる)
-はつ(果つ)-はたす(果たす)-はたさす-はたさせる
-はたさる-はたされる
-はたせる
-はたつ(果たつ)
-はつる(果つる)
-はてる(果てる)
-はつ(剥つ)-はつる(剥つる)
-はづ(開づ)-はだく(開だる)-はだかる 「はだ露、はだか裸、はだし裸足、はだら/はだれ」
-はだくる
-はだける
-はだつ(開だつ)
-はぢく(外ぢく)-はぢかる-はぢかれる〔"はじく弾"とは別語〕
-はづす(外づす)-はづさる-はづされる
-はづる(外づる)-はづれる
-はづ(恥づ)-はぢす(恥ぢす)-はぢしむ「はぢ恥/辱」〔「はだか」との縁語〕
-はぢしる-はぢしらふ
-はぢむ(恥ぢむ)
-はぢる(恥ぢる)-はぢらふ
-はづる(恥づる)
-はぬ(放ぬ)-はなす(放なす)-はなさる-はなされる
-はなつ(放なつ)-はなたる-はなたれる「ひはなち樋放」
-はなる(離なる)-はなれる「くもはなる雲離」
-はぬ(撥ぬ)-はねる(撥ねる)-はねらる-はねられる(跳ぬ、撥ぬ、刎ぬ)
-はふ(放ふ)-はふる(放ふる/屠ふる)
-はぶ(葬ぶ)=ははぶ(葬ぶる)-ははぶる「ははぶる(ほうぶる/ほうむる葬)」
-はぶる(葬ぶる)
-はぶ(放ぶ)=はばく(蔓延く)-はばかる「世にはばかる」
-はびこる「野にはびこる」
-はむ(放む)=ははむ(放はむ)-ははむる「ははむる(ほうむる葬)」
-はむる(葬むる)
-はゆ(蝕ゆ)-はyeる(蝕yeる)「はye蝕(日蝕や月蝕の「蝕」)、はyeつく(皆既日蝕)」
-はる(晴る)-はらす(晴らす)-はらさる-はらされる「はら原、はら腹、にひばり新墾、はるた墾田」
-はらせる
-はらふ(払らふ)-はらはる-はらはれる「はらへ祓、かむはらひはらふ」
-はらる(散らる)-はららく-はららかす「くゑはららかす」
-はるく(遥るく)-はるかす「みはるかす見遥」
-はれる(晴れる)
-はる(払る)-はらふ(払らふ)-はらはる-はらはれる「おはらひ祓」
-はる(墾る)「にひばり新墾」
-はwu(壊wu)「はゑ(破壊)」〔やぶりこわす〕
ア接:あはく(ア吐く)
ア接:あばく暴(あ+はく掃/はぐ剥)
サ接:さばく捌(さ+はく掃)
◆--(hi,hk,hs,hn,hm,hr,hw)
ひ(離)-ひく(引く)-ひかす(引かす)-ひかさる「ひきし/ひくし低シ、ひきやま低山」
-ひかせる
-ひかふ(引かふ)-ひかへる(控かへる)
-ひかゆ(引かゆ)-ひかyeる(控かyeる)
-ひかる(引かる)-ひかれる(惹かれる)
-ひける(引ける)
-ひす(秘す)-ひすむ(潜すむ)
-ひそむ(潜そむ)-ひそます-ひそませる「ひそひそ-ひっそり」「ひさめく(私語)」
-ひそまる
-ひそめる
-ひぬ(鄙ぬ)-ひなぶ(鄙なぶ)「ひな鄙、ひなさかる鄙放」「ひね陳、ひねひねし」
-ひねる(陳ねる)
-ひむ(秘む)-ひめる(秘める)-ひめらる-ひめられる
-ひら(平ら)-ひらく(開らく)-ひらかす-ひらかせる「おしひらく押開、ひきひらく引開」
-ひらかる-ひらかれる
-ひらける
-ひる(放る)〔屁を放る〕
-ひる(嚏る)〔くしゃみをする〕
-ひる(簸る)〔篩を振る〕
-ひろ(広ろ)-ひろぐ(広ろぐ)-ひろがる「ひろし広シ」
-ひろげる-ひろげらる-ひろげられる
-ひろごる
-ひろむ(広ろむ)-ひろまる「つぎひろむ、ひろめのぶ」
-ひろめる-ひろめらる-ひろめられる
-ひろる(広ろる)
-ひwu(聶wu)「ひゑ刀、あをひゑ青竹刀」
◆--(hu,hk,hr;&h,hb)
ふ( )-ふく(吹く)=ふぶく(吹雪く)
-ふかす(吹かす)-ふかせる
-ふかる(吹かる)-ふかれる
-ふく(深く)-ふかす(深かす)「深す・更す・耽す、夜更かし」
-ふかむ(深かむ)-ふかまる
-ふかめる
-ふける(深ける)「更ける・耽ける・老ける」
-ふく(拭く)-ふかす(拭かす)-ふかせる
-ふつ(吹つ)
-ふる(吹る)
-ふる(古る)-ふるす(古るす)(経る)
-ふるぶ(古るぶ)-ふるびる
-ふるむ(古るむ)
ア接:あふく(扇ふく)
あふぐ(扇ふぐ)-あふがす
-あふがる
あふつ(煽ふつ)
あふる(煽ふる)-あふらる-あふられる(煽る/呷る)
イ接:いふく(息吹)「いふき/いぶき」
ハ接:はぶく省(は+ふく拭)
◆--(he,hk,hg,hs,hz,ht,hn,hr;&h)
へ( )-へく(凹く)-へこむ(凹こむ)-へこます-へこませる(「へ凹+こむ」か)
-へぐ(剥ぐ)-へがす(剥がす)〔薄く削りとる、そぐ〕
-へがる(剥がる)
-へす(減す)
-へず(減ず)-へずる
-へつ(削つ)-へつる(削つる)
-へづ(隔づ)-へだす(隔だす)「へだし隔」
-へだつ(隔だつ)-へだたす
-へだたる
-へだてる-へだてらる-へだてられる
-へぬ(隔ぬ)-へなつ(隔なつ)-へなたる(d-n相通形)
-へなる(隔なる)「きへなる来隔」(d-n相通形)
-へる(減る)-へらす(減らす)-へらさす-へらさせる
-へらさる-へらされる
-へる(経る)〔距離・時間〕
-へる(謙る)「へりくだる謙遜」
ア接:あへく(喘く)
ア接:あへぐ(喘ぐ)
◆--(ho,hk,hg,hz,ht,hd,hh,hr)
ほ( )-ほく(誇く)-ほこる(誇こる)-ほころふ
-ほころぶ-ほころびる
-ほく(放く)-ほかす(放かす)
-ほぐ(解ぐ)-ほぐす(解ぐす)-ほぐさる-ほぐされる「ほぐかみ反故紙」
-ほぐる(解ぐる)-ほぐらす
-ほぐれる
-ほごす(解ごす)「ほご反故、ほごかみ反故紙」
-ほず(穿ず)-ほじる(「ほじくる」の形も)
-ほぜる
-ほつ(解つ)-ほつく(解つく)
-ほつす(解つす)
-ほつる(解つる)-ほつれる
-ほとぶ(解とぶ)-ほとばす「ほとばしる/ほどはしる(迸る)」
-ほとびる
-ほとぼす(「ほとばかす」の形も)
-ほづ(解づ)-ほだす(解だす)-ほださる-ほだされる「ほどはしる/ほとばしる迸」
-ほだつ(解だつ)-ほだてる
-ほどく(解どく)-ほどかす-ほどかせる「ほどろ」
-ほどかる-ほどかれる
-ほどける
-ほどこす-ほどこさる(施す)〔広く思んぱかる〕
-ほどこる
-ほふ(放ふ)-ほふる(屠ふる)
-ほる(放る)
-ほる(掘る)-ほらす(掘らす)-ほらせる
-ほらる(掘らる)-ほられる
和語ではハ行音は非常に特徴的で、物と物、事と事が距離を取る、離れるという事態、或いは情況を言う。そのような事態をハ行渡り語「は/ひ/ふ/へ/ほ(開)」で表している。
◆----------(hk)
は( )-はか( )-はかる(計かる)(計る、測る、量る)「かり"ばか”刈、"はか"がゆく」
◆----------(hk)
は( )-はく(佩く)-はかす(佩かす)(穿く/履く)「みはかし御佩」
-はぐ(矧ぐ)「やはぎ矢矧」〔接合する、特に矢柄に矢羽や矢尻をとりつける〕
-はむ(嵌む)=はばむ(阻ばむ)-はばまる-はばまれる
-はまる(嵌まる)
-はめる(嵌める)-はめらる-はめられる
-はる(貼る)-はらる(貼らる)-はられる
上記の引きはがすハ行動詞群とは反対の、接合するハ行動詞群である。
◆----------(bk)
ばく(化く)-ばかす(化かす)-ばかさる-ばかされる「おばけ、ばけもの化物」
-ばける(化ける)
◆----------(hg)
は( )-はぐ( )-はげむ(励げむ)-はげます-はげまさる-はげまされる
◆----------(hs,ws;sb)
は( )-はす(馳す)-はさす(走さす)-はささく「はしこし捷シ」
-はしる(走しる)-はしらす-はしらせる「はしりで/わしりで」
-はする(走する)
-はせる(走せる)(馳す-馳せる)
わ( )-わす(走す)-わしす(走しる)
-わしる(走しる)「わしりで」(「はしる」の近世的異形という)
サ接:さばしる
タ接:たばしる
◆----------(ht)
は( )-はつ( )-はたる(徴たる)-はたらく(働く)-はたらかす-はたらかせる〔徴収する〕
◆----------(ht)
は( )-はつ(泊つ)-はてる(泊てる)「あけはつ明泊、おyiはつ老泊、こぎはつ漕泊」
◆----------(hh,hy,hr)
は( )-はふ(生ふ)-ははす(延はす)-ははせる「かたちはふ;はふくず葛、はふつた蔦、はふむし這虫」
-はゆ(生ゆ)-はやす(生やす)-はやさす-はやさせる(映ゆ)「はやし林」「はし、はやし早/速シ」
-はやさる-はやされる
-はやる(逸やる)(流行る)
-はゆる(生ゆる)
-はyeる(生yeる)(栄える、映える)
-はる(生る)「はる春」
ふ( )-ふく(生く)-ふかす(生かす)-ふかせる〔「ふ生」は”芽ぶく”の意。”(風が)吹く”は別〕
-ふゆ(殖ゆ)-ふやす(殖やす)-ふやさす-ふやさせる
-ふやさる-ふやされる
-ふやせる
-ふyeる(殖yeる)
ほ( )-ほふ(生ふ)「うるほふ、にほふ匂」
オ接:おふ(生ふ)-おはる(生はる)「おひしく生及、おひたつ生立、おひつぐ生継」
-おふる(生ふる)
-おへる(生へる)
-おほす(生ほす)
おゆ(生ゆ)-おやす(生やす)(「おふ」の異形か。「おやかす」の形も)
-おyeる(生yeる)
キ接:きほふ(「きそふ」は異形か)
イ接:いきほふ~いきほひ勢
ここでは「おふ」と「おゆ」について、これらを「ふ」のオ接語として扱った。しかし、「おく起-おきる」の「お」語と見ることもできる。それについては当該箇所を参照乞う。
◆----------(hh)
は( )-はむ(這ふ)-ははす-ははせる「ちはふ霊這、たまちはふ玉霊這」
◆----------(ha,hm)
は(歯)-はむ(歯む)「かりはむ刈、もりはむ」「かむ噛」?
◆----------(hm)●
は( )-はむ(嵌む)=はばむ(阻ばむ)「はめ/はめいた羽目板」
-はまる(嵌まる)
-はめる(嵌める)
コ接:こばむ(拒む)-こばまる-こばまれる
ハ接:はばむ(阻む)-はばまる-はばまれる
◆----------(hy)
はや(早 )-はやぶ(早やぶ)「はやし(早シ)」
-はやむ(早やむ)-はやまる
-はやめる
-はやる(逸やる)
◆----------(hy,&h)
は( )-はゆ(吠ゆ)
ほ( )-ほゆ(吠ゆ)-ほやす(吠やす)
-ほゆる(吠ゆる)
-ほyeる(吠yeる)-ほyeらる-ほyeられる「ゐぬほye犬吠、とほぼye遠吠」
イ接:いはゆ/いばゆ「い+はゆ吠」(嘶ゆ)
◆----------(hr)
は( )-はる(墾る)-「はりた墾田、はりみち墾道」
◆----------(hr)
は( )-はる(張る)-はれる(腫れる)
◆----------(hr)
は( )-はる(晴る)-はれる(晴れる)
◆----------(hr)
は( )-はる(撲る)-はらる(撲らる)-はられる「はりたふす撲倒」
◇------------【ひひひ】
◆----------(hk)
ひ( )-ひく(弾く)=ひびく(響びく)-ひびかす-ひびかせる「ことひき琴弾、かきひく掻弾」
-ひかす(弾かす)-ひかせる
-ひける(弾ける)
◆----------(hk,hs,hd)
ひ( )-ひく(碾く)-ひかす(碾かす)-ひかせる
-ひかる(碾かる)-ひかれる
-ひす(拉す)-ひさぐ(拉さぐ)-ひさげる(ひしゃぐ-ひしゃげる)
-ひしぐ(拉しぐ)-ひしがる-ひしがれる
-ひづ(拉づ)-ひだく(拉だく)「とりひだく」
◆----------(hi,hk,hr)
ひ(疼)-ひく(疼く)=ひひく(疼ひく)〔ひりひり、ひりひりする(記神武)〕
-ひる(疼る)=ひひる(疼ひる)-ひひらく〔ひりひり痛む〕
-ひひろぐ
三拍動詞「ひひく(疼く)」は、ただ一度古事記(中)の歌謡に「みつみつし久米の子らが垣下に植ゑし椒(はじかみ)口比比久(ひひく)我は忘れじ撃ちてし止まむ」と登場する語で、意味するところは”ひりつく、ひりひりする、ひりひり痛む”とされている。生山椒を口に入れて噛んだときの感覚を言うようである。
もうひとつの「ひひる(疼る)」は、時代は下って17/18世紀の浄瑠璃に出てくるもので、こちらは”ひいひいと泣く。悲痛な声をあげて泣く”と注釈されている。
この「ひひく」と「ひひる」であるが、語形はともに頭積動詞であり語意がよく似て、無関係ではあり得ない。これを整理すると上図のようになるであろう。ここに一拍語「ひ」が浮かび上がるが、これは今日でも咄嗟の苦痛や驚いたときなどに「ひーっ」と声をあげるが、その「ひ」であるであろう。
◆----------(hs)
ひ( )-ひす( )-ひさく(拉さく)
-ひしぐ(拉しぐ)「めひしぐ」
-ひだく(挫だく)〔類語と見られるも不詳〕
◆----------(ht,hd)
ひ( )-ひつ(漬つ)-ひたす(漬たす)-ひたさる-ひたされる(浸す)《ひたひた》
-ひたる(漬たる)
-ひてる(漬てる)
-ひづ(漬づ)-ひづつ(漬づつ)(万3969他)
-ひづる(漬づる)
水に漬ける意の「つ-つく漬」のヒ接語とも考えられる。
◆----------(hd)
ひ( )-ひづ(秀づ)=ひひづ(秀ひづ)-ひひでる
◆----------(hd)
(ひづ-)ひづむ(歪づむ)-ひづます(歪ます)-ひづませる「ひづみ歪」
-ひづめる(歪める)
◆----------(hn,hk,hr)
ひ( )-ひぬ(陳ぬ)-ひなぶ(鄙なぶ)「ひな鄙」
-ひねる(陳ねる)「ひねかぼちゃ」
ふ( )-ふく(更く)-ふかす(更かす)(深く/古く)「きふ(来経)」万830
-ふかむ(深かむ)-ふかまる
-ふかめる
-ふける(更ける)(老ける、耽ける〔沈潜する〕)
-ふる(古る)-ふるす(古るす)「ふるさと古里、ふるひと古人」
-ふるぶ(古るぶ)-ふるびる
へ( )―へる(経る)
ほ( )-ほる(掘る)-ほらす(掘らす)-ほわせる
◆----------(hy)
ひ( )-ひゆ(冷ゆ)-ひやす(冷やす)-ひやさる-ひやされる
-ひyeる(冷yeる)
ふ( )-ふゆ(冬ゆ)
「ふゆ冬」について、ほとんどすべての語源説は「ひゆ冷」との関連を指摘している。(hy)縁語の観点からも異論はない。
◆----------(hr)
ひら( )- -ひらめく〔ひらひら〕
ひろ( )- -ひろめく(稲光が光る)(虺く)
◆----------(hr)
(ひ-ひる-)ひらふ(拾らふ)-ひらはる-ひらはれる「ひらひまつぶ拾集」
ひりふ(拾りふ)「沖つ白玉ひりひて」「たまひりふ(枕)」
ひろふ(拾ろふ)-ひろはす-ひろはせる
-ひろはる-ひろはれる
◆----------(hi,hu,ho,hr,hs,ht,hm)
ひ(火)-ひる(干る)
ふ(火)
ほ(火)-ほす(干す)-ほさす(干さす)-ほさせる
-ほさる(干さる)-ほされる
-ほせる
-ほつ(火つ)-ほてる(火てる)「おもほてる面熱」
-ほとぶ(火とぶ)-ほとぼる(~ほとぼり)
-ほむ(火む)-ほめく
-ほる(火る)-ほろぶ(滅ろぶ)-ほろびる
-ほろぼす-ほろぼさる-ほろぼされる
サ接:さぼす干
◆----------(hi,hu,hr,hk,hy)
ひ(簸)-ひる(簸る)「ひ簸」
-ひる(冲る)=ひひる(冲ひる/飄ひる)「ひひる蛾」
ふ(振)-ふく(振く)「はふく羽振」
-ふゆ(振ゆ)「みたまのふゆ恩頼」
-ふる(振る)-ふらす(振らす)-ふらせる「なゐふる地震、はるふ羽振」
-ふらる(振らる)-ふられる
-ふるふ(震るふ)-ふるはす-ふるはせる「ふるひ篩」
-ふるへる
-ふれる(振れる)
◇------------【ふふふ】
◆----------(hk,hr,hs,hd)
ふ( )-ふく(深く)-ふかす(深かす)(更く・老く・耽く-更かす)
-ふかむ(深かむ)-ふかまる
-ふかめる
-ふける(更ける・老ける・耽ける・貪ける)
-ふる(古る)-ふるぶ(古るぶ)-ふるびる
へ(凹)-へす(減す)
-へづ(減づ)-へづる(減づる)
-へる(減る)-へらす(減らす)-へらさる-へらされる
-へる(謙る)「へりくだる謙遜」
ほ(深)-ほる(掘る)
「へこむ(凹こむ)」は「へ凹+こむ籠」か。
◆----------(hk,hs,hm,hr)
ふ( )-ふく(伏く)-ふくす(伏くす)-ふくする
-ふす(伏す)-ふさす(伏さす)-ふさせる
-ふせる(伏せる)
-ふむ(踏む)-ふます(踏ます)-ふませる「ふみあだす、ふみおこす、ふみからす」
-ふまる(踏まる)-ふまれる
-ふる(降る)-ふらす(降らす)-ふらせる
-ふらる(降らる)-ふられる
ほ( )-ほむ(践む)「ほむし践石/蹈石」
◆----------(hk)
ふ( )-ふく(葺く)〔屋根を葺く〕
◆----------(hk)
ふ( )-ふく( )-ふくる(膨くる)-ふくらす-ふくらせる
-ふくれる
ほ( )-ほく(誇く)-ほこる(誇こる)-ほころふ
-ほころぶ
◆----------(hs)
(ふす-)ふさふ(相応ふ)「ふさはし相応シ、これは布佐波ず(記上)」
◆----------(hs)
-ふしこる〔怒る〕(類「ふつくむ」)
◆----------(ht,hs)
ふた(蓋た)-ふたぐ(蓋たぐ)-ふたがる
ふさ( )-ふさぐ(塞さぐ)-ふさがる(t-s相通形)
ふせ( )-ふせぐ(防せぐ)
-ほせく(防せく)
◆----------(ht)
ふつく( )-ふつくむ(憤/恚/怒)〔怒る〕(類「ふしこる」)
◆----------(ht)
ふと(太と)-ふてる(太てる)「ふとし(太シ)、ふてぶてし」
-ふとぶ(太とぶ)
-ふとむ(太とむ)
-ふとる(太とる)-ふとらす-ふとらせる
タ接:「たふとぶ尊(た+ふとぶ太)」「たふとし尊(た+ふと太)」
マ接:「まふとむマ太(ま+ふとむ太)」
◆----------(hk,hh)
-ふくむ-ふくまる-ふくまれる
-ふふむ-ふふまる/ふふめる
-ほほむ-ほほまる〔蕾がふくらむ〕「ふほこもる?」
◆----------(hr)
ふ( )-ふる(触る)-ふらぶ(触らぶ)-ふらばふ
-ふれる(触れる)-ふれらる-ふれられる「ふらばふ触経:記雄略、m194」
◆----------(hr)
ふ( )-ふる(狂る)-ふれる(狂れる)(「くる転」のk-h相通か)
◆----------(hu,he,hr)
ふ(綜)-ふる(綜る)(経糸を機にかける)
へ(綜)-へる(綜る)「へ綜〔織機の経糸掛け〕、へそ綜麻」
◇------------【へへへ】
◆----------(he,hs,hr)
へ(圧)-へす(圧す)「おしあひへしあひ、へしをる折」
-へる(謙る)「へりくだる、おしへる、おとしへる」
◇------------【ほほほ】
◆----------(hk,bk,hg,hs,ht,hm,hr;&h,&b)
ほ(秀)-ほく(惚く)=ほほく(婪ほく)-ほほける「かむほき神祝、ことほぎ言寿」「やみほほく病耄」
-ほかす(寿かす)
-ほかふ(寿かふ)「ほかひひと乞食者、さかほかひ酒楽」
-ほける(寿ける)
-ほこる(寿こる)-ほころふ(誇る)
-ぼく(惚く)-ぼかす(惚かす)
-ぼける(惚ける)
-ほぐ(寿ぐ)-ほがふ(寿がふ)「ことほぐ」
-ほす(寿す)-ほさく(寿さく)「かむほさきほさきく」
-ほせく(寿せく)
-ほつ(寿つ)-ほたく(寿たく)「ほたきこと談咲」
-ほむ(褒む)-ほまる(褒まる)「ほまれ誉」
-ほめる(褒める)-ほめらる-ほめられる
-ほる(惚る)-ほれる(惚れる)-ほれらる-ほれられる(慌る*耄る)
オ接:おほく-おほける(婪く/嬰く)〔貪り食う〕
ト接:とぼく-とぼける
◆----------(hs)
ほ(欲)-ほす(欲す)(ほっす)「ほし欲シ、きほし着欲」
-ほる(欲る)-ほりす(欲りす)「ほりし(欲りシ)」
◆----------(hr)
ほ( )-ほる(貪る)
マ接:まほる(マ貪る)
まぼる(マ貪る)
ムサ接:むさぼる(貪る)(むしゃむしゃ食べる)
◆----------(hr)
-ほろぶ(滅ろぶ)-ほろびる
-ほろぼす-ほろぼさる-ほろぼされる「やきほろぼす」
◇------------【ままま】
◆----------(mk,mg,ms,md,mm,my,mr;sm,tm,mm)
ま(目)-まく(目く)-まくふ(目くふ)-まくはふ
-まくはる
-まぐ(覓ぐ)-まぎる(覓ぎる)-まぎらす「くにまぎ国覓」
-まぎらふ
-まぎれる
-まぐふ(覓ぐふ)-まぐはふ
-まぐはる
み(目)-みす(見す)-みさす(見さす)-みさせる「ま/め目、めみす睥*睇」
-みせる(見せる)
-みゆ(見ゆ)-みyeる(見yeる)
-みる(見る)-みらる(見らる)-みられる
む(目)-
め(目)-めぐ(愛ぐ)-めぐす(愛ぐす)〔情交〕
-めす(目す)-めさる(目さす)-めされる(めす召)「きこしめす、しろしめす」
-めづ(愛づ)-めづる(愛づる)「めだし愛シ」「めづらし珍シ」
-めでる(愛でる)「めでたし目出度シ」
-めむ(目む)-めみす(目みす)(めみす睇)
も(目)-もる(目る)-もらふ(目らふ)(守る)
シ接:しめす示(し+めす見)〔試みに見せる〕
タ接:ためす試(た+めす見)〔試みに見る〕
マ接:まみゆ見(ま+みゆ見)-まみyeる
マ接:まもる守(ま+もる守)
◆----------(mk,mg,ms,md,my,&m,)
ま(婚)-まく(婚く)-まかる(婚かる)「めまく婚*女覓」
-まぐ(婚ぐ)-まぐふ(婚ぐふ)-まぐはふ
-まぐはる
み(身*実)
む(身)-むす(生す)
め( )-めづ(愛づ)-めでる(愛でる)〔女づ〕「めだし愛シ、め女*妻、めのこ女子、めす雌」
も( )-もゆ(萌ゆ)-もやふ(萌やふ)
-もyeる(萌yeる)
-もよふ(萌よふ)-もよほす「(便意を)もよほす、雨もよひ」
〔も妹(イ接:いも)、も母(いろも)〕
ウ接:うむ(生む)-うます(生ます)-うまさす-うまさせる
-うまさる
-うませる-うませらる
-うまふ(生まふ)-うまはす「うまはし(利)」
-うまはる
-うまる(生まる)-うまれる
-うむす(生むす)
-うもす(生もす)
女性性、雌性に関する語はすべて上記マ行渡り語で表現されていると見られる。
◆----------(ma,mk,mg,mz,mt,mah,mr,tm)
ま( )-まく(巻く)-まかす(巻かす)-まかせる-まかせらる(負かす)
-まかる(巻かる)-まかれる
-まくす(巻くす)「まくしかく捲掛」
-まくる(捲くる)-まくれる(「めくる」はこれの異形か)
-まける(負ける)
-まぐ(曲ぐ)-まがる(曲がる)
-まげる(曲げる)-まげらる-まげられる「まげ髷/枉/曲」
-まぐ(紛ぐ)-まがふ(紛がふ)-まがはす「まが曲/禍、まがこと悪事、まがたま勾玉、まがつひ」
-まがゆ(紛がゆ)-まがよふ
-まぎゆ(紛ぎゆ)
-まぎる(紛ぎる)-まぎらす
-まぎらふ-まぎらはす-まぎらはせる「まぎらはし(紛らはシ)」
-まぎれる
-まぐる(紛ぐる)「まぐれあたり」
-まごふ(紛ごふ)
-まず(混ず)-まざる(混ざる)
-まじふ(混じふ)-まじはる「あひまじふ相、ぬきまじふ貫、をりまじふ折」
-まじへる
-まじる(混じる)-まじらふ「いりまじる入混」
-まじろふ
-まぜる(混ぜる)-まぜらる
-まつ(纏つ)-まつふ(纏つふ)-まつはす(体に巻きつける)
-まつはる
-まつぶ(纏つぶ)-まつばる「かきまつぶ掻纏」
-まつべる
-まつむ(纏つむ)
-まとふ(纏とふ)-まとはす
-まとはる
-まとぶ(纏とぶ)
-まとむ(纏とむ)-まとまる
-まとめる-まとめらる-まとめられる
-まふ(舞ふ)-まはく(舞はく)-まはかす「ふるまふ振舞」
-まはす(舞はす)-まはさす-まはさせる
-まはさる-まはされる
-まはふ(舞はふ)
-まはる(廻はる)
-まる(丸る)-まるむ(丸るむ)-まるまる「まり毬」
-まるめる-まるめらる-まるめられる
-まろく(丸ろく)-まろかす
-まろかる
-まろぐ(丸ろぐ)-まろがす
-まろぶ(丸ろぶ)-まろばす「こyiまろぶ、ふしまろぶ」(転ぶ)
-まろむ(丸ろむ)
み(廻)-みる(廻る)「いそみ磯廻」「ゆきみる行廻」
び(廻)「いそび磯廻、かはび川廻、やまび山廻、をかび岡廻、wuねび畝傍、かむなび神備」
む(廻)
め(廻)-めぐ(巡ぐ)-めぐる(巡ぐる)-めぐらす-めぐらせる
-めぐらふ
べ(廻*辺)「かはべ、はまべ、やまべ、をかべ」
も(廻)-もと(本)-もとる(悖とる)
-もど(擬)-もどく(擬どく)「もどき擬/牴牾」「もどかし」
-もどす(戻どす)-もどさす-もどさせる
-もどさる-もどされる
-もどる(戻どる)-もどらす-もどらせる
-もどれる
シ接:しまく(繞く)
タ接:たま玉/たば束~ア接「あたま頭」~たましひ魂(不詳語)
たみ(た+み/び廻)~「たび旅」「たび度」(b-m相通形)
たむ(た+む廻)「かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻」
たば:「たば束/たま玉、たば-たばぬ-たばねる、たぶ:たぶさ髻、みみたぶ耳朶、たぼ:たぼ髱」
この「ま/み/む/め」は、ぐるぐる回る、回転する意をもつ渡り語である。「も」は今のところ見つからないが、本来あってもよいものである。
このうち「まぐ(紛ぐ)」語群をここに置くのは無理があるかも知れない。これは(mg)縁語群をなしているようであるが、模写語「まごまご」由来の語か、「ま目+かふ交」のような複合語なのか、別項の「まぐ曲-まがる」や「まく/まぐ(覓ぐ・婚ぐ)」との関連など、いまのところ不明である。語の内容が後世的で複雑なので、これが孤立しているとは思えない。「目ぐ」か「曲ぐ」か、何かとひっつく可能性が高い。
◆----------(mk,mw)
ま(設)-まく(任く)-まかす(設かす)-まかせる
-まかづ(任かづ)
-まかぬ(賄かぬ)-まかなふ〔時代別:あらかじめはかりまつ〕
-まかる(罷かる)「まかりぢ罷道、みまかる卒*死」
-まくる(罷くる)「さしまくる」
-まける
-まwu(参wu)-まわふ(参わふ)-まわへる「まゐたる参至〔まゐいたる?〕」
-まゐづ(詣ゐづ)
-まゐる(参ゐる)
-まwuく(設wuく)-まwuける「まwuけのきみ東宮」
-まwuす(申wuす)「いのりまwuす祈申、ささげまwuす捧申」
-まwuづ(参wuづ)-まwuでる
-まをす(申をす)「まをしあぐ申上」
◆----------(mk)
ま( )-まく(播く、蒔く)〔種をまく/播種、まき散らす〕「まきおほす播生;しきまき敷播*重播」
◆----------(mk)
ま( )-まく(負く)-まかす(負かす)-まかさる-まかされる
-まかる(負かる)
-まける(負ける)(「値引く」は「押し、要求に負ける」意か)
◆----------(ms,mn,mt,mh,mr,&b,&m,&b,kh,kb,mb,mm)
ま( )-ます(増す)-まさる(増さる)(優る、勝る)
-まぬ(増ぬ)「まねし(多シ)」
み( )-みつ(満つ)-みたす(満たす)
-みちる(満ちる)
び( )-
む( )-
ぶ( )-
も(重)-もる(盛る)-もらす(盛らす)「もし茂シ」
-もらる(盛らる)-もられる
-もる(漏る)-もらす(漏らす)-もらさる-もらされる
-もらふ(漏らふ)-もらはる
-もれる(漏れる)
--
も(重)-もふ(思ふ)「かたもひ片思」
-もる(守る)-もらす(守らす)
-もらふ(守らふ)-もらはる-もらはれる(守らふ/貰らふ-貰らはる-貰らはれる)
ア接:あぶ(余ぶ)-あばく(余ばく)(浴ぶ)
-あびす(浴びす)-あびせる
-あびる(浴びる)
-あぶく(余ぶく)
-あぶす(余ぶす)-あぶさふ
-あぶる(余ぶる)-あぶれる
あむ(余む)-あます(余ます)
-あまぬ(余ます)-あまねふ-あまねはす〔広く行き渡る、行き渡らせる〕
-あまねはる
-あまる(余まる)-あまらす-あまらせる「あまりべ/あまるべ余部」
-あみす(浴ます)
-あむす(浴ます)
オ接:おむ(重む)-おもす(重もす)
-おぼす(思ぼす)
-おもぬ(思もぬ)-おもねる(阿る/佞る)
-おもふ(思もふ)-おもはす-おもはせる-おもはせらる-おもはせられる
-おもはふ(m962/4389)
-おもはる-おもはれる
-おもふる
-おもほす
-おもほふ
-おもほゆ
-おもほる
-おぼゆ(覚ぼゆ)-おぼyeる-おぼyeらる-おぼyeられる
おぶ(溺ぶ)-おぼふ(溺ぼす)-おぼほす
-おぼほゆ
-おぼほる
-おぼる(溺ぼる)-おぼらす-おぼらせる
-おぼれる
コ接:こぼ(零ぼ)-こぼす(零ぼす)-こぼさす-こぼさせる
-こぼさる-こぼされる
-こぼつ(零ぼつ)
-こぼる(零ぼる)-こぼれる
--
こは(壊は)-こはす(壊はす)-こはさる -こはされる(中世末以降の語)
-こはる(壊はる)-こはれる
こほ(壊は)-こほす(壊ほす)
-こほつ(壊ほつ)(万1556、名義抄他)
-こほる(壊ほる)(万2644、仁徳紀4年、名義抄他)
こば
こぼ(毀ぼ)-こぼす(毀ぼす)(竹取物語他)
-こぼつ(毀ぼつ) -こぼたる(舒明紀10年、枕草子他)
-こぼる(毀ぼる)-こぼれる壊「はこぼれ刃毀」
こわ(壊わ)-こわす(壊わす)-こわさる -こわされる
-こわる(壊わる)-こわれる
こを(毀を)-こをつ(毀をつ)
-こをる(毀をる)
--
マ接:まぶ(塗ぶ)-まぶす(塗ぶす)
-まぶる(塗ぶる)-まぶれる
まむ(塗む)-まみる(塗みる)-まみらす
-まみれる「汗まみれ、糞まみれ、泥まみれ、血まみれ」
-まむす(塗むす)
-まむる(塗むる)
-まめす(塗めす)
-まめる(塗める)
「ます(増す)」「みつ(満つ)」「もる(盛る)」のもとになるマ行渡り語「ま/み/む/め/も」及びその相通形「ば/び/ぶ/べ/ぼ」語群である。その心は、量や重さが増える、その結果一杯になり、重くなる、やがて溢れる、である。このリストについてはいささか説明が必要であるので、別途ブログに掲載の予定である。「おもふ思」とは”重く見る”ことであった。
◆----------(ms)
ま( )-ます(坐す)-まさふ(坐さふ)「まします」
◆----------(ms)
ま( )-ます(老成)-ませる(老成る)
◆----------(ma,mi,mo,md)
ま( )-まだ~まだら
-まど-まどふ(惑どふ)-まどはす
み( )-みだ~みだら
~みだり
-みだ-みだく(乱だく)
-みだす(乱だす)-みださる-みだされる
-みだゆ(乱だゆ)
-みだる(乱だる)-みだれる「みだら、みだり、みだれ」
-みど~みどろ
も( )-もだ-もだゆ(悶だゆ)-もだyeる
-もぢ~もぢり「すぢりもぢり」
-もど~もどろ -もどろく-もどろかす「しどろもどろ」
◆----------(ma,mt)
ま(間)-まつ(待つ)-またす(待たす)-またせる-またせらる-またせられる
-またふ(待たふ)
-またる(待たる)-またれる
日国「待つ」の源説欄に「マ(間)の活用語化〔国語溯原=大矢透・国語の語根とその分類=大島正健・大言海〕」説が見える。「まつ」に縁語が存在しない理由がこの点にあるのかも知れない。
◆----------(mr)
ま( )-まる(大小便ともに排泄する)「おまる」「ゆまり/ゆばり」「ゆばりまる」
◇------------【みみみ】
◆----------(mi,me,ms,my,mr;mm)
み(見)-みす(見す)-みさす(見さす)-みさせる「みそなはす〔ご覧になる〕」
-みせる(見せる)-みせらる-みせられる
-みゆ(見ゆ)-みyeる(見yeる)
-みる(見る)-みらる(見らる)-みられる
め(目)-めす(召す)-めさる(召さる)-めされる
も( )-もる(守る)
マ接:まみゆ-まみyeる、もる-まもる-みまもる
◆----------(mt)
み( )-みつ(満つ)-みたす(満たす)
-みちる(満ちる)
-みつる(満つる)
◇------------【むむむ】
◆----------(mk,kb,sm,tm,hm)
む(身)-むく(向く)-むかす(向かす)-むかせる「うつむく、そむく背向*叛」
-むかふ(向かふ)-むかはす-むかはせる
-むかへる-むかへらる-むかへられる(迎へる)
-むくふ(報くふ)-むくはる-むくはれる
-むくひる
-むくゆ(報くゆ)-むくyiる「むくyi報」
-むける(向ける)(平ける)
カ接:かぶく(傾く)-かぶける(「か+向く」と考えられる)
かぶす(傾す)(「か+向す」か)
ソ接:そむく(背向)-そむかる
-そむける
タ接:たむく(手向)-たむかふ「たむけ手向/たむけくさ草」
-たむける
ハ接:はむく(歯向*刃向)-はむかふ
◆----------(mk,mg,ms,mr)
む( )-むく(剥く)-むかる(剥かる)-むかれる
-むくる(剥くる)-むくれる
-むける(剥ける)
-むぐ(剥ぐ)-むぐる(剥ぐる)
-むす(毟す)-むしる(毟しる)
め( )-めぐ(壊ぐ)-めげる(壊げる)
も( )-もぐ(捥ぐ)-もがる(捥がる)-もがれる
-もげる(捥げる)
-もる(捥る)
ぼ( )-ぼる(捥る)「暴利をぼる/(ムサ接)むさぼる」(m-b相通形)
「むしる毟」については、「むす」を想定し、ここに置いておく。
◆----------(mk)
む( )-むく(平く)-むける(平ける)
◆----------(ms,mr)
む( )-むす(蒸す)-むせぶ(咽せぶ)
-むせる(咽せる)
-むる(蒸る)-むらぐ(蒸らぐ)-むらがす(群る)「むら村」
-むらがる
-むらす(蒸らす)-むらせる
-むれる(蒸れる、群れる)
二拍動詞「むる」には上記のように「むらす/むれる」と「むらぐ-むらがる」のやや意味合いの異なるふたつの発展形がある。人が群れると蒸れるので、ここでは同語と見ておく。したがって、「むら村」は、散開した居住形態に対して、一か所に集まって住む集住形態を指していることになる。なおこの「む蒸」語は、後の「も燃」縁語群とひとつと見ることができるかも知れない。
◆----------(mt)
む( )-むつ(睦つ)-むつぶ(睦つぶ)
-むつむ(睦つむ)「むつまし/むつまじ」
◆----------(mt)
む( )-むつ(憤つ)-むつく(憤つく)-むつかる「むつかし難シ」
-むつくる
-むつける
-むづく(憤づく)-むづかる「むづかし難シ」
◇------------【めめめ】
◇------------【ももも】
◆----------(mo,bo,ms,mh,my,mr,br,bh;sb,sm,mm)
も( )-もす(守す)
-もふ(守ふ)-もはる
-もゆ(守ゆ)
-もる(守る)-もらふ(候らふ)
む( )-
ぶ( )-ぶる
ぼ( )-ぼふ
-ぼる
サ接:さぶ(侍ぶ)-さぶる(侍ぶる)-さぶらふ「さむらひ侍」「さぶるこ(左夫流児)」
さむ(侍む)-さもる(侍もる)-さもらふ
マ接:まむ(守む)-まむる(守むる)-まむらふ
-まもる(守もる)-まもらす-まもらせる
-まもらふ
-まもらる-まもられる
-まぼる(守ぼる)-まぼらふ
この縁語群のもとになる音は渡り語「む/も/ぶ/ぼ」と考えられるが、そのうち残っているのは「も」のみで、しかも実際に用例があるのは古語「もる守」だけである。
◆----------(mo,ms,my;&b,kb,ks,hs,kb,km,sb,tb,tm)
も( )-もす(燃す)「もぐさ艾*燃草」
-もゆ(燃ゆ)-もやす(燃やす)-もやさる-もやされる「ぼや/もや小火」
-もyeる(燃yeる)
ア接:あぶ(焙ぶ)-あぶす(焙ぶす)
-あぶる(焙ぶる)-あぶらる-あぶられる「あぶら油/脂」
イ接:いぶ(焙ぶ)-いびる(焙びる)-いびらる-いびられる
いぶ(燻ぶ)-いぶす(燻ぶす)-いぶさる-いぶされる「いぶせし(鬱悒シ)」
-いぶせむ「いぶせみ悒憤」
-いぶる(燻ぶる)-いぶらる-いぶられる
ク接:くぶ(燻ぶ)-くばす(燻ばす)
-くばる(燻ばる)
-くぶす(燻ぶす)
-くべる(燻べる)-くべらる-くべられる
クス接:くすぶ(燻すぶ)-くすぶる
-くすべる
-くすぼる
くすむ(燻すむ)
フス接:ふすぶ(燻すぶ)-ふすぶる「ふすべ燻」(k-h相通形)
-ふすべる
-ふすぼる
ケ接:けぶ(煙ぶ)-けぶす(煙ぶす)-けぶさる-けぶされる
-けぶる(煙ぶる)-けぶらす-けぶらせる
-けむる(煙むる)-けむらす-けむらせる「けむり煙」
ス接:すぶ(煤ぶ)〔大穴牟遅神に対して鼠が言った「内はほらほら、外はすぶすぶ」の「すぶ」はこれか〕
ト接:とぶ(灯ぶ)-とぼす(灯ぼす)-とぼさる-とぼされる
-とぼる(灯ぼる)
とむ(灯む)-ともす(灯もす)-ともさる-ともされる(b-m相通形)
-ともる(灯もる)
◆----------(md)
も( )-もだ(黙だ)-もだす(黙だす)〔黙っている〕
-もだふ(悶だふ)-もだへる
-もだゆ(悶だゆ)-もだyeる〔口に出さず悩む〕
◆----------(mo,mt,mr;tm)
も( )-もつ(持つ)-もたぐ(擡たぐ)-もたげる
-もたす(持たす)-もたせる-もたせらる-もたせられる
-もたる(凭たる)-もたらす-もたらせる(齎す)
-もたらふ
-もたれる
-もてる(持てる)
-もつ(持つ)-もちふ(用ちふ)-もちひる-もちひらる-もちひられる
-もちゆ(用ちゆ)-もちyiる
-もちwu(用ちwu)-もちゐる
-もる(持る)-もらふ(貰らふ)-もらはる-もらはれる
タ接:たもつ(保もつ)-たもたす-たもたせる
-たもたる-たもたれる
◆----------(mt,md)
も( )-もと(本 )-もとむ(求とむ)-もとまる
-もとめる-もとめらる-もとめられる
-もとる(悖とる)(日国:「もどる」とも。「もどる(戻)」と同語源)
もど(擬 )-もどく(擬どく)「もどき擬/牴牾」「もどかし」
-もどす(戻どす)-もどさす-もどさせる
-もどさる-もどされる
-もどる(戻どる)-もどらす-もどらせる
-もどれる
「もと(本*元*下*基)」の動詞化か。
◆----------(㎜)
も( )-もむ(揉む)-もみつ(黄葉つ)-もみたふ「もみち/もみぢ黄葉*紅葉」
◇------------【ややや】
◆----------(yk,yt,yh,ym,yy,yr;&y,my)
や(彌)-
yi(斎)-yiつ(斎つ)「yiがき斎垣、yiくし斎串、yiくひ斎杙、yiつき斎槻」
-yiふ(斎ふ)-yiはす(言はす)-yiはさる-yiはされる
-yiはせる-yiはせらる-yiはせられる
-yiはふ(祝はふ)-yiははる-yiははれる「yiはひまつ忌待」
-yiはる(言はる)-yiはれる
-yiむ(斎む)-yiます(斎ます)-yiましむ-yiましめる
-yiまふ(斎まふ)「yiまyiまし(忌々シ)」
-yiまむ(斎まむ)
-yiもふ(斎もふ)
-yiゆ(癒ゆ)-yiやす(癒やす)-yiやさる-yiやされる
-yiyeる(癒yeる)
-yiる(言る)-yiらふ(答らふ)-yiらへる
ゆ(結)-ゆす(結す)-ゆすふ(結すふ)「まゆすひ真結m4427」
-ゆふ(結ふ)-ゆはく(結はく)〔言ふ〕「ゆひ結、かみゆひ髪結」
-ゆはす(結はす)-ゆはせる
-ゆはふ(結はふ)-ゆははる-ゆははれる
-ゆはへる-ゆはへらる-ゆはへられる
-ゆはる(結はる)-ゆはれる
-ゆむ(斎む)-ゆまふ(斎まふ)-ゆまはる
-ゆまむ(斎まむ)
ye(結)-yeふ(結ふ)「かたyeふ方結」「yeひ結」
ye(善)-yeる(選る)-yeらふ(選らふ)「yeらし偉し(選らシ)」
-yeらぶ(選らぶ)-yeらばす-yeらばせる
-yeらばる-yeらばれる
よ(善)-よく(善く)-よける(善ける)(”善い”ものをとり分ける)「よこ横」
-よる(選る)-よらす(選らす)-よらせる「よらし(選らシ)」
-よろふ(選ろふ)「とりよろふ」
イ接:いゆ(癒ゆ)-いやす(癒やす)-いやさる-いやされる
-いyeる(癒yeる)
ム接:むやふ舫〔「む+ゆふ結」の転〕
モ接:もやふ舫〔「も+ゆふ結」の転〕
◆----------(ya,yi,yu;yk,ys,yt,ym;ny)
や( )-やく(焼く)-やかす(焼かす)-やかせる「やけど火傷」
-やかる(焼かる)-やかれる
-やける(焼ける)
-やす(痩す)-やせる(痩せる)(「やさかむ〔瘦せ衰える〕」の形も)「やせところ磽地」
-やつ(窶つ)-やつす(窶つす)
-やつる(窶つす)-やつれる
-やむ(病む)=ややむ(や病む)「やまし病シ、やみしし病猪、えやみ、さむやみ、わらはやみ童病」
-やまふ(病まふ)
-やもふ(病もふ)
ゆ( )-ゆむ(病む)-ゆまふ(病まふ)「ゆまひ/あたゆまひ急病」
ナ接:なやむ(悩やむ)-なやます-なやまさる-なやまされる「なやまし悩シ」
-なやませる-なやませらる-なやませられる
なゆむ(悩ゆむ)
いささか問題含みであるが、全体をヤ行渡り語として捉えてみたもの。形容詞「やさし優*易」はこの「やす痩」から出たという和句解・志不可起以来のよく知られた解釈がある。「やさし」とは、恥ずかしくて人の見る目に対して身も細る(痩せる)思いである、というものである。
◆----------(ys,ym,yk)
や( )-やす(休す)-やすむ(休すむ)-やすます-やすませる「やす安、やすし(安シ)」
-やすまる
史 -やすめる
-やすもふ
-やする(休する)-やすらふ
-やむ(止む)-やまふ(止まふ)
-やまる(止まる)
-やめす(止めす)-やめさす-やめさせる
-やめる(止める)-やめらる-やめられる
よ( )-よく(避く)-よきる(避きる)「よこ横、よきぢ避道、よきみち避道」
-よける(避ける)
-よす(止す)-よさす(止さす)-よさせる
◆----------(ya,ys,&y,sy,dy,hy)
や( )-やす(唆す)
ア接:あやす(寝かす子をあやして亭主しかられる)
ソ接:そやす(褒め「そやす」)
ド接:どやす(類語に「どなる」がある)
ハ接:はやす(やんやと「はやす(囃す)」)
これら四語から大声であれこれ言い立てる意の二拍動詞「やす」の存在が認められるであろう。
◆----------(ya,yd)
や(屋)-やづ(屋づ)-やどす(宿どす)-やどさる-やどされる
-やどる(宿どる)-やどらす-やどらせる
ゆ( )-ゆづ(譲づ)-ゆだぬ(委だぬ)-ゆだねる-ゆだねらる-ゆだねられる
-ゆづる(譲づる)-ゆづらす-ゆづらせる-ゆづらせらる-ゆづらせられる
-ゆづらふ
-ゆづらる-ゆづられる
子音コンビ(yd)をもつ動詞には「やどす、ゆだぬ、ゆづる、ゆでる、よぢる、よどむ」などがあるが、このうち「ゆだぬ」と「ゆづる」の二つは、どちらも物事の処置や判断を他人に任せることを言っている点で共通し、両者は(yd)縁語であると判断される。日国の「ゆだねる」の語源説欄に「ユヅル(譲)から出た語か〔国語の語根とその分類=大島正健〕」が見える。また「ゆづる」の語源説欄には「ユダヌ(委)に通ず〔大言海〕」とある。ここでは「やどる」もひと晩我身を”ゆだねる”意と見ておく。
◆----------(yh)
-やは(柔は)-やはす(柔はす)
-やはる -やはらぐ
◆----------(ya,yi,yu;yb,yr,yk,yy,yr,ym)
や(矢)-やぶ(矢ぶ)-やぶく(破ぶく)-やぶかる-やぶかれる
-やぶける
-やぶる(破ぶる)-やぶらる-やぶられる
-やぶれる
-やる(矢る)-やらす(矢らす)-やらせる「やり槍、やるかやられるか(殺る)」
-やらふ(矢らふ)
-やらる(矢らる)-やられる「やれこも破薦、やれま破間/壊」
yi(射)-yiく(射く)-yiくふ(射くふ)「yiくは的;まとyi的射、おひものyi追物射」
-yiゆ(射ゆ)「yiゆししの射猪」
-yiる(射る)-yiらる(射らる)-yiられる
ゆ(弓)-ゆむ(弓む)「ゆみ弓」
「や矢/yi射/ゆ弓」は渡り語と考えられる。
◆----------(yr,yk,yn,sn,ys,yr)
や( )-やる(遣る)-やらす(遣らす)-やらせる
-やらふ(遣らふ)
-やらる(遣らる)-やられる
yi( )-yiく(行く)-yiかす(行かす)-yiかせる
-yiかる(行かる)
-yiぬ(去ぬ)-yiなす(去なす)-yiなせる
し( )-しぬ(死ぬ)-しなす(死なす)-しなせる(y-s相通)
-しなる(死なる)-しなれる
ゆ( )-ゆく(行く)-ゆかす(行かす)-ゆかせる
-ゆかる(行かる)
オ接:おゆ(老ゆ)-おyiる(老いる)「おyi老、あひおyi相老」
-およす(老よす)-およすぐ
「しぬ」は「yiぬ」の相通語である。今日の「yiぬ(去ぬ/往ぬ)」が本来の「死ぬ」であった。オ接語「おゆ老」とよく合致する。その後「yiぬ」は家に”帰る”ほどに軽くなり、「しぬ」が「死ぬ」となって今日に至ったと考えられる。
◆----------(yk,yg,ys,yt,yh,yb,ym,yr;&y,ky,sy,ty,my,sm)
や(揺)-やる(揺る)「やららに」
ゆ(揺)-ゆく(揺く)-ゆかす(揺かす)「ゆき雪」
-ゆぐ(揺ぐ)
-ゆす(揺す)-ゆさふ(揺さふ)-ゆさはる《ゆさゆさ》
-ゆさぶ(揺さぶ)-ゆさぶる-ゆさぶらる
-ゆすぐ(揺すぐ)
-ゆすぶ(揺すぶ)-ゆすぶる
-ゆする(揺する)-ゆすらる-ゆすられる
-ゆつ(揺つ)-ゆたふ(揺たふ)「タ接:たゆたふ」
-ゆふ(揺ふ)
-ゆぶ(揺ぶ)
-ゆむ(揺む)
-ゆる(揺る)-ゆらく(揺らく)-ゆらかす-ゆらかせる「ゆり百合、たまゆら玉響」《ゆらゆら》
-ゆらぐ(揺らぐ)
-ゆらす(揺らす)-ゆらさす-ゆらさせる
-ゆらさる-ゆらされる
-ゆらせる
-ゆらゆ(揺らゆ)-ゆらyeる
-ゆらる(揺らる)-ゆられる
-ゆるく(揺るく)
-ゆるぐ(揺るぐ)-ゆるがす-ゆるがせる「yiるがせ/ゆるがせ」
-ゆるす(揺るす)-ゆるさる-ゆるされる〔許す〕
-ゆるふ(揺るふ)-ゆるほす「ゆるほし縦シ」
-ゆるほふ
-ゆるぶ(揺るぶ)
-ゆるむ(揺るむ)-ゆるます-ゆるませる
-ゆるまる
-ゆるめる-ゆるめらる
-ゆれる(揺れる)
よ(揺)-よく(揺く)
-よぐ(揺ぐ)
-よふ(揺ふ) 「いさよふ、ただよふ漂、もごよふ」
-よぶ(揺ぶ)
-よむ(揺む)=よよむ(揺よむ)〔よぼよぼになる〕
-よる(揺る)-よろく(揺ろく)-よろける《よろよろ》「なゐよる田居揺」
-よろふ(揺ろふ)-よろほふ
-よろぶ(揺ろぶ)-よろぼふ(蹌踉)
ア接:あyiぶ(歩ぶ)
あゆく(歩く)-あゆかす
あゆぐ(歩ぐ)-あゆがす
あゆぶ(歩ぶ)
あゆむ(歩む)-あゆます-あゆませる
-あゆまふ
あよく(歩く)
あよぶ(歩ぶ)
あよむ(歩む)
オ接:およく(泳ぐ)
およぐ(泳ぐ)-およがす-およがせる
-およげる
およぶ(及ぶ)-およばす
-およぼす-およぼさる-およぼされる、
カ接:かゆふ(通ふ)
かよふ(通ふ)-かよはす-かよはせる「きかよふ来」
ク接:くゆる(薫る)-くゆらす-くゆらせる(「くゆらかす」の形も)
サ接:さゆる(揺る)-さゆるぐ
タ接:たゆふ(揺ふ)「たゆたに、たゆたふ、たゆらに/たよらに」
たゆむ(弛む)「たゆし/たゆたし、たゆたふ、たゆたに、たゆらに/たよらに」「倦まずたゆまず」
たよふ(揺ふ)=ただよふ漂-ただよはす
マ接:まゆふ(迷ふ)
まよふ(迷ふ)-まよはす-まよはせる
まよふ(紕ふ)「まよひく紕来、まよひまじる、たがひまよふ」
サ接:さまよふ(さ+ま+よふ)
モ接:もゆらに
顕宗前紀に「たなそこも”やらら”に」とあるが、この「やらら」について時代別上代編は「手に巻ける玉も”ゆらら”に」(万3243)の「ゆらら」と同様の語で、音がさやかに鳴るさまをいうか、としている。おそらくその通りで、筆者も同意見である。ただ音だけでなく、ゆらゆらと揺れる様子を強調しているであろう。そうとすれば、上記の「ゆる」「よる」と並んで縁語の二拍動詞「やる(揺る)」が存在していることになる。
◇------------【yiyiyi】
◇------------【ゆゆゆ】
◆----------(yu,yd)
ゆ(湯)-ゆづ(湯づ)-ゆだる(茹だる)
-ゆでる(茹でる)-ゆでらる-ゆでられる
◇------------【yeyeye】
◆----------(ye,yo,yr)
ye(縒)-yeる(縒る)
よ(縒)-よる(縒る)-よれる(縒れる)「よりいと撚糸」
◆----------(yr,yk,ys,yr)
ye(選)-yeる(選る)-yeらぶ(選らぶ)-yeらばす-yeらばせる
-yeらばる-yeらばれる
よ(選)-よく(避く)-よける(除ける)(除*止*選*避)「よきぢ/よきみち避道」
-よす(止す)
-よる(選る)
「yeる/よる選-yeらぶ」は、何を取ってもいいのではなく、「良いものをとり上げる、とり出す」意となる。それが「選ぶ/選る」の本意である。よくないものを選ぶ、いい加減なものを選ぶ、は意味をなさない。
「yeる」と「よる」の間にまったく逆の意味の「よく(避く/除く)-よける」が入ってくるのは意味深長である。考えて見れば「yeる」「よる」も「よく」も同じことを言っているであろう。よいものを取り上げるのも、よいものを取り除くのも、それを敵に渡さないという趣旨では同じことになるであろうからである。(nk)縁語の「のける退」と「のこす残」の関係とよく似ている。
◇------------【よよよ】
◆----------(yg)
よ( )-よご(汚ご)-よごす(汚ごす)-よごさる-よごされる
-よごる(汚ごる)-よごれる
◆----------(ys,yr;ky,ty)
よ(寄)-よす(寄す)-よさす(寄さす)-よさせる
-よさる(寄さる)
-よする(寄する)
-よせる(寄せる)-よせらる-よせられる
-よそふ(装そふ)-よそはす-よそはせる-よそはせらる-よそはせられる「きよそふ着」
-よそはる-よそはれる
-よそほふ「よそひ装~よそほひ装、ふなよそひ舟装/艤装」
-よそほる
-よそる(寄そる)-よそらる-よそられる「よそりつま寄妻」
-よる(寄る)-よらす(寄らす)-よらせる
-よらふ(寄らふ)
-よらる(寄らる)-よられる
-よろふ(鎧ろふ)-よろほふ「よろひ鎧-よろほひ鎧)
カ接:かよる頼(か+よる寄)
タ接:たよる頼(た+よる寄)「たより便」
「よろひ鎧」と言えば、言うまでもなく、戦場で敵の矢や槍、刀剣などによる攻撃に対して身を守るための木や皮や金属で作られた体を覆う防具である。この「よろひ」が、女の「よそひ-よそほひ(装い)」と縁語である。つまり「よそひ/よそほひ」は女の「よろひ」である。このことは上の動詞図を作ることによって明確となる。
◆----------(yd)
よ( )-よづ(攀づ)「よぢかかる、よぢとる、よぢのぼる」
◆----------(yb,ym,sy)
よ(呼)-よぶ(呼ぶ)-よばす(呼ばす)-よばせる
-よばふ(呼ばふ)-よばはる「よばひ/さよばひ」
-よばる(呼ばる)-よばれる
-よむ(読む)-よます(読ます)-よませる-よませらる-よませられる
-よまふ(読まふ)
-よまる(読まる)-よまれる
サ接:さよばふ~さよばひ
文字のない時代に「読む」と言えば、雲や潮の流れ、獣の足跡、人の顔色などで、”明日は雨だ”と読みとることが即ち「よぶ」であったであろう。このことと遠くにいる人に大声でと呼びかけることを言うのは後の発展と見る。
◆----------(ym)
よ( )-よむ(老む)=よよむ(老よむ、倚よむ)
◆----------(yw)
よわ(弱わ)-よわむ(弱わむ)-よわまる「よわし(弱シ)」
-よわめる
-よわる(弱わる)-よわらす-よわらせる
◇------------【わわわ】
◆----------(wk,sk,&k,wr,sr,&r,wk,wg,wh,wm,wr,ww)
わ(分)-わく(分く)=わわく(わ分く)〔細分化する〕
-わかす(別かす)
-わかつ(分かつ)-わかたる-わかたれる
-わかる(別かる)-わかれる
-わきつ(分きつ)-わきたむ(「分き矯む」ではない)
-わきむ(分きむ)-わきまふ-わきまへる
-わける(分ける)-わけらる-わけられる
さ(分)-さく(裂く)-さかす(裂かす)-さかせる
-さかつ(裂かつ)-さかたる〔屠つ〕(w-s相通形)
-さかる(裂かる)-さかれる
-さくむ(万210/971/4465)
-さくる〔地面をくり抜いて水を流す〕
-さける(裂ける)(「さく(避く)-さける(避ける)」は別語)
あ(開)-あく(開く)-あかす(開かす)-あかせる(w-&相通形)
-あかつ(開かつ)-あかたる-あかたれる「あかつ分(w-&)、あかちだ班田」
-あかる(開かる)「行きあかる、罷りあかる」(「あかる離」は「かる」のア接)
-あける(開ける)-あけらる-あけられる
わ(割)-わる(割る)=わわる(わ割る)「わわらばに」
-わらす(割らす)-わらせる
-わらふ(笑らふ)-わらはす-わらはせる-わらはせらる-わらはせられる
-わらはる-わらはれる
-わらる(割らる)-わられる
-われる(割れる)
さ(去)-さる(去る)-さらす(去らす)(w-s相通形)
-さらる(去らる)-さられる
あ(離)-ある(離る)-あらく(離らく)-あらける(w-&相通形)
-あらつ(離らつ)
ゐ(齗)-ゐる(齗る)〔歯に穴が開く(歯が痛む)〕
wu(穿)-wuく(穿く)「wuかみ窺見(斥候)、wuけくつ穿沓;wuかがふ(窺ふ)、wuかねらふ(窺狙ふ)」
-wuぐ(穿ぐ)-wuがつ(穿がつ)-wuがたる-wuがたれる
-wuぐふ(墳ぐふ)〔できものがただれる〕
ゑ(彫)-ゑぐ(刔ぐ)-ゑぐる(刔ぐる)-ゑぐらる-ゑぐられる(「くる刳」のヱ接語もある)「ゑぐし笑酒」
-ゑつ(嘲つ)-ゑつる「ゑつらかす」
-ゑふ(酔ふ)「ゑひさまたる/ゑひさまたごる」
-ゑむ(笑む)-ゑまふ(笑まふ)「ゑまはし(笑まはシ)、ゑみさかゆ」
-ゑる(嘲る)-ゑらく(嘲らく)「ゑ啁*嘲-ゑる嘲ル」「ゑりきざむ」《ゑらゑら》
-ゑらふ(嘲らふ)
-ゑる(彫る)-ゑらく(嘲らく)
を(折)-をる(折る)=ををる(を折る)「をりかへす折返;なをり波折」「をの斧、をのと斧音、をのや斧箭」
-をらす(折らす)-をらせる
-をらる(折らる)-をられる
-をれる(折れる)
-をwu(折wu)-をゐる(折ゐる)
分裂、分割、分断、破断、離脱、曲折などを言う「わ/ゐ/wu/ゑ/を」渡り語で、きれいにまとまっている。これらの意味は、おそらくワ行音は、これを発音するには口唇を大きく強く動かさなければならないところから来ているように思われるのである。
◆----------(wk,wt,wr)
わ( )-わく(湧く)-わかす(湧かす)-わかせる〔湧出する〕「わかし(若シ)」
-わかぶ(若かぶ)
-わかゆ(若かゆ)-わかやぐ
-わかやる
wu(愚)-wuる(愚る)-wuるく(愚るく)-wuるける「うるけ、うるけぢ」
-wuろく
-wuろたふ-wuろたへる《wuろwuろ》
-wuろたゆ
を(愚)-をつ(変若)〔若返る〕「をちみづ変水」
-をる(愚る)-をろく(愚ろく)〔朽耄/失意、ぼんやりする〕《をろをろ》
お( )-おろ(愚ろ)「おろか」
小さい、幼い、若い、幼稚、稚拙、粗忽、愚鈍など若さと若さゆえの未熟、愚行を言うワ行渡り語「わ/wu/を」語群である。このワ行縁語群の根源の意味を示す音は「わく(湧/涌/沸+く)」の「わ」と考えられる。「湧き出る」である。湧きたてのものは少なく小さく若く苦い。水が沸騰することを言う「沸く」と地下から水が泡とともに湧き出ることを言う「わく湧」とは同語であろう。またその「わく」から「わかし(若シ)」が出たと考えられる。
これに対し、老化と老年を言う音はア行一拍語「お」である。「をみな(女)」と「おみな(老女*嫗)」のように「を若」と「お老」はきれいな対立を示し、多くの例が知られている。
◆----------(wk,wb)
わ( )-わく(誘惑)-わかつ(誘惑つ)-わかつる〔だましてさそふ〕
を( )-をく(誘惑)-をこつ(誘惑つ)-をこつる
-をく(招く)-をかす(誘惑す)-をかさる-をかされる(犯す-犯さる)「かざをき風招」
-をぶ(誘ぶ)-をびく(誘びく)
-そびく(誘びく)(w-s相通形)
「をく(招く)-をかす(犯す)」がしっくり来ないが、「をかす」は本来はもちろん「誘惑する」の意で、それが一歩先に行って、誘惑した結果「(女を)犯す」意を先取りしたと考えると納得できる。
◆----------(wa,wg,wn)
わ(輪)-わぐ(輪ぐ)-わがぬ(綰がぬ)-わがねる〔輪につくる〕
-わぐぬ(綰ぐぬ)-わぐねる
-わぐむ(綰ぐむ)
-わぐる(綰ぐる)
-わごむ(綰ごむ)
-わぬ(輪ぬ)-わなく(経なく)〔首をくくる〕「わな罠、しぎわな鴫罠」
-わたく(経たく)(n-t相通形)
◆----------(ws,wr,ww,sw)
わ(坐)-わす(坐す)
ゐ(居)-ゐる(居る)「ゐあかす居明、ゐしづまる、ゐぬ居寝*率寝」
wu(居)-wuwu(植wu)-wuわる(植わる)「つきwu急居」
-wuゑる(植ゑる)-wuゑらる-wuゑられる
す(据)-すwu(据wu)-すわる(座わる)-すわらす-すわらせる(w-s相通形)
-すゑる(据ゑる)-すゑらる-すゑられる
ゑ( )-
を(居)-をる(居る)
全体を通して一所に「尻を据える」である。ここでは「植ゑる」と「据ゑる」が一語で表現されている。「(木や草を)wu(植)-wuwu(植wu)」「植ゑ木、植ゑ草」などの語の存在から、一拍語「wu(植)」の時代から、栗の木や稗、粟のような有用な草木を野山から引き抜いてきて、それを小屋の周囲など身近なところに”植える”作業を行っていたと考えられる。渇いてくれば水をやったであろう。肥料(しもこye下肥-糞尿)もやったに違いない。農業である。
「植える」作業は、また湯を沸かすために底の尖ったいわゆる尖底土器を火床の中に「据える」(突き刺す)ことと同じと捉えられていた。考古学の教えるところによれば、こちらは1万6千年前に始まったと言う。
◆----------(wt,&t,wn,st,wm,sm,sw)
わたく(呻たく)
あたく(呻たく)~あたき(w-&相通形)
ゐなく(嘶なく)
wuたく(唸たく)~wuたき〔獣の唸り〕
すたく(呻たく)「すためく」(w-s相通形)
ゑたく(喘たく)
--
わなわな-わななく(戦慄なく)
ゐなゐな-ゐななく(嘶ななく)
をのをの-をののく(戦ののく)
--
wuなる(唸なる)
ゐなる(唸なる)
--
わめく(喚めく)
wuめく(呻めく)
すめく(w-s相通形)
をめく(喚めく)
--
ゑらゑら
--
サ接:さわ-さわく(騒わく)
-さわぐ(騒わぐ)-さわがす-さわがせる「さわぎ騒」(異形「さやぐ」がある)
(騒わぐ)-さわがる-さわがれる
◆----------(wd,km)
わだかまる(蟠る)(わだ曲+かまる屈)
| |
wuづくまる(蹲る)(wuづ曲+くまる屈)(wd縁語+km縁語)
◆----------(ws)
わ(失)-わす(忘す)-わする(忘する)-わすらる-わすられる
-わすれる-わすれらる-わすれられる
wu(失)-wuす(失す)-wuさる(失さる)
-wuしぬ(失しぬ)-wuしなふ
-wuする(失する)
-wuせる(失せる)
タ接:たわする(タ忘る)
◆----------(wt/st)
わ(移)-わつ(渡つ)-わたす(渡たす)-わたさす-わたさせる
-わたさる-わたされる
-わたる(渡たる)-わたらす-わたらせる「わたりせ渡瀬、わたりで渡代」
-わたらふ
wu(棄)-wuつ(棄つ)-wuつす(移つす)-wuつさす-wuつさせる「なげwuつ投棄*擲、wuとし(疎シ)」
-wuつさる-wuつされる
-wuつる(移つる)-wuつらす-wuつらせる(「移る、写る」は同じ、「ゆつる」の形も)
-wuつらる-wuつられる
-wuつろふ-wuつろはす
-wuとぶ(疎とぶ)
-wuとむ(疎とむ)-wuとまる-wuとまれる「wuとまし(疎まシ)」
す(棄)-すつ(捨つ)-すたる(廃たる)-すたれる(w-s相通形)「なげすつ投棄、すたへ」
-すてる(捨てる)-すてらる-すてられる
ゆ(棄)-ゆつ(棄つ)-ゆつる(棄つる)(「wuつる」の方言的、或いは時代的な異形か)
◆----------(wb,sb,sm;&s,ss)
わ( )-わぶ(寂ぶ)-わびる(寂びる)「わびし侘シ、わびうた、わびこと」
-わぶる(寂ぶる)
さ( )-さぶ(寂ぶ)-さびる(寂びる)「さびし/さぶし」「かみさぶ/かむさぶ、をとめさぶ」
-さびる(錆びる)
-さむ(寒)
--
し( )-しぶ(凍ぶ)-しばる(凍ばる)-しばれる〔体が”しびれる”ほど寒い〕
-しびる(凍びる)-しびれる
-しむ(凍む)-します(凍ます)-しませる
-しみる(凍みる)
ア接:あさむ諌(あ+さむ冷)(寒くする)〔諫言する〕
:あさむ諫-あさめる
イ接:いさむ諫-いさめる(寒くする)〔諫言する〕
ス接:すさぶ~すさび/すさみ「さきすさぶ、てすさび、ふきすさぶ」
すさむ~すさまじ(寒くなる)「すさまじ;くちずさむ」
◇------------【ゐゐゐ】
◆----------(wg)
ゐ(動)-ゐご(動ご)-ゐごく(動ごく)《ゐごゐご》
wu(動)-wuご(動ご)-wuごく(動ごく)-wuごかす「wuごめく蠢」《wuごwuご》
-wuごかる-wuごかれる
-wuごける
-wuごぬ(動ごぬ)-wuごなふ-wuごなはる〔群がり集まる〕
を(動)-をご(動ご)-をごく(動ごく)「をごめく蠢」《をごをご》
◆----------(wy)
ゐ( )-ゐや(敬や)-ゐやふ(敬やふ)-ゐやはふ「ゐやゐやし(恭シ)」《ゐやゐや》
-ゐやぶ(敬やぶ)「ゐやびまつる礼祭」
-ゐやむ(敬やむ)-ゐやまふ
wu( )-wuや(礼や)-wuやぶ(礼やぶ)「wuやwuやし(恭シ)」《wuやwuや》
-wuやむ(礼やむ)-wuやまふ
◆----------(wi,wu,wr)
ゐ(率)-ゐる(率る)「ゐぬ率宿*率寝、ゐゆく率去、ひきゐる引率」
wu(率)「ひきwu引率」
◇------------【wuwuwu】
◆----------(ws,wz)
wu(倦)-wuす(倦す)「wuさ(憂さ)」
-wuず(倦ず)「wuざい、wuざったい、wuんざり」
◆----------(ws,wr)
wu(治)-wuす(治す)-wuさむ(治さむ)-wuさまる
を(治)-をす(長す)-をさふ(抑さふ)-をさへる「をさ長」
-をさむ(治さむ)-をさまる
-をさめる-をさめらる-をさめられる
-をしふ(教しふ)-をしはふ
-をしへる-をしへらる-をしへられる
-をそふ(教そふ)-をそはる
-をしゆ(教しゆ)-をしyeる
--
-をす(食す)「をしもの;をすくに食国/くにおす国食;かりをす、きこしをす」
-をる(長る)
二拍動詞「をす」は、”(首長として)治める、統治する”意である。「をすくに」は統治する国、その名詞形が「をさ長」で、「さとをさ里長」「たをさ田長」などと使われている。「をす」には尊敬語として、どうしたわけか、”飲む、食べる”の意があり「をしもの」は食物の意となる。時代別上代編は「wuす」の存在を示唆している。
◆----------(wt)
wu(居)-wuつ「しりかたwuつ、つきwu急居」
◆----------(wu,wo,wn)
wu(峯)-wuな(頸な)-wuなぐ(嬰なぐ)-wuながす(促す)
-wuなげる
-wuね(畝ね)-wuなふ(畝なふ)「wuな畝/wuね畝」
-wuねる(畝ねる)「wuねwuね」
を(峯)-をね(尾根)
名詞語尾の「な/ね」については別にまとめて述べる。
◆----------(wu,wo,wm,wr)
wu(績)-wuむ(績む/続む)「wuみを(続麻)、をwuみ(麻績)」
を(績)-をむ(績む/続む)「をみ(麻績)」
-をる(織る)-をろす(織ろす)〔記仁徳〕
お( )-おる(織る)(w-&相通形)
「wu/を」は「麻」縁語である。「おる(織る)」は「をる(麻る)」としか考えられない。いつの頃か和人はまず「を麻」から「をり(織り)」はじめ、次いで絹や木綿に移っていったのであろうが、「をる」は変わらなかった。
◆----------
wu( )-wuず(倦ず)
-wuむ(膿む)-wuます(膿ます)「wuみ膿」
-wuる(熟る)-wuれる(熟れる)
大もとは、身体にできたお出来が化膿する、化膿して「wuみ」が出るであろう。そのことは、木の実(果物)が熟すことと同じと捉えられており、さらに気分について「wuんざり、wuざし、wuざったい」ことを言っている。現代語にそのまま続いている。
◆----------(wu,we,wy,ww,wr)
wu(飢)-wuゆ(飢ゆ)-wuやす(飢やす)(「wuやかす」の形も)
-wuyeる(飢yeる)
-wuwu(飢wu)-wuゑる(飢ゑる)「wuゑこゆ(飢臥)」
ゑ(飢)-ゑる(飢る)「かつゑる」
-ゑwu(飢wu)
◆----------(wr)
wu(心)-wuら(心情)-wuらく(心らく)-wuらかす
-wuらぐ(楽らぐ)-wuらがす
-wuらがる-wuらがれる
-wuらぬ(占らぬ)-wuらなふ
-wuらふ(占らふ)-wuらはふ
-wuらふる
-wuらぶ(寂らぶ)-wuらびる-wuらびれる
-wuらぶる-wuらぶれる
-wuらむ(恨らむ)-wuらまる-wuらまれる
-wuらゆ(羨らゆ)-wuらやむ
-wuれふ(憂れふ)-wuれへる
◇------------【ゑゑゑ】
◇------------【ををを】
◆----------(ws)
-をしむ(惜しむ)-をしまる-をしまれる「をし惜シ」
◆----------(ws)
を( )-をす(鞣す)「をしかは韋/鞣革/柔皮(仁徳紀43年)、かはをし皮鞣」
◆----------(wd)
を( )-をづ(踊づ)-をづく(踊づく)
-をどる(踊どる)「さをどる、たちをどる立踊」
◆----------(wh,ww)
を(悴)-をふ(悴ふ)
-をwu(瘁wu)-をゐる(瘁ゐる)
-ををる
◆----------(wh)
を(終)-をふ(終ふ)-をはる(終はる)-をはらす-をはらせる
-をへる(終へる)
-をほす(終ほす)
-をほふ(終ほふ)
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(以上)
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