「さなき(鐸)」と「ぬて/ぬりて(鐸)」 (012)

 今日ではまず耳にすることのない古語である。日国によれば、「さなき」とは「鉄でつくった大きな鈴。古代、祭式用として用いた。ぬりて。ぬて。」であり、「ぬりて」とは「「古代、合図のために用いた鈴・鐘状のもの。中に、木または金属の舌があり、上方の細長い柄を持って振り鳴らす。たく。ぬて。」とある。「たく」というのが「さなき」のことであろう。どちらにも同じ漢字「鐸」が当てられている。

 

 「さなき」と「ぬて/ぬりて」という見かけ上まったく異なる語が同じ意味として互いに結びつけられているが、これは語学的に説明できるのか。つぎにような図を描いて考えて見る。

 

な(鳴)-なく(鳴く)-なかす「さなく(鐸く)、ねなく(音泣く)」
    -なす(鳴す)「うちなす(打鳴)、かきなす(掻鳴)、ふきなす(吹鳴)」
    -なる(鳴る)-ならす(鳴らす)
ぬ(鳴)-ぬる(鳴る)「ぬて/ぬりて(鐸)」
ね(音)-
の(告)-のる(告る)「のりと(祝詞)」

 

 全体を通して”音を立てる”、特に口から声や泣き声を発することを言うナ行縁語群である。このうち一行目の「なく」が「さなき」のもと語であろう。「なく」と言っても「泣く、鳴く」だけでなく「音く」というほどの広い意味であったと考える。語頭の「さ」は目下のところ不明である。「ぬて/ぬりて」は四行目の「ぬる(鳴る)」がもと語であるであろう。「ぬて/ぬりて」の「て」も今のところ不明である。「のりと(祝詞)」との語形の類似が興味深い。どうやら「さなき」と「ぬて/ぬりて」は上記の如くこのナ行縁語群に属すると考えられる。完