「なだれ(雪崩)」とは何か。 (013)

 いきなり突飛な大風呂敷を広げることになるが、和語では、われわれがその上に立つ地表をなす土地(土砂や岩石、土石、泥土等々)とそれらが形成する地物をサ行、タ行、ナ行の一拍語で言い表している。しかもこれらのサ行語、タ行語、ナ行語は音韻変化の上で互いに密接に関係しているのである。

 

「さ、し、す、せ、そ、 〔さ砂*沙、す洲、せ瀬、・・・
 た、ち、つ、て、と、  た田、ち地、つ津、と土、・・・
 な、に、ぬ、ね、の」  な地*田、に丹、ぬ野*沼、の野、・・・〕

 

 ここでは無用の議論や誤解を避けるため典型的なものだけを例示したが、和語には驚くべき体系性が見られるのである。このことはいずれまとめてとり上げるつもりであるが、ここでは上図に絡む二つの話題をとり上げたい。

 

 ひとつは「なだれ(雪崩)」である。言うまでもなく、山の斜面に積もった雪の滑落の意で、悲惨な事故が絶えることはない。諸辞書はこれを「な(斜)だれ(垂れ)」、つまり”斜めに傾いていること”、”そこに積もった雪が一時に大量に崩れ落ちる現象”ということと言う。しかし「なだれ」は直截に「な(土)だれ(垂れ)」であろう。少なくとも本来は”土砂の崩落”であり、もちろん地震によるものがほとんどである

 

 「な(斜)だれ」説を排除する積極的な理由はないが、「な(斜)なむ(並む)-ななめ」をもち出すならこじつけであり、「なだらか」との関係を言うなら、これは「なづ(撫)-なだる」語であり、同じ(nd)語であっても「なだれ」とは無関係である。

 

 また、和語史でよく知られた歌に「たゐに(田為爾)」がある。単なる歌でなく、「いろは」歌と同じように全部の仮名を一度だけ読み込んだ「口ずさみ歌」であるが、まだ全部は解釈できていない。この歌の名前「たゐに」の「たゐ」が上図で見るように「なゐ」と同語なのである。

 

「なゐ(田居)」はそれだけでも”地震”の意で使われるが、地震はフルに言えば「なゐふる(田居振る)」「なゐよる(田居揺る)」である。「たゐに出て」は、”田んぼに出て”に捉われることなく、「野に出て」くらいに考えるのが妥当であろう。「たゐ」「なゐ」の「ゐ(居)」であるが、これは「た」や「な」を抽象化したもので、住むところ、耕すところ等々単に土地の特性を言っているものと見る。完