「くさる(腐る)」「くだく(砕く)」「くちる(朽ちる)」など。 (015)

 本サイトには「動詞図」を掲示してあるが、これはあくまで筆者(足立)が自分なりの考えのもとに作ったものである。当然作る人の考えによりさまざまな図ができる。最大の分岐点は、動詞の縁語関係の判定であり、数多くの動詞をどのように類別するか、ひとまとめに纏めるかにある。

 

 下の図は、少し見方を変えて、従来の「くさる」「くちる」縁語群に「くだく」語群を加えるとどうなるかを試みたものである。皮膚にできる出来物(おでき-腫物)とそれが崩れて悪臭を発すること、有機物が腐ることとそれが発する悪臭、大便とその悪臭、それらの臭さ、汚さが(kt/ks)縁語群によって表現されているが、そこに「(噛み)くだく」「くづれる」の(kd)語群を加えることによって和人の”有機物の腐敗”の捉え方をより大きく把握できるのではないかと思った次第である。最後の「こだる、こづむ」は不詳であるが、外す理由がないので取り敢えず置いておく。「か、き、く、け、こ」縁語群である。

 

か( )-〔かさ瘡-あかがさ赤瘡、いもかさ痘瘡、はたけがさ疥瘡、もがさ疱瘡;かさぶた瘡蓋〕
    -〔かす滓-はかす歯滓〕
    -〔かた汚-かたなし汚(”かた”がいっぱい)〕
き( )-〔きた汚-きたなし汚(”きた”がいっぱい)〕
    -〔きだ段 〕-きだむ(刻だむ)/きざむ(刻む)〔(d-z)相通語〕
く( )-〔くさ腐-くさし臭〕
    -くす(腐す)-くさす(腐さす)-くささる-くさされる
           -くさむ(腐さむ)
           -くさる(腐さる)-くさらす-くさらせる(くさ臭*腐、くろくさ黒瘡、みづくさ水瘡)
    -〔くせ癖-くせもの曲者〕
    -〔くそ屎-くそへ糞戸、くそまる屎放;はくそ歯糞、はなくそ鼻糞、みみくそ耳糞、めくそ目糞〕
    -〔くた朽-くたかけ朽鶏;あくた芥、がらくた、ごみくた、はなくた鼻腐〕
    -くつ(朽つ)-くたす(朽たす)(くちき朽木)
           -くたつ(朽たつ)
           -くたる(朽たる)-くたれる(みくたる身朽、ねくたれる寝腐)
           -くちる(朽ちる)
    -くづ(崩づ)-くだく(砕だく)-くだかる-くだかれる
                    -くだける
           -くだす(降だす)-くださる-くだされる
           -くだる(降だる)
           -くづす(崩づす)-くづさる-くづされる
           -くづふ(崩づふ)-くづほる-くづほれる
           -くづる(崩づる)-くづれる
    -くゆ(崩ゆ)-くやす(崩やす)
           -くyeる(崩yeる)
け( )-けづ(削づ)-けづる(削づる)-けづらる-けづられる
こ( )-〔こせ痘-こせかさ痘瘡〕
    -こづ(  )-こだる(倒壊る)-こだれる
           -こづむ(蹴躓む)

 

 日国「かさ瘡」の語源説欄に「クサル(腐)の語幹クサの転呼〔日本古語大辞典=松岡静夫〕」説が上がっているが、正鵠を射ているであろう。また日国「くそ(糞)」の語源説欄に「クサ(臭)の転か〔日本釈名・松屋叢考・箋注和名抄・言元梯・名言通・大言海〕」の記述があり、これによると「くさ」「くそ」の関係は昔からよく知られていたことが分かる。

 

 ここに「くたくた、くたばる、くたびれる」などの「くた」語が入ってくるかどうか。さらに「くら暗、くる暮、くろ黒」語群とともにもう一段大きく括ることも将来的に考えられるであろう。完