「ゆ(湯)」と「yi/ゆ(尿)」 (023)

 和人が「ゆ(湯)」を手に入れたのは、今から1万6千年前の土器の発明以降である。水を入れて加熱する容器がなければ湯を沸かすことが出来ない。それ以前は地から湧く天然の湯、すなわち温泉以外に湯はなかった。だが遺構があるかどうか知らないが、石を焼き、それを水溜りに放り込んで風呂としていたかも知れない。貝塚があるところでは、貝の乾燥剥き身を作っていたとされているが、その製造工程では湯が必要のはずで、やはり石を焼いて作っていたであろう。だが湯の受け皿として、そこでどのような容器を用いていたのか見当がつかない。

 その「ゆ湯」であるが、これは「yi/ゆ(尿)」の転用であったかも知れない。

 

 大昔、尿は「yi/ゆ」と呼ばれていた。ヤ行渡り語である。もちろん「つ(水)」との絡みで生成したとは考えられない。何らかのきっかけで尿は一拍の渡り語で「yi/ゆ」と呼ばれ、放尿は「yiをまる/ゆをまる;yiまり/yiばり/ゆまり/ゆばり」と言われていた。二拍動詞「まる(放る)」は、大小便を放出する意で、その名詞形が「まり/ばり」である。「まり/ばり」で尿そのものを言う地方があるようである。今日の「おまる」も「まる」の縁語である。

 

 さて、土器を用いて湯を沸かすことができるようになって、和人は、それに新しい音(語)を当てることなく、人とともにあるほんのり暖かい「ゆ(尿)」を流用し、暖かい水を「ゆ(湯)」と呼ぶようになったのではないか、という物語である。

 

 尿、小便を言う語には別に「しっこ、しし、しと」がある。蚤(のみ)虱(しらみ)馬のしとする枕もと。前項の一拍語「し」にその意味があるか。この「し」の由来は不明である。