日本人はすべからくものごとを荒立てず、”丸く”おさめることをよしとする風がある。革新には欠けるが、穏やかな社会の維持にはこれが支えとなってきたのであろう。事実”丸い”という言葉は日本語の中におびただしく紛れ込んでいる。ここでは和語の中の丸いものをひとつひとつ掘り起こしてみたい。
和語では”丸い”ものは、マ行渡り語「ま/み/む/め/も」、及びその相通語の「ば/び/ぶ/べ/ぼ」、さらにそれらに接頭語や前接語、接尾語がついた複合語で表される。下記はそうした”丸いもの”一覧表の作成をこころみたものである。だが勿論取りこぼしや誤りが少なくなく、整理の仕方も定まらない幼稚なものである。
ま(丸)-まく(巻く)-まかす(巻かす)-まかせる-まかせらる-まかせられる「シ接:しまく繞」
-まかる(巻かる)-まかれる
-まくす(巻くす)「まくしかく捲掛」
-まくる(まくる)-まくらる-まくられる〔まくる(ま+くる)/めくる(ま+くる)〕
-まける(巻ける)
-まぐ(曲ぐ)-まがる(曲がる)「まげ髷*曲*枉」
-まげる(曲げる)-まげらる-まげられる
-まず(混ず)-まざる(混ざる)
-まじふ(混じふ)-まじはる-まじはらす-まじはらせる
-まじへる
-まじる(混じる)-まじらふ
-まじろふ
-まぜる(混ぜる)-まぜらる-まぜられる
-まつ(纏つ)-まつふ(纏つふ)-まつはす-まつはせる〔体に巻き付ける〕
-まつはる
-まつぶ(纏つぶ)-まつばる「かきまつぶ掻纏」
-まつべる
-まつむ(纏つむ)
-まとふ(纏とふ)-まとはす-まとはせる
-まとはる-まとはれる
-まとぶ(纏とぶ)
-まとむ(纏とむ)-まとまる
-まとめる-まとめらる-まとめられる
-まふ(舞ふ)-まはく(舞はく)-まはかす「ふるまふ振舞」
-まはす(回はす)-まはさる-まはされる「まひ舞*回」
-まはふ(舞はふ)
-まはる(回はる)
-まる(丸る)-まるむ(丸るむ)-まるまる「まり毬、まる丸」
-まるめる-まるめらる-まるめられる
-まろく(丸ろく)-まろかす
-まろかる
-まろぐ(丸ろぐ)-まろがす-まろがせる
-まろぶ(丸ろぶ)-まろばす-まろばせる「こyiまろぶ臥転、ふしまろぶ伏転」
-まろむ(丸ろむ)-まろまる
「まめ豆」「タ接:たま(玉*霊*魂*弾)、あたま頭;たまご卵、たましひ魂」「くるま車」
ば(丸)「タ接:たば(束)-たばぬ-たばねる-たばねらる-たばねられる」
み(廻)-みる(廻る)
「いそみ磯廻、かはみ川廻、くにみ国廻、さとみ里廻、やまみ山廻;こぎみる漕廻、ゆきみる行廻」「タ接:たみ(た廻)→たび旅*度」
び(廻)「いそび磯廻、かはび川廻、やまび山廻、をかび岡廻、wuねび畝廻」
「タ接:たぶ(た廻);たび旅、たび度」「ツ接:つび粒*螺」
む(群)-むる(群る)-むらす(蒸らす)
-むれる(群れる)
「むら村、むれ群」「タ接:たむ(た廻)-たみ(た廻)/たび旅*度、かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻、イタ接:いたむ(いた廻)」「ツ接:つむ頭*螺*紡錘、おつむ頭」
ぶ(丸)「模写:ぶくぶく-あぶく泡、ぶつぶつ、ぷるぷる」
「ぶた豚;しりぶた/しりむた臀/しりこぶた、ぶり鰤」「カ接:かぶ(頭*蕪*株*鏑)、かぶら蕪、まかぶら/まなかぶら眶、かぶろ/かむろ禿」「ク接:くぶ/くぶつち/くぶつつ頭槌、くぶら腓/たくぶら手腓」「コ接:こぶ(瘤)、たんこぶ、こぶし拳、こぶら/こむら腓/たこぶら/たこむら手腓」「タ接:たぶ髻/たぼ髱;たぶさ髻、みみたぶ耳朶、たぶろ/たむろ屯*党」「ツ接:つぶ(粒*螺)-つぶす潰/つぶる潰/つむる瞑-つぶさる/つぶれる-つぶされる、つぶら円」「デ接:でぶ」
め(巡)-めぐ(巡ぐ)-めぐる(巡ぐる)-めぐらす-めぐらせる
-めぐらふ
〔まくる捲(ま+くる繰)/めくる(ま+くる繰)〕
べ( )
も(廻)-もと(本)-もとる(悖とる)
-もど(擬)-もどく(擬どく)「もどき擬/牴牾」「もどかし」
-もどす(戻どす)-もどさす-もどさせる
-もどさる-もどされる
-もどる(戻どる)-もどらす-もどらせる
-もどれる
上記はひとつの試みであるが、和人の頭の中をのぞくような趣があり興味深い。問題は「も」の項で、この「も」は、ぐるぐる回って「もと(も元+と)」に戻って来る意ではないかと筆者は見ている。議論のあるところと思われる。完