「ほ」と「おほし(多)」「おほきし(大)」 (025)

 いわゆる形容詞「おほし多」「おほきし大」は、共に一拍語「ほ」に接頭語「お」のついたオ接語であることを「増補版」で指摘した。そして「ほ」には「火、穂、帆、秀」などが当てられる。「お(接頭語)+ほ(火、穂、帆、秀)」である。ところで「火、穂、帆」はどれも勢いよく高く立ちあがるもので、そこに共通性が感じられる。その共通性が「ひ、ほ(秀)」という抽象語であるであろう。これに従うと、「おほし」「おほきし」の本来の意味は、数量的なものではなく、「勢いがある、気高い、神々しい」あたりとしか考えられない。「おほし多」「おほきし大」は共に「おほ」語として、区別はなかったと考えられる。「おほくにぬし」の命は、多数の国の命とも大きな国の命ともとれるのである。

 

 ところで、もうひとつ「多い」ことを言う古語に「あは」がある。「あはに/さはに」(「さはに」は &-s 相通語)の形で用いられる。この「あは」が「おほ」と(&h)縁語と考えることができるのである。つまり、「あ(接頭語)+は(多)」である。ということは、「多い、大きい」ということを原意とするハ行渡り語「は、ほ」があって、「は」は接頭語「あ」をとって「あは」となり、「ほ」は接頭語「お」をとって「おほ」となった、と考えるほかない。これはこれで理屈にかなうが、今のところ渡り語「は、ほ」の存在を突きとめることができない。いずれとも決め難く、宿題とするほかない。

 

 さらに「ほ」は、上記のように「おほきし(大)」「おほし(多)」を表わすほか、古くから漢字「秀・火・穂・帆」が当てられているように、空高く立ち上るものや高みを志す和人の意気を表象する音であるであろう。

 

 動詞としては「ほ(秀)-ほく-ほこる(誇る)」がある。


 成句として「岩ほ」「垣ほ」「ほのほ(火の穂)」、「ほつ鷹(たか)」「ほつ手(て)」「ほつ真国(まくに)」「ほつ藻(め)」などが残されている。「ほね骨」は「ほ(秀)+ね(接尾語)」と考えられる。手足の長い骨の意で、頭蓋や腰骨は「ほね」ではない。

 

 またこの「ほ」は「かほ(顔)」の「ほ」ではないかと考えられるのである。「か(接頭語)+ほ(秀)」である。従い「ほほ(頬)」は「かほ」の中の「ほほ(秀々)」である。こう見ると「かほ(顔)」を無理なく理解できるであろう。

 

 次の大和の国にまつわるよく知られた歌についても理解が行く。

 

ほ-まほ-まほら-まほらま 「大和は国の摩倍邏摩(まほらま)畳なづく青垣山籠れる大和し麗し」
    -まほろ-まほろば 「大和は国の麻本呂婆(まほろば)畳なづく青垣山籠れる大和し麗し」。完