「いは(岩)」と「いへ(家)」(続き) (027)

 さきに本ブログの『「いは(岩)」と「いへ(家)」』の項で「いは岩、いへ家、いほ/いほり廬」は”家”を意味するハ行渡り語「は、へ、ほ」のイ接語であることを述べた。

 

 このことを念頭において、さらに語末にハ行拍をもつ語を眺めると、一群の意味のよく似た語があることに気づく。それは、”家”が人を入れる”入れ物”とすると、”水”ないし水気のものを入れる器物を意味する語群である。”入れ物”である。

 

「wuつは(器)」
「とひ(樋)、もひ(垸)」
「かなへ(金瓮*鼎)、くかへ(探湯瓮)、つるべ(釣瓶)、なべ(菜瓮*鍋)、ほへ(火瓷)」
「wuつほ/wuつぼ(靫)、くぼ(窪)、つほ/つぼ(壺)」

 

 これだけ揃うと入れ物を言うハ行縁語群「は/ひ/へ/ほ」の成立を認めないわけにはいかない。

 

 それと同時にいくつかの問題点が浮かび上がる。

 

1)前項の”家”を意味するハ行縁語群と今回の入れ物を言うハ行縁語群を区別する必要はなさそうである。

 

「いは(家)」「wuつは(器)」

「とひ(樋)、もひ(垸)」

「ふ」(下記参照)

「いへ(家)」「かなへ(金瓮*鼎)、くかへ(探湯瓮)、つるべ(釣瓶)、なべ(菜瓮*鍋)、ほへ(火瓷)」
「いほ/いほり(廬)」「くぼ(窪)、つほ/つぼ(壺)、wuつほ/wuつぼ(靫)

 

 

2)「wuつは」と「wuつほ」の語としての近さと意味の違いが明白になった。
3)「とひ樋」が本来形で、「とyi/とゆ」は「とひ」の訛で後世形と見られる。「と」は”水”を意味するタ行渡り語「た/つ/と」の「と」と考えられる。
4)「もひ垸」の「も」は不明である。
5)「くかへ探湯瓮」の「くか」が分からない。
6)「くぼ窪」の「く」が不明であると同時に「くび首」との関係を再考する必要が生じた。

 

 最後に「ふね(舟)」である。「ふね」は、今日でも刺身のような食物を入れる薄い経木製の舟形の入れ物について使われる。そこでこの語頭の「ふ」を上記の入れ物の「ふ」と見て、「ふね(舟:ふ〔入れ物〕+ね〔接尾語〕)」とすることが出来そうに思われるのである。「ね」は「ほね(骨)」「やね(屋根)」「かきね(垣根)」などの単純な接尾語「ね」である。後の和人がそれに乗ってこの島国にやって来た乗り物が解明されないことには落ち着かない。完