万葉語に「ゆふだたみ(木綿畳)」「ゆふづつみ(木綿包)」なる語がある。たまたま目についたもので特別の意図はないが、両語はその語形から非常に近い関係にありそうに見える。事実時代別上代編にも「ゆふだたみ」と「ゆふづつみ」は「同じものというが、不詳」とある。ここではその意味はさておいて、辞書における両語のとり上げ方について考えて見たい。
時代別上代編も両語を別語として別々の見出し語としているが、これだけ似ている語をひとつに扱うことはできないか。そこで「ゆふだたみ」の「たたみ」は、二拍動詞「たむ」の頭積動詞「たたむ」の名詞形であり、「ゆふづつみ」の「つつみ」は二拍動詞「つむ」の頭積動詞「つつむ」の名詞形であることに気づく。そうとすれば「たむ」と「つむ」は互いに(tm)縁語動詞ということになる。ところでもうひとつ「たむ」「つむ」と意味のよく似た(tm)縁語動詞に「とむ」がある。「時代別上代編」ではまだ語の構成子音による縁語関係が知られておらず、「たむ」「つむ」「とむ」とそれらの派生語についての記述はばらばらである。しかるにこれら三語は、積み上がる、流れ来て止まるといった根本的な意味をもつタ行渡り語「た/つ/と」に立つ二拍動詞であり、「た/つ/と」に戻って意味や用法の記述がなされると極めて分かりやすくなるであろう。
これはほんの一例に過ぎないが、試みにこの三語の動詞図を作って見ると非常に綺麗な長語化過程を踏んでいることが分かる。いささか舌足らずであるが、将来的な国語辞典のひとつの形として、動詞図や縁語名詞をとり込んで記述を展開する方向があると思われる。
た(溜)-たむ(溜む)=たたむ(畳たむ)-たたます-たたませる「たたみ畳、ゆふだたみ木綿畳」
-たたまる-たたまれる
-たまる(溜まる)
-ためる(溜める)-ためらる-ためられる
つ(積)-つむ(積む)=つつむ(包つむ)-つつます-つつませる「つつみ包*堤、ゆふづつみ木綿包」
-つつまる-つつまれる
-つます(積ます)-つませる-つませらる-つませられる
-つまる(積まる)-つまれる
-つめる(積める)
-つもる(積もる)
と(止)-とむ(止む)=とどむ(止どむ)-とどまる「とみ富」
-とどめる-とどめらる-とどめられる
-とます(富ます)
-とまる(止まる)
-とめる(止める)-とめらる-とめられる
完
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