「かく/はく(穿*佩*履)」「かる着」「きす着」「きる着」「けす着」「ける着」 (032)

 標記のカ行渡り語は、着物を着たり、履物をを履いたり、太刀を帯びたりのように、何かを身に着けることを言う語群である。

 

--
か(着)-かく(着く)⇒はく
    -かす(着す)
    -かる(着る)-かれる(着れる)⇒はる

き(着)-きす(着す)-きさす(着さす)
           -きせる(着せる)
    -きる(着る)-きれる(着れる)

く( )

け(着)-けす(着す)「(神の)みけし(御衣)」
    -ける(着る)

こ( )

--
は(着)-はく(佩く)-はかす(佩かす)「みはかし(御佩刀)」
    -はる(貼る)
--

 

 ここで最後の「は-はく(佩く)」について注記しておきたい。

 

 「は、ひ、ふ、へ、ほ」のハ行音(拍)は、勿論いくつかの意味をもっているわけであるが、その中で別項の動詞図に見られるように広く”物と物とを引き離す”という意味をもっている。例えば「はぐ(剥ぐ)-はがす」である。ところが、動詞図ではすぐその前に上記の「はく(穿く*佩く*履く)」が出てくる。これではまるで反対で、ハ行音は「”物と物とを引き離す”という意味をもっている」という説明が説得力をもたなくなる。

 

 だがここで和語における相通現象の登場で、上記の「かく(着く)」は(k-h)相通によって「はく」に変形し、それがハ行語として”物と物とを引き離す”語群の中に紛れ込んでいたのである。こうして「はぐ剥」語群の中に「はく(穿く)」語があることの不可解が解消される。本来的に無関係なのである。因みに「かく(着く)」は、消滅して今日に残らない。これは恐らく「かく(着く)」の「かく(掛く*懸く*舁く)」との意味的な近さから、自身は「はく」に姿を変えて生き残ったのではないだろうか。「かく(着く)」と「かく(掛く)」は本来同語であろう。完