時、或いは時期、時刻、時間を言う和語については、別に「つき(月)」「とき(時)」などの(tk)縁語群について述べた。だが、和語には「つき」「とき」とは別にもうひとつ時を言う一群の語が存在するのである。それが標記の「さだ」「しだ」などの(sd)縁語群である。
1) さだ:万葉語である。「時期」の意で、「ある時期が過ぎる」という文脈で用いられることが多い。
日国「さだ」の語源説欄に「シダ(時)の転か〔大言海〕。シダと同じく、時をあらわす語〔万葉集叢攷=高崎正秀〕」の説が紹介されている。
2) しだ/しな:万葉語である。今日でも関西弁で普通に言う「行きしな、帰りしな」の「しな」である。「寝しな」に電話があった、などと使われる。
3) すな:「すなはち(即ち)」。古事記にはおびただしい数の「すなはち」が使われている。「言ひてすなはち、思ひてすなはち」のように「~してすなはち」という形がもっとも多い。「すなはち」を「(そして)その時」と言い換えて見るとすんなり当てはまることが多い。「すだ」の(d-n)相通語と見られる。「すな+は+ち」と考えられるが、最後の鍵を握るであろう「ち」が不明であるのがもどかしい。
4) すで:「すでに」の「すで(既)」である。この語が使われる場面は広い。また「すんで」のところで(困った目に合うところを)助かったと言うときの「すんで」がここの縁語であると思われる。
和語には時を言う語にどうして二系列あるのか、(tk)縁語群と(sd)縁語群の違いは何か。いずれ難しい課題であるが、和語の成立の謎を解く鍵のひとつとなるものと思われる。完