「ま(丸)」縁語群 (037)

 丸いものを言う「ま(丸)」とその渡り語「み/む/め/も」に関わる語は、たいへん数が多くしかも複雑な語形をしていて、全体を把握することはなかなか難しい。いずれ全てを一覧表にしたいと思っているが、ここではそのうちのごく一部をとり上げる。

 

 「ま」という音がわれわれ日本人の耳を打てば、今日でも、何であれ「丸い」という印象を引き出すと言えるであろう。「ま」に続く音によって、「まぐ(曲)」「まふ(舞)」「まる(丸)」などのように漠然とした「丸い」ものがさまざまに細分化、具体化される。では「ま」はそれで了解するとして、その他の渡り語「み」「む」「め」「も」についての状況はどのようになっているのか。

 

 ここでは例として「む」「も」をとり上げる。和語の全体を通して言えることであるが、相通現象によって、マ行語はバ行語の形をもつ、或いはバ行語に移行している。そこで語の由来を考えるときは、マ行音とバ行音は常に交替させてみることが必要となる。そこで「丸い」ことに関わる「む/ぶ」「も/ぼ」語を探してみる。まず「む/ぶ」である。

 

カ接語:「かぶ/かぶら頭*蕪*株、かぶら鏑/かぶらや鏑矢、かぶつち頭椎、かぶと兜、かぶろ/かむろ禿」
ク接語:「くぶつち頭椎、くぶら/たくぶら手腓」
コ接語:「こぶ瘤、こぶし拳、こぶら/こむら腓、しりこぶら尻腓、たこむら手腓」

 

 ここに見るように、きれいに並んだ語頭のカ行語は接頭語であり、それに続く「む/ぶ」が明らかに実体的な”丸いもの”を指していると考えられる。現代の日本人の耳がこれらの音を聞いて深いところで「丸いもの」を思い浮かべることをしているかどうかは分からないが、「む/ぶ」は確実に「ま丸」の渡り語であるであろう。接頭語「か/く/こ」が本来何か意味をもっていたのか、単なる音調上の理由でつけられたのか、どのような理由で使い分けられているのかなどはよく分からない。おそらく大きな違いはないであろう。

 

 次に「も/ぼ」語であるが、こちらもたいへん興味深い。

 

「いぼ疣」「いも/うも芋」「くも蜘蛛」「たぼ髱」

 

 「いぼ」「いも」はイ接語でその後ろに”丸いもの”がついている。実に「いぼ」と「いも」がひとつに結びついたのである。「いも」には「うも」の異形がある。さらにク接語「くも」、タ接語「たぼ」である。これは正鵠を得ているものと信じる。最終的には和語の全部に渡って同様の方法論による解析が終わった後に判定が下されるであろう。

 

 日国「いも」の語源説欄に次の説が紹介されている。『イモのイはイキ(息)、イノチ(生)、イカル(怒)などのイと共通で、内在する力をいう。モはモモ(桃・腿)、モミ(籾)などのように、まるみのある身、まるい実をいう。イモはモが本体で、内容の充実したまるい物をいう意味になる〔南島叢考=宮良当壮〕。』よくぞここまで考え込んだものである。「イ」についてはいささか踏み込み過ぎであるが、全体として正解している。まさに敬服に値する。