よく知られているように、「こしき」にはふたつの意味がある。ひとつは米やおそらく粟や稗などの穀粒を蒸すための調理具「こしき(甑)」で、もうひとつは車輪の中心部にある車軸を覆うようについていて車輪周辺から集まって来る「や輻」を受け止める「こしき(轂)」である。このふたつの三拍名詞「こしき」とは何か。
両方の「こしき」は同じ形状のものを指す同語と見て間違いないであろう。先ず調理具の「こしき甑」は、水を入れて湯を沸かすための容器の上にぴったり重ねて置く筒状の土器のことである。その底にいくつかの穴が開いており、そこから蒸気が侵入して中の穀粒を柔らかくするという仕掛けである。一方車輪の「こしき轂」は、前記の甑の底を抜いて横にした形で、その中に木製の車軸を通している。轂には「や輻」の数だけの穴が開いている。(ただ筆者にはこの轂の役目とか機能はよく理解できない。)
では三拍語「こしき」の語の構成をどう考えればよいか。当然のことながら先に調理具の「こしき」があって、後にそれが車軸の轂に転用されたであろうから、調理具としての「こしき」の由来を検討することになる。「こ+し+き」「こ+しき」「こし+き」の三つが考えられるが、前二者は無理筋と見られる。「こし」には「腰、輿、層、越」などが考えられるが、ここは単純に蒸気が土器の穴を通過する、超える、越す意の「越し」と見て「越しき」を想定する。問題は語末の「き」であるが、これは「さらけ笥、たまけ玉笥、をけ麻笥」などの「け」の渡り語「き」と考えておく。「ひつぎ、ひとぎ(棺)」の「き」である。これで一応無理なく理解できるであろう。だが、この場合、100パーセントとは主張し難く、思いがけない展開があることも予想される。
完