「その(園*苑)」とは何か。 (44)

 ひとつでも不明語を減らしたいものであるが、「その園」が何とかならないか。

 

 まずは「そ+の」と分解するほかないが、「その園」の用例から語末の「の」は「野*土」以外に考えられない。「そ?+の野」である。「そ」について、「そ背+の野」(後背地)は考えられず、唯一の可能性は「そ磯+の野」であるが、”石がちの野”というのも用例から否定される。最後は「をの(小野)」の(w-s)相通形である「その(小野)」そのものではないかというものである。これは可能性としてはあり得るが、決定打に欠ける。

 

 一方、語末に「ふ(生)」をもつ一群の語がある。「その園」にも「そのふ園生/みそのふ御園生」があり、いずれも万葉語である。「ふ生」語は、例えば「あはふ粟生、ちふ茅生、にふ丹生/はにふ埴生、まめふ豆生、むぐらふ葎生、をふ麻生」のように一般に「ふ生」の前につく有用な植物を生産すること、生産する土地という意味をもっていると考えられる。植物ではなく「にふ丹生/はにふ埴生」のように有用な赤土(陶土)を産する土地を意味するものもある。そこで「そのふ園生/みそのふ御園生」であるが、「そのふ園生」は「その園」を生産する土地などと、たいへんおかしなことになる。日国によれば「そのふ園生」は『植物を栽培する園。その。庭。』の由である。

 

 「その」の問題が「ふ」問題にふくれたが、どうもすっきりしない。