「ぬ」と「う」 (43)

 相通現象のひとつに(n-&)相通がある。ナ行語がア行語に変わる現象である。いくつもの例がある中で、ここでは「ぬるぬる」の「ぬ」をとり上げる。この「ぬ」も、渡り語「な/に/ぬ/ね/の」の中のひとつであり、全体としてとり上げなければならないところであるが、話が大きくなるので後回しにしたい。

 

 「ぬ-ぬら/ぬる」は、次の三つの場面を言う語のようである。
1)「ぬらぬら/ぬるぬる」。「ぬる(濡る)」と「ぬる(塗る)」は同語である。
2)「ぬるむ」。水の温度がわずかに上がる。
3)「ゆるむ」。特にきちんと結った女の髪が乱れることを言う。

 

 名詞には、「ぬたうつ/のたうつ」の「ぬた/のた」さらに「ぬ/ぬま沼」などが縁語と考えられる。

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ぬ( )-ぬく(温く)-ぬくむ(温くむ)-ぬくめる
                    -ぬくもる
    -ぬる(濡る)-ぬらす(濡らす)-ぬらせる(塗る)
           -ぬらる(塗らる)-ぬられる
           -ぬれる(濡れる)
    -ぬる(温る)-ぬるむ(温るむ)
    -ぬる(緩る)
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う( )-うる(  )-うるふ(潤るふ)-うるほす「うるうる」
                    -うるほふ
           -うるむ(潤るむ)

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 ここで注目したいのは「うるし(漆)」である。「ぬるで/ぬりで(白膠木)」の木の樹液が「ぬるし」、ひいては「うるし」と考えられる。「ぬるで」の樹液と今日のいわゆる「うるし(漆)」とが直接的に結びつくかどうかは別問題で、ことばの上で緊密な関係が認められるということである。