「よそふ」「よろふ」とは何か。 (40)

 着物を身につけることは今では「きる(着る)」である。古語では「か/き/け」で、「かる」「きす」「けす」などと使われる。足を通す着物については「着る」ではなく「はく(佩く)」である。類語としてはほかに「まとふ」もあるが、ここでは「よそふ-よそほふ」をとり上げる。これは単に寒さ対策や外出のために着物を「着る」のではなく、特別の目的のために特別のものを身につけることを言うであろう。特に女が晴の場に出て衆目を浴びるようなときはその「よそひ-よそほひ」は念入りなものとなる。これは女にとって戦いの場である。

 

 ところで「よそふ-よそほふ」に類した語に「よろふ」がある。「よろひ(鎧)」がその名詞形であるように、こちらは男が武器を手にした殺すか殺されるかの戦いの場で敵の攻撃から身を護るための防具を身につけることである。頭部から両腕、上半身をすっぽり覆う。

 

 このように、女の「よそひ-よそほひ」、男の「よろひ-よろほひ」は、ともに命を懸けたぎりぎりの場面を切り抜けるために格別のものを身につけることであり、そのものの意である。しかもそれだけではなく、そこにはそのような場面に立たされた人間の悩める弱い心を支えるために大きな力にすり寄る気持ちが込められているように思われる。

 

 ここで「よそふ」「よろふ」を包含する動詞図を作ってみる。

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よ(寄)-よす(寄す)-よさす(寄さす)-よさせる
           -よさる(寄さる)-よされる
           -よする(寄する)
           -よせる(寄せる)-よせらる-よせられる
           -よそふ(寄そふ)-よそはす-よそはせる-よそはせらる-よそはせられる「きよそふ着」
                    -よそはる-よそはれる
                    -よそほふ「よそひ装~よそほひ装、ふなよそひ舟装*艤装」
                    -よそほる
           -よそる(寄そる)-よそらる-よそられる「よそりつま寄妻」
    -よる(寄る)-よらす(寄らす)-よらせる
           -よらふ(寄らふ)
           -よらる(寄らる)-よられる
           -よろふ(寄ろふ)-よろほふ「よろひ鎧-よろほひ鎧」

 

カ接:かよる頼(か+よる寄)
タ接:たよる頼(た+よる寄)「たより便」

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 ここに見るように、一拍語「よ」には相手(対象)との間合いを詰めるという根本義があり、自分を中心として、動詞語尾「す」をとって相手を自分に「ひきよせる」意を示し、動詞語尾「る」をとって自分が相手に寄っていく、「すりよる」意を示す。

 

 いささか飛躍するようであるが、「よそふ-よそほふ」は、衣装を越えて、女が衆人の関心を最大限に引き寄せるために仕掛けることであり、その仕掛でもある。同様に、「よろふ-よろほふ」は、戦場にのぞんだ男が武具への頼みを越えて、何かしら大きな力に縋って「よりそふ」ことである。ことばの本義に戻ればこのようなことが言えるのではないかと考える。