「またし(全)」と「まさし(正)」 (48)

 標記の二語「また/またし(全)」と「まさ/まさし(正)」は、後者が前者の相通語にして、もとは「また」であったと考えられる。(t-s)相通現象は「つき坏-すき」など数多い。

 

 このことは、用例をつぶさに調べるまでもなく、指摘されればピンとくるものがあるであろう。だが有難いことにそのことは既に多くの国語辞書編集者によって行われている。少し度が過ぎるかも知れないが、日国の両語の意味分類の見出し文を列記して、両語の同語性の説明に換えたい。

 

「またし」(古事記712年、東大寺諷誦文830年頃、西大寺本金光明最勝王経830年頃、など)
(1)事物・事態が不足なく、または、欠点やきずがなく完全である。全部が整っている。完全である。完璧である。不都合のない。
(2)生命・肉体がそこなわれず完全である。無事である。別条がない。まったい。
(3)人の性格が正直である。律義である。誠実である。まったい。
(4)おとなしい。柔和である。

 

「まさし」(西大寺本金光明最勝王経830年頃、観智院本三宝絵984年、など)
(1)事柄の本性にかなっているさま。正当である。正真正銘である。ただしい。まちがっていない。
(2)占いなどが当たってその通りに実現するさま。見込み通りである。また、よく言い当てるさま。予想が確かである。
(3)疑う余地なく、確実であるさま。確かである。
(4)現実に起こるさま。実際である。
(5)実直である。忠実である。