標記の二語「なふ綯」と「ぬふ縫」は、子音コンビ(nh)を共有し、語形もよく似ていて、互いに縁語であると考えられる。合わせて「なは(縄)」も縁語である。ただ意味の点で、細い糸や紐を「なふ(綯)」ことによって太くし「なは」を作ることと、一方穴を開けた骨や金属製の針に糸を通して布地を「縫ひ」合わせることではやや隔たりが感じられる。この懸隔を埋めることはできないか。
ところで、「ぬふ」には「たてぬひ楯縫、たてぬひべ楯縫部」の存在が知られている。これは「牛皮などを縫い合わせて楯をつくること。また、その人」(日国)の由である。刀剣や弓矢の攻撃に対して布製(麻製)の楯は考えにくいので”牛皮”ということになったのかも知れないが、和人の歴史の中で果たして牛皮製の楯があったかどうか。少なくとも和語の中には牛皮の武器や容器の痕跡はない。しかも牛皮を縫うことができる針があったかどうか。如何にも唐突である。
この「たてぬひ楯縫」の「ぬひ」は「なふ」の異形と見て、縦を「縫ふ」のではなく、縦を「綯ふ」ととれば当座の困難は解消される。つまり、野山に多い蔓や蔦の類を綯って楯に仕上げるのである。「なふ」は、細いものをただ「なは」に作りかえるだけでなく、楯のようなものを形作ることをも意味した。糸と針で布を「ぬふ(縫ふ)」のは後の意味の拡張である。これにはとりたてて無理はないと思われるが、証拠もない。後考にまちたい。
完