語義を解釈するというか記述することは大抵難しい。分かってはいるのだがうまく言えないということも多い。適切かどうかはともかく、標記の二語を国語辞典風に解説するとなるとどうなるか。国語辞典はどれも「のこす」「のこる」の説明にも苦労しているように見える。
例えば、まことに唐突であるが、ここに石臼で挽いたばかりの穀物の粗い粉があって、これを篩(ふるい)で振るって邪魔になる皮を取りのけたいという場面があるとする。私が篩を振るって、篩に残ったものは不要物で、下に逃したものが必要物である。このとき関係者としては、1)私、2)篩、3)原料の粗粉、4)篩に残った邪魔もの、5)下に落ちた精粉、と五者いるであろう。それぞれの立場から、のこす、のこる、のかす、のける、にがす、にげる、のがす、のがる、などの「のこす」「のこる」をめぐる一連の動作、行動を言う語が関係してくる。そこで「のこす」「のこる」の意味は、こうした複雑な構造の中から抽出しなければならないことになる。難しさの原因はこの辺にあるであろう。
語は、ひとつだけぽつんとあるものも少なくないが、和語ではかなりの語が互いに手に手をとり合ってグループを作っている。特に動詞は横方向の語群とともに縦方向の時代的な変化が動詞図によって把握されるようになった。これによって語義の解釈にも思わぬ便宜が得られるようになった。下に「のこす」「のこる」が登場すると思われる動詞図を引いて見たが、これでいいかどうか、果たしてこれらに的確な解釈をもたらすことになるのかどうか。
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な( )-なぐ(投ぐ)-ながす(流がす)-ながさる-ながされる
-ながる(流がる)-ながれる
-なげる(投げる)-なげらる-なげられる
に( )-にぐ(逃ぐ)-にがす(逃がす)-にがさる-にがされる
-にがせる
-にげる(逃げる)-にげらる-にげられる
ぬ( )-ぬく(抜く)-ぬかす(抜かす)-ぬかせる
-ぬかる(抜かる)-ぬかれる
-ぬぐ(脱ぐ)-ぬがす(脱がす)-ぬがせる
-ぬげる(脱げる)
ね( )
の( )-のく(退く)-のかす(退かす)-のかせる
-のける(退ける)-のけらる-のけられる
-のこす(残こす)
-のこる(残こる)
-のぐ(逃ぐ)-のがす(逃がす)-のがさる-のがされる
-のがる(逃がる)-のがれる
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ど( )-どく( )-どかす(退かす)-どかせる
-どける(退ける)-どけらる-どけられる
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完
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