地形語である標記の四語はどれも「□ま」という二拍の同一語形をなしている。何となく気になるが、例語が四語では量的に少なすぎてまとまった議論は難しい。それでもこれらの四語を単独でばらばらに眺めていてはなかなか考えが進まないところを、四語をまとめて見ることで辛うじて議論を進め、結論らしいものが得られるであろう。
和人にとって地形語は決定的に重要な語であるはずである。
1)「しま(島)」
これは「し+ま」としか考えられない。「し」は土砂を言うサ行渡り語「沙、石、洲、瀬、磯」のひとつである。たまたまここは「しま」となっているが、「さま」でも「すま」でも問題ない。事実海岸地名の「すま須磨」は「洲磨」とも考えられる。「しま島」とは石や砂の「ま」と考えておく。
2)「ぬま(沼)」
これは、「ぬ沼」というはっきりした独立語が伝わっているため比較的考えやすい。「ぬ」は水を言う「つ」の相通語とも考えられる。「つ/ぬ+ま」である。類語の「いけ(池)」が後世の文化語「いけ(生)」と思われるので、最初期には「ぬま」が池や湖を含めたすべての陸水を意味していた可能性がある。
3)「はま(浜)」
語頭の「は」は、同語である「はら原」や「はら腹」の「は」であり、広く広がったことやところを言うハ行渡り語のひとつの「は」と考えられる。口を大きく開けて発声する「は」音の感覚を受けているであろう。
4)「やま(山)」
山の「や」には、昔「夜」を宛てる議論があった。「やみ闇」を連想させて、それらしい気もするが為にする議論の域を出ないであろう。ではこの「や」は何か。これはやはり「矢」と見たい。空にそびえる矢の穂先である。ただ弓で飛ばす「矢」とは限らず、その前段階と思われる手にもって突いたり投げたりする「矢」、後の槍である。和人が天に屹立する山々を矢と見立てたと考えても当たらずとも遠からずと思う。
最後に「□ま」の「ま」である。「ま」からはすぐ「ば場」を考えるのであるが、この時代には濁音語の「ば」はなく、しかも「ば場」は「には(庭)」から転じたものとされているので、ここでは当たらない。この「ま」は単に調子をとるための付属語、接尾語であると見られる。「はま(浜)」について言えば、この「ま」は「はら(原*腹)」の「ら」とまったく同じ位置づけである。何らかの理由で、一方は「はま(浜)」となり、一方は「はら(原*腹)」となった。どちらもだだっ広いところを意味している。他の三語の「ま」についても同様である。
完
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