標記六語はいづれも音の模写語である。
最初の(sw)語「さわ/さゐ/さゑ」は、はいずれも(ws)縁語と見られる。これらはもとのワ行語「わわ/わゐ/わゑ」の(w-s)相通語であるが、もとのワ行語は残っていないようである。これらは波の音や風によって木の葉が揺れる音など自然界の穏やかな音を描写するためのもののようである。
類似の模写語に「さやさや、すやすや、そよそよ」の(sy)語がある。これらは「さやぐ」のように記紀万葉語でもあるが、現在でも普通に使う現代語でもある。
両者の間に関係がないとは考えられず、あるとすれば下に見るように「(ww)語→(sw)語→(sy)語」という時系列関係と思われる。だがこれを言うにはさらなる例語探しが必要であろう。日国「そよぐ」の語源説欄に「サワク(騒)義〔言元梯〕。サワグ、サヤグの音転〔万葉代匠記〕」が見られる。
〇さわさわ/ざわざわ(←わわわわ)
「わわく、わわる」「さわく/さわぐ騒、さわゑ騒」
「そわそわ(日国は「そはそは」としているが「そわそわ」が転じたか)」
〇さゐさゐ(←わゐわゐ〔現代語の「わいわい」はこれの転か〕)
「さゐさゐし、しほさゐ潮騒、嵐がさゐ、さゐ佐葦(山百合)、さゐがは狭井河」
〇さゑさゑ/ざゑざゑ(←わゑわゑ)
「あり衣 (きぬ) のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来 (き) にて思ひ苦しもm3481」
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〇さやさや
「・・由良の門の門中の海石(いくり)に振れ立つなづの木のさやさや(記歌謡74)」
「さやぐ(笹の葉はみ山もさやにさやげども我れは妹思ふ別れ来ぬればm133)」
〇すやすや
日国によれば18世紀初頭に初出の近世語である。
〇そよそよ
古典語である。「そよぐ」の形で少なからぬ用例がある。
完