「くしろ釧」は、古墳からの出土品の展覧会などでよく見かけるが、日国「くしろ」の解説によれば「上代の装身具。手首や臂(ひじ)につける輪状のかざり。貝、石、玉、金属などで作り、さらに鈴をつけたものもある」とある。
さらにその語源説欄には「クサル(鏁)の名詞形クサリの転。玉や鈴をくさりつけたのがもとか〔大言海〕」とあり、「くしろ」と「くさり(鎖)」との関連が指摘されている。「くしろ」には別に「たまき(手巻*環)」や「うでわ(腕輪)」という類語がある。
「くしろ」と「くさり」はともに(ksr)語でその語形と意味するところから縁語であることは間違いない。大言海の所説の確かさには驚かされる。ここで語末の「ろ」と「り」は接尾語と見られ、意味を担う肝心な部分は子音コンビ(ks)であるであろう。では(ks)語の中に意味の上で「くしろ」「くさり」に結びつくものがあるかどうか。
国語辞典を見ると次のような語が目につく。
「かさ(枷鎖)」(罪人をつなぐ刑具)
「かし(戕牁)」(船をつなぐために水中に立てる杭)
「かし/かせ(桛*枷)」(鉄や木でつくり、刑具として罪人の首や手足にはめるもの)
このうち「かせ」は「あしかせ足枷、くびかせ首枷、てかせ手枷」などとして今日もよく使われる。「かさ(枷鎖)」について辞書によっては「かせ(枷)とくさり(鎖)」の意と語釈しているが、これは漢字表記に捉われたための誤りで「かさ」で一語である。
こうして見ると、この(ks)語はもとは”動きを制する”もの、端的には”刑具”を言うもののようで、装身具である「くしろ」とか金属の輪を紐状につなげた「くさり」は後世の発展と考えられる。完