「か(鹿)」「さ(猿)」「つ(鶴)」「ゐ(猪)」 (80)

1)「か(鹿)」と「ゐ(猪)」

 

 「か」は、「ゐ」と並んで、和人にとっておそらく最も身近なけものであったであろう。動物性蛋白源としてである。今の都会人は牛と豚しか知らないが、往時はそれこそ何でも食べたであろう中で、「か」と「ゐ」が大宗であったに違いない。そのことは「かのしし」「ゐのしし」の語が残っていることからも察せられる。それぞれ鹿肉、猪肉の意であろう。

 

 鹿については「かせぎ」「しか(鹿)」「せか(夫鹿)」「めか(女鹿)」などの熟語が残されている。「か」は、今日では「しか」である。「しか」の語源説欄には16説が並んでいる。おそらくそのうちのどれかが当たっているのであろうが、いまのところそれを決める方法がない。

 

 「か(鹿)」「ゐ(猪)」とも地名に多く現われ、全国的に分散していると見られる。

 

 

2)「さ(猿)」

 

 「さる(猿)」は、次項の「つる(鶴)」も同じく、「さ(猿)+る」「つ(鶴)+る」と本来の一拍語「さ」「つ」がラ行拍の接尾語をとって長語化したものと考えられる。日国語源説欄にも『サはサハグ、サハガシの意の古語。ルは語助〔東雅〕』説が見える。ただし「さ」に意味をもとめることはない。地名にも「さしま(猿島)」「さはし(猿橋)」「さわたり(猿渡)」などがある。

 

 猿には「まし/ましら」「えて/えてこう」の異名があるが、いずれも不詳である。「えて」については、諸辞書で『「さる」の音が「去る」に通ずるのを忌んでいう』と注記され新語と見なされている。しかし方言として本州中央部を中心に広く行われており、また「ゑて」の表記も見られるところから、検討対象から外すことはできない。

 


3)「つ(鶴)」

 

 「つ(鶴)+る(接尾語)」である。異名「たづ」は、「田鶴、地鶴、土鶴」などがあり得るが、要は地上に降りて餌をついばんでいる鶴と考えられる。

 

 全国的に「津」の字をもつ地名は非常に多いが、その中にはそれを「鶴」に置き換えても不自然に感じないものが少なくない。例えば「津島」や「津田」などのうちには「鶴島」や「鶴田」があってもいいのではないかと思われるのである。完