二拍動詞「はく」の問題 (81)

 二拍動詞「はく/はぐ」は、多くの意味を抱えており、相反するものが混じっていて、悩ましいもののひとつである。だが、取りあえず、これはきれいに三分されることに注意したい。

 

(1)ひとつは、”吐出する、排出する、引っ剥がす”意をもつもので、「はく(吐く)」「はく(掃く)」「はく(捌く)」群である。要は、溜まっているもの、詰まっているものが捌け口を見つけて飛び出す、飛びださせる意と見られる。こびりついているものを引き離すのもこれである。「はかす/はがす」「はかる/はがる」「はける/はげる」ときれいな対応を示している。「はく」は「は+く」で、「は」にもとの意味があるであろう。

 

は( )-はく(捌く)-はかす(捌かす)-はかせる-はかせられる
           -はかる(吐かる)-はかれる「吐かれる(迷惑)」
           -はける(捌ける)「水はけ」
    -はぐ(剥ぐ)-はがす(剥がす)-はがさる-はがされる
           -はがる(剥がる)-はがれる
           -はげる(禿げる)

 

「サ接:さばく」


(2)ところが「はく」は、同時に、上記とは正反対の意味をもっている。どうしてこういうことになるのか分からないが、”身につける、引っつける、つなぐ”意で、「はく(穿く/履く/佩く)」「はぐ(接ぐ/矧ぐ)」などである。袴を穿く、沓を履く、刀を佩くなどなど身につけることはどれも「はく」である。竹にやじりと羽根をつけて矢を作ることを言う「やはぎ(矢矧)」の「はぐ」も同語であろう。服を着る、冠を被るなどとは言い分けている。

 

は( )-はく(穿く)-はかす(穿かす)-はかせる-はかせらる-はかせられる
           -はかる(穿かる)-はかれる
           -はける(穿ける)
    -はぐ(接ぐ)「やはぎ(矢矧)」

 

 この「は」違いを理解するには、「はぐ(剥ぐ)」と「はぐ(接ぐ)」の動作や作業の内容がかなり違っていて、当時の和人には反対語とは意識されていなかったとでも考えるほかない。


(3)最後は”秤量する”意の「はく-はかる」である。ただし二拍動詞としての「はく」は辞書に登録はない。「はかる」から出発する語「はか+る」で、名詞「はか」を探さなければならないのかも知れない。仕事の『「はか」がゆく』や『「はか」どる』『はかばかし』などの「はか」である。しかしこの「はか」はどう見ても二拍動詞「はく」の名詞形であろう。「はく」は忘れられたと見ておく。

 

は( )-はく(秤く)-はかる(秤る、計る、測る、量る、図る、諮る、謀る)

 

「タ接:たばかる」「おもんぱかる(思慮)」