ワ行の「を」とア行の「お」の間には奇妙な関係が見られる。試みに「を」と「お」で始まる二拍動詞について下の表を作ってみたところ、三つのグループに別れるようである。
何度か指摘しているように和語には、本来、原則として、ア行拍「あ、い、う、え、お」を語頭にもつ語はない。またワ行語はア行語に相通語化している場合が多い。これらのことを念頭に順に見ていくこととする。ただ比較の当否をはじめ課題は多い。
1)「反対語」グループ
をく(招く)x おく(置く)
をす(食す)x おす(押す)
をつ(変若つ)x おつ(落つ)
をふ(終ふ)x おふ(生ふ)
をる(折る)x おる(織る)
辞書上の意味は上記の通りであるが、原義と思しき段階に降りて考えると、全体に反対語を構成しているように見える。ここでは「を」と「お」が別個に行動しているようである。典型は「をふ」x「おふ」であるが、どうしてこのようなことになるのか見当がつかない。
2)「相通語」グループ
をむ(喚む)→ おむ(怖む)
をゆ(疲ゆ)→ おゆ(老ゆ)
をづ(怖づ)→ おづ(怖づ)
これらは明らかに(w-&)相通語を構成している。
3)「不詳語」グループ
をく( )? おく(起く)
をく( )? おく(熾く)
をふ( )? おふ(負ふ)
をふ( )? おふ(追ふ)
をふ( )? おふ(覆ふ)
をぶ( )? おぶ(帯ぶ)
母音「お」で始まる本来存在しないはずの二拍動詞であるが、しかもそれに対応する「を」動詞がないもののグループである。殆どは「お」動詞に対応するもとの「を」動詞が今日に残らなかったものと考えられる。完