「カ行渡り語:かる(刈る)、きる(切る)、くる(刳る)、こる(樵る)」(85)

 カ行音はキレのいい音である。そのせいかどうか「か、き、く、け、こ」は下記の通り「切る」意味に用いられている。だがよく知られているように、音と意味とを結びつけることはご法度ということであるので、ここでは深入りしない。

 

 なおこれは禁忌には触れないと思うが、日国「こる(樵る)」の語源説欄に『コ(木)を活用させた語か〔大言海〕』という興味深い指摘があり、この次に”木”の渡り語を並べ記載して検証の資としたい。

 

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かる(刈る/苅る//狩る/猟る)
 草や頭髪を刈ると同時に動物を狩る(狩猟する)ことも言っている。動物を”狩る/猟る”については、それを捕獲する意と考えられ、これは別語と見る。ただ捕獲した動物も次の段階では首を”切る”わけで、互いに縁語と見ることも可能である。
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きる(切る/伐る/斬る/截る/剪る)
 日国語源説欄『カル(刈)、コル(伐)に通じる語〔大言海〕』
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くる(刳る)
 ヱ接語に「ゑぐる」があるが、「ゑ」自体が「くる刳」とほとんど同じ意味の語「ゑ-ゑる(彫る)」である。
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こる(樵る)
 「きこり(樵*木樵)」の「こり」であるが、これは『キキリ(木伐)の義〔夏山雑談・言元梯・和訓栞・大言海〕』とあるように「切る」との関連が指摘されている。

 

--(動詞図)
か( )-かる(刈る)-からす(刈らす)-からせる-からせらる-からせられる
           -からる(刈らる)-かられる
き( )-きる(切る)-きらす(切らす)-きらせる-きらせらる-きらせられる
           -きらふ(切らふ)-きらはる-きらはれる「嫌ふ-嫌はる-嫌はれる」
           -きらる(切らる)-きられる
く( )-くる(刳る)-くらる(刳らる)-くられる
け( )
こ( )-こる(樵る)「きこり(木樵)」

 

カ接:かぎる(カ切)-かぎらる-かぎられる(限る)
ク接:くぎる(区切)-くぎらる-くぎられる
シ接:しきる(仕切)
チ接:ちぎる(千切)-ちぎれる-ちぎられる
ト接:とぎる(ト切)-とぎれる
ミ接:みきる(見切)
ヨ接:よぎる(横切)
サ接:さくる(サ刳)
ヱ接:ゑぐる(ヱ刳)-ゑぐらる-ゑぐられる〔ゑ彫+くる刳〕
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 ここで「切る」と「嫌る-嫌らふ-嫌らはる-嫌らはれる」を結びつけて見たが、これは日国「嫌う」の解説欄の第一に『捨てる。除き去る』の意が上がっているほか、語源説欄に『キル(切・截)より出た語で、隔てる意を含む〔名言通・国語の語根とその分類=大島正健〕』が見られることによる。「きらふ(嫌ふ)」という語は孤立していて、もって行くところがあるとすればここ以外にないからでもある。もしこれでダメであれば、漢語「嫌」から造語されたとでも言わなければならないであろう。「嫌ふ」は日本書紀で多用されている由である。