われわれは樹木については「き」としか知らない。何かの機会に「このは(木葉)」「こずゑ(木末*梢)」などの漢字を見てそう言えば「こ」も”木”だったなと再認識する程度である。「くだもの」となると「けだもの」との対比から漠然と「木のもの」と知っているかも知れないが、「く」はかなり遠い。
だが多くの語について、とりわけ一拍語については、もともと語はひとつではなく、例えば「き」であってもそれひとつではなく、カ行の全段に渡って同じ意味の語が存在すると見られるのである。また例えば「め」であればマ行の「ま、み、む、め、も」全段に渡って基本的に意味を同じくする語が存在する。これを渡り語と呼んでいる。これらはそれぞれ子音「k」や「m」を共有する縁語群である。長い時代の経過のうちに、もとは全段に渡って存在したであろう渡り語も次第に忘れられ、今日ではひとつ、ふたつしか残っていないものも少なくない。
さて”木”であるが、代表的な「き」を含め五段に渡って渡り語が存在したと考えられる。以下いささか大胆に同定を試みてみたい。
また、木の名前で語末に「か/き/く/け/こ」、及びその濁音をもつ語は、そのカ行語、ガ行語は「木」と考えられる。従い、下に見るように、本来の木の名前は前項のみということになる。
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か:木の名称である「つが/とが(栂)」の語末の「が」は、「か」の連濁形にして”木”の意と考えられる。「つ/と+か/が(木)」である。「つ/と」が本来の木の名前となる。
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き:
語頭に立つ”木”には「きくつ(木沓)、きこり(樵)、きつつき(木突*啄木鳥)、きのこ(木ノ子*茸)」などがある。
”木”を語末にもつ語は非常に多い。中でも「たちき(立木)」に対する「wuゑき(植木)」はこの地の農業の始まりを示すものであろう。また「かつをぎ鰹木、たるき垂木、ちぎ千木、ひぎ氷木、みやき宮木」などの建築用語も特徴的である。「くき(茎)」「みき(幹)」は”木”語と思われるが不詳である。
”木”の名称
「くす/くすのき(楠)、くぬ/くぬぎ(椚)、けや/けやき(欅)、さか/さかき(榊)、す/すぎ(杉)、つ/つき(槻)、つば/つばき(椿)、な/なぎ(梛)、ひ/ひのき(檜)、ひひ/ひひらぎ(柊)、ま/まき(槙)、まさ/まさき(柾)、や//やぎ/やなぎ(柳*楊)、yiす/ゆす//yiすのき/ゆすのき(柞)」
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く:「くくのち(久久能智神)」 木の神である。「くく」は不詳であるが、どちらかは”木”であろう。
「くだもの(果物)」
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け:「まけはしら真木柱、まつのけ松木(m4375)、みけ御木/あさしものみけのさをばし(朝霜の御木のさ小橋)」
”木”の名称
「つ/つげ(柘)」「と/とげ(棘)〔「と鋭+け木」か〕」
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こ:
「こくは木鍬、こずゑ木末*梢、こだち木立、こたね木種、こだま木霊*谺、こぬれ/このwuれ木末、このくれ木暮*木晩/このくれやみ闇、このした木下、このは木葉、このはな木花、このま木間、このみ木実*菓子、こまくら木枕」
”木”の名称
「そよ/そよご(冬青)、とね/とねり//とねりこ(梣)」
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完
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