以下は、(1)”容器”を言う「カ行渡り語」、(2)”処”を言う「カ行渡り語」、(3)”日”を言う「カ行渡り語」を並べてみたものである。
ここに言う一拍語の”渡り語”とは、一拍語が原義を保ちながらすこしづつ意味を変えて同一行内で最大「あ、い、う、え、お」の五段に渡る一拍語形をとることを言う。名詞ばかりの単純な渡り語もあれば、いくつもの動詞を含んだ複雑な渡り語群もある。これは、現行の辞書では「交替形」「同語源」「転呼」などという言葉で説明されているものであるが、視点を変えて括り直すことによって和語の原理のひとつとして浮かび上がってきたものである。
例えばすぐ下の「容器、入れ物」を原義とするカ行渡り語であるが、「く」を除いて「か」「き」「け」「こ」の四段に渡り、それぞれが容器をもとにした個別の意味をもって連携しつつ独立語として機能している。「く」の不存在に関しても、さまざまな場合が考えられる。
和語の一拍語は語形が一つには定まらない。これはまことに不思議な現象と言わなければならないが、どうしてそのようなことが起ったのか、未だ模索の域を出ない。
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(1)「か/き/け/こ(瓮*笥*笥*籠)」
か:「か𤭖*甕:かめ瓶;ひらか平瓮、みか御𤭖*御甕、ゆか斎瓮」
き:「き棺;ひつき/ひとき棺」
く:
け:「け笥;くしげ櫛笥、さらけ笥、たまけ玉笥、をけ麻笥*桶」
こ:「こ籠:かご籠、ふせご伏籠」
”容器”を意味するカ行渡り語である。食物を盛る器、飲み物を入れる器でもあれば、「ひつぎ(柩)」の「き」、「かんをけ(棺桶)」の「け」もこれである。類語の「へ(瓶)」は「け(笥)」の(k-h)相通語と考えられる。「へ」には「いわいべ斎瓮、つるべ釣瓶」などがある。
なお”食物”を言う「け」について、日国は上記の『「け(笥)」と同源』としているが、食物にについては別に(wk)語の「wuか/wuけ」があり、俄には決め難い。
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(2)「か/く/こ(処)」
か:「ありか(在処)、おくか(奥処)、かくれが(隠れ処)、くが/くぬか/くむか(陸)、すみか(住処)、なか(中処*中)、ほか端処*外処、やまが(山処)、をか(岡*丘)」
き:
く:「いづく(何処)、こもりく(隠國*籠処)」
け:
こ:「あそこ、いづこ、かしこ、ここ、そこ、どこ、とこ/ところ(所)、みやこ(宮処*都)、もとこ(本処*許処)」
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(3)「か/け/こ(日)」
か:「かかなむ/かがなべて(日々並)、いか(五日)、いか(五十日)、いくか(幾日)、とをか(十日)、なぬか(七日)、ふつか(二日)、みか(三日)、みそか(三十日)、ももか(百日)、やか(八日)、やほか(八百日)」
き:
く:
け:「けながし(日長)、けならぶ(日並)」
こ:「こよみ(暦)」
「こよみ(暦)」については日国「こよみ」の語源説欄に『カヨミ(日読)の転〔東雅・嘉良喜随筆・類聚名物考・和語私臆鈔・名言通・和訓栞・日本古語大辞典=松岡静雄・神代史の新研究=白鳥庫吉〕』説が見える。異論はない。
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完