これまで何度か和語における”丸い”ことを言う語をとり上げて来たが、いずれも部分的であったので、ここでは”丸い”語を全体的に把握することを試みてみたい。和語では丸いことやものはマ行渡り語で表される。後にそれはバ行語に相通語化され広がった。つまり中心になるのは「ま/ば、み/び、む/ぶ、め/べ、も/ぼ」の十拍であり、残りはこの十拍に接頭語と接尾語がついたものである。
和語には、丸いことを言う語にはマ行渡り語のほかに”わ(輪)”がある。「わな(罠)」や「はにわ(埴輪)」「わぐ-わがぬ」などの「わ」である。「わ」と「ま」の違いははっきりしない。これは別にとり上げる。
【ま/ば】
ま(丸)-まく(巻く)-まかす(巻かす)-まかせる-まかせらる-まかせられる「シ接:しまく繞」
-まかる(巻かる)-まかれる
-まくす(巻くす)「まくしかく(捲掛)」
-まくる(まくる)-まくらる-まくられる〔まくる(ま+くる)/めくる(ま+くる)〕
-まける(巻ける)
-まぐ(曲ぐ)-まがる(曲がる)「まげ(髷*曲*枉)」
-まげる(曲げる)-まげらる-まげられる
-まず(混ず)-まざる(混ざる)
-まじふ(混じふ)-まじはる-まじはらす-まじはらせる
-まじへる
-まじる(混じる)-まじらふ
-まじろふ
-まぜる(混ぜる)-まぜらる-まぜられる
-まつ(纏つ)-まつふ(纏つふ)-まつはす-まつはせる〔体に巻きつける〕
-まつはる
-まつぶ(纏つぶ)-まつばる「かきまつぶ(掻纏)」
-まつべる
-まつむ(纏つむ)
-まとふ(纏とふ)-まとはす-まとはせる
-まとはる-まとはれる
-まとぶ(纏とぶ)
-まとむ(纏とむ)-まとまる
-まとめる-まとめらる-まとめられる
-まふ(舞ふ)-まはく(舞はく)-まはかす「ふるまふ(振舞)」
-まはす(回はす)-まはさる-まはされる「まひ(舞*回)」
-まはふ(舞はふ)
-まはる(回はる)
-まる(丸る)-まるむ(丸るむ)-まるまる「まり毬、まる丸」
-まるめる-まるめらる-まるめられる
-まろく(丸ろく)-まろかす
-まろかる
-まろぐ(丸ろぐ)-まろがす-まろがせる
-まろぶ(丸ろぶ)-まろばす-まろばせる「こyiまろぶ(臥転)、ふしまろぶ(伏転)」
-まろむ(丸ろむ)-まろまる
ま:ま(丸)、ま(目)、まげ(髷)、まひ(舞)、まめ(豆)、まる(丸)、くるま(車)、あたま(頭);たま(玉*球*霊*魂*魄*弾)、たまご(玉子*卵)
ば:
タ接:「たば(束)」-たばぬ(束ばぬ)-たばねる-たばねらる-たばねられる
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【み/び】
み(廻)-みる(廻る)
み:み(廻)、「いそみ磯廻、かはみ川廻、くにみ国廻、さとみ里廻、やまみ山廻」「こぎみる漕廻、ゆきみる行廻」
び:び(廻)、たび(旅*度)、つび(粒*螺)、「いそび磯廻、かはび川廻、くにび国廻、さとび里廻、やまび山廻、wuねび畝廻、をかび岡廻」
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【む/ぶ】
む(群)-むる(群る)-むらす(群らす)-むらせる(「蒸る-蒸らす-むらせる」も同じ)
-むれる(群れる)
カ接: -かぶ( )-かぶす(被ぶす)-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
-かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
-かむる(被むる)
タ接: -たむ(タ廻)「かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻」「たみ旅、たび(旅*度)」「たむら臀*屯*群*党、たむろ/たぶろ群*屯*党」
イタ接:-いたむ(イタ廻)
ツ接:
つ( )-つぶ(潰ぶ)-つぶす(潰ぶす)-つぶさる-つぶされる〔小さく丸くする〕
-つぶる(潰ぶる)-つぶれる
む:「むら(村)、むれ(群)」、むた/しりむた(臀)、かむろ(禿)、こむら腓/たこむら手腓、つむ(頭*螺*紡錘)、おつむ(頭)
ぶ:ぶた(豚)、しりぶた(臀)/しりこぶた、ぶり(鰤)、あぶく(泡);かぶ(頭*蕪*株*鏑)、かぶつち頭椎、かぶと兜、かぶら(蕪*鏑)/かぶらや鏑矢、まかぶら/まなかぶら眶、かぶろ/かむろ禿;くぶ/くぶつち/くぶつつ頭槌、くむら/くぶら腓/たくむら/たくぶら手腓;こぶ(瘤)、こぶし(拳);たぶ髻/たぶさ髻、たむら/たぶら/しりたぶら、みみたぶ耳朶;つぶ(粒*螺)、つぶら円;でぶ;(模写語)ぶくぶく、ぶつぶつ、ぶるぶる
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【め/べ】
め( )-めぐ( )-めぐる(巡ぐる)-めぐらす-めぐらせる
-めぐらふ
め:め(目)、こめ(米)、まめ(豆)
べ:
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【も/ぼ】
も(廻)-もと( )-もとる(悖とる)
-もど( )-もどす(戻どす)-もどさす-もどさせる
-もどさる-もどされる
-もどる(戻どる)-もどらす-もどらせる
-もどれる
-もる(盛る)「やまもり(山盛)」
も:もり(森)、いも/うも(芋*薯)
ぼ:いぼ(疣)、たぼ(髱)、たも/たもあみ(攩網)、つぼ(壺)
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(接頭語別に整理)
【ア接】あたま頭〔たま玉〕、あぶく泡
【イ接】いたむ(イタ廻)〔たむ(タ廻)〕、いも/うも(芋*薯)、いぼ(疣)
【カ接】かぶ(頭*蕪*株*鏑)、かぶつち頭椎、かぶと兜、かぶら蕪*鏑/かぶらや鏑矢、まかぶら/まなかぶら眶、かぶろ/かむろ禿
【ク接】くぶ/くぶつち/くぶつつ頭槌、くむら/くぶら腓/たくむら/たくぶら手腓
【コ接】こぶ(瘤)/たんこぶ、こぶし拳、こむら/こぶら腓/しりこむら/しりこぶら尻腓、
【タ接】「かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻」「たみ旅、たび(旅*度)」「たむら臀*屯*群*党、たむろ/たぶろ群*屯*党」「たば(束)」たこむら/たこぶら手腓〔こむら/こぶら腓〕、たま(玉*球*霊*魂*魄*弾)、たまご卵、あたま頭、たぶ髻/たぶさ髻、たむら/たぶら/しりたぶら、みみたぶ耳朶、たぼ(髱)、たも/たもあみ(攩網)
【ツ接】つび粒*螺、つぶ粒*螺、つぼ壺、つむ頭*螺*紡錘、おつむ頭
【デ接】でぶ
上記を通じていくつか興味深いことが見える。例えば「ぶた、ぶり、でぶ」などの「ぶ」が”丸”縁語であったことである。「かぶ、くぶ、こぶ」の「か、く、こ」は、丸くなったものの膨れ方の小さいことを言い、小さいことを言うカ行渡り語かも知れない。「か/く/こ(小)」である。
とまれ和語の高度な体系性には驚かされる。完