”丸い”ことを言うマ行渡り語 (105)

 これまで何度か和語における”丸い”ことを言う語をとり上げて来たが、いずれも部分的であったので、ここでは”丸い”語を全体的に把握することを試みてみたい。和語では丸いことやものはマ行渡り語で表される。後にそれはバ行語に相通語化され広がった。つまり中心になるのは「ま/ば、み/び、む/ぶ、め/べ、も/ぼ」の十拍であり、残りはこの十拍に接頭語と接尾語がついたものである。

 

 和語には、丸いことを言う語にはマ行渡り語のほかに”わ(輪)”がある。「わな(罠)」や「はにわ(埴輪)」「わぐ-わがぬ」などの「わ」である。「わ」と「ま」の違いははっきりしない。これは別にとり上げる。

 

【ま/ば】
ま(丸)-まく(巻く)-まかす(巻かす)-まかせる-まかせらる-まかせられる「シ接:しまく繞」
           -まかる(巻かる)-まかれる
           -まくす(巻くす)「まくしかく(捲掛)」
           -まくる(まくる)-まくらる-まくられる〔まくる(ま+くる)/めくる(ま+くる)〕
           -まける(巻ける)
    -まぐ(曲ぐ)-まがる(曲がる)「まげ(髷*曲*枉)」
           -まげる(曲げる)-まげらる-まげられる
    -まず(混ず)-まざる(混ざる)
           -まじふ(混じふ)-まじはる-まじはらす-まじはらせる
                    -まじへる
           -まじる(混じる)-まじらふ
                    -まじろふ
           -まぜる(混ぜる)-まぜらる-まぜられる
    -まつ(纏つ)-まつふ(纏つふ)-まつはす-まつはせる〔体に巻きつける〕
                    -まつはる
           -まつぶ(纏つぶ)-まつばる「かきまつぶ(掻纏)」
                    -まつべる
           -まつむ(纏つむ)
           -まとふ(纏とふ)-まとはす-まとはせる
                    -まとはる-まとはれる
           -まとぶ(纏とぶ)
           -まとむ(纏とむ)-まとまる
                    -まとめる-まとめらる-まとめられる
    -まふ(舞ふ)-まはく(舞はく)-まはかす「ふるまふ(振舞)」
           -まはす(回はす)-まはさる-まはされる「まひ(舞*回)」
           -まはふ(舞はふ)
           -まはる(回はる)
    -まる(丸る)-まるむ(丸るむ)-まるまる「まり毬、まる丸」
                    -まるめる-まるめらる-まるめられる
           -まろく(丸ろく)-まろかす
                    -まろかる
           -まろぐ(丸ろぐ)-まろがす-まろがせる
           -まろぶ(丸ろぶ)-まろばす-まろばせる「こyiまろぶ(臥転)、ふしまろぶ(伏転)」
           -まろむ(丸ろむ)-まろまる

 

ま:ま(丸)、ま(目)、まげ(髷)、まひ(舞)、まめ(豆)、まる(丸)、くるま(車)、あたま(頭);たま(玉*球*霊*魂*魄*弾)、たまご(玉子*卵)
ば:
タ接:「たば(束)」-たばぬ(束ばぬ)-たばねる-たばねらる-たばねられる

 

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【み/び】
み(廻)-みる(廻る)

み:み(廻)、「いそみ磯廻、かはみ川廻、くにみ国廻、さとみ里廻、やまみ山廻」「こぎみる漕廻、ゆきみる行廻」
び:び(廻)、たび(旅*度)、つび(粒*螺)、「いそび磯廻、かはび川廻、くにび国廻、さとび里廻、やまび山廻、wuねび畝廻、をかび岡廻」

 

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【む/ぶ】
む(群)-むる(群る)-むらす(群らす)-むらせる(「蒸る-蒸らす-むらせる」も同じ)
           -むれる(群れる)
カ接: -かぶ(  )-かぶす(被ぶす)-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
           -かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
           -かむる(被むる)
タ接: -たむ(タ廻)「かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻」「たみ旅、たび(旅*度)」「たむら臀*屯*群*党、たむろ/たぶろ群*屯*党」
イタ接:-いたむ(イタ廻)
ツ接:
つ( )-つぶ(潰ぶ)-つぶす(潰ぶす)-つぶさる-つぶされる〔小さく丸くする〕
           -つぶる(潰ぶる)-つぶれる

む:「むら(村)、むれ(群)」、むた/しりむた(臀)、かむろ(禿)、こむら腓/たこむら手腓、つむ(頭*螺*紡錘)、おつむ(頭)
ぶ:ぶた(豚)、しりぶた(臀)/しりこぶた、ぶり(鰤)、あぶく(泡);かぶ(頭*蕪*株*鏑)、かぶつち頭椎、かぶと兜、かぶら(蕪*鏑)/かぶらや鏑矢、まかぶら/まなかぶら眶、かぶろ/かむろ禿;くぶ/くぶつち/くぶつつ頭槌、くむら/くぶら腓/たくむら/たくぶら手腓;こぶ(瘤)、こぶし(拳);たぶ髻/たぶさ髻、たむら/たぶら/しりたぶら、みみたぶ耳朶;つぶ(粒*螺)、つぶら円;でぶ;(模写語)ぶくぶく、ぶつぶつ、ぶるぶる

 

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【め/べ】
め( )-めぐ(  )-めぐる(巡ぐる)-めぐらす-めぐらせる
                    -めぐらふ
め:め(目)、こめ(米)、まめ(豆)
べ:

 

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【も/ぼ】
も(廻)-もと(  )-もとる(悖とる)
    -もど(  )-もどす(戻どす)-もどさす-もどさせる
                    -もどさる-もどされる
           -もどる(戻どる)-もどらす-もどらせる
                    -もどれる
    -もる(盛る)「やまもり(山盛)」

も:もり(森)、いも/うも(芋*薯)
ぼ:いぼ(疣)、たぼ(髱)、たも/たもあみ(攩網)、つぼ(壺)

 

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(接頭語別に整理)

【ア接】あたま頭〔たま玉〕、あぶく泡
【イ接】いたむ(イタ廻)〔たむ(タ廻)〕、いも/うも(芋*薯)、いぼ(疣)
【カ接】かぶ(頭*蕪*株*鏑)、かぶつち頭椎、かぶと兜、かぶら蕪*鏑/かぶらや鏑矢、まかぶら/まなかぶら眶、かぶろ/かむろ禿
【ク接】くぶ/くぶつち/くぶつつ頭槌、くむら/くぶら腓/たくむら/たくぶら手腓
【コ接】こぶ(瘤)/たんこぶ、こぶし拳、こむら/こぶら腓/しりこむら/しりこぶら尻腓、
【タ接】「かきたむ掻廻、こぎたむ漕廻」「たみ旅、たび(旅*度)」「たむら臀*屯*群*党、たむろ/たぶろ群*屯*党」「たば(束)」たこむら/たこぶら手腓〔こむら/こぶら腓〕、たま(玉*球*霊*魂*魄*弾)、たまご卵、あたま頭、たぶ髻/たぶさ髻、たむら/たぶら/しりたぶら、みみたぶ耳朶、たぼ(髱)、たも/たもあみ(攩網)
【ツ接】つび粒*螺、つぶ粒*螺、つぼ壺、つむ頭*螺*紡錘、おつむ頭
【デ接】でぶ

 

 上記を通じていくつか興味深いことが見える。例えば「ぶた、ぶり、でぶ」などの「ぶ」が”丸”縁語であったことである。「かぶ、くぶ、こぶ」の「か、く、こ」は、丸くなったものの膨れ方の小さいことを言い、小さいことを言うカ行渡り語かも知れない。「か/く/こ(小)」である。

 

 とまれ和語の高度な体系性には驚かされる。完