『「はし(橋)」の由来』補遺 (115)

 前回、筆者(足立)は二拍語「はし(橋)」の由来について述べた。「はし」は、垂直に立っているものも横になって寝ているものも含めて”棒状のもの、棒”の意であり、そのことは「はし」を「は+し」と二つの一拍語に分けて、「は」と「し」が共に”細長いもの、棒状のもの”を意味することを示すことによって証することができたと思っている。後項の「し」が本来の”棒”で、「は」はそれをさらに規定するものと考えられる。

 

 だがこれで終点と言えるのかどうか。和語は一拍語から始まり、やがて前後に接辞をとって二拍語、三拍語と長語化したという事実がある。特に動詞については動詞図を描くことによって長語化の過程を疑問の余地なく示すことができる。そうとすれば「はし」も一拍語「し」に戻らなければその由来を辿ったことにならないであろう。これはおそらくその通りであって、「はし(橋)」は「し」に発すると考えられる。今回は一拍語「し」に至る直接的な手がかりがないので控えたが、和語における語の由来探しは、草木の名前に見るような本来的な二拍語、三拍語を除いて、一拍語に到達して当面の目的を達したことになる。

 

 ここで和語の一拍語についてどうしても気になることがある。それは音と意味との関係である。言葉における音と意味の間の関係は、言葉の原理として、ないと言うことになっている。だがそれは「ゐぬ(犬)」とか「ねこ(猫)」といった長い語の場合であって、和語の一拍語は、和語にたいへん数多い模写語の存在とあいまって、音が意味を表わしているところがあると考えざるを得ないのである。例えば「き、きー」「し、しー」「ぴ、ぴー」などある種のイ段の音がわれわれに緩くて丸いものを連想させることはないであろう。鋭くとがったものであり、緊張した状況である。上記の例で「し」が”棒”であると言うとき、この段階にまで踏み込まなければ由来の追及が終わったことにならないのかも知れない。

 

 では一拍語の先はどうなっているのか。どのように考えればよいか。これは”和語の来た道”問題そのものである。和語は、アジア大陸のさまざまな土地から日本列島にやって来た人たちが列島内で交じり合い、その結果として彼らの言葉も交じり合って列島内で新しくつくり出された(形成された)ものと考えるほかない。和語に系統はない。和語は列島内で生れた独自言語であるであろう。もちろん鳥や草木の名前で大陸から持ち込まれたものが今後いくつか見つかることはあっても、それが系統問題に発展することはないと思われる。このことについては別に詳しく述べるつもりである。

 

 和語を理解する上で『一拍語と長語化』はもっとも重要な切り口である。この点をイメージとして捉えると、下の図のようになると思われる。最下段の無人列島の時代から、最初の渡来人を迎え、一拍語の和語を生み、それを次第に長語化して語数を増やしていく様を表現している。図では四拍語まで表記してるが、今日では六拍語、七拍語も少なからず、漢語のほかに多数の外来語を加え、一億二千万人の話者をもつ地球上で最有力言語のひとつとなっている。

 

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 |一拍語| + |  二拍語  | + | 三拍語 | + |  四拍語  | +|   漢語     |
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   | 一拍語   | + |  二拍語  | + | 三拍語 |  +  | 漢語〔古音〕|
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      |  一拍語    | + |   二拍語   | +   |     三拍語  |
       --------     -------      ------

          ------------       ------
         |    一拍語     | + |  二拍語  |(縄文時代~ ?
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              |     一拍語     |(3万8千年前~旧石器時代~ ?
              --------------
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                (和語以前 -無人列島- )


 上の図は、あくまで和語の生成から今日の姿に至るまでの変態(成長)の過程を荒々イメージしたものである。本図に対するさまざまなご意見を得て、より実態に即したものにしていく所存である。