動詞図「ア行、孤立する不詳のア行動詞」(007)

 

 以下の動詞は縁語の見つからない不詳のア行動詞である。今はア行語であるが、おそらく接頭語の「あ」をとったものや、ワ行から転じたものが少なくないと思われる。

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「あく(飽く)」

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あ( )-あく(飽く)-あかす(飽かす)-あかせる

           -あきる(飽きる)-あきらる-あきられる

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「あぐ(倦ぐ)」

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あ( )-あぐ(倦ぐ)-あぐぬ(倦ぐぬ)-あぐねる

           -あぐむ(倦ぐむ)

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「あふ(合ふ/会ふ/逢ふ/遭ふ/遇ふ/和ふ/虀ふ)」

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あ( )-あふ(合ふ)-あはす(合はす)-あはさす-あはさせる

                    -あはさる-あはされる

                    -あはせる-あはせらる-あはせられる

           -あはふ(合はふ)「あはひ間」

           -あへす(合へす)

           -あへる(合へる)「和へ(虀へ)物」

 

 ア接語と見られるも「ふ」は不詳である。複合語に「しあふ試合、であふ出会、にあふ似合、みあふ見合、yiあふ射合」などがある。

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「あふ(饗ふ)」

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あ( )-あふ(饗ふ)〔饗応する〕「”あへ”のこと(饗の事)」

 

 これはおそらく{あは(粟)」「いひ(飯)」などと(&h)縁語をつくると思われる。「あへのこと」は能登の農家で行われている神事で、収穫を神に感謝するため神を家の中に招き入れて饗応する。

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「あふ(敢ふ)」

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あ( )-あふ(敢ふ)

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「あむ(編む)」

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あ( )-あむ(編む)-あます(編ます)-あませる「あみ網」

           -あまる(編まる)-あまれる

 

 蔓や竹ひごで編んで作った「み(箕)」のア接語「あみ網(あ+み箕)」の動詞化と見られる。後に接頭語の「あ」が「あみ網」の意をとり込んで一人歩きを始めた(み→あみ→あ)。「あご網子」「あじろ網代」など。類語に「こ(籠)」があり、「こ」は入れ物、「み」は”ふるひ篩”として落ち着いたか。

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「あゆ(零ゆ)」

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あ( )-あゆ(零ゆ)-あやす(零やす)-あやしむ「あやし(怪シ)」

           -あやぶ(零やぶ)-あやぶむ「あやふし(危ふシ)」

           -あやむ(誤やむ)-あやまつ〔過誤〕

                    -あやまる〔過誤・謝罪〕

                    -あやめる「誤める、危める、殺める」

           -あyeす(零yeす)「あyeか」

           -あyeる(零yeる)

 

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 日国によれば「あゆ-あやす(零ゆ)」は「血や汗などをしたたらす」、「あyeか」は「(血が)こぼれ落ちんばかり”の意という。日国の「あやうい」の語源説欄には「動詞アユ・アヤス(零)のアヤを語根とする形容詞〔山彦冊子〕」説が見える。用例は見つからないが、「あゆ」は、「(血を)したたらす」ではなく、「あyeか」で言うように今にも「したたりそうである、こぼれ落ちそうである」と見る。そうとすればこれらと「あやす、あやむ/あやぶ、あやふし」が意味の上で繋がってくると思われる。同語である。

 

 「あやまる(誤る)」と「あやまる(謝る)」は『「誤る」から「誤りを認める、誤りを許すことを請う」意に転じたものと思われる』と、同語としている。もちろん四拍語「あやまる」に二つはない。

 

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「あゆ(肖ゆ)」

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あ( )-あゆ(肖ゆ)-あやく(肖やく)-あやかる〔似る〕

           -あyeる(肖yeる)

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名詞   あざ(交 )-あざふ(糾ざふ)-あざはふ

                    -あざはる(もつれあう/からみあう/交叉する)

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名詞   あざ(痣 )-あざく(戯ざく)-あざける(嘲る)

           -あざる(戯ざる)〔取り乱し騒ぐ〕

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名詞   あた(敵た)-あたく(敵たく)-あたける「あたし敵シ」

           -あたす(敵たす)

           -あたぬ(敵たぬ)-あたなふ「あたなふ寇」〔害をなす〕

           -あたふ(敵たふ)

           -あたむ(敵たむ)-あたまる

     あだ(仇だ)-あだく(仇だく)「あだし仇シ」

           -あだす(仇だす)〔「ふみあだす」-踏んでばらばらにする〕

           -あだふ(仇だふ)

 

 「あた/あだ(敵*仇)」の動詞化で「敵対する、害をなす」意をもつ。日国「あだ仇」の語源説欄には「アタル(当)の語根〔和句解・日本釈名・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健〕」説が見えるほか、「あつ当-あたる/あてる」の名詞形とする説がある。

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名詞   あた(熱た)-あたつ(熱たつ)-あたたむ-あたたまる「あたたか暖、あたみ熱海」

                         -あたためる

           -あつく(熱つく)-あつかふ(悶熱)「あつし(熱し/暑し)」

           -あつゆ(篤つゆ)「あつyeひと」

           -あつる(暑つる)

     あち(熱ち)「あちち!」

     あつ(熱つ)「あつっ!あつつ!」「あつし」

     あゆ(熟ゆ)〔二拍動詞か〕

     いた(痛た)-いたむ(痛たむ)-いたます「いたし、いたまし(痛まし)」

                    -いためる-いためらる-いためられる

     いて(痛て)「いてて!」

 

 「あつ」にはいろいろあるが、ここでは”熱”である。「あつし」は、熱いものに触れたときの叫び声「あつっ!」に由来するか。そうであれば「いたっ!、いたし痛」との(&t)縁語の可能性があり、まとめられるであろう。

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名詞   あわ(泡 )-あわつ(慌わつ)-あわてる「あわたたし(泡立*慌)」

     いわ(  )-いわく(驚愕く)〔驚き慌てる〕

 

 日国「あわてる」の語誌欄に『「あわたたし(慌)」と同系語で、「泡」を活用させた語と考えられるが、成立過程は不明。第二音節の仮名遣いは「わ」。』とあり、これに従って上図を作ってみたもの。

 「あわつ」「いわく」とも日本書紀に登場する。両語は意味がよく似ており、しかも(&w)縁語関係にあると見られるところから「あわ(泡)」を含むもう少し整った縁語群の存在が考えられる。

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