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● ● <あああ> ● ●
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「あく(飽く)」(&k)
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あ( )-あく(飽く)-あかす(飽かす)-あかせる
-あきる(飽きる)-あきらむ-あきらめる(諦む)
-あきれる(呆れる)
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「あぐ(倦ぐ)」(&g)
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あ( )-あぐ(倦ぐ)-あぐぬ(倦ぐぬ)-あぐねる
-あぐむ(倦ぐむ)
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「あぐ(上ぐ)、あふ(仰ふ)、うは/うへ(上)」
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あ(上)-あぐ(上ぐ)-あがる(上がる)
-あげる(挙げる)-あげらる-あげられる
-あふ(仰ふ)-あふぐ(仰ふぐ)-あふがす-あふがせる「あふのく仰伸、あふむく仰向」
-あふがる-あふがれる
-あふる(呷ふる〔あおる〕)
名詞 うは(上 )-
うへ(上 )-
不詳語である。
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「あざ/あぜ(交)」(&z)
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名詞 あざ(交 )-あざぬ( )-あざなふ(糾ふ)〔あざ(交)+なふ(綯ふ)〕
-あざふ(糾ざふ)-あざはふ
-あざはる(もつれあう/からみあう/交叉する)
正倉院の「あぜくら(校倉)」作りで知られる「あざ/あぜ」とされる。四方の壁を三角形に製材した木材を組み上げて作る耐久性と乾湿への抵抗に優れた工法とされるが、この「あぜくら」が和語であることは和人の発明か。だが「あぜ」は不明語である。「なは(縄)をなふ(綯ふ)」と「(なはを)”あざ”なふ」とには違いもあるに違いない。「あざ/あぜ」は「あ+さ/せ」か、「まず/まぜ(交)」との関係はないか。
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「あざ(痣)」(&z)
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名詞 あざ(痣 )-あざく(戯ざく)-あざける(嘲る)
-あざる(戯ざる)〔取り乱し騒ぐ〕
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「あす(生す)、ある(生る)、ある(有る)、ある(露る)、ある(新る)、ある(荒る)」
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あ(生)-あす(生す)-あさす(生さす)-あさせる
-あせる(生せる)-あせらる
-ある(生る)-あらす(生らす)-あらせる-あらせらる-あらせられる
-ある(有る)
-ある(露る)-あらふ(露らふ)-あらはす
-あらはふ
-あらはる-あらはれる
-ある(新る)-あらく(新らく)
-あらす(新らす)
-あらつ(新らつ)-あらたむ-あらたまる(新たむ・改たむ)
-あらためる-あらためらる-あらためられる
-あらふ(新らふ)-あらはす-あらはせる-あらはせらる-あらはせられる(洗ふ)
-あらはる-あらはれる
-ある(荒る)-あらく(荒らく)-あらかふ
-あらける
-あらぐ(荒らぐ)-あらがふ
-あらげる
-あらす(荒らす)-あらさす-あらさせる
-あらさる-あらされる
-あらそふ-あらそはす-あらそはせる(争ふ)
-あらぶ(荒らぶ)-あらびる
-あらぶる
-あれぶ(荒れぶ)
-あれる(荒れる)
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さ( )-さる(晒る)-さらす(晒らす)-さらさる-さらされる 「さら(新*更)」(s-&相通語)
わ( )-わる(割る)-わらす(割らす)-あらける
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「ある」ということは、無から有を生ずる(「ある生」)ということだけでなく、隠されていたものが露わになることをも言い(「ある露」)、それは同時に新しいものであり(「ある新」)、生まれたものは存在することになり(「ある有」)、新しいものはまだ洗練されておらず粗である(「ある荒」)、という一連の事象が和語では一拍語「あ」で把握されている。
ところで、この「あ」「ある」は、和語に珍しい本来のア行語であろうか。おそらくそうではなく、現在は確認されていない「わす」「わる」など、ワ行語の(w-&)相通語と考えられる。そのことは最後に「さる-さらす」の(s-&相通語)が見られ、さらに二拍語「あら(新)」の縁語に、「さらち更地」「さらゆ新湯」などと言うときの「さら(更*新)」があることによって予想される。前記の「わす」「わる」の存在はまだ確認されないが、「わる→さる→ある」と変化してきたものと考えられる。この型の変化は「わく(分く)」→「さく(裂く)」→「あく(開く)」のように少なくない。つまり上記の「ある」は、おそらく万年単位の昔の「わる」から「さる」「ある」と変化してきた最後の新語である。
上記の「あす(生す)、ある(生る)、ある(新る)」などと縁語関係にあるワ行語としては、”若さと若さゆえの愚行”を言うワ行縁語群がある。この点については本稿で別にまとめて述べる。
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「あす(浅す)、うす(薄)、おそ(遅)」(&s)
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あ( )-あす(浅す)-あさむ(浅さむ)「あさはか、あさまし」
-あせる(褪せる)
名詞 うす(薄 )-うすむ(薄すむ)-うすまる「うすし薄」
-うすめる-うすめらる-うすめられる
-うする-うすらぐ
-うすれる
おそ(遅 )「おそし遅」「おくる(遅る/送る/(見)送る)」
この三語は、話者感覚として(&s)縁語としてひとつに括ることができるであろう。距離に深みがないという点で「あさ、うす」はいいとして「おそ」はやや離れているが、これは先行く人に遅れまいとしてその背にぴったりついている様を思わせる。
日国「あさし」の語源説欄に「アは発語。サシはサシ(狭)の義〔大言海〕」が見えるが、考え過ぎである。
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「あさる(漁る)」
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あ( )-あす(漁す)-あさる(漁さる)
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「あす(満す)(&s)」
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あ( )-あす(満す)
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「あた(敵)、あだ(仇)」(&t/&d)
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名詞 あた(敵た)-あたく(敵たく)-あたける「あたし敵シ」
-あたす(敵たす)
-あたぬ(敵たぬ)-あたなふ「あたなふ寇」〔害をなす〕
-あたふ(敵たふ)
-あたむ(敵たむ)-あたまる
あだ(仇だ)-あだく(仇だく)「あだし仇シ」
-あだす(仇だす)〔「ふみあだす」-踏んでばらばらにする〕
-あだふ(仇だふ)
「あた/あだ(敵*仇)」の動詞化で「敵対する、害をなす」意をもつ。日国「あだ仇」の語源説欄には「アタル(当)の語根〔和句解・日本釈名・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健〕」説が見えるほか、「あつ当-あたる/あてる」の名詞形とする説がある。
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「あた(熱)」(&t)
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名詞 あた(熱た)-あたつ(熱たつ)-あたたむ-あたたまる「あたたか暖、あたみ熱海」
-あたためる
-あつく(熱つく)-あつかふ(悶熱)「あつし(熱し/暑し)」
-あつゆ(篤つゆ)「あつyeひと」
-あつる(暑つる)
あち(熱ち)「あちち!」
あつ(熱つ)「あつっ!あつつ!」「あつし」
あゆ(熟ゆ)〔二拍動詞か〕
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いた(痛た)-いたむ(痛たむ)-いたます「いたし、いたまし(痛まし)」
-いためる-いためらる-いためられる
いて(痛て)「いてて!」
「あつ」にはいろいろあるが、ここでは”熱”である。「あつし」は、熱いものに触れたときの叫び声「あつっ!」に由来するか。そうであれば「いたっ!、いたし痛」との(&t)縁語の可能性があり、まとめられるであろう。
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「あふ(合ふ/会ふ/逢ふ/遭ふ/遇ふ/和ふ/虀ふ)」(&h)
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あ( )-あふ(合ふ)-あはす(合はす)-あはさす-あはさせる-あはさせらる-あはさせられる
-あはさる-あはされる
-あはせる-あはせらる-あはせられる
-あはふ(合はふ)「あはひ間」
-あへす(合へす)
-あへる(合へる)「和へ(虀へ)物」
ア接語と見られるも「ふ」は不詳である。複合語に「しあふ試合、であふ出会、にあふ似合、みあふ見合、yiあふ射合」などがある。
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「あふ(饗ふ)」(&h)
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あ( )-あふ(饗ふ)〔饗応する〕「”あへ”のこと(饗の事)」
これはおそらく{あは(粟)」「いひ(飯)」などと(&h)縁語をつくると思われる。「あへのこと」は能登の農家で毎年新暦十二月五日行われている神事で、収穫を神に感謝するため神を家の中に招き入れて饗応する。
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「あふ(敢ふ)」(&h)
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あ( )-あふ(敢ふ)
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「あま(甘)、あめ(飴)」(&m)
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名詞 あま(甘 )-あまゆ(甘まゆ)-あまyeる「あまし甘、あめ飴」
-あまやく-あまやかす
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「あむ(編む)」(&m)
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あ( )-あむ(編む)-あます(編ます)-あませる「あみ網」
-あまる(編まる)-あまれる
「あむ(編む)」は、蔓や竹ひごで編んで作った「み(箕)」のア接語「あみ網(あ+み箕)」の動詞化、或いは「あみ」のもとの動詞と見られる。後に接頭語の「あ」が「あみ網」の意をとり込んで「あご網子」「あじろ網代」などと一人歩きを始めた(み→あみ→あ)。類語に「こ(籠)」があり、「こ」は入れ物、「み」は”ふるひ篩”として落ち着いたか。
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「あゆ(零ゆ)」(&y)
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あ( )-あゆ(零ゆ)-あやす(零やす)-あやしむ「あやし(怪シ)」
-あやぶ(零やぶ)-あやぶむ「あやふし(危ふシ)」
-あやむ(誤やむ)-あやまつ〔過誤〕
-あやまる〔過誤・謝罪〕
-あやめる「誤める、危める、殺める」
-あyeす(零yeす)「あyeか」
-あyeる(零yeる)
日国によれば「あゆ-あやす(零ゆ)」は「血や汗などをしたたらす」、「あyeか」は「(血が)こぼれ落ちんばかり”の意という。日国の「あやうい」の語源説欄には「動詞アユ・アヤス(零)のアヤを語根とする形容詞〔山彦冊子〕」説が見える。用例は見つからないが、「あゆ」は、「(血を)したたらす」ではなく、「あyeか」で言うように今にも「したたりそうである、こぼれ落ちそうである」と見る。そうとすればこれらと「あやす、あやむ/あやぶ、あやふし」が意味の上で繋がってくると思われる。
「あやまる(誤る)」と「あやまる(謝る)」は『「誤る」から「誤りを認める、誤りを許すことを請う」意に転じたものと思われる』と、同語としている。もちろん四拍語「あやまる」に二つはない。
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「あゆ(肖ゆ)」(&y)
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あ( )-あゆ(肖ゆ)-あやく(肖やく)-あやかる〔似る〕
-あyeる(肖yeる)
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「あゆ(熟ゆ)」(&y)
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あ( )-あゆ(熟ゆ)
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「あ(足)、ある(足る)、あるく(歩く)」
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あ(足)-ある(足る)-ありく(歩りく)
-あるく(歩るく)-あるかす-あるかせる
-あるける
-さるく(歩るく)(&-s相通形)
日国の「あるく」の語源説欄には「あ」を「足」とする説がいくつか見られるが、「あるく」の「あ」は一般に「あ(足)」と考えられている。これには筆者も同意見である。この「あ」が、最も一般的な動詞語尾「る」をとって、二拍動詞「ある(足る)」を作った。やがて「ある(足る)」は、三拍動詞「ありく」「あるく」をハネ出した。意味としては、力を込めて直線的に前進することであろう。ところが二拍動詞「ある」には、ほかに「有る」「生る」「新る」「荒る」などがあって生存競争が激しく「ある(足る)」が生き残ることはできなかった。「歩行する」の意味では「ある(足る)」は消滅したが、その代わりに次世代形の「ありく、あるく」を今日に残したと考えられる。
ここで興味深いのは、三拍動詞「あるく」の成立時期の問題である。「あし(足*脚)」の本来の和語は、水草の「あし(葦)」も同様であるが、一拍語「し」であり(別に述べる)、それが接頭語「あ」をとって「あし」と長語化し、さらに時代が下ると接頭語の「あ」が足の意味をのっとった。従って三拍動詞「あるく」は、本来の「し」が「し→あし→あ」と変化し、さらにその「あ(足*脚)」が「あ→ある→あるく」と長語化した後の語と考えられるのである。それぞれの実年代については今のところ特定できないが、原初の「し」の時代からはおそらく万年単位の年数を経た後の姿であるであろう。
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「あわ(泡*沫)」(&w)
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名詞 あわ(泡 )-あわつ(慌わつ)-あわてる「あわたたし(泡立*慌)」
いわ( )-いわく(驚愕く)〔驚き慌てる〕
日国「あわてる」の語誌欄に『「あわたたし(慌)」と同系語で、「泡」を活用させた語と考えられるが、成立過程は不明。第二音節の仮名遣いは「わ」』とあり、これに従って上図を作ってみたもの。
「あわつ」「いわく」とも日本書紀に登場する。両語は意味がよく似ており、しかも(&w)縁語関係にあると見られるところから「あわ(泡)」を含むもう少し整った縁語群の存在が考えられる。
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● ● <いいい> ● ●
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「いざす(誘す)、いざぬ(誘ぬ)」
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いざ( )-いざす(誘ざす)
-いざぬ(誘ざぬ)-いざなふ(誘ふ)
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「いさつ(哭つ)、いさふ(叱ふ)、いすすく/うすすく、いそぐ(急そぐ)」(&s)
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名詞 いさ(哭 )-いさつ(哭さつ)-いさちる(哭泣)
-いさふ(叱さふ)
-いさむ(勇さむ)「いさまし(勇まシ)」
-いさゆ(勇さゆ)-いさよふ/いざよふ
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いす( )- -いすすく〔そわそわする、驚き騒ぐ〕
うす( )- -うすすく〔そわそわする、驚き騒ぐ〕
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いそ( )-いそぐ(急そぐ)-いそがす-いそがせる「いそいそ」
-いそがる-いそがれる「いそがし忙、いそし」
-いそす(勤そす)-いそしむ
-いそふ(争そふ)
はなはだまとまりに欠ける感がする語群であるが、これらからは人の静的な姿とは反対の力み、勇み、急ぎ、争う姿が見てとれる。その印象が発生するもとは子音の(&s)コンビであろう。模写語「いそいそ」である。
「いすすく」は古事記と播磨風土記に一度だけ現れる課題の多い語である。日国は「驚き騒ぐ。あわてる」と語釈する。同じく古文にただ一度しか出ない難語のひとつに祝詞大殿祭に登場する「いすろこふ」がある。この場合文脈から比較的見当がつけやすく「荒れすさぶ、さわぐ、勇みふるう」などと解釈されているが、「いす/うす」はこの(&s)縁語と見られる。「すく」が課題である。次項の「いそぐ」も(&s)縁語であろう。
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「いた(至)、いち(著)、いと(甚)」(&t)
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いた(至 )- -いただく「いただき頂」
-いなだく「いなだき頂」(t-n相通形)
-いたす(致たす)-いたさる-いたされる
-いたる(至たる)-いたらす-いたらせる
いち(著 )「いちしるし」
いと(甚 )
”ひときわ、はなはだ、きわめて”といった一線を越えた優れたものやさまをいう(&t)縁語群である。
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「いぢ(苛)」(&d)
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いぢ(苛ぢ)-いぢく(苛ぢく)-いぢくる
-いぢける「いぢいぢ」
-いぢむ(苛ぢむ)-いぢめる-いぢめらる-いぢめられる
-いぢる(苛ぢる)-いぢらる-いぢられる「いぢらし」
「いぢらし」が「いぢめたい」の意であればすっきりするのであるが、さまざまな解釈が可能である。「いぢわる意地悪」はこれか。
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「いつ(凍つ)」(&t)
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い( )-いつ(凍つ)-いてる(凍てる)
「凍てつく」の通り不活発な語である。「いつ凍-いてる」を「いたし(痛し)」に関係づけることはできればかなり展望が開けるのであるが無理筋のようである。イ接語「い+つ(凍)」であろう。
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「いつく(傳く)、うつく(傳く)」(&t)
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いた( )- -いたつく(労つく)「いたつき(労)」
-いたはる(労はる)-いたはらる-いたはられる
いつ( )-いつく(傳育く) -いつくしむ
いと( ) -いとしむ(愛しむ)
-いとふ( )-いとはる
うつ( )-うつく(傳助く) -うつくしむ「うつくし(美シ)」
おそらく現代語の感覚で言う「いつくしむ」の意を核とするであろう(&t)縁語群である。「いたはし労」「いたひけなし(幼気なし)」「いつきかしづく(斎傅*愛育)」「いとこ愛子」「いとはし/いとほし愛ほシ」「いとま暇」「いとし(愛)」など、整理の必要がある。
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「いゆ(癒ゆ)」(&y)
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い( )-いゆ(癒ゆ)-いやす(癒やす)-いやさる-いやされる
-いyeる(癒yeる)
イ接語であろうが「ゆ」が不明である。
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「いら(苛)」
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いら(苛ら)-いらす(苛らす)「いらいら」
-いらつ(苛らつ)
-いらふ(苛らふ)
-いらる(苛らる)-いららぐ
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「いる(入)」
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い( )-いる(入る)-いらす(入らす/貸らす)「いらしもの利息、いらしのいね貸稲、いらしのおほちから貸税」
-いらふ(入らふ/借らふ)
-いらる(入らる)「いりあひ入会」
-いれる(入れる)-いれらる-いれられる
~はいる(は入る)-はいらす-はいらせる-はいらせらる-はいらせられる(ハ接)
-はいらる-はいられる
理屈上「いる」は「い」に意味があり、相通関係の多い「ゐ」に相当語が見当たらないので、他の相通関係がなければ解決は行きどまりである。日国によれば「はいる」は、中古語で「はひいる(這ひ入る)」の変化した語という。
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「いる(要る)」
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い( )-いる(要る)〔必要とする〕
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「いる(鋳る)、いる(煎る)」
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い(鋳)-いる(鋳る)「いもの鋳物」
い(煎)-いる(煎る)-いらる(煎らる)-いられる「豆を煎る」
強熱する意で縁語であろうが、「い」が不明である。日国に「イキレル(熱)の転〔名言通〕」がある。
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「いる(沃る)」
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い( )-いる(沃る)〔水を浴びせる意という〕
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● ● <ううう> ● ●
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う/え(得)(&u/&e)
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う( )-うる(得る)
え( )-える(得る)-えらる(得らる)-えられる
不明語である。母音語とは考えられないが、現存のワ行二拍動詞の中には直接結びつきそうなものは見当たらない。
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「うく(浮く)、うく(受く)」(&k)
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う(上)-うく(浮く)-うかす(浮かす)-うかせる(受く)
-うかぶ(浮かぶ)-うかばす-うかばせる
-うかばる-うかばれる
-うかべる-うかべらる-うかべられる
-うかむ(浮かむ)
-うかる(浮かる)-うかれる「うかれひと浮人/浮浪、うかれめ遊行女婦」
-うくる(受くる)
-うけふ(誓けふ)「うけひ誓約」
-うける(受ける)
「うく浮」と「うく受」は同語と考えられる。水に浮かんでいるものは水が受けとめたものである。後項の「く」が分からない。「う」は「うへ上」の「う」とすれば珍しい母音語かとも思われる。「うけふ/うけひ」については通説に従ってここにおいた。
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「うべ/むべ(宜*諾)」
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名詞 うべ(宜*諾)-うべなふ/うべなむ
むべ(宜*諾)-むべなふ/むべなむ
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「うむ(埋む)」
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う( )-うむ(埋む)-うまる(埋まる)
-うめる(埋める)-うめらる-うめられる
-うもる(埋もる)-うもれる「うもれき埋れ木」
-うづ(埋づ)-うづむ(埋づむ)-うづまる
-うづめる-うづめらる-うづめられる
-うづもる-うづもれる
ワ行語「wuむ」か。「うづむ」について、日国語源説欄には「アツム(聚)の転声〔和語私臆鈔〕」「ウヘ(上)に土をツム(積)か〔和句解〕」があり、魅力的である。だがこの説によると、「うむ-うまる/うめる」の説明がつかなくなる。両者を別語と見ると、「う」の解釈を迫られる。不明語である。
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「うる(賣る)(&r)
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う( )-うる(売る)-うらす(売らす)-うらせる
-うらる(売らる)-うられる
-うれる(売れる)
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● ● <えええ> ● ●
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● ● <おおお> ● ●
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「おく(起く/熾く)」(&k)
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お( )-おく(起く)-おきる(起きる)
-おこす(起こす)-おこさる-おこされる
-おこる(起こる)
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「おく(置く)、おす(押す)、おす(推す)、おつ(落つ)、おふ(覆ふ)、おる(降る)」
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お( )-おく(置く)-おかす(置かす)-おかせる-おかせらる-おかせられる
-おかる(置かる)-おかれる
-おきつ(掟きつ)「おきて掟」
-おこつ(怠こつ)-おこたる
-おす(推す)-おさす(推さす)-おさせる-おさせらる
-おさる(推さる)-おされる
-おつ(落つ)-おちる(落ちる)「おとがひ頤/乙貝、おとひと弟人、おとひめ乙姫、おとむすめ妹娘」
-おつる(落つる)
-おとす(落とす)-おとさす-おとさせる-おとさせらる-おとさせられる
-おとさる-おとされる
-おとしむ-おとしめる-おとしめらる-おとしめられる「おとしむ貶」
-おとる(劣とる)-おとろふ-おとろへる「おとろふ衰」
-おふ(覆ふ)-おほふ(覆ほふ)-おほはす-おほはせる
-おほはる-おほはれる
-おる(降る)-おりる(降りる)「おろすwu(降据)」
-おるる(降るる)
-おろす(降ろす)-おろさす-おろさせる-おろさせらる-おろさせられる
-おろさる-おろされる
「上から下へ」を言う「お」縁語群である。上から下へ力が及ぶ様をさまざまに言い分けている。この下を言う「お」は、「うへ(上)」の「う」と対をなし、母音一拍語の存在例となるかどうか。
「おきつ-おきて掟」は他にもって行くところがないので試みにここに置いたもの。
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「おく(恐く)、おす(恐す)、おず(悍ず)、おつ(落つ)、おづ(怖づ)、おふ(追ふ)、おぶ(怖ぶ)、おむ(怖む)、おゆ(老ゆ)、おる(怖る)」『恐怖の「お」動詞』
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お(恐)-おく(恐く)-おくす(臆くす)-おくする「おめずおくせず」
-おくる(遅くる)-おくらす-おくらせる(遅る/送る)
-おくらる-おくられる
-おくれる
-おこつ(怠こつ)-おこたる
-おこつく
-おこつる
-おこす(遣こす)「言い遣す、思ひ遣す、見遣す」
-おこる(遣こる)
-おす(押す)-おさふ(押さふ)-おさへる-おさへらる-おさへられる「おし(押機)」
-おさる(押さる)-おされる
-おそふ(襲そふ)-おそはす-おそはせる
-おそはる-おそはれる
-おそる(恐そる)-おそれる「おそろし恐」
-おず(悍ず)-おぞむ(悍ぞむ)「おずし/おぞし悍」「おぞまし悍」
-おつ(落つ)-おちる(落ちる)
-おつる(落つる)
-おとす(落とす)-おとさる-おとされる
-おとしむ-おとしめる(貶む)
-おとる(落とる)-おとろふ-おとろへる「おとろし/おそろし」
-おづ(怖づ)-おぢく(怖ぢく)-おぢける(懼づ)「おづおづ、おどおど」
-おぢる(怖ぢる)
-おづる(怖づる)
-おどく(脅どく)-おどかす-おどかさる-おどかされる
-おどす(脅どす)-おどさる-おどされる
-おふ(追ふ)-おはす(追はす)-おはさす
-おはせる-おはせらる-おはせられる
-おはる(追はる)-おはれる
-おぶ(怖ぶ)-おびゆ(怯びゆ)-おびやく-おびやかす-おびやかさる-おびやかされる
-おびやす
-おびyeる
-おびる(怯びる)
-おむ(怖む)-おめる(怖める)「おめずおくせず」「おめおめ」
-おゆ(老ゆ)-おyiる(老yiる)
-およす(老よす)
-おる(怖る)-おらぶ(哭らぶ)「おろおろ」
ここの一拍語「お」は、暴風や噴火や地震や猛獣や外敵や、何か力強いものに対する恐れの気持ちを言う語のようである。『恐怖の「お」』である。おそらくワ行語「を」の転であろう。これには「怖、恐、怯、臆、懼」などさまざまな漢字が当てられているが、意味するところの違いはよく分からない。二拍目の動詞語尾「く、す、ず、づ、ふ、ぶ、む、ゆ、る」が二次的な意味の分化、或いは差異を表現しているはずである。正確な意味を知るには、縁語関係を押さえた上で、やはり用例の比較分析によることになるであろう。よく知られた成句「おめずおくせず」から見ても、「おむ」と「おく」の間にはやはりそれなりの違いがあると考えられる。
「おく/おぐ」「おす/おず」「おつ/おづ」「おふ/おぶ」は対をなして、時代の経過につれて恐怖度が増し、それを示すために濁音化したのであろうか。「おyi(老)」は万葉歌から見てもやはり「おそれ」と捉えられていたように思われる。
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「おだ(穏だ)」(&d)
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名詞 おだ(穏だ)-おだふ(穏だふ)「おだし(穏シ)、おだひ/おだひし(穏ひシ)、おだやか穏」
-おだむ(穏だむ)
「おだし、おだひか、おだやか、おだゐか」などさまざまな語尾をとる「おだ」であるが、(&d)語には少なからぬ模写語語がある。「おだ」が表わすところは、「いぢいぢ、うだうだ、うぢうぢ、うづうづ、おづおづ、おどおど」などを視野に入れて考える必要があるようである。
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「おふ(生ふ)、おゆ(生ゆ)」(&h/&y)
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お( )-おふ(生ふ)-おはる(生はる)
-おふる(生ふる)
-おへる(生へる)
-おほす(生ほす)
-おゆ(生ゆ)-おやす(生やす)(「おやかす」の形も)
この「お」はおそらく「を」と思われる。
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「おふ(負う)、おぶ(帯ぶ)」(&b)
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お( )-おふ(負ふ)-おはす(負はす)-おはせる-おはせらる-おはせられる
-おはる(負はる)-おはれる
-おぶ(帯ぶ)-おばす(帯ばす)「おび帯」
-おびる(帯びる)
”赤ん坊を帯で負ふ”と言うが、「おふ(負ふ)」は帯で負うことを意味しており、両語はもとは一語と思われる。
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完