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● ● <かかか> ● ●
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「か(赤)、かく(赤く)、かぐ(赤ぐ)、あく(あ赤)、いく(い赤)、おく(お赤)」(ka/&k)
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か(赤)-かく(赤く)-かかゆ(赤かゆ)-かかやく(赫かやく*輝かやく)
-かかよふ(赫かよふ)
-かぐ(赤ぐ)-かがす(赤がす)
-かがゆ(赤がゆ)-かがやく(赫がやく*輝がやく)
-かがよふ(赫がよふ)
-かがる(赤がる)「かがり(赫火)」〔「かがり(篝)」は後世の工作物か〕
-かぎる(赤ぎる)-かぎろふ「かぎろひ、たまかぎる」
-かぐる(赤ぐる)
-かげる(赤げる)-かげらす-かげらせる「ひかげるみや日輝宮」
-かげらふ
く(赤)~あく(あ赤)-あかす(赤かす)-あかさる-あかされる(明かす)「あか赤、あき秋、あけ朱」(ア接)
-あかぶ(赤かぶ)-あかばむ
-あかむ(赤かむ)-あかまる
-あかめる
-あかる(赤かる)-あからぶ
-あからむ-あからめる
-あかるむ
-あきる(明きる)-あきらむ-あきらめる(諦らむ)
-あける(明ける)
~いく(い赤)-いかる(怒かる)-いからす-いからせる(赤くなる)(イ接)
-いきむ(熱きむ)-いきまふ-いきまはる
-いきる(熱きる)-いきれる
-いくぶ(憤くぶ)
-いくむ(憤くむ)「いくみうらむ」
-いこる(熾こる)
-しかる(叱かる)-しからる-しかられる(「いかる」の&-s相通語)
~おく(お赤)-おきる(熾きる)(熾く)「おきび熾火」(オ接)
-おこす(熾こす)「ひおこし火熾」
-おこる(怒こる)-おこらす-おこらせる
-おこらる-おこられる
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われわれに身近な二拍語「あか(赤)」は、本来は一拍語「か(赤)」である。「あか」はア接語である。そのことは唱歌『夕日』(葛原しげる作詞)の「まっかっかっか 空の雲 みんなのお顔も まっかっか」に端的に現われているであろう。「まっか」は「まか(真赤)」の強調形であって「まあか」の省略形ではない。「まくろ-まっくろ、ましろ-まっしろ」と同断である。またこの「か」は渡り語「か/き/く/け」のひとつであり、他にア接語「あき(秋)、あく、あけ(赤*朱*明)」などを作って今日に残っている。”赤”を意味するこのカ行渡り語は「か/き/く/け/こ」の全段にわたって微妙な意味の違いを見せながら広がっている。
「あき秋」は、「あく」の名詞形であり、「き(赤)」が本意である。全山紅葉のときというに尽きる。山が真っ赤になるときが「あき」である。和人はこれを愛でた。日国の語源説欄に「草木が赤くなり、稲がアカラム(熟)ことから〔和句解・日本釈名・古事記伝・言元梯・菊池俗言考・大言海・日本語源=賀茂百樹〕」とあり、これが正解であろう。
和語ではこの「か(赤)」をもとにした「かがゆ、かぎゆ、かがる、かげる」などが光り輝くさまを表現している。「こかげ(木陰)」「ひとかげ(人影)」は光のあやを言い、「かがみ(影見*鏡)」は人の「かげ」を見るものである。日国「かげとも」の冒頭に『「影(かげ)つ面(おも)」の変化した語。「かげ」は光の意』との特記がある。とまれ「かげ」は光である。
ところが本来の明るい光線を言う「かげ(影)」はいつか「ひかり(光)」にとって代わられ、「かげ(影)」は逆に明るい光がつくる黒いお化けを指すようになってしまった。「ひかり(光)」は、そのもとになる模写語「ぴかぴか」が示唆するように、本来、光を受けたものが発する光沢、反射光を意味したであろう。方言もそのことを示している。それがいつか「かげ」を追い出して光線を意味するようになった経緯は今となっては知る由もない。「yiなびかり(稲光)」があるところから、稲の到来と前後するのかも知れない。仏教の灯明と闇に関係するかも知れない。
この(&k)縁語群は「加熱」すると「赤く」なって「発熱」し「発火」するに至る一連の事態をも表わす。「いかる(しかる)怒」「おこる怒」は人が発熱し発火した状態を言う。ともとは「か/き/く/け/こ」渡り語のひとつであったであろう。ただ「いかる/おこる怒」は「き(気)」縁語の線も捨てきれず、そこでも触れる。
なお「あく(開く)-あける」は、上記「あく(赤く)」とは全く別語で、「わく(分く)-わける」の相通語であり、その箇所で扱う。
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「か/き/け(着)、かく(着く)、かす(着す)、かる(着る)、きす(着す)、きる(着る)、けす(着す)、ける(着る、はく(佩く)」
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か(着)-かく(着く)⇒はく(穿*佩*履)(下記)
-かす(着す)
-かる(着る)
き(着)-きす(着す)-きさす(着さす)-きさせる「きほし着欲、きもの着物」
-きせす(着せす)
-きせる(着せる)-きせらる-きせられる
-きそふ(着そふ)
-きる(着る)-きらる(着らる)-きられる
-きれる(着れる)
け(着)-けす(着す)「(神の)みけし御着」
-ける(着る)
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は(着)-はく(佩く)-はかす(佩かす)「みはかし(御佩刀)」〔(k-h)相通〕
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ここで最後の「は-はく(佩く)」について注記しておきたい。
「は、ひ、ふ、へ、ほ」のハ行音(拍)は、勿論いくつかの意味をもっているわけであるが、その中で別項の動詞図に見られるように広く”物と物とを引き離す”という意味をもっている。例えば「はぐ(剥ぐ)-はがす」である。ところが、動詞図ではすぐその前に上記の「はく(穿く*佩く*履く)」が出てくる。これではまるで反対で、ハ行音は「”物と物とを引き離す”という意味をもっている」という説明が説得力をもたなくなる。
だがここで和語における相通現象の登場で、上記の「かく(着く)」は(k-h)相通によって「はく」に変形し、それがハ行語として”物と物とを引き離す”語群の中に紛れ込んでいたのである。こうして「はぐ剥」語群の中に「はく(穿く)」語があることの不可解が解消される。本来的に無関係なのである。因みに「かく(着く)」は、消滅して今日に残らない。これは恐らく「かく(着く)」の「かく(掛く*懸く*舁く)」との意味的な近さから、自身は「はく」に姿を変えて生き残ったのではないだろうか。「かく(着く)」と「かく(掛く)」は本来同語であろう。
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「か/く/け(食*口*餉)」(ka/ku/ke)
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か(食)-「ウ接:うか/うけ(食);うかのめ(女)、うかのみたま(御魂)」
き( )
く(口)-くつ「くち口」
-くふ(食ふ)-くはす(食はす)-くはさす-くはさせる
-くはせる-くはせらる-くはせられる
-くはふ(咥へる)-くははる-くははらす-くははらせる(加ははる)
-くはへる-くはへらる-くはへられる(加はへる)
-くる(食る)-くらふ(喰らふ)-くらはす-くらはせる
け(食)-「うけ、みけ(御食、御饌)、みけひと御食人、けこと餔;あさげ朝餉xひるげ昼餉xゆふげ夕餉」
こ( )
食べることを言うカ行渡り語である。食物を食べる「くち(口)」もここに入っている。「か」と「け」はウ接語となって残っている。このカ行渡り語は和人の食べることに関するもっとも古い語であるように思われる。
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「かく(欠く)、きゆ(消ゆ)、きる(消る)、けす(消す)、けつ(消つ)、ける(消る)」
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か(欠)-かく(欠く)-かかす(欠かす)
-かくす(隠くす)-かくさす-かくさせる
-かくさふ
-かくさる-かくされる
-かくせる
-かくふ(囲くふ)-かくはす-かくはせる
-かくはる-かくはれる
-かくむ(囲くむ)-かくまふ-かくまはる-かくまはれる
-かくまる-かくまれる
-かくる(隠くる)-かくらふ
-かくれる
-かくろふ
-かける(欠ける)
-かこふ(囲こふ)-かこはす-かこはせる
-かこはる-かこはれる
-かこむ(囲こむ)-かこます-かこませる
-かこまる-かこまれる
き(消)-きゆ(消ゆ)-きyeる(消yeる)「きyewuす(消失)、きyeのこる(消残)」
-きる(消る)
く(消)「立山の雪しく(消)らしも」(m4024)
け(消)-けす(消す)-けさる(消さる)-けされる「けのこる、ゆきげ雪消」
-けつ(消つ)
-ける(消る)「たまげる」
こ( )
物や物かげが視界から見えなくなることを言うであろう。「欠く-かける」は、現在では茶碗の縁がこぼれたり、チームのメンバーが居なくなったり、特に一部分が欠損することに使われるが、これは新しい使い方であろう。
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「かく(駆く)、かつ(徒つ)、かる(駆る)、はす(走す)、わす(走す)、きす(来す)、きつ(来つ)、くゆ(蹴ゆ)、くる(来る)、くwu(蹴wu)、ける(蹴る)、こす(越す)、こゆ(越ゆ)、こる(来る)、こwu(越wu)
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か(駆)-かく(駆く)-かくる(駆くる)「翔る」
-かけす(駆けす)-かけさす-かけさせる
-かける(駆ける)-かけらふ「(空を)かける翔」
-かす(駆す)(→「はす(走す)」)
-かつ(徒つ)「かちゆく、かちさむらひ徒侍、おかちまち御徒町」
-かる(駆る)-からす(駆らす)-からせる
-からる(駆らる)-かられる
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は( )-はす(走す)-はさす(走さす)-はささく「はしこし捷」(k-h相通形)
-はしる(走しる)-はしらす-はしらせる「はしりで/わしりで」
~さばしる(さ走る)(サ接)
~たばしる(た走る)(タ接)
-はする(走する)
-はせる(走せる)(馳す-馳せる)
わ( )-わす(走す)-わしす(走しる)(「はしる」の近世的異形という)
-わしる(走しる)
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き(来)-きす(来す)-きさす(来さす)
-きつ(来つ)-きたる(来たる)
く(蹴)-くゆ(蹴ゆ)-くゆる(蹴ゆる)
-くる(来る)「やって来る」
-くwu(蹴wu)-くゑる(蹴ゑる)「くゑはららかす蹴散」
け(蹴)-ける(蹴る)-けらる(蹴らる)-けられる
こ(越)-こす(越す)-こさす(越さす)-こさせる(来す、扈す、遣す)
-こさる(越さる)-こされる
-こゆ(越ゆ)-こyeる(越yeる)「ふしこye伏越」
-こる(来る)-こらる(来らる)-こられる
-こwu(越wu)-こゑる(越ゑる)「あごゑ(踞/足蹴)」
「足を交互に速く強く動かす」カ行渡り語である。鳥が空を「かける(翔る)」は漢語「飛翔」の影響か。
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「かく(掛く/懸く/舁く/賭く)、かす(架す)、かつ(担つ)、かる(掛る)」(kk)
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か(掛)-かく(掛く)=かかぐ(掲かぐ)-かかげる-かかげらる-かかげられる
-かかす(掛かす)
-かかふ(抱かふ)-かかはる
-かかへる-かかへらる-かかへられる
-かかる(掛かる)-かからふ(”罹患する”意も)「かからはし」
-かける(掛ける)-かけらる-かけられる(”賭ける”意も)
-かす(架す)
-かつ(担つ)-かたぐ(肩たぐ)-かたげる
-かつぐ(担つぐ)-かつがす-かつがせる「「かた肩」の縁語か」
-かつがる-かつがれる
-かる(掛る)=かがる(縢がる)
-からぐ(絡らぐ)-からがる「こんがらがる」
-からげる「(着物の裾を)からげる」
-からぶ(絡らぶ)
-からむ(絡らむ)-からます-からませる
-からまる-からまれる
-からめる-からめらる-からめられる
二拍動詞「かる(掛る)」は今日に伝わらなかった。
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「かく(掻く)、こく(扱く)」(kk)
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か( )-かく(掻く)-かかす(掻かす)-かかせる「(背中を)掻く、ひきかく/ひっかく、かきとる掻取」
-かかる(掻かる)-かかれる
~あがく(あ掻く)〔「あがく」は「足掻く」ではなく単なる前接語〕「あがかに」(ア接)
~いかく(い掻く)(イ接)
~みがく(み掻く)-みがかす-みがかせる「磨く」(ミ接)
-みがかる-みがかれる
~もがく(も掻く)「踠く」(モ接)
こ( )-こく(扱く)-こきる(扱きる)「yiねこき稲扱、こきばし扱箸」
~しごく(し扱く)-しごかる-しごかれる「扱く」(シ接)
~すごく(す扱く)(ス接)
「あがく」は、馬が「足掻く」のではなく、単なるア接語である。多数の類似のア接動詞が存在し、この列島に馬がもち込まれる遥か前から「あがく」の語はあったと考えられる。
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「かく(櫂く)、こぐ(漕ぐ)」(kk/kg)
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か( )-かく(櫂く)「かき/かい櫂」(「かこ楫子」「かぢ楫*梶」)
こ( )-こぐ(漕ぐ)-こがす(漕がす)-こがせる
舟を「かき/かい(櫂)」で「かく」のも「こぐ」のもいずれも舟を”前進させる”意であろう。左右の方向を決める作業ではない。「かこ」が舟の艫(とも)に立ち、中腰になって棒状の「かき櫂」を操ったであろう。「かぢ楫」は不詳である。今日「こぐ」と言えば自転車であるが、これは自転車をもち込んだ西洋人が尻を上げて中腰で走らせる姿を見てそう言うようになったのか、舟に座ってボートのように左右の両楫で漕ぐようになってからの「こぐ」を当てたのかは分からない。
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「か/き/く/け(気*香*酒)、かぐ(嗅ぐ)、かwu(香wu)、きる(霧る)」
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か(香)-かぐ(嗅ぐ)-かがす(嗅がす)-かがせる-かがせらる-かがせられる「か香」
-かがふ(香がふ)
-かがる(香がる)-かがれる
-かwu(香wu)-かをる(香をる)
き(気)-きる(霧る)-きらす(霧らす)「き気」「あまぎらす天霧、うちきらす打霧、かききらす掻霧」
-きらふ(霧らふ)「あまぎらふ天霧、たなぎらふ棚霧、みなきらふ水霧」「まぎらはし」
く( )~いく(生く)-いかす(生かす)-いかさる-いかされる(イ接)
-いかせる
-いかる(怒かる)
-いきむ(息きむ)
-いきる(生きる)
-いける(生ける)「花を活ける」「いけ池」
-いこふ(憩こふ)(息を継ぐ)
~おく(生く)-おこる(怒こる)(オ接)
け(気)-「けはひ(気配)」
こ( )
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か:「かぐはし香妙、かぜ風、あきのか秋香」
き:「き酒*気;いき息/いきのを息緒、くろき黒酒、しろき白酒、にはき庭酒、みき神酒、ゆき斎酒」
く:「くし酒;くしのかみ酒司、ことなぐし事無酒、ゑぐし笑酒、さけ酒/わささけ早稲酒」
け:「ゆげ湯気」「けきたなし;かみのけ神、しほけ塩気、ちのけ血気、ひとけ人気、ほけ火気」
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サ接:「さか/さけ酒〔複合語「さ+け気」で、本来は酒を香気として捉えていたと考えられる。「さ」は不詳であるが、昔から「さつき、さなぶり、さなへ、さをとめ」などの「さ」と考えられている〕」
二拍動詞「いく(生く)」は”息をする”意の一拍動詞「く」のイ接語「いく(息く)」である。この「く」は渡り語”か(香)、き(気)、け(酒)”のひとつである。和語では”生きるとは息をすること”であると明快である。
「いくたち生太刀、いくたま生玉、いくひ生日、いくやなぎ生柳、いくゆみや生弓矢、いくゐ生井」「いき/おき息、おきそ、おきながたらしひめ気長*息長*足姫」
気体、空気を言うカ行渡り語のうち今日でも「か/き/け(気)」はあらゆる場面で使われるが、「く」は「いく(息く、生く)」に残っている程度のようである。この「く」は単なる動詞語尾ではなく、これこそが語の意味を支えている。◆------------
「かさ(瘡)、かた(穢陋)、きた(汚穢)、くす(腐す)、くせ(臭せ)、くつ(朽つ)」(ks/kt)
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名詞 かさ(瘡 )「かさ瘡、いもかさ疱瘡、かさぶた瘡蓋」
かす(滓 )「かす滓*粕;はかす歯糟」
かた(穢陋)「かたなし(汚シ)」
きた(汚穢)「きたなし(汚シ)」
くさ(臭 )「くさし臭;くさ瘡、くろくさ黒瘡、みづくさ水瘡」
く( )-くす(腐す)-くさす(臭さす)-くささる-くさされる「くさ瘡、くさし臭、くそ屎*糞」
-くさむ(臭さむ)
-くさる(腐さる)-くさらす-くさらせる(t-s相通形)
くせ(臭せ)-くせむ(臭せむ)「くせもの曲者」
くそ(糞 )
く( )-くつ(朽つ)-くたす(朽たす)「しほくつ塩朽」「言い朽す」「くたかけ朽鶏、wuのはなくたし卯花腐」
-くたつ(朽たつ)「わが盛りいたく朽ちぬ雲に飛ぶ薬はむともまたをちめやも」
-くたる(朽たる)-くたれる「ねくたる寝腐、みくたる身腐」
-くちる(朽ちる)
こせ(瘡 )「こせ/こせかさ痘瘡)」
ア接:あか垢 「あかつく垢附;みづあか水垢、みみあか耳垢、めあか目垢、ゆあか湯垢」
あく灰汁「あくをけ灰汁桶」
あくた芥〔日国「あか垢」の語源説欄に『アクタ(芥)の約か〔万葉考〕』説が見える。〕
ヤ接:やくさむ〔病気になる〕
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有機物が腐敗し、悪臭を放ち、身体には瘡蓋ができる一連の状態を言うカ行渡り語である。二拍動詞は「くす」「くつ」の相通語ひとつで、他は縁語関係にある二拍名詞をあげてある。二拍名詞のほかに動詞形があったかも知れない。
「くさる-くさし-くそ」と見事につながっている。その時代、鹿一頭を解体しても大量の廃棄物がでるはずであるが、特別に処理されるわけもなく、放置されていたであろう。身体にできたおできは悪臭を放って重症化していったはずである。そのような状況をこの渡り語が表わしているであろう。
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「かさ(嵩)」(ks)
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名詞 かさ(嵩 )-かさぬ(重さぬ)-かさなる
-かさねる
-かさぶ(嵩さぶ)-かさばる
-かさむ(嵩さむ)
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「かず(数ず)、きず(傷ず)」(kz)
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か( )-かず(数ず)-かずふ(数ずふ)
-かずむ(数ずむ)-かずまふ
-かぞふ(数ぞふ)-かぞへる
き( )-きず(傷ず)〔「きざむ刻」は「きだむ段」の項に入れたが、ここに入ることも考えられる。〕
その昔、木の幹や泥壁に傷をつけて物を数えたり記録したりしたのではないかと考えられているが、それにもとづく(kz)縁語群である。
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「かざす(翳ざす)、かざる(飾ざる)」(kz)
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-かざす(翳ざす)-かざさる-かざされる「かざしあふぎ翳扇」
-かざる(飾ざる)-かざらす-かざらせる「かざりたち飾太刀」
-かざらふ
-かざらる-かざられる
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「かしこ(畏)」(ks)
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-かす( )-かしく(畏しく)-かしくむ-かしくまる
-かしこ(畏しこ)-かしこむ-かしこまる「かしこし(畏し)」
「さかし(賢し)/こざかし」はこの「かしこし」の語頭の「かし」のサ接語と見る。この二拍語「かし/かす」は不明語「かしまし(姦し)」との関連が予想される。おそらく”利発”或いは利発すぎる意の(ks)語「かし/かす」があって、一群の縁語を作っているであろう。当然時代につれて意味もずれてきて、例えば「かしまし」も単に「やかましい!」という非難語ではなく、前向きに評価する意であったであろう。
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「かしぐ(傾しぐ)」
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-かしぐ(傾しぐ)-かしげる「(首を)かしげる」
「かしら(頭)」の「かし」であろう。
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「かしふ(呪詛ふ)、かしる(呪詛る)」(ks)
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かし(呪詛)-かしふ(呪詛ふ)
-かしる(呪詛る)「かしり」
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「かす(貸す)、かふ(交ふ)、かゆ(換ゆ)、かる(借る)、くふ(交ふ)」
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か(交)-かす(貸す)-かせる(貸せる)
-かふ(交ふ)=かがふ「かがひ嬥歌」
-かはす(交はす)-かはさす-かはさせる「かはせ為替」(買ふ)
-かはさる-かはされる
-かはる(代はる)
-かへす(返へす)-かへさふ「たかへす/たがやす田返*耕」「くつがへす」
-かへさる-かへされる「ひるかへす翻」
-かへる(帰へる)-かへらふ「ひるかへる翻」「くつがへる」
-かへらす-かへらせる
-かゆ(換ゆ)-かyeる(換yeる)
-かる(借る)-かりる(借りる)
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く(交)-くふ(交ふ)-くはす(交はす)「でくはす(出交す)」
-くはふ(交はふ)
-くはる(交はる)
~あく(あ交)-あかふ(あ交ふ)(贖ふ)〔物を買う、金品と罪を交換する〕(ア接)
-あきす(あ交す)-あきさす(贉す)〔前金を払って買う〕(ア接)
-あきぬ(あ交ぬ)-あきなふ(商ふ)〔物を買う、金品と罪を交換する〕(ア接)
~あぐ(あ交)-あがぬ(あ交ぬ)-あがなふ(贖ふ)〔物を買う、金品と罪を交換する〕(ア接)
-あがふ(あ交ふ)(贖ふ)(ア接)
-たがふ(た交ふ)-たがへる(違ふ)「たがひ(違ひ)」(タ接)
-ちがふ(ち交ふ)-ちがへる(違ふ)「ちがひ(違ひ)」(チ接)
~おく(お交)-おきぬ(お交ぬ)-おきなふ(補ふ)(オ接)
-おきのる(賖る)〔掛け、後払いで買う〕(オ接)
-おこぬ(お交ぬ)-おこなふ(行ふ)〔(取引を)行う〕(オ接)
~おぐ(お交)-おぎぬ(お交ぬ)-おぎなふ(補ふ)(オ接)
~まく(ま交)-まくふ(ま交ふ)-まぐはふ「まぐはひ」(マ接)
-まぐはる(マ接)
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”交換する”意の語が集まっている。「貸す」と「借る」は、物々交換の両方向の片方だけを捉えていると考えられる。「あき/あきなひ商」「おきのる(賖る)」がここに入ればすっきりするのであるが、「き交」がないので悩ましい。しかしほかにもって行くところがないので、「き交」の存在を想定して取りあえずここにおいて置く。
上図では”交換する、商売する”意の一群の語を一拍語「か/く(交)」の接頭語つきの語として扱った。これはひとつの試みである。
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「かす(淅す)、かつ(浸つ)」
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か( )-かす(淅す)-かしく(炊しく)「かしみづ淅水、かしよね淅米」
-かしぐ(炊しぐ)
-かつ(浸つ)
今から1万6千年前、和人は土器を手に入れた。それによってそれまで「やく焼」だけであった調理の幅が格段に広がった。まず土器に水をいれて湯を「わかす沸」ことができるようになった。それ以前は、天然の湯か石を焼いて水溜りに放り込む以外に湯はなかった。次いで土器に水と食材をいれて「にる煮」ことと「たく炊」ことができるようになった。「たく炊」は穀類の粟や稗や米を水と共に加熱して「いひ飯」にすることであろう。「ゆづ湯*茹」は芋類や卵を湯に入れて加熱し食用に適するようにすることとする。ここで「やく焼」は古語であるが、「わく沸」「にる煮」「たく炊」「ゆづ茹」「むす蒸」「かしぐ」は土器の登場以降の新語のはずである。こうした作業の中で「かす(淅す)-かしく/かしぐ」「かつ(浸つ)」とは何をすることか。
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「かす(和す)、かつ(合つ)」(ks/kt)
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か( )-かす(和す)
-かつ(合つ)〔合わせる〕「"かて"て加へて」
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「かす(憔悴)」(ks)
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か( )-かす(憔悴)-かしく(憔悴く)-かしかむ「かしけゆく〔痩せこける〕」
-かじかむ(寒さで手足の指が動かなくなる)
-かしける「かしけゆく〔痩せこける〕」
-かじける
-かせる(悴せる)「かせくび悴首、かせさむらひ悴侍、かせやまひ悴病」
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「かす(幽す)、くす(掠す)」(ks)
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か( )-かす(幽す)-かすむ(霞すむ)-かすめる「かすか幽、かすむ霞-かすみ霞」「かすかす」
-かする(掠する)
-かすwu(掠すwu)-かすゐる(掠ゐる)
-かそぶ(掠そぶ)「かそけし」
く( )-くす(掠す)-くすぬ(掠すぬ)-くすねる「くすくす」
-くすむ(掠すむ)「くすみ」
こ( )-こそ( )「こそこそ」
(ks)模写語をもとにする語群と見られる。ここに「かすみ霞」が入るかどうか。「する(擦る/磨る)」意の「す」のカ接語「かする」、コ接語「こする」などとは別語である。
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「かた(堅)、きた(鍛)、きつ(緊つ)」(kt)
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名詞 かた(堅た)-かたす(固たす)「かた形、かつを鰹〔かた堅+を魚〕、かたし(堅し)」
-かたぬ(固たぬ)
-かたむ(固たむ)-かたまる-かたまらす-かたまらせる
-かたむる
-かためる-かためらる-かためられる
~すがた(す形 )(姿)
きた(鍛た)-きたす(鍛たす)
-きたふ(鍛たふ)-きたへる-きたへらる-きたへられる
-きたむ(鍛たむ)-きたます〔懲らしめる〕「うちきたむ打鍛」
きつ(緊つ)「きつし(緊し)」
「堅い」ものには「かた/かたち形」がある、と考えられる。「きたふ-きたへる」は、筋肉を堅くする意と見てここに置く。まだ鉄がなかった時代、和人の世にも軟弱な若者がいて、彼らを鍛える必要があったということになる。
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「かだふ(奸ふ)、かだむ(奸む)、かづす(誘す)、かどふ(誘ふ)、かどむ(廉む)、かどる(制る)」(kd)
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かづ( )-かだふ(奸だふ)-かだはむ
-かだむ(奸だむ)(心がねぢけている、悪事をたくらむ)
-かづす(誘づす)(未詳。誘う、かどわかすの意か)「かづさかづとも、かづさねも」
-かどふ(誘どふ)-かどはく-かどはかす
-かどはす(拘引する)
-かどむ(廉どむ)-かどめく(詮索する)
-かどる(制どる)(統制する)
(-こだふ) -こだはる(拘る-拘泥する)
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「かつ(搗つ)」(kt)
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か( )-かつ(搗つ)〔臼でつく〕
今日でも皮をむいた焼き栗は「かちぐり(搗栗)」であろうが、日国によればこれは12世紀の色葉字類抄にある語の由である。さらに日葡辞書には「かつ」の意として「たたき落とす、すなわち棒、木ぎれ、槍などで叩く」とあり、そうとすれば「かつ」と「くり」とは大昔からしっかり結びついていたのかも知れない。しかし「かつ」には別に”穀類を臼で搗いて粉にする”という意味があり、次項の「かつ(糅つ)」も視野に入れた整理が課題である。
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「かつ(糅つ)」(kt)
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-かつ(糅つ)-かてる(糅てる)(まぜる、混ぜ合わせる、かてて加えて)万3829
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「かつ(勝つ)」(kt)
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か( )-かつ(勝つ)-かたす(勝たす)-かたせる「おもかつ面勝、まかつ目勝」
-かてる(勝てる)
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「かつ(語つ)、くつ(口つ)、こつ(託つ)」(kt)
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か( )-かつ(語つ)-かたる(語たる)-かたらふ「かむがたり神語、しひがたり強語、ものがたり物語」
く( )-くつ(口つ)「くち口」
こ( )-こつ(託つ)=こごつ(小言つ)「こごと小言、のりごつ(令*宣)」
-こたふ(答たふ)-こたへる
-こたゆ(答たゆ)-こたyeる
~かこつ(か言つ)(喞つ*詫つ)(カ接)
-ごつ(言つ)「のりごつ(令/宣)」
口と口から出る言葉を言うカ行渡り語である。「かつ(語つ)」「くつ(口つ)」の用例はなさそうであるが、もしこの括りが成立するとすれば、なければならないことになる。
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「かづ( )、くづ(崩づ)、けづ(削づ)」
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か( )-かづ( )-かぢる(齧ぢる)
名 きだ(段 )-きだむ(段だむ)
-きざむ(刻ざむ)「(d-z)相通語」
く( )-くづ(崩づ)-くだく(砕だく)-くだかる-くだかれる
-くだける
-くだす(降だす)-くださる-くだされる
-くづす(崩づす)-くづさる-くづされる
-くづる(崩づる)-くづれる
け( )-けづ(削づ)-けづる(削づる)
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「かづ(潜づ)」
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か(潜)-かづ(潜づ)-かづく(潜づく)
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「か/く/こ(凝)、かぬ(屈ぬ)、かふ(屈ふ)、かむ(屈む)、くく(潜く)、くす(屈す)、くつ(屈つ)、くむ(屈む)、こぐ(屈ぐ)、こす(凝す)、こぬ(屈ぬ)、こふ(氷ふ)、こぶ(凝ぶ)、こむ(籠む)、こゆ(臥ゆ)、こる(凝る)、こwu(臥wu)」
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か(屈)-かぬ(屈ぬ)=かがぬ(屈がぬ)-かがなふ(屈なふ/僂なふ)
-かふ(屈ふ)=かがふ(屈がふ)-かがふる
-かむ(屈む)=かがむ(屈がむ)-かがまふ
-かがまる(ちぢかむ/しじかむ-ちぢかまる/しじかまる)
-かがむる(これが「かうむる(蒙る)」に転じたか)
-かがめる
-かまる(屈まる)「わだかまる;かまりものみ斥候、くさかまり草屈、ふせかまり臥屈」
-かむる(冠むる)-かむらす-かむらせる
~あがむ(あ屈む)-あがまふ(崇む)(ア接)〔本来は(ワ接)〕
-あがめる-あがめらる-あがめられる〔自身を屈めて相手を上げる意〕
~さがむ(さ屈む)(しゃがむ)(サ接)
~しかむ(し屈む)-しかめる(顰む)(シ接)
~をがむ(を屈む)-をがます-をがませる(拝む)(「をろかむ」の形も)(ヲ接)
-をがまる-をがまれる
-かぶ(屈ぶ)-かぶる(冠ぶる)-かぶらす-かぶらせる
く(屈)-くく(潜く)=くくす(屈くす)
-くす(屈す)=くぐす(屈ぐす)「うちくす打屈」「くぐせ屈背*傴僂」
-くつ(屈つ)=くぐつ(屈ぐつ)「くぐつ傀儡」
-くむ(屈む)=くぐむ(屈ぐむ)-くぐまる「くま隈、くみど、くむしら隩区、くぐせ、せくぐまる背屈」
-くぐめる
-くぐもる
-くまる(屈まる)「wuづくまる」
-くもる(隠もる)-くもらふ
~すくむ(す屈む)-すくます-すくませる(竦む)(ス接)
-すくまる
-すくめる
~すくぶ(す屈ぶ)-すくばる(竦ぶ)(ス接)
-くる(屈る)=くぐる(潜ぐる)-くぐらす-くぐらせる
こ(屈)-こぐ(屈ぐ)-こがす(屈がす)-こがせる
-こぎゆ(屈ぎゆ)-こぎyeる
-こす(凝す)=こごす(凝ごす)(凍ごす)「にこす煮凍/煮凝」「岩が根のこごしき山に」
-こぬ(屈ぬ)=こごぬ(屈ごぬ)-こごなる(跼る)「こごなりかがむ跼屈」
-こふ(氷ふ)=こごふ(凍ごふ)-こごへる
-こほる(氷ほる)-こほらす-こほらせる「こほり氷」「とどこほる滞」
-こぶ(凝ぶ)「こぶ瘤」
-こむ(籠む)=こごむ(籠ごむ)-こごまる「こも薦」
-こごめる
-こまる(籠まる)-こまらす-こまらせる(困る-困らす-困らせる)
-こめる(籠める)-こめらる-こめられる
-こもる(籠もる)-こもらす-こもらせる「よごもり夜隠」
-こもらふ「こもりく隠国、こもりづ/こもりど隠処、こもりぬ隠沼」
-こゆ(凍ゆ)=こぎゆ(凍ぎゆ)〔異形か〕
=こごゆ(凍ごゆ)-こごyeる
-こやす(凍やす)「にこやし(煮凍)」
-こやる(凍やる)
-こよす(凍よす)
-こゆ(臥ゆ)-こやす(臥やす)「こyiふす臥伏、こyiまろぶ臥転」
-こやる(臥やる)
-こる(凝る)=こごる(凝ごる)-こごらす-こごらせる(こる梱)「こし濃、にこごり煮凝」
-こらす(凝らす)-こらせる
-こらふ(凝らふ)-こらへる
-ころす(凝ろす)
-ころふ(凝ろふ)「ひころふ孛/火凝」
-ころる(凝ろる)
~しこる(し凝る)(凝る)「しこり」(シ接)
-こwu(臥wu)
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身を屈する、丸くする意の語群である。寒くなると身が”こごえ”て、身を”こごめ”ることになるが、これらも上記のように寒さとは切り離して、身を丸くする意がまずあったと考えたい。水が固まる、即ち氷になるも同様である。
ここで、上に見るように、三拍語「あがむ(崇む)」と「をがむ(拝む)」が共に「かむ(屈む)」にもとづくア接語、ヲ接語であることに注意したい。このことは、和人が尊きもの(神)を前にしたときは、相手をもち上げるのではなく、逆に自らを低くすることを意味している。
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「かぬ(叶ぬ)」
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か( )-かぬ(叶ぬ)-かなふ(叶なふ)-かなへる-かなへらる-かなへられる
-かなる(叶なる)
-かねる(兼ねる)
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「かふ(支ふ/飼ふ)」(kh)
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か( )-かふ(支ふ)=かかふ(抱かふ)-かかはる(飼ふ)「すぢかひ(筋交)」
-かかへる-かかへらる-かかへられる
~つかふ(つ支ふ)-つかへる(ツ接)〔頭が梁につかへる〕
複合語:
したかふ(下支ふ)-したかはす-したかはせる-したかはせらる-したかはせられる(従ふ)
-したかへる-したかへらる-したかへられる
つきかふ(突支ふ)(つっかふ-つっかへる)
犬を飼う、蚕を飼うというときの「かふ(飼ふ)」は、動物に餌や水をやって生命を支えることであり、天井を支えることなどを言う「かふ(支ふ)」と同じと考えても差し支えないであろう。植物を育てることを「かふ(飼ふ)」と言わないのは和人の生命観を示すか。類語に「さふ(支ふ)=ささふ」がある。
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「かふ(躱ふ)」(kh)
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か( )-かふ(躱ふ)-かはす(躱はす)「(体を)躱す」「さしかふ」
-かへす(躱へす)「(身を)ひる”かへす”」
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「かふ(肯ふ)」(kh)
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か( )-かふ(肯ふ)-かへす(肯へす/かへんす/がへんず)-かへずる(がへんずる)(うけがふ、肯定する)
ところで日国「がえんずる」の語誌欄には、この語を「「かえにす(不肯)」の変化した語」と規定して、詳細かつ複雑な説明がある。その説明はあまりに入り組んでいて、理解不能である。複雑化の根源は「かへにす」の存在とその「に」のとり扱いにある。ここは一旦「かへにす」を忘れ、簡明な上図に戻ることによって全てが説明されるものと思う。
ただこの「かふ(肯ふ)」に縁語がないことには納得がいかない。「かつ(勝つ)」とか「かぬ(叶ぬ)」とか似たような単独の二拍動詞を集めて縁語群を見出したい。
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「か/く(組)、かぶ(構ぶ)、かむ(構む)、くふ(組ふ)、くぶ(組ぶ)、くむ(組む)、くる(組る)」
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か( )-かぶ(構ぶ)-かばふ(庇ばふ)(「あばふ」「たばふ」の形もあるが不詳)
-かむ(構む)-かまく(感まく)-かまける
-かます(構ます)-かまさる-かまされる「(一発)かます」
-かませる
-かまふ(構まふ)-かまはる-かまはれる
-かまへる-かまへらる-かまへられる「みがまへる身構」
-かむく(感むく)-かむかふ-かむかふる
-かむかへる「かんがへる考」
-かむかぶ
-かむかむ-かむかみる「かんがみる鑑」
く( )-くふ(組ふ)「すくふ巣構」
-くぶ(組ぶ)-くばす(配ばす)-くばせる「めくばせ目配」
-くばる(配ばる)-くばらす-くばらせる
-くばらる-くばられる
-くむ(組む)-くます(組ます)-くませる-くませらる-くませられる「めぐむ恵*目組」
-くまふ(組まふ)
-くまる(組まる)-くまれる「みくまり水配」
-くみす(与みす)
~あぐむ(あ組む)「足組」(「あがく足掻」と同じく単純に「足組む」とは考えにくい)
~めぐむ(め配む)-めぐまる-めぐまれる(恵む)(「目を配る、目配りする」意)
-くる(組る)-くらぶ(比らぶ)-くらべる-くらべらる-くらべられる(比較する)
-くらむ(比らむ)~たくらむ(企む)
こ( )-こぶ( )
-こむ( )
-こる( )
この図の核心は「くむ(組む)」である。これを展開することによって、はじめて「めぐむ」や「くらべる」の由来が見えてくる。「かんがへる考」も、物事に徹底的に「かまふ」「かまける」こととして十分納得できる。
二拍動詞「みくむ(水組む)」は、水を配分する、配給する以前の段階で、水を確保する、水を手配するような意と考えることができる。そうとすれば、一連の「くむ/ぐむ」語(あせぐむ汗、おyiぐむ老、つのぐむ角、なみだぐむ涙、めぐむ芽)の「くむ」はここの「くむ/くぶ」とすることができるであろう。
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「かぶ(頭ぶ)」
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名詞 かむ(頭む)-かむる(被むる)
かぶ(頭ぶ)-かぶく(傾ぶく)-かぶける
-かぶす(傾ぶす)-かぶさす-かぶさせる「wuなかぶす頸傾」
-かぶさる-かぶされる
-かぶせる-かぶせらる-かぶせられる
-かぶる(被ぶる)-かぶらす-かぶらせる
くび(首 )-くびる(縊びる)-くびらる
-くびれる
くぼ(窪 )-くぼむ(窪ぼむ)-くぼます-くぼませる
-くぼまる
-くぼめる
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「かむ(噛む)、かぶ(黴ぶ)」(km/kb)
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か( )-かむ(噛む)-かます(噛ます)-かませる
-かまる(噛まる)-かまれる
-かもす(醸もす)
-かぶる(噛ぶる)「(劇場の)かぶりつき」
~いがむ(い噛む)(啀む)「いがみあふ啀合」(イ接)
~しがむ(し噛む)(シ接)
-はむ(歯む)(「かむ」の (k-h)相通形)(食む)「かりはむ刈、もりはむ」
-かぶ(黴ぶ)-かびる(黴びる)「かび黴」
-かぶる(黴ぶる)-かぶれる「〔漆に〕気触れる」
-かぼす(黴ぼす)
穀類や果物類を噛んで発酵させていたとされることに鑑み、「かむ」と「かぶ」を並べてみたもの。
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「かゆ(離ゆ)、かる(離る)」(ka/kayu/ky/karu/kr)
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か( )-かゆ(離ゆ)
-かる(離る)「めかる目離」
ア接:-あかる
サ接:-さかる「とほざかる(遠離かる)」
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「かる(刈る)、きる(切る)、くる(刳る)、こる(樵る)」
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か(刈)-かる(刈る)-からす(刈らす)-からせる-からせらる-からせられる
-からる(刈らる)-かられる
き(切)-きる(切る)-きらす(切らす)-きらせる
-きらふ(切らふ)-きらはる(嫌らふ)
-きらる(切らる)-きられる
-きれる(切れる)
~かぎる(か切る)-かぎらる-かぎられる(限る)(カ接)
~くぎる(く切る)-くぎらる-くぎられる(区切)(ク接)
~しきる(し切る)-しきらる-しきられる(仕切)(シ接)
~ちぎる(ち切る)-ちぎらる-ちぎられる(千切)(チ接)
-ちぎれる
~とぎる(と切る)-とぎらる-とぎられる(戸切)(ト接)
-とぎれる
~みきる(み切る)-みきらる-みきられる(見切)(ミ接)
~よぎる(よ切る)-よぎらる(横切)(ヨ接)
く(刳)-くる(刳る)-くらす(刳らす)-くらせる
-くらる(刳らる)-くられる「くりぬく刳抜、ゑぐる剔抉」
~さくる(さ刳る)
~ゑぐる(ゑ刳る)-ゑぐらる-ゑぐられる〔ゑ彫+くる刳〕
こ(樵)-こる(樵る)-こらる(樵らる)-こられる「きこり木樵」
和人は、「かる/きる/くる/こる」と鋭い「k」音拍を並べて切削作業を言い尽くしている。木材に向かっての石刃による作業はとても軽快なものではなかったであろうが、それでも「k」音がふさわしいように感じられる。
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「かる(枯る)、かる(涸る)」(karu/kr)
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か( )-かる(枯る)-からす(枯らす)-からせる「かるし/かろし軽」「からから」
-からぶ(枯らぶ)-からびる「ひからびる干乾*干涸」
-かるぶ(軽るぶ)
-かれる(枯れる)(涸れる)
-かろぶ(軽ろぶ)
-かろむ(軽ろむ)
~すがる(す枯る)(末枯)(ス接)
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● ● ≪ききき≫ ● ●
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「き/く/こ(来)、きす(来す)、くゆ(来ゆ)、くる(来る)、こす(来す)、こる(来る)」
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き(来)-きす(来す)-きさす(来さす)
く(来)-くゆ(来ゆ)
-くる(来る)「やって来る」
こ(来)-こす(来す)-こさす(来さす)-こさせる(遣す)「よこす(寄遣)」
-こる(来る)-こらる(来らる)-こられる
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「きく(聞く)」
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き( )-きく(聞く)-きかす(聞かす)-きかせる-きかせらる-きかせられる
-きかゆ(聞かゆ)
-きかる(聞かる)-きかれる
-きける(聞ける)
-きこす(聞こす)「きこしめす、きこしをす」
-きこゆ(聞こゆ)-きこyeる
-きく(効く)-きかす(効かす)-きかせる
「きく(聞く)」は、”目で見る”、”口で食ふ”とは異なり、音を聞く器官である「みみ耳」とは無関係な語であろう。「きく」には”聞き酒、香を聞く(聞香)、聞し召す”などの成句があり、また人に道を”きく”、親の言いつけを”きく”、その結果よく「効いた」などの意味もある。薬が「きく(効く)」も「聞く」と同語と見られる。
なお、「きく(聞く)」単独ではなく、「かぐ(香ぐ)」「きく(聞く)」「くふ(食ふ)」の三語で縁語群と認めることができるかも知れない。
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「きしきし」
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名詞 きし(軋し)-きしむ(軋しむ)-きします-きしませる「きしきし」
-きしめく
-きしる(軋しむ)-きしろふ〔争い競う〕
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「きふ(極ふ)、きむ(決む)、きる(極る)」
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き( )-きす( )-きそふ(競そふ)-きそはす-きそはせる(新撰字鏡、11世紀仏典、太平記)
-きふ(極ふ)-きはむ(極はむ)-きはまる「きは際、きはどし際どシ、きへ寸戸」
-きはめる
-きはる(極はる)「たまきはる玉、としきはる年」
きは(際 )-きほふ(競ほふ)-きほはす-きほはせる(万葉集、9世紀仏典、源氏物語)
-きむ(決む)-きまる(決まる)「きめつく」
-きめる(決める)
-きる(極る)「きり限」
極限を言う「き」である。今日の”決断する、決定する”意の動詞「きむ-きまる/きめる」は、あれこれ悩んでいてついに”どん詰まりに来た”が本来の意味と考えられる。極限まで追い詰められ右か左か決めざるを得なくなって、「きまる、きめる」の意味が生まれてきた。
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「きよ(清)、けや(尤)、こよ(清)」(ky)
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名詞 きよ(清 )-きよむ(清よむ)-きよまふ-きよまはる「きよし清」
-きよまる
-きよめる-きよめらる-きよめられる
けや(尤 )「けや/けやか/けやけし」
こよ(清 )「こよなし」
「きよ/きよし」は、「けや/けやか/けやけし」の「けや」、「こよなし」の「こよ」と(ky)縁語の関係にある。「こよ」はよく知られているように「長崎の鐘」(サトーハチロー)に「こよなく晴れた青空を悲しと思うせつなさよ」とある。
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「きる(鑚る/錐る)」
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き( )-きる(鑚る/錐る)「きり鑚*錐」「(火)きり、ひきりうす火鑚臼、ひきりきね火鑚杵」
この「きる」は、細い木の丸棒を両の手の平で挟んできりきり回して”火を熾す”である。別に木や翡翠などの貴石に穴をあけることも言うようである。
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● ● ≪くくく≫ ● ●
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「くす(黒す)、くむ(黒む)、くる(黒る)、くら(暗)、くろ(黒)」
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く(黒)-くす(黒す)-くすむ(黒すむ)
-くむ(黒む)-くもる(曇もる)「くも雲」
-くる(黒る)-くらす(暮らす)(暮る)「日を暗らす、夜を明かす」
-くらむ(眩らむ)-くらます-くらませる-くらませらる-くらませられる
-くれる(暮れる)
-くろむ(黒ろむ)
名詞 くら(暗 )「くらおかみ闇靇、くらみつは闇罔象」
くろ(黒 )「くろし黒、くろいかつち黒雷、くろがね黒金、くろかみ髪、くろき酒」
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「くく(括く)」
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く( )-くく(括く)-くくす(括くす)
-くくむ(包くむ)-くくまる
-くくもる「羽ぐくむ-羽ぐくもる」
-くくる(括くる)-くくらる-くくられる
-くける(絎ける)
く( )-くく( )=くくむ(含くむ)〔「噛む」と同意の「くむ」を想定する〕
~ふくむ(含くむ)(k-h相通)(フ接)
~ふふむ(含ふむ)(k-h相通)(フ接)
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「くず(抉ず)、こず(抉ず)」
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く( )-くず(抉ず)-くじく(挫じく)-くじかす
-くじける
-くじる(抉じる)
こ( )-こず(抉ず)-こじる(抉じる)-こじらす-こじらせる
-こじれる
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「くたくた」
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名詞 くた( )-くたばる「くたくた」
-くたびる-くたびれる「草臥れる」
-くたぶる
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「くつ(降つ)」
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く( )-くつ(降つ)-くたつ(降たつ)「あかときくたち暁降、ひくたち日降、もちくたち望降、よくたち夜降」
-くたる(降たる)
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名詞 きた(分 ) 「おほきた/おほいた大分、みきた三段」
きだ(段 )-きだむ(段だむ)「きだ段、きだ鰓、きだきだ、ななきだ七段、みきだ三段」
-きざむ(刻ざむ)(d-z相通語)
く(崩)-くづ(砕づ)-くだく(砕だく)-くだかる-くだかれる「くづ屑、おがくづ、のこくづ鋸屑」
-くだける
-くだす(降だす)-くださる-くだされる
-くだつ(降だつ)
-くだる(降だる)
-くづす(崩づす)-くづさす-くづさせる
-くづさる-くづされる
-くづふ(崩づふ)-くづほる-くづほれる
-くづる(崩づる)-くづれる
-くゆ(崩ゆ)-くやす(崩やす)
-くyeる(崩yeる)「くye崩、いはくye岩崩」
け( )-けづ(削づ)-けづる(削づる)-けづらる-けづられる「ゆげ弓削、けづりかけ」
こ( )-こだ(傾頽)-こだる(傾頽る)「ゑみこだる笑興、をれこだる折傾」
-こづむ(偏づむ)
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「くつ(口つ)、くふ(食ふ)、くる(食る)」
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く( )-くつ(口つ)「くち口」
-くふ(食ふ)-くはす(食はす)-くはせる-くはせらる-くはせられる
-くはふ(咥はふ)-くははる-くははらす-くははらせる(加はる)
-くはへる-くはへらる-くはへられる(咥へる・加へる)
-たくはふ-たくはへる-たくはへらる(蓄へる)(タ接)
-くはる(食はる)-くはれる
-くる(食る)-くらふ(喰らふ)-くらはす-くらはせる
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「くねくね」
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名詞 くね( )-くねる(くねる)-くねらす-くねらせる「くねくね」
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「くむ(汲む)」
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く( )-くむ(汲む)-くます(汲ます)-くませる
-くるす(苦るす)-くるしむ-くるします-くるしませる
-くるしめる-くるしめらる
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「くゆ(悔ゆ)」
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く( )-くゆ(悔ゆ)-くやす(悔やす)-くやしぶ「くyi悔、くやし(悔シ)」
-くやむ(悔やむ)-くやまる-くやまれる
-くyiる(悔yiる)
~むくふ(報くふ)-むくはる-むくはれる(ム接)
-むくひる
~むくゆ(報くゆ)-むくyiる「むくyi報」(ム接)
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「くる(繰る)」
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く( )-くる(繰る)-くらる(繰らる)-くられる(繰られる)「つまぐる爪繰」
~たぐる(手繰る)(タ接)
~まくる(捲くる)(マ接)
~めくる(捲くる)(メ接)
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「くる(転る)、くるくる」
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く( )-くる(転る)-くるふ(狂るふ)-くるはす-くるはせる-くるはせらる-くるはせられる「くるくる」
-くるほす
-くるぶ(転るぶ)-くるべく-くるべかす
-くるむ(包るむ)-くるまる
-くるめく-くるめかす
-くるめる
-くるる(転るる)「くるる枢」
-くろむ(転ろむ)
こ( )-こく(転く)-こかす(転かす)-こかさる-こかされる
-こける(転ける)「ずっこける」
-ころ(転ろ)-ころぐ(転ろぐ)-ころがす-ころがさる-ころがされる「ころころ」
-ころがる
-ころげる
-ころぶ(転ろぶ)-ころばす-ころばせる
-ころる(転ろる)
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「くる(呉る)」
--
く( )-くる(呉る)-くれる(呉れる)「くれてやる」
◆------------
● ● ≪けけけ≫ ● ●
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名詞 けが(穢が)-けがす(穢がす)-けがさる-けがされる「けがし(穢がし)」
-けがる(穢がる)-けがらふ「けがらはし(穢らはし)」
-けがれる
こぐ(焦ぐ)-こがす(焦がす)-こがさる-こがされる
-こがる(焦がる)-こがれる
-あこがる-あこがれる(憧る)(ア接)
-こげる(焦げる)
にが(苦が)-にがむ(苦がむ)「にがし(苦シ)、にがにがし」
-にがる(苦がる)「にがり苦汁」
にご(濁ご)-にごす(濁ごす)-にごさる-にごされる
-にごる(濁ごる)-にごらす-にごらせる
よご(汚ご)-よごす(汚ごす)-よごさる-よごされる
-よごる(汚ごる)-よごれる
不詳語である。第二拍の濁音拍「が、げ、ご」などに本意があり、第一拍は修飾語のような関係か。
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「けす(化す)」
--
け( )-けす(化す)-けさふ(化さふ)「けしょう化粧」
-けする(化する)-けすらふ
◆------------
● ● ≪こここ≫ ● ●
◆------------
「こく(放く)」
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こ( )-こく(放く)「へこき屁放」
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「こく(痩く)」
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こ( )-こく(痩く)-こける(痩ける)「やせこける痩、頬がこける」
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「こく(耽く)」
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こ( )-こく(耽く)-こくる(耽くる)「だまりこくる、ぬりこくる、はりこくる」
-こける(耽ける)「ねむりこける、わらひこける」
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「こぐ(凍ぐ)、こす(凝す)、-こふ(氷ふ)、こゆ(凍ゆ)、こる(凝る)」
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こ( )-こぐ(凍ぐ)-こぎゆ(凍ぎゆ)
-こす(凝す)=こごす(凍ごす)「にこす、にこごし煮凍*煮凝」
-こふ(氷ふ)=こごふ(凍ごふ)-こごへる
-こほる(氷ほる)-こほらす-こほらせる「こほり氷」
-こゆ(凍ゆ)=こごゆ(凍ごゆ)-こごyeる
-こやす(凍やす)「にこやし(煮凍)」
-こやる(凍やる)
-こよす(凍よす)
-こる(凝る)=こごる(凝ごる)-こごらす-こごらせる「にこごり煮凝」
-こらす(凝らす)-こらせる
-こらふ(凝らふ)-こらへる
-ころふ(凝ろふ)「ひころふ孛/火凝」
~しこる(し凝る)「しこり」(シ接)
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「こふ(乞ふ)、こぶ(媚ぶ)」
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こ( )-こふ(乞ふ)-こはす(乞はす)「こひなく乞泣、こひねがふ冀*庶幾*乞願、こひのむ乞禱」
-こはる(乞はる)-こはれる
-こぶ(媚ぶ)-こばす(媚ばす)「こびひと侫人」
-こばむ(媚ばむ)
-こびる(媚びる)-こびらる-こびられる
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「こふ(恋ふ)」
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こ( )-こふ(恋ふ)
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「こむ(澇む)」
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こ( )-こむ(澇む)〔田に水が入り浸る〕
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「こゆ(肥ゆ)」
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こ( )-こゆ(肥ゆ)-こやす(肥やす)「こye肥、こやし肥」
-こyeる(肥yeる)
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「こる(懲る)」
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こ( )-こる(懲る)-こらす(懲らす)-こらさる-こらされる
-こらしむ-こらしめる
-こらる(嘖らる)
-こりる(懲りる)
-ころす(殺ろす)-ころさる-ころされる
-ころふ(嘖ろふ)-ころほふ〔叱嘖する〕
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完