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● ● ≪ななな≫ ● ●
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「な(無)、なく(無く)、なぐ(薙ぐ)、なぐ(流ぐ)、なぶ(無ぶ)、にぐ(逃ぐ)、ぬく(抜く)、ぬぐ(脱ぐ)、のく(退く)、のぐ(逃ぐ)、どく(退く)」
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な(無)-なく(無く)-なくす(無くす)-なくさす-なくさせる「なし無シ」「なくなる」
-なくさる-なくされる
~しな(否 )-しなむ(匿なむ)(シ接)
-しなぶ
~いな(否 )-いなむ(否なむ)(イ接)
-いなぶ
~むな(空 )「むなし空*虚、むなくに空国、むなこと空言、むなて/たむなて徒手」(ム接)
な( )-なぐ(流ぐ)-ながす(流がす)-ながさふ
-ながさる-ながされる「ながし長シ」
-ながむ(眺がむ)-ながめる(長む/詠む/眺む-長める/眺める)
-ながる(流がる)-ながらふ-ながらへる「(たたき)まながる」
-ながれる
-なぎる(流ぎる)(ミ接:みなぎる-みなぎらふ))
-なぐる(殴ぐる)-なぐらす-なぐらせる(投ぐる)
-なぐらる-なぐられる
~かなぐる(か投ぐる)(カ接)
-なげく(嘆げく)-なげかす-なげかせる
-なげかふ
-なげかる-なげかれる
-なげる(投げる)-なげらる-なげられる
-なぐ(薙ぐ)「なぎなた薙刀」
-なむ(無む)-なまる(匿まる)
-なぶ(無ぶ)-なばる(匿ばる)「なばり隠*名張、よなばり吉隠」
に(逃)-にく( )〔本来存在したと考えられる〕
に( )-にぐ(逃ぐ)-にがす(逃がす)
-にげる(逃げる)-にげらる-にげられる
ぬ(抜)-ぬく(抜く)-ぬかす(抜かす)-ぬかさる-ぬかされる「ふみぬく踏抜、もぬけ蛻」
-ぬかせる-ぬかせらる
-ぬかる(抜かる)-ぬかれる
-ぬける(抜ける)「底が抜ける」
ぬ( )-ぬぐ(脱ぐ)-ぬがす(脱がす)-ぬがさす-ぬがさせる「ぬぎwuつ(脱棄)」
-ぬがさる-ぬがされる
-ぬがぬ(脱がぬ)-ぬがなふ
-ぬがる(脱がる)~まぬがる-まぬがれる(免る)(マ接)
-ぬぐふ(拭ぐふ)-ぬぐはす「てぬぐひ手巾」
-ぬぐはる-ぬぐはれる
-ぬげる(脱げる)
の(退)-のく(退く)-のかす(退かす)-のかせる-のかせらる
-のかふ(退かふ)
-のける(退ける)-のけらる-のけられる
-のこす(残こす)-のこさす-のこさせる
-のこさる-のこされる
-のこる(残こる)
の( )-のぐ(逃ぐ)-のがす(逃がす)
-のがぬ(逃がぬ)-のがなふ
-のがる(逃がる)-のがれる(のがなふ)
~まのがる-まのがれる(免る)(マ接)
-のごふ(拭ごふ)-のごはす-のごはせる「かいのごひ掻拭、たのごひ手巾」
-のごはる-のごはれる
~しのぐ(し逃ぐ)-しのがす-しのがせる(凌ぐ)(シ接)
-しのがる-しのがれる
ど( )-どく(退く)-どかす(退かす)-どかせる(n-d相通形)
-どける(退ける)
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「ない(無)」ことの大もとは一拍語「な」で表現される。「な」という状態をもとに、「なくす、なくなる」という行為や状況を和人は、漢字表記は別として、上記のナ行縁語群で把握していると見られる。目の前にあるものが消えて見え無くなるという趣である。
類語の「かく(欠く)」についてはその項で述べた。
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「な/ね/の(音)、なく(泣く)、なす(鳴す)、なる(鳴る)、ぬる(鳴る)、のる(告る)」
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な:「な(名)」。「なまへ名前」の「な」で、「音」を意味する。「な(名)」と音との関係は「なたかし(名高し)」の存在によって明らかである。”名広し”などとは言わない。「よびな(呼び名)」も支援材料となるであろう。”書き名”などとは言わない。「なづける」とは従って物や人に音(な/ね)を与えることである。和語の長い歴史の中では音に文字はなく、文字をを当てる風習などは最近も最近、つい昨日のことである。名は音なのである。
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な(音)-なく(鳴く)-なかす(鳴かす)-なかせる
-なかる(泣かる)-なかれる
-なける(泣ける)
~いなく(い鳴く)
~さなく(さ鳴く)(鐸く)(サ接)
~ねなく(ね鳴く)(音泣く)(ナ接)
-なす(鳴す)「うちなす打鳴、かきなす掻鳴、ふきなす吹鳴」
-なる(鳴る)-ならす(鳴らす)-ならせる
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に:「に瓊」。「に/ぬ」は玉の意であるが、ただの玉ではなく、音の出る玉である。玉どうしが当たって出る音を言うのか、中空の玉で中に入れたもので音を出すのかは分からない。
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ぬ:一拍語「ぬ瓊」は玉である。「ぬほこ(瓊矛)」「ぬなと(瓊ナ音*瓊響)-ぬなとももゆらに」。「ぬほこ」は、玉を飾った矛であろうが、単なる飾りではなく、振れば音が出る矛であることが名前の由来である。その音は「もゆら」に鳴ったということであるが、「も揺ら」は揺れ方で、音の模写語ではないであろう。
ぬ(鳴)-ぬる(鳴る)「ぬて/ぬりて鐸」
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ね:「ね音」
ね(鳴)- -ねつく(哭つく)-ねつかふ〔葬送にあたって号泣する〕
-ねなく(音泣く)
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の:「のど喉〔音戸か〕」から出る音、また音を出すことである。
の( )-のる(告る)-のらす(告らす)
-のろふ(呪ろふ)-のろはる-のろはれる
~いのる(い告る)(祈る)(イ接)
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以上をまとめると次のようになる。
な(泣)-なく(泣く)-なかす(泣かす)-なかせる-なかせらる-なかせられる(鳴く)
-なかる(泣かる)-なかれる
-なける(泣ける)
-なす(鳴す)「うちなす打鳴、かきなす掻鳴、ふきなす吹鳴」
-なる(鳴る)-ならす(鳴らす)-ならせる
ぬ(鳴)-ぬる(鳴る)
ね(鳴)-ねつ( )-ねつく(哭つく)-ねつかふ
の(告)-のる(告る)-のらす(告らす)
-のらふ(告らふ)
-のらる(告らる)
-のろふ(呪ろふ)-のろはる-のろはれる
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と(音)-とぬ(音ぬ)-となふ(唱なふ)-となへる(n-t相通形)
-とふ(問ふ)
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ここで問題は「おと(音)」である。「おと」はオ接語「お(接頭語)+と(音)」であることははっきりしている。その「と(音)」は上記「の(告)」の(n-t)相通語であるであろう。「と音」が孤立しているところからも、「の」の相通語であるある可能性は高い。本書では「と(音)」は別に「て(手)」の縁語と見てとり上げている。
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「な/ぬ/ね(寝)」
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な(寝)-なす(寝す)-なさす(寝さす)
-なむ(寝む)
ぬ(寝)-ぬる(寝る)
~さぬ(さ寝)-さなす
~しぬ(し寝)-しなす
~いぬ(い寝)「いをぬ、いぬ、いねかつ寝勝、いねかぬ、いねふす;うまい熟寝」
ね(寝)-ねく(寝く)-ねかす(寝かす)
-ねす(寝す)-ねさす(寝さす)-ねさせる
-ねぶ(寝ぶ)-ねぶる(寝ぶる)-ねぶらす-ねぶらせる
-ねむ(寝む)-ねむる(寝むる)-ねむらす-ねむらせる
-ねむれる
-ねる(寝る)-ねらる(寝らる)-ねられる
シ接語「しぬ(し+ぬ寝、しなす(し+なす)」。このシ接語「しぬ」が前接語として前代形で、時代を経てイ接語「いぬ」に移行したと考えられる。(s-&)相通現象である。その後接頭語の「い」が「寝」の意を奪って一人歩きするようになった。やがて国語辞典では「い」が「寝」を意味する本来語のごとき扱いを受けるようになった。日国「い(寝)」の語源説欄にもこの点の指摘は見られない。
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「なす(生す)、なる(生る)」
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な( )-なす(生す)-なさす(生さす)-なさせる(生す/成す/為す/済す)
-なされる
( )-なる(生る)-ならる(生さる)-ならせる(生る/成る/為る/済る)
-なられる
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「なぐ(和ぐ)」
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な( )-なぐ(和ぐ)-なぐす(慰ぐす)-なぐさむ-なぐさめる「なぎ凪」
-なぐさもる
-なごす(慰ごす)「なごし和シ」
-なごむ(和ごむ)-なごます-なごませる「なごや/なごやか和」
-なづ(撫づ)-なだす(宥だす)
-なだむ(宥だむ)-なだまる
-なだめる-なだめらる
-なだる(穏だる)-なだらむ
-なづる(撫づる)
-なでる(撫でる)-なでらる-なでられる
~あなづ(あ撫づ)-あなづる侮(ア接)
-あなどる侮
-なづ(泥づ)-なづく(泥づく)
-なづす(泥づす)-なづさふ「おちなづさふ落泥」
-なづむ「くれなづむ(暮泥)」
-なゆ(軟ゆ)-なやす(軟やす)《なよなよ》
に( )-にき(柔和)-にきぶ(和きぶ)
-にきむ(和きむ)
-にぎ(熟ぎ)-にぎむ(熟きぶ)
-にこ(柔和)-にこぶ(和こぶ)
-にこむ(和こむ)「にこむ、にこにこ-にっこり」
-にゆ(煮ゆ)-にやす(煮やす)「にもの煮物、にこごり、にたき煮焚、にもの煮物;業を煮やす」
-にyeる(煮yeる)
-にる(煮る)-にらぐ(煮らぐ)
-にらる(煮らる)-にられる
ぬ( )-ぬく(温く)-ぬかる(温かる)-ぬかるむ
-ぬくむ(温くむ)-ぬくまる「ぬくし温シ」《ぬくぬく》
-ぬくめる
-ぬくもる
-ぬす(塗す)-ぬする(塗する)
-ぬめ(滑め)-ぬめる(滑める)《ぬめぬめ》
-ぬる(濡る)-ぬらす(濡らす)-ぬらせる「ぬるし温シ」《ぬるぬる》
-ぬるむ(温るむ)-ぬるまる
-ぬるめる
-ぬれる(濡れる)
-ぬる(塗る)-ぬらす(塗らす)-ぬらせる(塗料を塗布する。「濡る」に同じ)
-ぬらる(塗らる)-ぬられる
-ぬる(緩る)-ぬらす(緩らす)「ひきぬる引緩」(弛緩する、緩む)
-ぬるむ(緩るむ)-むるまる
-ぬるめる
う( )-うる(潤る)-うるふ(潤るふ)-うるほす「うるはし潤はシ/麗シ」《うるうる》(n-&)相通形
-うるほふ
-うるむ(潤るむ)-うるます-うるませる
-うれふ(憂れふ)-うれへる
ね( )-ねぐ(労ぐ)-ねがふ(願がふ)
-ねぎる(労ぎる)-ねぎらふ
の( )-のど(長閑)-のどむ(長閑む)-のどまる「のどか長閑、のどし」
-のどゆ(長閑ゆ)-のどよふ
微温的で温和で湿潤な日本の春先から夏にかけての空気というか風景が感じられる語群である。それがナ行縁語群で表現されている。
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「なず(擬ず)、なる(慣る)」
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な(擬)-なす(擬す)-なする(擬する)
-なそふ(擬そふ)
-なず(擬ず)-なずる(擬ずる)-なずらふ-なずらへる「おもひなずらふ」
-なぞふ(準ぞふ)-なぞはす
-なぞる(擬ぞる)-なぞらす-なぞらせる
-なぞらふ-なぞらへる
-なぞらる-なぞられる
-なる(慣る)-ならす(慣らす)-ならせる-ならせらる-ならせられる
-ならふ(習らふ)-ならはす-ならはせる
-なれる(慣れる)
に(似)-にす(似す)-にさす(似さす)「にせ(似せ/偽)、まねびにす学似」
-にせる(似せる)
-にる(似る)
ぬ(似)~まぬ(真似)-まなぶ(学なぶ)-まなばす-まなばせる「まぬ真似」(マ接)
-まねぶ(学ねぶ)
-まねる(真似る)-まねらる-まねられる「まね(真似)」
の(似)-のる(似る)
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「なふ(綯ふ)、ぬふ(縫ふ)」(nh)
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な( )-なふ(綯ふ)「なは(縄)をなふ(綯ふ)」
ぬ( )-ぬふ(縫ふ)-ぬはす(縫はす)-ぬはせる「かさぬひ笠縫、たてぬひ盾縫」
-ぬはる(縫はる)-ぬはれる
「なは(縄)をなふ(綯ふ)、ぬの(布)をぬふ(縫ふ)」
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「なぶ(萎ぶ)、ねぶ(陳ぶ)」
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な( )-なふ(萎ふ)-なへく(萎へく)「あしなへ足萎*蹇、てなへ手萎*攣」
-なへぐ(萎へぐ)
-なへる(萎へる)
-なぶ(萎ぶ)~しなぶ(シ萎ぶ)-しなびる(シ接)
-なゆ(萎ゆ)-なやす(萎やす)
-なyeぐ(萎yeぐ)
-なyeる(萎yeる)
-なゆむ(萎ゆむ)「あなゆむ足萎」
-なよぶ(萎よぶ)「なよびすぐす萎過、なよびゆく萎行」
~しなゆ(し萎ゆ)「おもひしなゆ思萎」(シ接)
ね( )-ねぶ(陳ぶ)-ねびる(陳びる)
-ねゆ(萎ゆ)-ねやす(萎やす)
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「なほ(直ほ)」
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名詞 なほ(直ほ)-なほす(直ほす)-なほさる-なほされる
-なほぶ(直ほぶ)「なほび直毘/おほなほびうた〔直会の宴に歌われる歌〕」
-なほる(直ほる)-なほらふ「なほらひ直会」
~すなほ(素直 )(ス接)
~まなほ(真直 )(マ接)
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「なまけ(怠け)」
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名詞 なま(鈍ま)-なまく(怠まく)-なまける
-なます(鈍ます)「やきなます焼鈍」
-なまる(鈍まる)
に( )-にぶ(鈍ぶ)-にばむ(鈍ばむ)「にぶし鈍シ」
-にぶむ(鈍ぶむ)
-にぶる(鈍ぶる)-にぶらす-にぶらせる
-にる(鈍る)-にらぐ(鈍らぐ)〔焼鉄をなます〕
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「なむ(祈む)、ねぐ(祈ぐ)、のむ(祈む)、のる(告る)」
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な( )-なむ(祈む)
ね( )-ねく(祈く)~まねく(ま祈く)-まねかす-まねかせる(招く)(マ接)
-まねかる-まねかれる
-ねぐ(祈ぐ)-ねがふ(願がふ)「ねぎ禰宜」
-ねぎる(労ぎる)-ねぎらふ
~まねぐ(ま祈ぐ)(招ぐ)(マ接)
の( )-のむ(祈む)-「こひのむ乞祈、はらへのむ祓祈」
~このむ(こ祈む)-このまる-このまれる(好む)(コ接)
~たのむ(た祈む)-たのまる-たのまれる(頼む/恃む)(タ接))
-のる(告る)-のらす(告らす)「のり法*則、みのり御法、のりと祝詞;なのる名乗」
-のらる(告らる)
-のろふ(呪ろふ)-のろはる-のろはれる
~いのる(い告る)-いのらる-いのられる(祈る)(イ接)
~つのる(つ告る)(募る)(ツ接)
日国「このむ(好む)」の語源説欄には「コヒノム(請祈)の義〔言元梯〕;コヒノム(恋祈)の義〔大言海〕」説があがっている。両者がそれぞれ「のむ祈」に着想していた。だが接頭語の「こ」を「こひ(請/恋)」の略と見たのは考え過ぎであった。大言海は「たのむ」を「タは発語、ノムはノム(祈)の意か〔大言海〕」と正解している。
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「なむ(並む)」
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な( )-なむ(並む)~ちなむ(ち並む)(因む)「なみ(波/並)、なと/なみと波音、なをり波折」(チ接)
~つなむ(つ並む)(津波)(ツ接)
~となむ(と並む)(歴む)(ト接)
~ななむ(な並む)(斜む)(ナ接)
-なる(並る)-ならぶ(並らぶ)-ならばす-ならばせる
-ならばる-ならばれる
-ならべる「ならびゐる、ならびをる」
~となる(と並る)(隣る)(ト接)
-なぶ(並ぶ)-なびく(靡びく)-なびかす-なびかせる「おしなぶ押靡、日々(かが)並べて」
~たなびく(タ接)
~とのびく(「たなびく」の異形と見る)
-なべる(並べる)
-なる(平る)-ならす(平らす)-ならせる「ならやま平城山」
ぬ( )-ぬく(仰く)「あふぬく仰伸」
の( )-のく(仰く)-のかす(仰かす)「あふのく仰伸、のけぞる仰反」
-のす(伸す)-のさす(伸さす)-のさせる「のさばる」「のし熨斗、のしもち伸餅」
-のせる(伸せる)-のせらる-のせられる
~たのす(た伸す)「たのし(楽シ)」(タ接)
~ののす(の伸す)-ののしる-ののしらる(罵す)(ノ接)
-のぶ(伸ぶ)-のばす(伸ばす)-のばさす-のばさせる「のびのび~のんびり」
-のばさる-のばされる
-のばせる
~しのぶ(し伸ぶ)-しのばす-しのばせる(忍ぶ・偲ぶ)(シ接)
-しのばる-しのばれる
-しのぶる-しのぶらふ
-のばふ(伸ばふ)
-のびる(伸びる)
-のべる(述べる)
-のぼす(伸ぼす)-のぼせる(上せる)
-のぼる(伸ぼる)-のぼらす-のぼらせる(登る)
-のむ(伸む)-のめす(伸めす)「たたきのめす」
-のめる(伸める)「つんのめる、のめりこむ伸込、まへのめり前伸」
-たのむ(た伸む)(恃む)「たのもし恃*頼」(タ接)
-のる(乗る)-のらす(乗らす)-のらせる
-のらる(乗らる)-のられる
~つのる(つ伸る)(募る)
「な/なす(並す)」と「の/のす(伸す)」は、本来はともに練った粉を平たい石の上で手で押し広げるさまととれば同語(縁語)と見ることができる。
「奈良」は、しばしば上記の「ならす(平す)、ならやま(平山)」とからめて語源が説かれるが、無関係である。「奈良」は「な(奴)+ら」で、別に説いた。
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「なむ(舐む)、たぶ(食ぶ)、のむ(飲む)」
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な( )-なむ(舐む)-なめす(鞣めす)「かはなめし皮鞣」「なめづる」
-なめる(嘗める)-なめらる-なめられる「にひなめ新嘗/にひたべ新食」
-なぶ(舐ぶ)-なぶる(弄ぶる)
た( )-たむ(賜む)-たまふ(賜まふ)-たまはす(n-t相通)
-たまはる
-たまる(賜まる)
-たもふ(賜もふ)
-たもる(賜もる)
~のたむ(の賜ぶ)-のたまふ(ノ接)
-たぶ(食ぶ)-たばす(食ばす)(賜ばす)(n-t相通形)
-たばふ(食ばふ)(賜ばふ)-たばはす
-たばる(食ばる)(賜ばる)
-たぶる(食ぶる)
-たべす(食べす)-たべさす-たべさせる
-たべる(食べる)-たべらる-たべられる
ね( )-ねぶ(舐ぶ)-ねぶる(嘗ぶる)
の(飲)-のむ(飲む)-のます(飲ます)-のませる-のませらる-のませられる「のど喉」
-のまる(飲まる)-のまれる
「なめる(舐める)」と「たべる(食べる)」は同語と考えられる。
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「なむ(訛む)、だむ(黙む)、だむ(訛む)、どむ(黙む)」
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な( )-なむ(訛む)-なまる(訛まる)
だ( )-だむ(訛む)-だます(騙ます)-だまさる-だまされる「舌だむ」
-だまる(1)(訛まる)「舌だむ」
-だまる(2)(黙まる)-だまらす-だまらせる
-だぶ(訛ぶ)
ど( )-どむ(黙む)-どもる(吃もる)「どもり(吃)」
ここでは「なまる訛/なまり」と「どもる吃/どもり」を同語と見ている。
また「だまる訛」を「なまる訛」の(d-n)相通と見て、この「だまる訛」と沈黙の「だまる黙」を互いに異形と見ている。ほかにもって行くところがないことと、沈黙は訛弁のうちとすることができないかと考えたもの。
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● ● ≪ににに≫ ● ●
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「に(丹)」
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に(丹)-にふ(丹ふ)-にほす(丹ほす)
-にほふ(丹ほふ)-にほはす-にほはせる「にほひ匂」
-にほゆ(丹ほゆ)「にほyeをとめ」
「に(丹)」は本来”土砂”を言う語である。それが特に”赤土”を指すようになり、さらにその土の色を言うようになった。さらに色から光に意味範囲を広げ、赤色が照り映えるさまを表現するようになった。その後「にほふ」と長語化し、嗅覚を刺激する香気や臭気をも言い表すようになったとされている。上図ではその間の事情を辿ることはできない。◆------------
「にくむ(憎くむ)」
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に( )-にく(憎く)-にくむ(憎くむ)-にくます-にくませる「にくし憎」「みにくし見憎*醜」
-にくまる-にくまれる
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「にが(苦)、にぶ(鈍)」
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名詞 にが(苦 )-にがる「にがし」
にぶ(鈍 )-にぶる「にぶし」
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「につ(詰つ)、ねつ(詰つ)」(nt)
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に( )-につ(詰つ)-にちる(詰ちる)
ね( )-ねつ(詰つ)
近世語である。日国によれば「いいがかりをつけてなじる。ねちる。ねじこむ」意の由である。
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「によふ/によぶ(呻吟ぶ)」
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-によ( )-によふ/によぶ(呻吟ぶ)(「呻吟する」意。模写語か。上代に用例少なくない)
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● ● ≪ぬぬぬ≫ ● ●
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「ぬ/ね(練)、ねる(練る)」
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ぬ(練)~くぬ(く練)-くねる(く練る)(ク接)
~こぬ(こ練)-こねる(こ練る)(コ接)
~ごぬ(ご練)-ごねる(ご練る)-ごねらる-ごねられる(ゴ説)
~すぬ(す練)-すねる(す練る)(拗ねる)(ス接)
~つぬ(つ練)-つねる(つ練る)-つねらる-つねられる(ツ接)
~ひぬ(ひ練)-ひねる(ひ練る)-ひねらる-ひねられる(捻る)(ヒ接)
~wuぬ(wu練)-wuねる(wu練る)(wu接)
ね(練)-ねづ(捻づ)-ねぢく(捻ぢく)-ねぢける
-ねぢる(捻ぢる)
-ねゆ(黏ゆ)-ねやく(黏やく)-ねやかる
-ねやす(黏やす)「ねやしきぬ黏絹」
-ねゆる(黏ゆる)
-ねる(練る)-ねらす(練らす)-ねらせる-ねらせらる-ねらせられる「くすね薬練」
-ねらる(練らる)-ねられる
-ねれる(練れる)
~こぬ(こ練)-こなす(熟なす)(コ接)
-こなる(熟なる)-こなれる
-こねる(こ練る)
和人はさまざまな「ねる」作業を主として接頭語で区別して表現しているようである。上記のうち「こなす、こなる-こなれる」は「こな(粉)」の動詞化か。
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● ● ≪ねねね≫ ● ●
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「ねたむ(妬む)」
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ね(妬)-ねつ( )-ねたむ(妬たむ)「ねたし、ねたまし」
~そねむ(嫉ねむ)(ソ接)
ここで「ねたむ」であるが、これを「ねた+む」と見ると、「ねつ」に直接該当する語はないが、「ね」は「ねぐ、ねぶ、ねむ睨」など心の強い動きを表す音であり、近隣の「につ詰-にちる」は”なじる、詰問する”意であり、嫉妬する意の二拍動詞「ねつ」の存在を想定しても無理はない。それをもとに「そねむ」をソ接語「そ+ねむ」と見て「ねむ」を「ねつ」と類似の「ね-ねむ」語と見ることもできる。結局「そねむ」と「ねたむ」は「ね」を介してつながるのではないかと考えられるのであるが。
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● ● ≪ののの≫ ● ●
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完