動詞図「ハ行動詞」(007)

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 ● ● ≪ははは≫ ● ●

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「はかる(計る/測る/量る)(図る/謀る/諮る)」

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名詞   はか(計 )-はかる(計かる)-はからす-はからせる「かりばか、はかどる、おもんぱかる慮」

                    -はからふ「とりはからふ」

                    -はからる-はかられる

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「ハ行分離動詞群」

 

(物と物の間を離し、広げることを言う動詞群である。前に物と物の間を狭くするサ行動詞群を紹介したが、それに対するハ行動詞群である。和語における音と現象との間のこだわりが感じられる。)

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は( )-はく(掃く)=ははく(掃はく)「ははき(ほうき箒)、はけ掃/刷毛」

           -はかす(捌かす)-はかせる

           -はかゆ(捌かゆ)

           -はかる(掃かる)-はからふ

                    -はからる-はかられる

                    -はかれる

           -はける(捌ける)

           -はこぶ(運こぶ)-はこばす-はこばせる

                    -はこばる-はこばれる

           ~さばく(さ掃く)-さばかる-さばかれる(捌く・裁く)(サ接)

    -はく(剥く)~あばく(あ剥く)-あばかる-あばかれる(暴く)(ア接)

    -はぐ(剥ぐ)-はがす(剥がす)-はがさる-はがされる「いけはぎ生剥、さかはぎ逆剥」

            -はがつ(剥がつ)-はがたる-はがたれる「ひはがち樋剥」

            -はがる(剥がる)-はがれる

            -はぐる(逸ぐる)-はぐらす(「はぐらかす」の形も)

                     -はぐれる

            -はげる(剥げる)「はげ禿」

    -はず(爆ず)-はじく(弾じく)-はじかる-はじかれる

                    -はじける

           -はじむ(始じむ)-はじまる

                    -はじめる-はじめらる-はじめられる

           -はずむ(弾ずむ)-はずます-はずませる

           -はぜる(爆ぜる)

    -はつ(剥つ)-はたる(徴たる)〔(税を)徴収する〕

           -はつる(剥つる)

    -はづ(開づ)-はだく(開だる)-はだかる (恥づ)「はだ肌、はだか裸、はだし裸足、はだら/はだれ」

                    -はだくる

                    -はだける

           -はだつ(開だつ)

           -はぢく(外ぢく)-はぢかる-はぢかれる(”除外する”の意。「はじく弾」とは別)

           -はぢす(恥ぢす)-はぢしむ「はぢ恥*辱」

                    -はぢしる-はぢしらふ

           -はぢむ(恥ぢむ)

           -はぢる(恥ぢる)-はぢらふ

           -はづす(外づす)-はづさる-はづされる

           -はづる(外づる)-はづれる(恥づる)

    -はぬ(離ぬ)-はなす(離なす)-はなさる-はなされる(話す)

           -はなつ(放なつ)-はなたる-はなたれる「ひはなち樋放」

           -はなる(離なる)-はなれる

    -はぬ(跳ぬ)-はねる(撥ねる)-はねらる-はねられる(撥ぬ、刎ぬ)

    -はふ(放ふ)-はふる(放ふる/屠ふる)

    -はぶ(葬ぶ)=ははぶ(葬ぶる)-ははぶる「ははぶる(ほうぶる/ほうむる葬)」

           -はぶる(葬ぶる)

    -はぶ(放ぶ)=はばく(蔓延く)-はばかる

                    -はびこる

    -はむ(放む)=ははむ(放はむ)-ははむる「ははむる(ほうむる葬)」

           -はむる(葬むる)

    -はる(晴る)-はらす(晴らす)-はらさる-はらされる

                    -はらせる

           -はれる(晴れる)

    -はる(張る)-はらす(張らす)-はらせる(腫らす)

           -はらむ(孕らむ)-はらます-はらませる(「腹む」か)

           -はらる(張らる)-はられる

           -はれる(腫れる)

    -はる(墾る)「にひばり新墾、はるた墾田」

    -はwu(壊wu)「はゑ(破壊)〔やぶりこわす〕

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名詞   はら(原 )-はらく(払らく)-はらかす「はら腹、はら原」

                    -はらける(ばらける)

           -はらふ(払らふ)-はらはす-はらはせる

                    -はらはる-はらはれる(祓ふ)「はらへ祓」

           -はらる(散らる)-はららく-はららかす「くゑはららかす」

           -はるく(遥るく)-はるかす「みはるかす見遥」

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ひ( )-ひる(放る)〔屁を放る〕

    -ひる(嚏る)〔くしゃみをする〕

    -ひる(簸る)〔篩を振る〕

    -ひwu(聶wu)〔日国:削りとる。そぎとる。へぐ。はぐ〕「ひゑ刀、あをひゑ青竹刀」

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名詞   ひな(鄙 )-ひなぶ(鄙なぶ)「ひなさかる鄙放、ひなへ鄙辺、ひなもり鄙守」「ひねひねし」

           -ひねる(陳ねる)

     ひら(平 )-ひらく(開らく)-ひらかす-ひらかせる「おしひらく押開、ひきひらく引開」

                    -ひらかる-ひらかれる

                    -ひらける

     ひろ(広 )-ひろぐ(広ろぐ)-ひろがる「ひろし広シ」

                    -ひろげる-ひろげらる-ひろげられる

                    -ひろごる

           -ひろむ(広ろむ)-ひろまる「つぎひろむ、ひろめのぶ」

                    -ひろめる-ひろめらる-ひろめられる

           -ひろる(広ろる)

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    -ふく(深く)-ふかす(深かす)(深す・更す・耽す)「夜更かし」

           -ふかむ(深かむ)-ふかまる

                    -ふかめる

           -ふける(深ける)(更ける・耽ける・老ける)

    -ふく(拭く)-ふかす(拭かす)-ふかせる

           ~はぶく(は拭く)-はぶかす-はぶかせる(省く)(ハ接)

                    -はぶかる-はぶかれる

    -ふる(古る)-ふるす(古るす)(経る)

           -ふるぶ(古るぶ)-ふるびる

           -ふるむ(古るむ)

    -ふる(振る)-ふるふ(振るふ)-ふるはす-ふるはせる「ふるひ篩」

                    -ふるはる-ふるはれる

           -ふれる(振れる)

           ~あふる(あ振る)-あふらる-あふられる(煽る/呷る)

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へ( )-へく(吐く)~あへく(喘へく)〔(息を)吐く〕

    -へぐ(剥ぐ)-へがす(剥がす)〔薄く削りとる、そぐ〕

           -へがる(剥がる)

    -へす(減す)

    -へず(減ず)-へずる

    -へつ(削つ)-へつる(削つる)

    -へづ(隔づ)-へだす(隔だす)「へだし隔」

           -へだつ(隔だつ)-へだたす-へだたせる

                    -へだたる

                    -へだてる-へだてらる-へだてられる

    -へぬ(隔ぬ)-へなつ(隔なつ)-へなたる(d-n相通形)

           -へなる(隔なる)「きへなる来隔」(d-n相通形)

    -へる(減る)-へらす(減らす)-へらさす-へらさせる

                    -へらさる-へらされる

    -へる(経る)〔距離・時間〕

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名詞   へこ(凹こ)-へこむ(凹こむ)-へこます-へこませる

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ほ( )-ほく(放く)-ほかす(放かす)

    -ほぐ(解ぐ)-ほぐす(解ぐす)-ほぐさる-ほぐされる「ほぐかみ反故紙」

            -ほぐる(解ぐる)-ほぐらす

                    -ほぐれる

            -ほごす(解ごす)「ほご反故、ほごかみ反故紙」

    -ほず(穿ず)-ほじる(「ほじくる」の形も)

           -ほぜる

    -ほつ(解つ)-ほつく(解つく)

           -ほつす(解つす)

           -ほつる(解つる)-ほつれる

           -ほとぶ(解とぶ)-ほとばす「ほとばしる/ほどはしる(迸る)」

                    -ほとびる

                    -ほとぼす(「ほとばかす」の形も)

    -ほづ(解づ)-ほだす(解だす)-ほださる-ほだされる「ほどはしる/ほとばしる迸」

           -ほだつ(解だつ)-ほだてる

           -ほどく(解どく)-ほどかす-ほどかせる「ほどろ」

                    -ほどかる-ほどかれる

                    -ほどける

                    -ほどこす-ほどこさる(施す)〔広く思んぱかる〕

                    -ほどこる

    -ほふ(放ふ)-ほふる(屠ふる)

    -ほる(放る)

    -ほる(掘る)-ほらす(掘らす)-ほらせる

           -ほらる(掘らる)-ほられる

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名詞   ほら(洞 )

     ほり(濠 )

     ほろ(幌 )

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 ここには「は/ひ/ふ/へ/ほ」で始まる二拍動詞で、表現が難しいが、「分離、分割、分断、剥離、剥奪、隔離、開放、掘削、露出・・・」を言う語がまとまっている。「ハ行分離動詞群」である。はらはら、ばらばら、ぱらぱら、ひらひらと互いに離れていく風情である。これはいつにかかってハ行音の開放性にあると考えられる。

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「はく(吐く)、ひく(弾く)、はゆ(吠ゆ)、ふく(吹く)、ふゆ(吹ゆ)、へく(吐く)、ほゆ(吠ゆ)」

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は( )-はく(吐く)-はかす(吐かす)-はかせる-はかせらる-はかせられる

           -はかる(吐かる)-はかれる

           ~あはく(あ吐く)(喘はく)(ア接)

    -はゆ(吠ゆ)~いはゆ(い吠ゆ)「嘶ゆ/いばゆ」(イ接)

ひ( )-ひく(弾く)=ひびく(ひ弾く)-ひびかす-ひびかせる(響く)(吹く)

           -ひかす(弾かす)-ひかせる-ひかせらる-ひかせられる

ふ( )-ふく(吹く)=ふぶく(吹雪く)

           -ふかす(吹かす)-ふかせる

           ~あふく(あ吹く)(扇ぐ)(ア接)

           ~あふぐ(あ吹く)-あふがす-あふがせる(扇ぐ)(ア接)

                    -あふがる-あふがれる

           ~いふく(い吹く)「いぶき息吹」(イ接)

    -ふつ(吹つ)~あふつ(煽ふつ)(ア接)

    -ふゆ(吹ゆ)「ふye(笛)」

    -ふる(吹る)~あふる(あ吹る)(扇る)(ア接)

へ( )-へく(吐く)

    -へぐ(吐く)~あへぐ(あ吐く)(喘ぐ)(ア接)

ほ( )-ほゆ(吠ゆ)-ほやす(吠やす)「ゐぬほye犬吠、とほぼye遠吠」

           -ほゆる(吠ゆる)

           -ほyeる(吠yeる)-ほyeらる-ほyeられる

 

 ”息を吐く”ことを言うハ行渡り語である。「ひく」であるが、今日では「ピアノを弾く」「バイオリンを弾く」のようにさまざまな楽器を鳴らす意に用いられているが、これは「(ふyeを)ふく(吹く)」の異形であり、本来は上記のように「ふyeをひく」と使われていたと見るのが自然のように思われる。

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「はく(履く)、はぐ(矧ぐ)、「はむ(嵌む)」

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は( )-はく(履く)-はかす(履かす)-はかせる「みはかし御佩刀」

           -はける(佩ける)

    -はぐ(矧ぐ)「やはぎ矢矧」〔矢柄に矢羽や矢尻をとりつける〕

    -はむ(嵌む)-はまる(嵌まる)「はめ/はめいた羽目板」

           -はめる(嵌める)-はめらる-はめられる

 

 上記の引きはがすハ行動詞群とは反対の、接合するハ行動詞群である。

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「ばく(化く)」

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名詞   ばく(化く)-ばかす(化かす)-ばかさる-ばかされる「おばけ、ばけもの化物」

           -ばける(化ける)

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「はげむ(励げむ)」(hg)

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           -はげむ(励げむ)-はげます-はげまさる-はげまされる

 

 不詳語「はげむ」と「はげし(激し)」を結びつけられるかどうか。

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「はつ(果つ)」(ht)

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は( )-はつ(果つ)-はたす(果たす)-はたさす-はたさせる-はたさせらる-はたさせられる

                    -はたさる-はたされる

                    -はたせる

           -はたつ(果たつ)

           -はつる(果つる)

           -はてる(果てる)

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「はつ(泊つ)」(ht)

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は( )-はつ(泊つ)「あけはつ明泊、おyiはつ老泊、こぎはつ漕泊」

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「はふ(生ふ)、はゆ(生ゆ)、はる(生る)、ふく(吹く)、ふゆ(殖ゆ)、ほふ(生ふ)」

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は(生)-はふ(生ふ)-ははす(延はす)-ははせる(這ふ*延ふ)「ちはふ霊這;はふつた蔦、はふむし這虫」

           ~いはふ(い這ふ)(イ接)

    -はゆ(生ゆ)-はやす(生やす)-はやさす-はやさせる(映ゆ)「はやし林」「はし、はやし早/速」

                    -はやさる-はやされる

           -はやる(逸やる)-はやらす-はやらせる(流行る)

           -はゆる(生ゆる)

           -はyeる(生yeる)(映yeる)

    -はる(生る)「はる春」

ふ(生)-ふく(生く)-ふかす(生かす)-ふかせる(”芽吹く”の「ふく」。”(風が)吹く”は別)

    -ふゆ(殖ゆ)-ふやす(殖やす)-ふやさす-ふやさせる

                    -ふやさる-ふやされる

                    -ふやせる

           -ふyeる(殖yeる)

    ~おふ(お生)-おはる(お生る)「おひしく生及、おひたつ生立、おひつぐ生継」(オ接)

           -おふる(お生る)

           -おへる(お生る)

           -おほす(お生す)

ほ( )-ほふ(ほ生)~きほふ(き生ふ)「いきほひ」「うるほひ」「きほふ」(キ接)

           ~にほふ(に生ふ)「匂おう」(ニ接)

 

 生まれた命が横溢する状況を言う語群であろう。

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「ばふ(奪ふ)」

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は( )-ばふ(奪ふ)-うばふ(う奪ふ)(ウ接)

           -むばふ(む奪ふ)(ム接)

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「はむ(  )、こばむ(拒む)、はばむ(阻む)」(hm)

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は( )-はむ(  )-こばむ(拒む)-こばまる-こばまれる(コ接)

           -はばむ(阻む)-はばまる-はばまれる(ハ接)

 

 意味、語形ともによく似た不詳の二語を並べてみたもの。「はむ」は仮定である。

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「はむ(嵌む)」(hm)

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は( )-はむ(嵌む)-はまる(嵌まる)「はめ/はめいた羽目板」

           -はめる(嵌める)-はめらる-はめられる

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「はや(早*速)」(hy)

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名詞   はや(早 )-はやぶ(早やぶ)「はやし(早*速)」

           -はやむ(早やむ)-はやまる

                    -はやめる

           -はやる(逸やる)

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「はゆ(蝕ゆ)」(hy)

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は( )-はゆ(蝕ゆ)-はyeる(蝕yeる)「はye蝕(日蝕や月蝕の「蝕」)、はyeつく(皆既月蝕になる)」

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「はる(張る/腫る/貼る)」

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は( )-はる(張る)-はらす(張らす)-はらさす-はらさせる

                    -はらせる

           -はれる(腫れる)

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はる(撲る)

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は( )-はる(撲る)-はらる(撲らる)-はられる「はりたふす撲倒」

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「ばらす、ばれる、ばらばら」

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    -ばら(  )-ばらす(   )〔ばらばらにする、暴露する〕

           -ばれる(   )〔ばらばらにばる、露見する〕

           ~あばる(   )-あばれる(暴る)(ア接)

 

 模写語「ばらばら」由来の語である。いずれも近世語である。日国「あばれる」の語源説欄には「アは接頭語、バレルは物の散ずる意〔語簏俚言集覧〕」説が紹介されている。

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 ● ● ≪ひひひ≫ ● ●

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名詞   ひか(光 )-ひかる(光かる)-ひからす-ひからせる「ひかり光」「ぴかぴか」

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「ひく(引く)、ひす(秘す)、ひむ(秘む)」

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ひ( )-ひく(引く)-ひかす(引かす)-ひかさる-ひかされる「ひきし/ひくし低、ひきやま低山」

                    -ひかせる

           -ひかふ(引かふ)-ひかへる(控へる)

           -ひかゆ(引かゆ)-ひかyeる(控yeる)

           -ひかる(引かる)-ひかれる(惹れる)

           -ひける(引ける)

           ~あひく(あ控く)-あひくる(ア接)「さしあひくる差控」

           ~すびく(す引く)(ス接)

           ~をびく(を引く)(誘き)(ヲ接)〔「をく招」の「を」か〕

           ~そびく(そ引く)(w-s相通形)(ソ接)

    -ひす(秘す)-ひすむ(潜すむ)

           -ひそむ(潜そむ)-ひそます-ひそませる「ひそひそ-ひっそり」「ひさめく(私語)」

                    -ひそまる

                    -ひそめる

    -ひむ(秘む)-ひめる(秘める)-ひめらる-ひめられる

 

 ものごとを低きに引きずり込んで人目から隠す(hi)縁語群である。「ひきし/ひくし低」は単に高低差の問題ではなく、何らかの理由で秘匿する意を含んでいるようである。

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「ひく(挽く/碾く)、ひす(拉す)、ひづ(拉づ)」

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ひ( )-ひく(挽く)-ひかす(挽かす)-ひかせる

           -ひかる(挽かる)-ひかれる

    -ひす(拉す)-ひさぐ(拉さぐ)-ひさげる(ひしゃぐ-ひしゃげる)

           -ひしぐ(拉しぐ)-ひしがる-ひしがれる(ひしゃぐ-ひしゃげる)

    -ひづ(拉づ)-ひだく(拉だく)「とりひだく」

 

 「ひく」はもとは石臼で穀物を粉にすることで、今日では車に”轢かれる”悲劇を言うことになる。二拍動詞「ひづ」は見いだせないが、意味の上で合致する三拍動詞「ひだく」が見られるところから、「ひづ」の存在を認める。

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「ひく(疼く)、ひる(疼る)」

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ひ(疼)-ひく(疼く)=ひひく(疼ひく)〔ひりひり、ひりひりする(記神武)〕

    -ひる(疼る)=ひひる(疼ひる)-ひひらく〔ひりひり痛む〕

                    -ひひろぐ

 

 三拍動詞「ひひく(疼く)」は、ただ一度古事記(中)の歌謡に「みつみつし久米の子らが垣下に植ゑし椒(はじかみ)口比比久(ひひく)我は忘れじ撃ちてし止まむ」と登場する語で、意味するところは”ひりつく、ひりひりする、ひりひり痛む”とされている。山椒を口に入れて噛んだときの感覚を言うようである。

 もうひとつの「ひひる(疼る)」は、時代は下って17/18世紀の浄瑠璃に出てくるもので、こちらは”ひいひいと泣く、悲痛な声をあげて泣く”と注釈されている。

 この「ひひく」と「ひひる」であるが、語形はともに頭積動詞であり語意がよく似て、無関係ではあり得ない。これを整理すると上図のようになるであろう。ここに一拍語「ひ」が浮かび上がるが、これは今日でも咄嗟の苦痛や驚いたときなどに「ひーっ」と声をあげるが、その「ひ」であるであろう。

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「ひづ(秀づ)」(hd)

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ひ( )-ひづ(秀づ)=ひひづ(秀ひづ)-ひひでる

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「ひづむ(歪づむ)」(hd)

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     ひづ(  )-ひづむ(歪づむ)-ひづます(歪ます)「ひづみ歪」

                    -ひづめる(歪める)

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「ひぬ(陳ぬ)、ふく(経く)、ふる(古る)、へる(経る)」

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ひ( )-ひぬ(陳ぬ)-ひねる(陳ねる)「ひな鄙」

ふ( )-ふく(更く)-ふかす(更かす)(深く/古く)「きふ(来経)」万830

           -ふかむ(深かむ)-ふかまる

                    -ふかめる

           -ふける(更ける)(老ける、耽ける〔沈潜する〕)

    -ふる(古る)-ふるす(古るす)「ふるさと古里、ふるひと古人」

           -ふるぶ(古るぶ)-ふるびる

へ( )-へる(経る)

ほ( )-ほる(掘る)-ほらす-ほらせる-ほらせらる-ほらせられる

           -ほらる-ほられる

 

 時間や距離を稼ぐ、時間や距離が経過する意のハ行渡り語である。「ひぬ(陳ぬ)」には「時間が経過する」意と同時に「距離が伸びる」意を併せもっているであろう。「ひね陳、ひねひねし」は時間語であるが、田舎の意の「ひな鄙」はこの「ひぬ」の名詞形と考えられる。

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「ひゆ(冷ゆ)、ふゆ(冬ゆ)」

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ひ(氷)-ひゆ(冷ゆ)-ひやす(冷やす)-ひやさる-ひやされる「ひやひや」

           -ひyeる(冷yeる)「ひyeびye」

名詞   ふゆ(冬ゆ)

 

 「ふゆ冬」について、ほとんどすべての語源説は「ひゆ冷」との関連を指摘している。(hy)縁語の観点からも異論はないが、もういくつか縁語があってもいいところである。日国の語源説欄にも「ヒ(氷)の活用語か〔大言海〕」説が見える。

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「ひらひら」

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     ひら(  )-        -ひらめく〔ひらひら〕

     ひろ(  )-        -ひろめく(稲光が光る)(虺く)

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「ひらふ(拾らふ)、ひりふ(拾りふ)、ひろふ(拾ろふ)」

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     ひら(  )-ひらふ(拾らふ)-ひらはる-ひらはれる「ひらひまつぶ拾集」

     ひり(  )-ひりふ(拾りふ)「沖つ白玉ひりひて」「たまひりふ(枕)」

     ひろ(  )-ひろふ(拾ろふ)-ひろはす-ひろはせる

                    -ひろはる-ひろはれる

 

 これは奇妙な語である。一拍語、二拍語が見当たらない。いきなり三拍語から現れて、しかも三つあり、「ひら、ひり、ひろ」は互いに異形と見られ、意味ははっきりしていて、その間の違いはなさそうである。つかみどころがない。しかも記紀万葉語である。(hr)語としては「拾ふ」とは反対に「(はらりと)捨てる」の意の方が似合うところである。

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「ひる(干る)、ほす(干す)、ほつ(火つ)、ほむ(火む)、ほる(火る)」

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ひ(火)-ひる(干る)

ふ(火)

ほ(火)-ほす(干す)-ほさす(干さす)-ほさせる

           -ほさる(干さる)-ほされる

           ~さぼす(さ干す)(サ接)

    -ほつ(火つ)-ほてる(火てる)「おもほてる面熱」

           -ほとぶ(火とぶ)-ほとぼる(~ほとぼり)

    -ほむ(火む)-ほめく

    -ほる(火る)-ほろぶ(滅ろぶ)-ほろびる

                    -ほろぼす-ほろぼさる-ほろぼされる

 

 火焔や暑熱を言うハ行渡り語である。氷や寒冷を言う渡り語も同じ”ハ行”であり、説明が欲しいところである。

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「ひる(冲る)」

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ひ( )-ひる(冲る)=ひひる(冲ひる)「ひひる(蛾)」

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「ひる(簸る)、ふる(振る)」

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ひ(簸)-ひる(簸る)「ひ簸」

ふ(篩)-ふく(振く)「はぶく羽振」

    -ふゆ(振ゆ)「みたまのふゆ恩頼」

    -ふる(振る)-ふらす(振らす)-ふらせる-ふらせらる-ふらせられる「なゐふる(田居震*地震)」

           -ふらる(振らる)-ふられる

           -ふるふ(震るふ)-ふるはす-ふるはせる-ふるはせらる-ふるはせられる「ふるひ篩」

                    -ふるへる

           -ふれる(振れる)

 

 収穫した穀物を叩いて殻を外し、それを風で飛ばすための浅い籠のような道具が「ひ簸」で、それを振る作業が「ひる」「ふる」である。”気がふれる”の「ふる-ふれる」もこれであろう。

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 ● ● ≪ふふふ≫ ● ●

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「ふく(伏く/葺く)、ふす(伏す)、ふむ(踏む)、ふる(降る)、ほむ(践む)」

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ふ( )-ふく(伏く)-ふくす(伏くす)-ふくする(葺く)

    -ふす(伏す)-ふさす(伏さす)-ふさせる

           -ふせる(伏せる)

           ~たふす(た伏す)-たふさす-たふさせる(倒す)(タ接)

                    -たふさる-たふされる

    -ふむ(踏む)-ふます(踏ます)-ふませる

           -ふまる(踏まる)-ふまれる

    -ふる(伏る)-ふらす(伏らす)-ふらせる(降る)

           -ふらる(降らる)-ふられる

           ~たふる(た伏る)-たふれる(倒れる)(タ接)

ほ( )-ほむ(践む)「ほむし践石/蹈石」

 

 物や力を上からおろす、それらが上から降りてくる、力が及ぶ、力を及ぼす意である。具体的には雨や人や足が降ってくることである。その語義は一拍語「ふ/ほ」にある。現代語「たおす(倒す)」はこの「ふす」のタ接語と考えられる。

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「ふくる(膨る)、ほこる(誇る)」

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ふ( )-ふく(  )-ふくる(膨くる)-ふくらす-ふくらせる

                    -ふくれる

ほ( )-ほく(誇く)-ほこる(誇こる)-ほころふ

                    -ほころぶ

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「ふさ(総)」(hs)

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名詞   ふさ(総 )-ふさぬ(統さぬ)〔まとめて束ねる〕

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「ふた(蓋)」

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名詞   ふた(蓋 )-ふたぐ(蓋たぐ)-ふたがる

           -ふさぐ(塞さぐ)-ふさがる(t-s相通形)

           -ふせぐ(防せぐ)

           -ほせく(防せく)

 

 「ふた蓋」は不詳であるが、「ふたぐ」はその動詞形である。今日の「ふさぐ塞」は「ふたぐ」の(t-s)相通語と見られる。「ふせぐ」も不詳で、とりあえずここに置いておく。

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「ふさふ(相応ふ)」

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       (ふす)-ふさふ(相応ふ)-ふさはす 「これは布佐波ず(記上)、ふさはし(相応)」

 

 記上の例も現代語「ふさわしい」の通り、”釣り合う、相応する”で分かりやすい。ところがそのもとになる動詞「ふさふ」が分からない。フ接語と見ると「さふ」そのものはないが縁語の「そふ(添ふ/沿ふ)」を思い浮かべると何となく”相応する”との接点が見えてくる。取りあえずこれを手掛かりとしておいておく。

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「ふつくむ(憤む)」

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           -ふつく(   )-ふつくむ(憤/恚/怒)〔怒る〕(類「ふしこる」)

           -ふづく

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「ふと(太)、たふと(尊)」(ht)

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名詞   ふと(太 )-ふてる(太てる)「ふとし(太シ)、ふてぶてし」

           -ふとぶ(太とぶ)

           -ふとむ(太とむ)

           -ふとる(太とる)-ふとらす-ふとらせる

                    ~たふとぶ(尊ぶ)「たふとし尊」(タ接)

                    ~まふとむ(マ接)

 

 二拍語「ふと太」から形容詞「ふとし太」が出て、これが接頭語「た」をとって「たふとし尊」となったと考えられている。今日この語は「太い腕」のように丸いものの直径が大きい意にのみ使われているが、古くは「立派、壮大等の意で、神またはこれに準ずるものに関する名詞や動詞に複合して用いられる」(時代別上代編)という。そのことを言っていると思われる成句に「ふとしく敷、ふとしる領、ふとのりと、ふときざし太兆、ふとまに太占」などがある。

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「ふゆ(増ゆ)」(hy)

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ふ( )-ふゆ(増ゆ)-ふやす(増やす)-ふやさす-ふやさせる

                    -ふやさる-ふやされる

           -ふyeる(増yeる)

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「ふる(触る)」(hr)

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ふ( )-ふる(触る)-ふれる(触れる)-ふれさす-ふれさせる-ふれさせらる-ふれさせられる

                    -ふれらる-ふれられる

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「ふる(綜る)、へる(綜る)」

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ふ( )-ふる(綜る)〔経糸を機にかける〕

へ( )-へる(綜る)「へ綜〔織機の経糸掛け〕、へそ綜麻」

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 ● ● ≪へへへ≫ ● ●

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「へす(減す)、へる(減る)」

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へ(凹)-へく(凹く)-へこむ(凹こむ)-へこます-へこませる「へこ(へ凹/へこ凹こ)」

    -へす(減す)「へそ臍、へそのを/ほそのを臍緒(「あをひゑ」で切る)」

    -へづ(減づ)-へづる(減づる)

    -へる(減る)-へらす(減らす)-へらさる-へらされる

    -へる(謙る)「へりくだる」

    -ほる(掘る)-ほらす(掘らす)-ほらせる-ほらせらる-ほらせられる

           -ほれる(掘れる)「ほら洞」「よほろ(節洞*丁*膕)」

 

名詞   へこ(凹 )

     ぼこ(凹処)「でこぼこ凸凹(たかひく高低)」

     ほそ(凹そ)「ほぞ臍、とほそ戸臍」

     ほと(凹処)「ほとにむぎなり」

 

 「へこむ(凹む)」は「へ凹+こむ」か「へこ凹+む」。「へそ臍」は「へ凹+そ(不明)」か。

 

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 ● ● ≪ほほほ≫ ● ●

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「ほく(寿く)、ほぐ(寿ぐ)、ほむ(褒む)、ほる(惚る)」

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ほ(秀)-ほく(惚く)=ほほく(婪ほく)-ほほける「かむほき神祝、ことほぎ言寿」「やみほほく病耄」

           -ほかす(寿かす)

           -ほかふ(寿かふ)「ほかひひと乞食者、さかほかひ酒楽」

           -ほける(寿ける)

           -ほこる(寿こる)-ほころふ(誇る)

           ~おほく(お惚く)-おほける(婪く/嬰く)〔貪り食う〕(オ接)

           ~とぼく(と惚く)-とぼける(ト接)

    -ほく(惚く)-ほかす(惚かす)

           -ほける(惚ける)

    -ほぐ(寿ぐ)-ほがふ(寿がふ)「ことほぐ」

    -ほす(寿す)-ほさく(寿さく)「かむほさきほさきく」

           -ほせく(寿せく)

    -ほつ(寿つ)-ほたく(寿たく)「ほたきこと談咲」

    -ほむ(褒む)-ほまる(褒まる)「ほまれ誉」

           -ほめる(褒める)-ほめらる-ほめられる

    -ほる(惚る)-ほれる(惚れる)-ほれらる-ほれられる(慌る*耄る)

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「ほす(欲す)、ほる(欲る)」

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ほ(欲)-ほす(欲す)(ほっす)「ほし(欲シ)」

    -ほる(欲る)-ほりす「ほりし(欲りシ)」

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「ほず(穿ず)」

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ほ( )-ほず(穿ず)-ほじる(穿じる)

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「ほそ(細)」

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名詞   ほそ(細 )-ほそる(細そる)「ほそし細」

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「ほる(貪る)」

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ほ( )-ほる(貪る)~まほる(ま貪る)(マ接)「むさぼる(貪る)(むしゃむしゃ食べる)」

           ~まぼる

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