下のリストは和語で「ひと(人)」を言うと思われる一拍語「し」「と」「な」「り」のつく語を集めてみたものである。どれも語尾に来ている。それぞれどのような”人”であろうか、ほんとに”人”であろうか、どのように考えればよいのか、難解である。
(1)--
あじ(按司)/あるじ/あろじ(主)
おし(御師)、くすし(薬師)、そめし(染師)、たかし(鷹師)、てし(手師)、とぎし(砥師)、ぬし(塗師)、はにし(埴師)、ゑし(画師)
こじ(居士)
とじ(刀自)
ぬし(主)/うし(大人)
(2)--
あづまと(東人)
たびと(旅人)
すけと/すけっと(助人)
はやと(隼人)
ひと(人)〔ひと(ひ人)、ひこ(ひ子)、ひめ(ひ女)〕
(3)--
おきな(翁)
おみな(媼)
おとな(大人)
をぐな(童男)
をみな(女)
(4)--
すぐり(村主)
とねり(舎人)
ひじり(聖)
ひとり(一人)/ふたり(二人)
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最初の「し」グループは何となく漢語の感がする。特に「ゑし(画師)」は日国が『「ゑ」は「絵」の呉音』と特記するところからも漢語のような気がする。現代語の”教師”や”漁師”の語もある。しかしその「ゑ」以外ははっきり漢語と見られるものはなく漢語グループとは決め難い。ともあれ「し/じ」には”専門家、指導者”の意があって漢語の「し(師)」と重なっているようである。「あるじ主」と琉球語「あじ按司」との同一性の指摘は伊波普猷氏による。
第二の「と」グループは「ひと(人)」の解釈如何であろう。だが、「ひと人(ひ+と)」の「ひ」を”霊”の意にとりたいのであるが、そうすれば「ひこ、ひめ」はいいとして、「ひと」が”霊人”となって霊的存在であるべき”人”にさらに”霊”が重なることになりうまく行かない。「と」が”人”でなくなる。「ひ」も「と」も不明である。
第三、第四の「な」と「り」は見当がつかない。例えば「とねり」は、「と+ねり」が難しいので、「との(殿)+り」かとすれば「り」に意味をみとめなければならず、行き詰まる。
足立晋
完