色シリーズの第一回は「しろ(白)」である。この国では昔から色の白いは七難隠すと言われて白の人気や地位は高い。「しろ」は「さら」でもある。”さらち更地、まっさら、さらっぴん”の「さら(新*更)」である。一般に古びたものに対して「さら」のものは価値が高い。「しろ」と「さら」は子音コンビ(sr)を共有する縁語関係にある。
「さら(sa-ra)」の「s」音が落ちたものが「あら(新*荒)」である。(s-&)相通語でもある。「あらた、あらたし、あらあらし」などの「あら」である。
ただし「さら新」や「しろ白」の意味を担っているのは「さ+ら、し+ろ」の前項の「さ、し」というサ行一拍語であることに注意したい。語末のラ行拍は語を安定させるために意味をもつ前項を支えている。
この辺りを動詞図に描いてみると次のようになるであろう。
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さ( )-さる(晒る)-さらす(晒らす)-さらさる-さらされる「さら」「されかうべ(髑髏)」
-ある(新る)-あらす(荒らす)-あらそふ
-あらつ(新らつ)「あらたし」
-あらふ(洗らふ)
-あれる(荒れる)〔「荒」の字は「粗」と書き換えてもよい。〕
し( )-しる(**)「しろ白」
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「さる(晒る)」の根本的な意味は”何もしないで放っておく”であろう。それはとりもなおさず”野ざらし”にすることである。では「しろ白」のもとになったはずの二拍動詞「しる」は何か。記録にはなさそうであるが、これは「さる(晒る)」と同じく「しる(晒る)」と考えられる。
ここで「いろ(色)」とは何か。和語には「い」の如き母音の有意の語はなく、「ろ」は語末にあって単に前拍を支えるための拍である。そうとすれば本来的に「いろ」なる語は存在しない。考え得る唯一の解は「しろ」の(s-&)相通形である。つまり「しろ白」が「いろ色」に転じた。その「いろ」が”色彩”の意味をもつに至った道筋は不詳である。
「いろ」についてのさらなる不可解は、(1)「いろね同母姉、いろも同母妹」などの同母を意味するという「いろ」と、(2)いわゆる「色気、色恋、色里、色物」などの「いろ」である。これらについては今のところ解明の手掛かりがない。
これらについて今言えることは、色彩の「いろ」と(1)(2)の「いろ」ははっきり別語であって、(1)(2)は同語の見込みが高いということであろう。
琉球語には(sr)語系の「さら」「しるー、しるさん」がある。ほかに和語の「にひ(新)」の(n-m)相通語と見られる「みー」が広く使われている。ただこの「にひ」と「みー」との先後関係はにわかには決められない。
アイヌ語は”新しい”の意味の(sr)語「あしり」を残している。
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| 和語 | 琉球・沖縄語 | アイヌ語
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花(ナ行語)|のんの |のーのー |のんの |
(ハ行語)|はな |はな |あぱっぽ、えぷい、(ぴらさ、へちらさ)|
宣告 |のる、のり、のりと祝詞|のろ、ぬる、ぬーる、いぬゆん|のみ |
名・名前 |な(音) |なー |れ〔「ね音」の(n-r)相通形〕 |
新・白(sr)|さ/さら、し/しろ |さ/さら、し/しるー、し/しろさん|し/あしり(新しい) |
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