人は”両の足を交互に踏み出し”て前進するが、それをゆっくりやれば「あるく(歩く)」、急速にやれば「はしる(走る)」であろうか。「あるく」の方は難しいので後回しにして、ここでは「はしる」をとり上げる。これはまず「は」語として姉妹三語にしっかり残っている。
| 和語 | 琉球・沖縄語 | アイヌ語 |
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走る |はす、はしる |はゆん、はーえー |ぱし |
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| |(あっちゅん) |ちゃし |
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| | |ほぴた、ほぴう、ほゆぷ |
思えば足に代わって機械の力で人が陸上を移動できるようになって高々百数十年、それまでは足だけが頼りであった。その足の動きを原初の日本人はさまざまに言い分けた。
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か(駆)-かく(駆く)-かくる(駆くる)
-かける(駆ける)-かけらふ
-かす(駆す)⇒はす(馳*走)
-かつ(徒つ)「かちゆく/かしゆく、かちさむらひ徒侍、おかちまち御徒町」
-かる(駆る)〔(馬を)走らせる〕
き( )
く( )-くゆ(蹴ゆ/越ゆ)
-くる(来る)
-くwu(蹴wu)-くゑる(蹴ゑる)「くゑはららかす蹴散」
け(蹴)-ける(蹴る)-けらる(蹴らる)-けられる「けとばす蹴飛、けまり蹴鞠」
こ(越)-こす(越す)-こさる(越さる)-こされる
-こゆ(越ゆ)-こyeる(越yeる)「あごye距*足越、ふしこye伏越」
-こwu(蹴wu)-こゑる(蹴ゑる)「あごゑ踞*足蹴」
--(k-h)
は(馳)-はす(馳す)-はさす(馳さす)-はささく-はささける「はしこし捷」(「かす駆」の(k-h)相通語)
-はしる(走しる)-はしらす-はしらせる「はしりで/わしりで」
~さばしる(さ走る)(サ接)
~たばしる(た走る)(タ接)
-はする(走する)
-はせる(馳せる)
--(h-w)
わ( )-わす(走す)-わしす(走しす)
-わしる(走しる)
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上図は”走る”ことを言う「は」「か」「わ」語の動詞図の一部である。この三つは相通語で、原初は「は」か「か」の一拍語であったであろう。アイヌ語にある「ちゃし」であるがこれは和語の「駆す」に相当する「か」語と思われる。「ほぴた」「ほゆぷ」などの「ほ」語は和語や琉球語には見られないが、その昔全土で行われていたものをアイヌ語だけが保持してきたのであろう。或いは別にアイヌ語内での解明があるかも知れない。
和語にはこのように表現がいろいろ多くあって、琉球語、アイヌ語に少ないのはひとえに文字をもって記録してきたかそうでなかったかの違いである。和人はその位置的関係からシナから文字と文字をもちいた書きものを習った。その一事である。