子を生む性である女性性、雌性を表す音は三語を通じて「m」である。
| 和語 | 琉球・沖縄語 | アイヌ語 |
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ま |(あま) | |まつ(女、妻)、まつかち(少女) |
| | |まつく姪、まつねぽ娘、こしまつ嫁|
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な |をなご(若女子) |ゐなぐ(女) | |
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み |いざなみ |みー姪、みー雌、ゆみ嫁 | |
|をみな/をんな(女) |みやらび/みわらび美童 | |
|おみな/おうな(媼) | | |
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む |〔うむ(生む)〕 |〔なしゆん(生す)〕 |〔ぬわぷ(生む)〕 |
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め |めす雌、めひ姪、ひめ姫 |はーめー祖母、うねめ采女|めのこ/めろこ(娘) |
|よめ嫁、むすめ娘、をとめ|めひ姪 | |
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も |いも妹 | |(もろあはぽ娘) |
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和語の最初の「あま」は不詳語である。
アイヌ語の女性性は「まつ」が大勢を占めるようである。「み、む、め、も」は殆ど見つからない。ここで「まつ」とあるのは「ま(女)+つ(?)」でなければ理屈に合わないが、バチェラー辞典には「Ma、マ」の項に「女性、雌、マツと同じ」とあることによって「ま(女)」であることが伺われる。「まち/まつ(女、妻)」の後項の「ち/つ」は”人”を意味するタ行一拍語と考えられる。
和語「をなご」、琉球語「ゐなぐ」は「を/ゐ(若)+な(女)+ご/ぐ(子)」と理解される。そうとすれば「な」は女性性を言う「ま」が(m-n)相通により「な」に転じたものと解さざるを得ない。
二拍動詞「うむ(生む)」はウ接語で、本来は一拍語「む(生/産)」である。同じ意味のマ行渡り語がいろいろ(最大五箇)あったはずであるがうまく見つからない。ただひとつ二拍動詞「ます(増す)」が意味と語形の点から縁語と見て無理がない。この「ます」には縁語がなさそうなところも支援材料である。動詞図は次のようになるであろう。
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ま( )-ます(増す)
む(生)-むす(生す)「苔生す」
-むる(生る)
~うむ(生む)-うます(生ます)-うませる(ウ接)
-うまる(生まる)-うまれる
~うぶ(生ぶ)「うぶゆ(産湯)、うぶすな(産土)」
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子をつくる意の動詞にはもうひとつ「な」がある。琉球語にみられる。これは「ま-ます」の(m-n)相通語かも知れない。
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な( )-なす( )「子をなす」
-なる( )「実がなる」
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和語では原始日本語から引き継いだ「む」を大もととする雌性を言うマ行渡り語が成立した。このうち「み」「め」語は特に多いが、「ま」は女性を罵るときの「このあま(阿女)!」くらいしか思いつかない。逆にアイヌ語では「ま」がほとんどすべての女性性を代表している。次いで「めのこ」の「め」か。
琉球語の「ゐなぐ(女)」であるが、これは上記の通り「ゐまぐ」の(m-n)相通語と考えるほかなく、もしこれが成立しないとなれば琉球語のこの欄は再考を余儀なくされる。
(つづく)