「人」を言うタ行渡り語である。
| 和語 | 琉球語 | アイヌ語 |
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た |たま(あいつはいい玉だ) |わた(和人) |wuたら/wuたり(仲間、人々) |
|たみ(民)、ため(ため口)| |あちゃ(おぢ) |
|ふたり(二人) | |ちゃちゃ(ぢぢ) |
ち | | | |
つ |つま(夫・妻) |うちなんちゅー(沖縄人)| |
| |wuとぅ(夫) | |
て | | | |
と |とも(伴/供/友)、 | |まつと(女人) |
|ひと(人)、たびと(旅人)| | |
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な |おとな大人、をさな幼、おきな翁、をみな女、おみな/おうな媼、せ/せな夫、をぐな童男、
|いも/いもなろ妹、おむな媼
和語には子音コンビ語と称する一群の語がある。例えば”時”を指す語に「さだ、しだ、すだ/すな/すなはち、すで」があり、これらは二つの子音(sd)の組み合わせからなっている。語釈に当たってはこれらコンビ語を合わせて斟酌しなければならないであろう。
ここにとり上げた”人”を言うタ行渡り語も子音コンビ(tm)からなる語群である。「たま」にはいろいろな意味があるが、今日でも「あいつはいい玉だ」ということがあるように、確実に”ひと(人)”の意味がある。またかしこまって話していた相手が急になれなれしい「ため口」になって話し出すという場面があるが、ここで言う「ため」とは「とも(友)」と同意と見られる。つまり友達口調になるということである。「たみ」は言うまでもなく、「つま」はその昔夫婦が互いに相手を「つま」と呼んだように本来は「とも(供・友)」と同じような関係の人を称したと見られている。これらが”人”を言う(tm)子音コンビ語群を形成している。
ここではこれら「たま、たみ、ため、つま、とも」を「た/つ/と(人)+ま/み/め/も(身)」と見て、三姉妹語に残存語を求めたものである。ただ前項の「た/つ/と(人)」は考えられるとして、後項の「ま/み/め/も(身)」は問題含みである。身体を言う「み/も(身)」を広げて「ま/み/め/も」があったと見て、「ひと」に続く接辞的な役割としておく。結果的に琉球語、アイヌ語にも見られるところから大きな間違いはないであろう。
なお「おとな(大人)」などの語末の「な」は(t-n)相通現象によって「た」が転じたものである。
琉球・沖縄語には「ちゅ/ちゅー」語として上記のほか「いぬっちゅ(同じ人)、うふちゅー(大人)、やまとぅんちゅー(大和人)」など数多くある。
(つづく)