「くろ(黒)」(004)

 

 原始の日本人は「くろ(黒)」という色にはものごとのよくない面を重ねたようである。と言うより「く」という音に嫌なもの、よくない思いを乗せたであろう。「腹黒い」が典型である。和語において音と意味の関係を考える上でのひとつの鍵である。

 

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く(黒)-くす(腐す)-くさす(腐さす)「くそ(糞)」

           -くさる(腐さる)

    -くつ(朽つ)-くたす(朽たす)「くたくた、くたばる」

           -くたる(朽たる)

           -くちる(朽ちる)

    -くづ(砕づ)-くだく(砕だく)

           -くだす(砕だす)

           -くぢく(砕ぢく)「くぢく(挫く)」

           -くづす(崩づす)「くづ(屑)」

    -くる(黒る)-くらす(暮らす)「夜を明かす、日を暮らす」「くろ黒」

           -くらむ(暗らむ)「眩む」

           -くれる(暮れる)

           -くろむ(黒ろむ)「くろずむ」

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 上の語のほか「くるし(苦)-くるしむ」も一連の「く」語と考えられる。

 

 琉球語には「くるー(黒)、くるさん(黒い)」がある。

 

 アイヌ語では一般的に「くんね」という形で”黒い、暗い”を表している。「くろ」は「えくろく(顔色が暗い)」「しれくろく(辺りが暗い)」などに残っている。

 

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       |   和語      |   琉球・沖縄語     |    アイヌ語          |

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 黒     |くらし、くろし    |くるー、くるさん      |くんね、くろ            |

 新・白   |さ/さら、し/しろ   |さ/さら、し/しるー、し/しろさん|し/あしり(新しい)       |

 名・名前  |な(音)       |なー            |れ〔「ね音」の(n-r)相通形〕    |

 花(ナ行語)|のんの        |のーのー          |のんの               |

 宣告    |のる、のり、のりと祝詞|のろ、ぬる、ぬーる、いぬゆん|のみ                |

 花(ハ行語)|はな         |はな            |あぱっぽ、えぷい、(ぴらさ、へちらさ)|

       |           |              |                  |