【一拍語】
【た】 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
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●た/ち/つ/て/と(土石*砂)
た(田):たのも田面、たひと田人、たゐ/なゐ(田居)/たゐに、あかちだ班田、あげた高田、こなた熟田、ふるた古田、やまだ山田、わさだ/わせだ早稲田、wuゑた植田、をかだ陸田
ち(地):ち地*道、とち土地、つち土、
つ(津):つ津、つち土、
て( ):
と(土):とち土地、
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●た/つ/て/と(手)
た(手):たく(手く*叩*敲)、たたく、たくさ手草、たごし手越*手逓伝、たごし/てごし手輿、たこむら手腓、たすき手襁*襷、たづな手綱、たむけ手向、たもと手許*袂
つ(突*掴):つく(突く)
て(手):てあし手足、てあて手当、てがた手形、てくだ手管、てぐち手口、てごめ手籠、てごろ手頃、てさき手先、てさげ手提、てざし手差、てした手下、てじな手品、てすぢ手筋、てぜま手狭、てぞめ手染、てだま手玉、てちがひ手違、てつき/てつけ手付、てつだひ手伝、てどり手取、てなは手縄、てなへ手萎*攣、てなほし手直、てならひ手習、てなれ手馴、てぬき手抜、てのうち手内、てはじめ手始、てはず手筈、てはた手機、てばな手鼻、てびかye手控、てひと手人、てひどし手酷、てびろし手広、てふだ手札、てぶり手振、てま手間、てまくら手枕、てまへ手前、てみじか手短、てみづ手水、てもと手許、てわけ手分、てをの手斧;うりて売手、おもて面手*表、かひて買手、くまで熊手、こて籠手、しこて醜手、つぎて継手、とまて苫手、ながて長手、にがて苦手、にこて柔手、ひらで枚手、ふるて古手、むなて空手、もろて諸手、やりて遣手、yiて射手;いたで痛手、おもで重症、ふかで深手
と(手):とる手*取
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●た/つ/と(人)
た(人):たま人(いい玉だ)、たみ民、ため友(ため口)
つ(人):つま(夫*妻)
と(人):とも(伴*供*友)、たびと旅人、はやと隼人、ひと人、
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●だ/づ/で(出)
だ(出)-だす(出す)
づ(出)~いづ(い出)イ接
で(出)-でる(出る):ふなで船出、みやで宮出
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た(咫):あた咫 ア接
た(誰):たれ/だれ誰
た(足):たす/たる足
た(板):あみた/あうた/あをた/あんだ編板*箯輿、きぬた/きぬいた絹板*砧、そぎた/そぎいた枌田、ひた/ひきた引板、ふみた札;◆(イ接):いた板、いたど板戸、いため板目;えぶりいた杁板、しきいた敷板、せきいた堰板、といた戸板、はめいた羽目板、ふないた舟板、へぎいた剥板、まないた俎板、むないた胸板、もみいた揉板、やいた矢板、やねいた屋根板、ゆかいた床板、◆(フ接):ふだ札、あひふだ合札、いれふだ入札、かどふだ門札、きふだ木札、きりふだ切札、くびふだ首札、さげふだ下札、たかふだ高札、つけふだ付札、てふだ手札、なふだ名札、にふだ荷札、はりふだ張札、ひきふだ引札、ふだ札、へふだ/へのふだ戸札*戸籍、むなふだ/むねふだ棟札、わりふだ割札
た(接頭語)たすく助、たむら/たむろ屯*党、たやすタ安
だ(接尾語):あひだ間、いかだ筏、なかだ中ダ、yeだ枝、まだ/いまだ未
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【ち】 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
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●ち/し//て/せ(風)
ち(風):こち東風、はがち西北風、はやち/はやて疾風;
し(風):しまき風巻、しなつひこ、しなと級長戸の風、あなし西北風、あらし嵐、つむじ旋風、やまじ山風;つむじ旋風、
て(風):おひて追手、はやて/はやち疾風、
せ(風):かぜ/かざ風;あなせ/あなぜ西北風、
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●ち/つ(血)
ち(血):ちおち血落、ちおろし血下、ちしる血汁、ちすぢ血筋、ちまみれ血塗;いきち生血、くろち黒血、しらち白血、なまち生血、ぬくち温血、はなぢ鼻血、ふるち古血、わるち悪血、wuみち膿血
つ(血):つしむ血染*黧
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●ち/つ(小*箇*個)
ち(箇*個):
つ(箇*個):
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ち(茅):ちの茅野、ちがや茅萱、ちの茅野;あさぢ浅茅;つはな茅花
ち(乳):ちおも乳母、ちしる乳汁、ちつけ乳付、ちのみご乳呑児、ちぶさ乳房*嬭房;そへち添乳、むなち胸乳、もらひぢ貰乳-ちち乳、からちち乾乳
ち(父):ちち/しし父、あもしし母父(t-s)、おやぢ親父、
ぢ(爺):ぢぢ爺、おぢ老爺、おほぢ大爺*祖爺/ひおほぢ曾祖父、ひぢ曽舅、をぢ小父*若爺
ち(地):つち/とち土、みち道、⇒た/ち/つ/て/と(土石*砂)
ち(地*道):ちまた岐*衢;あまぢ天路、いせぢ伊勢路、いそぢ磯道、いちぢ市道、いへぢ家路、くまぢ隈路、くもぢ雲路/くもゐぢ雲居、しほぢ潮路、かけぢ懸路、かちぢ徒道、くがち陸道、くけぢ間道*漏路、こしぢ越路、たびぢ旅路、かよひぢ通路、へぢ辺路、しげち繁道、しほぢ塩道、すぐち直道、せきぢ関路、せばぢ狭道、そらぢ空道、ただち径路、とさぢ土佐路、とほぢ遠路、ながち長道、なみぢ並路、ならぢ奈良路、のぢ野道、はまぢ浜路、ふなぢ舟路、ほきぢ崖路、ほそぢ細道、まかりぢ罷道、まさごぢ真沙路、みやこぢ都道、みやぢ宮道、やそぢ八十道、やまぢ山道、ゆめぢ夢路、よきぢ避道、よみぢ黄泉道、wuみぢ海路-みち御路*道(あしきみち悪路、あぜみち畦道、きのみち/このみち木道、けみち褻道、こみち小道、しほみち塩道*潮道、すずしきみち清浄道、すぢみち筋道、そばみち岨道道、たたみち縦道、ちかみち近道、ちみち血道/ちのみち、なかみち中道、ながみち長道、にげみち逃道、ぬけみち抜道、のきみち退路、のみち野道、はやみち早道、はりみち墾道、ひたみち直道、ゆきみち雪道、ゆくみち行道、yeだみち枝道、よこみち横道、よみち夜道
ち(鉤):おぼち淤煩鉤、さちぢ幸鉤、すすち須々鉤、まぢち貧鉤、wuるち宇流鉤/wuるけぢ
ち(笞):むち笞
ち(霊*蛟*虬):いかづち雷、かぐつち迦具土、みかづち甕槌*御雷、みつち水チ*虬*蛟龍、をろち大蛇*峰霊*尾霊 ⇒ち/し//て/せ(風)
ち(千):ちぐさ千種、ちたび千度、ちとせ千歳、ちどり千鳥、ちひろ千尋、ちふね千舟、ちよろづ千万、
ち(小):⇒ち/つ(小*箇*個)
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【つ】 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
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●つ/と/そ(五*十)〔ひ/ふ一二、み/む三六、よ/や四八、つ/と五十:倍数関係〕
つ(五):いつつ五
と(十):とを十 ⇒つ/と/そ(五*十)
そ(十):みそ三十、やそ八十(t-s)
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つ(唾):つは唾、つはき唾吐*唾
つ(血):つしむ血染*黧 ⇒ち/つ(血)
つ(水):みづ水*御水、つゆ露、つゆ梅雨、つゆ汁、つる水流
づ(出):いづ(い出) ⇒だ/づ/で(出)
つ(津):つやま津山;おほつ大津、かはつ河津、ふなつ舟津
つ(鶴):つる鶴;たづ田鶴
つ(箇*個):ひとつ、ふたつ ⇒ち/つ(箇*個)
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【て】 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
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て(手):て手 ⇒た/つ/て/と(手)
て(風):おひて追風、はやて疾風 ⇒ち/し/い/て/せ(風)
で(出):でる出 ⇒だ/づ/で(出)
て(代):
て(幣):にきて和幣
て( ):ひらで平瓷*盤、なかて中テ
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【と】 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
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と(砥):とぐ砥、といし砥石、
と(外):そと外、ととこ外床、とひと外人*鄙人
と(門*戸):とつぐ戸接、となみ門波、とばり戸張*帳、とびら戸平*扉;いたど板戸、かどカ門、かはと川門、くまと隈戸、しまと島門、とのと殿戸、なると鳴門、ねやと寝屋戸、のみと/のど飲門*喉、ほと秀戸*陰門、みと御戸*陰門/みとのまぐはひ、みなと水門*港*湊、よみと黄泉戸
と(人):(あづまと東人、すけと/すけっと助人、たびと旅人、ぬすと/ぬすっと盗人、はやと隼人)-ひと人(ひとき/ひつぎ人棺*棺、ひとごのかみ魁帥/首長、ひとくさ/あをひとくさ人草、ひとたま人魂、ひとや人屋/獄;あきうど商人、いもうと妹、いりうど入人、おちうど落人、おとうと弟、かりうど狩人、きひと紀人、けひと毛人、しうと舅、せうと兄人、そまうど杣人、てひと手人、とひと外人*鄙人、まらうど客人、めしうど召人、やまうど山人、yiにしへひと、わかうど若人)
と(十):とを十 ⇒つ/と/そ(五*十)
と(鋭*利*敏*疾):といし砥石、とかま利鎌、とぐ砥グ、とげ刺、とごころ、とし鋭シ、とみみ聡耳、とめ鋭目;こころど、こととし言急
と(音):おと音、とほと遠音、なみと浪音、ぬなと瓊音*瓊響、よと夜音
と(処*所):かまど釜処*竈、ねど寝処、せと瀬戸、くまと隈所、こもりど隠処、たちど立所、ねど寝所、ふしど臥所、せと瀬戸、くまと隈所、こもりど隠処、たちど立所、ねど寝所、ふしど臥所
と(鳥):とぶ飛、とり鳥、とがり鳥猟、とさか鶏冠、とす鳥栖、とだち鳥立、となみ鳥網、とば鳥羽、とぶさ鳥総、とや鳥屋、とりかぶと鳥兜;ちどり千鳥、などり汝鳥、わどり我鳥
と(蠧):(木の中にいてその木を食う虫。きくいむし)、
と(接頭語):とひト樋、とむら/たむろ儻
と(常)とかげ常影-とこ常(ときは常磐、とこよ常世*常夜)
と(蠧):木の中にいてその木を食う虫/きくいむし、
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〔土石15語〕
上記のタ行の一拍語には人が寄って立つ大地とともにそれを構成する土や岩や石を言う語が「た、ち、つ、て、と」と固まってある。そう思って他の行に目を移すとタ行の両側のサ行とナ行にもまったく同じような土石語がきれいに並んでいるのに気づく。これはどう見ても偶然にしては出来過ぎである。そこでこれをとり出して整列させ検討した結果、目下のところおおよそ次のような見方にたどり着いた。ただここに括弧に入れて示した漢字はあくまでほんの参考程度に過ぎないことに注意していただきたい。
さ(砂)-し(石)-す(洲)-せ(瀬)-そ(磯)
↑ ↑ ↑ ↑ ↑
◎ た(田)-ち(地)-つ(津)-て( )-と(土)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
な(土)-に(丹)-ぬ(野)-ね( )-の(野)
何よりタ行語が最初、最古の語と考えられる。両側のサ行語とナ行語は、和語において時代の経過につれて起こる子音変化、言うところの相通現象によるものである。このことは多数の語例により明らかである。つまりまず大地を言う「た」があったとして、長い時間が経過して一方で「さ」となりもう一方で「な」と変化した。それぞれ(t-s)相通、(t-n)相通現象であり、他の語でもよく見られるものである。
原始の日本人が「た」と呼んだ足もとの物体を、おそらく、まず横方向に伸ばして「い、う、え、お」と母音を変えながら分節し、日常生活に必要なものの名に当てていった。和語の一拍語の最大の特徴であり、これを渡り語現象と呼んでいる。ここで「て」が空いている。これは今日使われないが、例えば「どて(土手)」の「て」で、”堤”の意の語があったとも考えられる。「て」の位置に語がなったということを意味しない。ナ行語の「ね」についても同様である。
横方向の渡り語の完成に続いて、上下方向への相通現象が起こったと考えられる。この方向は原則として同じ意味であるはずである。だが変化に要した時代的な長さ、地域的な広さを考えると原則を振り回すことはできない。むしろ時代的、地域的な変化に対応するためにこうした現象が起こったに違いなく、意味も互いにさまざまに変わっているであろう。
こまかい議論はおいて、それと気づかなくとも、土や石や砂に関して日本人は頭の中にこのような図をもっているであろう。耳から入って来たこれらの語を無意識に図の中に当て嵌めてその意味を理解している。まとめて「土石15語」とでも言うことができるひとつの大きな縁語群である。こうした一拍語をもとに日本語は語彙をふくらませて行った。
以上は和語の例についたが、当然のことながら姉妹語たる琉球語とアイヌ語においても同じような現象が見られる。それらを表現の形式を変えて眺めて見る。
| 和語 | 琉球・沖縄語 | アイヌ語 |
------------------------------------------------
さ |さ(砂*沙)、さす(砂洲) | | |
|いさご砂*沙、まさご真砂 | | |
し |し/いし(石) |し/しー(石)、いし(石) |しらら(岩、磯)、しり(地)|
|さざれし細石、 | |しりか(地面)、もしり(大地)|
| | |しりしもye(地震) |
す |す(洲)、すな(砂) | |すま(石) |
|すひぢ(洲土)、すはま州浜| |からすま(火打石) |
せ |せ(瀬) | | |
| | | |
そ |そ/いそ(磯) | |そ/いそ(岩、平岩) |
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た |た(田)、たゐ(田居) |た/たー(田)、ちゃ(地) |おた(土)、ぴおた(火山灰)|
| |あかんちゃー赤土、 |ぴくた砂 |
ち |ち(地)、つち土、とち土地|ち/ぢ/ぢー(地) |ちし(岩)、こぽんち(粘土)|
つ |つ(津) | | |
て | | | |
と |と/ど(土)、とち土地 | |とyi/とyiとyi(土、 砂) |
|とこ/ところ所、どろ泥 | |ふれとyi(赤土) |
---------------------------------------------
な |なゐ(田居)、なゐふる地震|なゐ(地震) |なyi(沢) |
に |に(丹)、はに(埴) | | |
ぬ |ぬ(野)、ぬま(沼) |ぬやま(野山) |ぬぷ(野)、きぬぷ(萱原) |
| | |ぬぷり(山) |
ね |ね/みね(峰)、たかね高嶺 |ねー(地震) | |
の |の(野)、のはら野原 |もー(野)、もーあしびー(野遊び)| |
---------------------------------------------
琉球語では”野”の意は一般に「ぬ」で表現されるが、もうひとつ「もー」とも言うという。「もー」には伝統的に”毛”や”野原”の漢字が当てられる。これは琉球語でも”野”を「の」と言った時代や地域がありそれが(n-m)相通化によりいつか「も、もー」と転じたものであろう。琉球でも「もーあしびー(野原遊び)」は万葉集時代の「うたがき(歌垣)」や「かがひ(嬥歌)」のような若い男女の出会いの場であったという。
アイヌ語はよく「土石15語」を引き継いでいる。”大地”を言うよく知られた「もしり」などの「しり」は「し(地)+り」で、和語の「ち(地)」であろう。「た」や「と」は双方がそのまま抱えてきた。
この表によっても和語、琉球語、アイヌ語の三語が「土石15語」を語群の構造と共に共有することが明らかである。ここで表の見方に誤解のないように気のつくところを一二記しておきたい。
以上を通じて言えることは、(1)「土石15語」は明らかに原始日本語の時代に成立していた。(2)姉妹三語はそれを別々に受け継いで途中互いに影響し合うことなく、上の表に見るような地域的な変化を重ねながら今日の語の状況に至っているということである。
上の表を一見して和語の欄がもっとも密であるのに対して琉球語とアイヌ語は粗である。これはそれぞれの言語活動の大きさを示すものではなく、和人が古く大陸のシナ人より文字を習ったことにより比較的多くの記録を残すことができたことによる。それ以上に筆者(足立)の力不足により琉球語、アイヌ語辞書/サイトからの該当語の採取が行き届かないことによる。少なからぬ誤りがあるであろうことと合わせお詫びするほかない。
【二拍語】
【三拍語】
ここから
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