「しり(尻)」「うしろ(後ろ)」(011) 

  

 標記の和語は子音コンビ(sr)を共有し、意味の上からも縁語と考えられる。これはこのまま三姉妹語に共通する。

 

       |   和語       |   琉球・沖縄語     |    アイヌ語      |

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 尻・後ろ  |しり、うしろ;けつ(尻)|しりー、うしろ;ちび(尻) |おそろ;ほ(尻)      |

 

 

 ここでこれから三姉妹語の連携の話を進めて行く上で気にとめておきたいことが二つある。

 

(1)ひとつは子音コンビ(sr)である。これはさきに”新しい”の意味のところで「さら(新)」「しろ(白)」、アイヌ語「あしり(新)」などに共通するもので、これが”白い、新しい”の意味をもつと説明した。そうとすれば子音コンビ(sr)はその意味と、ここで言う”後ろ、尻”の二つの意味をもつことが分かった。ほかにも(sr)は例えば「さらさら」「すらすら」「そろそろ」などの意味ももっている。つまりひとつの子音コンビはいくつもの相異なる意味をもつことができるということである。

 

 ついでながら「あたらし(新)」は、辞書によれば本来の「あらた、あらたし(新)」の語頭の「あらた」が「あたら」にひっくり返ったものということである。その理由や時代ははっきりしない。このことは「あら(新)」が「さら(新)」が(s-&)相通変化によって「あら」となったものであること、「あたら」に”新しい”の意味が見当たらないことによってうなずける。

 

(2)ふたつ目は、ここでは「しり」「うしろ」「おそろ」から子音コンビ(sr)をとり出して論じていることである。「しり」や「うしろ」の意味の根源は実は子音コンビ(sr)にあるのではなく、子音「し/そ」などのサ行一拍語にあるのである。もっと言えば、「しり」「うしろ」「おそろ」は”下”を意味するサ行渡り語「さ、し、す、せ、そ」であるということである。

 

 これで見ると原初の日本人は臀部を人体の下方にあるものとして、上方にある「かし、かみ(上)」にあるものの対として捉えていたであろうことが伺える。

 

 

 これらの事実によって、原始日本語がある時点で和語、琉球語、アイヌ語に分かれ、それがそれぞれの道を歩みつつ今日に息づいている様がきれいに説明される。

 

(つづく)